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ヒミツの恋敵編 難波購入特典

難波
ふあ~あ

大きく伸びをしながら目覚めると、俺は公安学校の裏庭にいた。

(そうか、あのあと寝ちまったのか···)

ぼんやりと空を漂う雲を見ているうち、猛烈な眠気に襲われたことを思い出す。

難波
いけねぇ、いけねぇ

呟きながら起き上がり、軽く首と腕を回す。
バキバキと嫌な音が鳴って、早くも後悔が押し寄せた。

(年甲斐もなくこういう所で寝たりするもんじゃねぇな)
(これじゃ、疲れが取れるどころかかえって···)

首を揉みほぐしながら歩いていると、ぼんやりとベンチに座っている石神の姿が見えた。

(あいつがこんなところでサボってるなんて珍しいな)

難波
おい石神、こんなところでどうした?黄昏るにはまだ早いぞ

石神
ああ、室長。お疲れさまです

難波
もしかして例の報告書、もう上がったのか?

(そうか、そういうことか···さすがは石神、仕事が早い)

ところが石神は、ポカンと俺を見て首を傾げた。

石神
報告書?ああ、そういえば···

難波
···お前でも忘れることなんてあるんだな

石神
すみません。後でやっておきます

難波
後でか···まあ、構わんが

俺は適当に話を切り上げて歩き出す。

(石神のヤツ、性格変わってねぇか?)
(もっとまじめできっちりしてて、頭の堅そうなヤツだと思ったが···)

違和感を抱きつつ歩いていると、教官たちが集まって何やら盛り上がっている。

後藤
いいじゃないですか、行きましょうよ!
イケてる女子、選び放題ですよ

(イケてる女子?遊び放題?後藤も心なしかキャラが違う気が···)

東雲
オレはちょっと、そういうのは···

(は?)

加賀
じゃあ、俺が一緒に行くよ。初めてだから、ドキドキするけど

後藤
そうこなくっちゃ!颯馬さんはどうします?もちろん行きますよね?

颯馬
······

後藤
あの、颯馬さん?

颯馬は後藤に顔を覗き込まれて、ようやくコクリと頷いた。

後藤
じゃあ、決まりということで!いや~楽しみだな~

(誰だ、こいつら。みんないつもと性格真逆じゃねぇか)
(って、もしかしてこれは···)

難波
···夢か?

ふと思いついて、頬を思い切りつねってみた。

難波
ちっとも痛くねぇ···ってことはやっぱり

俺はまだ裏庭で寝ている最中で、これは俺が見ている夢なのだ。
ちょっと面白くなって、サトコの姿を探した。

(あ、いたいた···)

難波
サトコ!

訓練から戻ったばかりらしき様子のサトコは、汗を拭きながら俺を振り返った。

サトコ
「室長、お疲れさまです」

小走りに走り寄ってきて、普段と変わらぬ様子で微笑みかける。

サトコ
「もしかして、寝てました?ほっぺたにシャツの跡が···」

難波
あ、ああ···実はちょっとな。サトコは、護身術か?

サトコ
「はい、今日は男子を3人投げました」

難波
それはすげぇな···

(別にサトコは変わってない気が···)
(こいつだけは、夢の中でもこいつだってことか)

なんとも感慨深くホッとして、しみじみとサトコの顔を見下ろした。
サトコはそんな俺をきょとんとした表情で見つめている。

(相変わらず、かわいいヤツだな···)

思わずサトコの頭に手を伸ばした、その瞬間。

サトコ
「学校ですよ」

難波
え?ああ、そうだな···

(真面目だからな、サトコは···)

俺は行き場をなくした手を誤魔化すように、自分のアゴを撫でた。
ふと見ると、サトコは恥ずかしそうに頬を赤らめて俯いている。

(ん···?)

夜になっても、まだ夢から覚める様子はない。
俺は夢の中でソファに寝転がり、目を閉じてみることにした。

(こうすれば、夢から覚めるなんてことも···)
(···ないか)

難波
はぁ···どうなってんだよ、まったく

盛大にため息をついた時だ。

コンコン!

難波
どうぞ

サトコ
「失礼します」

入ってきたのはサトコだった。

難波
なんだ、まだ残ってたのか

サトコ
「頼まれていた資料、揃ったので持ってきました」
「そういう室長は、もっとちゃんとお仕事してくださいね」

呆れたように言いながら、俺のデスクに資料を運ぶ。
そのまま俺に背を向けて、仕分け作業を始めた。

難波
······

細い腰といい、形のいい脚といい、一生懸命な様子といい、現実のサトコそのものだ。

(さっきからなんだかちょっとおかしいと思ったのは、気のせいか···)

難波
おーい、サトコ

サトコ
「はい?」

難波
こっち来いよ

ソファに横たわったまま手招きするが、サトコはニコリともしない。

サトコ
「まだ仕事の最中なので」

難波
ああ、そう···

再び作業に戻ってしまったサトコの背中を見つめながら、俺は正直がっかりした。

(かえって現実より冷たくなってるじゃねぇか)
(夢なんだし、どうせ性格が変わるなら、もうちょっとこう···)

言葉にできないイメージが次々と俺の頭の中を駆け巡る。

(···なんて、何を考えてるんだ俺は)
(さっきはサトコが変わっていないことにホッとしてたくせに···)

サトコ
「何ろくろ回してるんですか?」

いきなりサトコに顔を覗き込まれ、俺は無意識に突き出していた両手を引っ込めた。

難波
いや、別に···そろそろ、仕事するかな

あらぬ妄想を悟られまいと起き上がろうとすると、突然、サトコが俺にまたがった。

難波
!?

サトコのタイトスカートがあられもなくたくし上がる。
露になった白い太ももを隠そうともせず、サトコはグイと顔を近づけた。

サトコ
「室長···ようやく2人きりになれましたね」

難波
ん?あ、ああ···

(サトコ···いきなりどうした?)

サトコ
「どうしたんですか?なんだか、驚いたみたいな顔して」

サトコは挑むような目で俺を熱く見つめながら、ゆっくりと舌で唇をなぞった。

難波

(こ、こんなことしないだろ、サトコは···!)
(てことは、ついにこいつも···)

俺の困惑に構わず、サトコは悩ましい手つきで俺のシャツのボタンを外していく。

サトコ
「いつ見てもステキ、室長の腹筋···」

サトコはゆっくりと俺の腹筋の割れ目を辿りつつ、自分のシャツのボタンも外し始めた。

(やべぇな、すごい積極的になってるぞ···)

難波
サトコ···?

サトコ
「?」

首の傾げ方まで妙に色っぽくて、なんだかグラビアアイドルがポーズをとってるみたいだ。

サトコ
「すごく固い···」

サトコは尚も俺の腹筋を撫でながら微笑んだ。
そして最後までシャツのボタンを外さぬうちに、もどかしそうに服を脱ぎ捨てる。

難波

挑発的な真っ赤な下着が突然目の前に現れた。
サトコは俺の手を胸に導きながら、ゆっくりと唇を重ねてくる。

(なんだよ、これ···)
(どうなんだ、こういうの)

俺はサトコにキスされながら考えた。
こんなサトコに迫られたら、もっと嬉しいものかと思っていた。
でもなぜか、心のどこかが冷静だ。

(やっぱりサトコは、いつものあの感じがあってこそだよな)

目の前にいる女はサトコの姿こそしているが、やはりサトコではないのだと思えてしまう。

(さっきは夢の中でくらい変わって欲しいとか思ってたくせに···)
(俺も自分勝手だな。でも···)

俺はそっとサトコの身体を離すと、柔らく頭を撫でた。
サトコの顔に、不満の色が浮かぶ。

サトコ
「···感じないですか?」

難波
うーん···そういうんじゃなくて···
ごめんな、なんかやっぱり、違うんだ

サトコ
「こういうの、好きかと思ったのに···」

俺の腹に両手をついてちょっと肩を竦めると、胸の谷間がくっきりと浮かび上がった。
そういう姿も、やはりサトコには似合わない。

難波
いいから、こっちこい

サトコ
「きゃっ!」

サトコを雑に抱き寄せ、腕の中に閉じ込めた。

難波
もういいから、静かに寝てろ

サトコ
「でも···」

難波
俺はそろそろ戻るから

(好きな女がいる世界に···)

ふと目覚めると、自宅のベッドの上にいた。

(あれ?裏庭でうたた寝してたわけでもなかったのか···)

相当疲れていたらしい。
着替えもせずに、家に帰ってきた時のままの服装で眠り込んでいたようだ。

♪~

軽やかな着信音が鳴ってスマホを見ると、サトコからのLIDEが届いたところだった。

『今、エントランスに着きました!』

難波
いけね···そういや今日、約束してたよな

ガチャッ

慌てて着替えを済ませてリビングに行くと、ちょうどサトコが入ってきたところだった。

サトコ
「お邪魔しま~す」

難波
おお、早かったな

サトコ
「そういう室長は···」

サトコはスーパーの袋をぶら下げたまま、ジッと俺の顔を覗き込む。

(まさか···まだ続いてるなんてことは···)

サトコ
「寝てました?寝癖が」

難波
あ、ああ···バレたか

サトコ
「起こしちゃってすみません」

サトコはホッとするような笑みを浮かべた。

(間違いない。今度こそ現実だ···)

試しに、そっと頭を撫でてみる。
サトコはちょっとくすぐったそうに、でも嬉しそうに俺を見上げた。

サトコ
「どうしたんですか、急に」

難波
いや、なんとなく

サトコ
「ふふっ、変な室長」

その頬はもう、いつかみたいに変に赤くなったりもしていない。

(そうそう、最近のサトコはこんな感じだよ)
(割とひよっこ、慣れちゃってんだよな···)

あの時感じた違和感の正体はこれだったのだ。

(おかしな夢だったが、新たな気付きをくれたってことで···)

サトコ
「それじゃ私、今からブリ大根作りますから!」

難波
おお、いいねぇ

サトコ
「少し時間かかりますから、出来るまで寝てて大丈夫ですよ」

自分だって疲れているくせに、こうして俺を気遣ってくれるサトコ。
そんなサトコの優しさが愛しくて、
俺はキッチンに向かおうとしたサトコを後ろから抱きしめた。

サトコ
「···室長?」

難波
どうせ寝るなら、お前も一緒に寝るか?

サトコ
「え?」

答えを待たずに、サトコを抱きしめたままソファに倒れ込む。
俺の上になったサトコが、驚いたように上体を起こした。

サトコ
「ビックリした~」

(って、おい···これ、あの夢のシチュエーションと同じじゃねぇか···)

サトコ
「···どうかしました?なんか、顔色が···」

サトコが顔を近づけてくる。
服の胸元から下着がチラリと見えて、俺はますます動揺した。

難波
赤い下着···着けてんのか?

サトコ
「え?やだ、見たんですか!」

サトコは慌てて体を起こすと、両手で胸元を塞いだ。

難波
まだ夢か···?

一瞬絶望的な気分になるが、目の前のサトコは俺を挑発するどころか真剣に狼狽えている。

サトコ
「違うんです!これは別に、特別な意味は何もなくて···」
「ただ、洗濯物が乾かなかったので」
「タンスの奥から引っ張り出してきただけなんです!」

難波
でも持ってはいたんだな、赤い下着

(サトコにしては、ちょっと意外な選択だが···)

サトコ
「だからですね、これはですね!勝負下着と言いますか···」
「あ、でもそういう勝負じゃなくて、その···警察の試験を受ける時に」
「願掛けに買ったものなんです!」
「でもあの、全っ然似合わなくて!だからお蔵入りしてたというか···」

難波
あー、はいはい。分かった分かった

俺は笑いながら、サトコの口を手でふさいだ。

(何か不思議だな。夢の中では違和感しか覚えなかったのに···)
(現実のサトコなら、どんなことでもかわいいと思えちまう)

難波
じゃあ、その勝負下着ってやつをもっとよく見せてもらおうか

サトコ
「え···?」

言うが早いか、サトコの服を取り去った。

サトコ
「わっ、止めてください!」

慌てて自分の身体を隠そうとするサトコの腕を掴んだ。
白い肌に、真っ赤な下着がそこだけ熱を帯びたように浮かび上がっている。

難波
似合うじゃねぇか。意外と

サトコ
「意外とって···色気がない割にってことですか?」

難波
色気?

サトコは心なしか身を竦めながら、ちょっと不安げに俺を見つめている。

難波
んなもん、あってもなくても構わねぇよ
俺にとって重要なのは、サトコかどうかってことだけだ

サトコ
「室長···」

嬉しそうに微笑んだサトコを抱き寄せ、キスをする。
その途端に体中の血が湧きたって、どうにも気持ちを抑えられなくなった。
身体を入れ替え、サトコの上に身体を重ねる。

(夢の時は、どんなに迫られてもあんなに冷静だったのに···)

難波
やっぱり、サトコはこうじゃないとな

サトコ
「え?」

難波
いや、なんでもない

意味が分からないと言いたげなサトコに、首を振りながらもう一度キスを落とした。
温かで穏やかな幸せが広がって、俺の心を優しく包み込んでいく。

(俺にこんな風に感じさせてくれるのは、目の前にいるこのサトコだけだ···)

代わりのきかない大切な存在に出会えた喜びを噛み締めながら、俺は心の中で微笑んだ。

Happy End

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