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本編② 津軽19話

『赤の徒』の一件が片付いてから、数日の時が流れた。
私の異動の話は特に出ていない。

(あれからずっと津軽さんはマスクしたままだし)
(私への嫌がらせ?これから、どうなるんだろう)

最近の楽しみは、もはや食べることくらいしかなく、警察庁近くの定食屋に行くと。

鳴子
「あ、サトコ!」

サトコ
「鳴子!」

トンカツを頬張りながら、鳴子が笑顔で手招きする。

鳴子
「こっちおいでよ」

サトコ
「うん」

(元気そうな鳴子の顔、久しぶりに見たかも)

サトコ
「何かいいことあった?」

鳴子
「うん!やっと仕事らしい仕事、させてもらえるんだ!」

サトコ
「そうなんだ、やったね!」

弾けるように笑う鳴子に私も笑顔になる。

(公安学校の卒業生は、ことごとく捜査から外されてるって話だったけど)
(捜査に参加させてもらえるようになったんだ!)

サトコ
「力をつけるためにトンカツ?」

鳴子
「ここからが正念場だからね。サトコは?」

サトコ
「私には、これくらいしか楽しみがないというか···」

鳴子
「サトコも大変なんだね」

鳴子に曖昧に頷きながら、ランチのロースカツ定食を注文する。

(どうして参加できるようになったのかは、わからないけど)
(そういう流れになったのなら、よかった)

今日はお祝いのトンカツだと思いながら、揚げたてのカツを頬張ると。

津軽

サトコ
「ん?」

百瀬
「······」

鳴子
「津軽警視、百瀬警部補!」

(しまった!ここ、津軽さんも来る定食屋さんだったんだ···)

ここでキャベツ定食にされたのは、まだ記憶に新しい。

鳴子
「どうぞ、ここ空いてます!」

鳴子が私たちの前の席を指差す。

サトコ
「ちょ、鳴子!」

鳴子
「トンカツとイケメンを同時に摂取できるなんて、美味し過ぎるよ!」
「それに、サトコの上司なんだから無視する方が変でしょ?」

サトコ
「それはそうだけど···」

津軽さんと百瀬さんは何か話している。

(どうか違う席に座りますように、違う席に座りますように、違う席に···)

津軽
じゃあ、失礼して

(アウト···)

よりによって津軽さんが私の正面に座り、目を伏せる。

鳴子
「津軽警視、風邪ですか?」

津軽
ああ、マスク···この子に顔見たくないって言われたから

サトコ
「え···」

顔を上げると、津軽さんに思い切り指をさされている。

サトコ
「人を指差しちゃいけないって習いませんでしたか!?」

百瀬
「てめぇ···」

鳴子
「サトコ!このイケメンは全人類の財産だよ!?」

津軽
俺も悲しいけど、部下に言われたら···ね

そっと津軽さんがマスクを外し、憂いを帯びた顔で目を伏せた。

サトコ
「そ、そういうのは反則ですよ!」

津軽
うん、わかってる。全部、俺が悪いんだよね···

鳴子
「サトコ」

百瀬
「表出ろ」

サトコ
「いやいやいや!」

(完全に私が悪者の空気!)

津軽
······

(仕返ししてるのか、この人···!)

ジロリと睨んだところで、津軽さんはこちらを見ていなかった。

(今日はトンカツをとられなかったけど、味はほどんどわからなかった···)
(今度は違う定食屋に行こう)

津軽さんのことは一旦横に置きながらも、いつまでも無視できる問題ではない。

(とりあえず、明日休みでよかった)
(久しぶりの休み···明日いろいろ考えることにして、今日は寝よう)

疲れた身体と心を引きずってマンションの前まで来ると。

目つきの悪い男
「だから、そうじゃねぇってっつってんだろうが!!」

津軽
······

サトコ
「!?」

(津軽さんが絡まれてる!?)
(あの人たちは確か···)

目つきの悪い男
「タケル!タケルじゃねぇか!」

イケメンの男
「何やってんの、こんなとこで」

(前に私を助けてくれた、百瀬さんの知り合いの不良っぽい人たち!)

イケメンの男
「まあ、落ち着いて」

目つきの悪い男
「落ち着けるわけねぇだろ!」

太めの男
「やっちゃう?ついにやっちゃう?」

背の低い男
「やるならタイマンのワンパンで」

津軽
···この手、離してよ

目つきの悪い男
「あ゛あ゛!?」

目つきの悪い男がグッと津軽さんの胸倉を引き寄せーー

(このままただ見てるって言うのも···っ)

放っておいたら、後味が悪くなるのは間違いない。

サトコ
「ま、待ってください!」

私は飛び出すと同時に男の手を津軽さんの胸元から払った。

津軽
ウサちゃん

イケメンの男
「ウサちゃん?」

サトコ
「この人は百瀬さんの上司です!だから、無体なことはご遠慮ください!」

太めの男
「む、無体···!言葉のセンスが絶妙!」

背の低い男
「何だ、このチビ」

サトコ
「え、でも、あなたも···」

イケメンの男
「ダメだよ、ほんとのことを言ったら」

太めの男
「ぶっふ!」

津軽
···っ

皆が肩を揺らして笑っているーーように見える。

(な、なに?この空気は···)

津軽
「心配してくれて、ありがと」

サトコ
「い、いえ、私は···!」

イケメンの男
「でも、俺たちは高臣くんの友達だからダイジョウブだよ」

サトコ
「え···津軽さんの友達···?」

津軽
まあ···一応、お友達···かな

イケメンの男
「山本コースケです」

津軽
目つきの悪い非モテが、佐内(さない)ミカドで
メタボ寸前が高野マツオ
一番ちっさい金髪が阿佐ヶ谷タクヤね

山本コースケ
「高臣くん&フレンズ。よろしく」

サトコ
「は、はあ···」

山本さんが手を出してきて、流れで握手を交わしてしまう。

サトコ
「じゃあ、さっき胸倉をつかんでたのは···」

津軽
ミカドが貸した金、なかなか返さないから

佐内ミカド
「俺だって返してーよ!けど、ねぇ袖は振れねぇんだろ!」

高野マツオ
「パチンコ行くから」

佐内ミカド
「リリカがイベでくんだから、仕方ねーだろ!」

サトコ
「リリカ?」

阿佐ヶ谷タクヤ
「ミカドがずっと追っかけてるAV嬢」

佐内ミカド
「セクシー女優だっつの!」

(もう何が何だか···とりあえず全員知り合いなのは、本当みたい)
(津軽さんが絡まれてるわけじゃなくてよかった)

サトコ
「ふう···」

津軽
もう無視しないんだ?

<選択してください>

最初から無視なんてしてません

サトコ
「···最初から無視なんてしてませんよ」

津軽
そう?顔見たくないから、話しもしたくないかと思った

サトコ
「別に、そこまでは···」

聞こえないふりをする

(そうだ、津軽さんとは顔見ないし、なるべく話さないんだった)

サトコ
「······」

津軽
ウサちゃんって、誤魔化す時、口尖らせるよね

サトコ
「そ、そんなことは!」

津軽
ほら、また喋った

サトコ
「······」

外で恥ずかしいですよ

(別に無視って決めてたわけじゃないけど、そう言われると何だか話しづらいな)

サトコ
「外で騒ぐなんて恥ずかしいですよ」

津軽
話題変えた

サトコ
「ほ、ほんとのことを言っただけです」

(これ以上ややこしくなる前に、さっさと帰ろう)

サトコ
「じゃあ、わたしはこれで···」

津軽
はい、ヘルメット

サトコ
「え?」

背を向けようとすると、頭にスポッとヘルメットが被せられた。

サトコ
「え?な···?」

津軽
これから軽く走りに行くんだ

山本コースケ
「俺の後ろ乗っていいよ。ウサちゃん」

津軽
ウサちゃん呼びすんな

サトコ
「え、え、え···?」

佐内ミカド
「そうと決まったら、さっさと乗れ」

サトコ
「決まったんですか!?」

高野マツオ
「沙織ちゃんと海行くイベントあったよね」

阿佐ヶ谷タクヤ
「すぐに2次元と結びつけんのヤメロ」

(なぜ、こんなことに···)

元凶である津軽さんの方を見ると、彼はいつもの薄り笑みを浮かべていた。

to be continued

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