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本編カレ目線 津軽3話

大人しくしてるかと思ったウサギはケージから飛び出してきた。

(まさかもう一度調べて直してくるとは思わなかったな)

鼻息荒いドヤ顔が思い出され、ひとりで思い出し笑いしてしまう。

サトコ
「とにかく目を通してください」
「前回の報告書は言われたことを額面通りに受け取り、それ以上のことはしませんでした」
「その点については反省しています」

(あの顔、面白かったなぁ)
(まあ、根性はありそうだし使い勝手は、なかなか良さそうだし)
(女の子っていうのも便利かも。使うだけ使って、最後は潰せばいいか)

多少の事では壊れないオモチャで遊び甲斐がありそうだ。
次はどうしようか、何をしたらどんな顔をするのか、考えるのも面白い。

(モモとの組み合わせも愉快だしな~)
(新しい人間を入れるのは面倒だと思ってたけど、ウサなら楽しめるかも)

そんなことを考えながら歩いていると。
マンションの前で動く人影が見えた。

(なんだ?誰か絡まれてんの?)

最近視力が落ちたかな···と心配しながら、目をすがめて前ぽを見てみると。

チンピラC
「あいつをボコして憂さ晴らしだ!」

サトコ
「私は全然関係ないんですが!?」

チンピラA
「うるせぇ!ごちゃごちゃ言うんじゃねぇ!」

(あれ、ウサじゃん。なんで人ん家の近くで絡まれてんのよ)
(メンドくさー···)

歩く速度を緩めて様子を見ながら近づいてみる。

サトコ
「なんて横暴な···!」

ウサはとりあえず男たちと距離を取りながら、伸びてくる腕をかわし続けている。

(あの子も警察官だし、あれくらい対処できるよな)
(あ、公安学校卒の戦力が見れていいかも)

高みの見物を決めようと思っていると。

チンピラA
「くそっ、その辺の陰に連れ込め!」

(連れ込むか···威勢がいいとはいえ、ウサはウサギサイズだからな)
(3人の男に抑え込まれたら···)

アウトの可能性も考えると、何かが胸に引っかかった。
この場を放っておくことを居心地悪く思う、この気持ちの正体はーー

(まさか “良心” とかってやつ?)
(ほんと、メンドくさー···)

良い人間であることとは、随分距離を置いて生きてきた。
だけれど、“普通” の人間には “良心” が備わっていることは知っている。

(俺の中に、まだジミニー・クリケットが居たとか言ったら笑えるな、ほんと)
(大体、木の人形の “良心” って何だよ)

ピノキオの長い鼻を思い浮かべながら、ウサの近くに歩いていく。

津軽
ウサちゃん?

サトコ
「へ···?」

(うわ、マヌケな反応)

津軽
やっぱり、ウサちゃんだ

サトコ
「津軽さん!?」

今気づきましたという顔で、とりあえず声を掛ける。

(さて、どうするかな。ケンカするほどの体力はもうないし)

殴り合いもいとわなかった10代の頃とは違う。
今は極力省電力で生きて行きたい。

津軽
知り合い?

サトコ
「いいえ、全く、全然!」

津軽
何だ、彼氏かと思ったのに

(モモがいてくれたらなぁ)
(3対1+お荷物···走って逃げるしかない?)
(疲れるだろうな。あー、やだやだ)

メンドくさいなら、無視すればよかったのにーー
そう言ってくるもうひとりの自分にイラっとする。

(できるものなら、俺だってそうしたい)
(それができないのは···)

チンピラA
「おい、お前ら!俺をムシすんじゃねぇ!」

津軽
まだいたの?

チンピラA
「ああ゛!?」

男に胸倉をつかまれ、脳内会議が中断した。

(いっそのことぶん殴ったらスッキリするか?)
(でも自分の手も痛くなるし、2発目の体力ないしな)

やっぱり逃げるが勝ちで行くしかないかと結論を出していると。

チンピラB
「お、おい!ダメだ!」

チンピラC
「死ぬぞ!」

サトコ
「え?」

津軽

チンピラA
「!こ、こいつ···わかったよ!チッ!運のいいヤツめ!」

(···もしかして俺が現役だった頃、知ってんの?)
(いやいや、あれから何年経ってんだよ)
(つーか、顔見て分かるって高校生の頃から変わってないってことか?)

いろんなことを考えているうちに連中は転げるように逃げて行った。

(まあ、メンドーが減ってよかった)

悪いこともしておくものだ。

サトコ
「津軽さん···何者なんですか?」

津軽
津軽さんだけど

サトコ
「そういう意味じゃなくて。あのチンピラ、津軽さんを見て逃げて行きましたよね?」

津軽
そーかなー
まあ、警察の匂いでもしたのかもね

サトコ
「······」

(不審そうな顔で見てる。失礼な子だな)

そしてマンションの前で気が付く。
この子が同じ建物に住んでいることに。

to be continued

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