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本編カレ目線 津軽4話

ウサの歓迎会という名目で、経費で飲み食いしたあと。

(飲み方も知らない学生じゃないんだから)
(同じマンションだったこと、来世まで感謝しなよ)

津軽
おっも···ウサギサイズだと思ってたのに、何入ってんの?筋肉?

ウサをおんぶしながら、家に帰る。

(カバン漁って鍵見つけてもいいけど、あとでメンドくさくなってもヤだし)
(私の部屋に勝手に入るなんて、デリカシーがないです!)
(···とか、なんとか)

寝室に向かっていると、爪先にカンッと捨て忘れた缶のゴミ袋があたる。

サトコ
「ん···」

津軽
ん?

起きる?ーーかと思ったが、そのまま呑気に寝続けている。

(明日、ゴミ捨てないとなー)
(ウサに土産で持たせようかな)

津軽
よいしょっと

ゴロンとベッドに転がすと、これでようやく一仕事終わりだ。

津軽
ふー···

サトコ
「うーん···」

ベッドが気に入ったのか、ウサの口元がヘラッと緩む。
そのままニヤニヤと笑いながら眠っている。

(何の夢見てんだか。今日は楽しそうだったな、ウサちゃん)

ベッドに座って眺めていると、日中の出来事が頭に思い浮かんできた。

津軽
ウサちゃん、ウーロン茶じゃなくて、こっちにしなよ

サトコ
「これ···カクテルですか?」

津軽
ウサちゃん用に作った “月の兎スペシャル” 

サトコ
「キレイな黄色ですね」

(女の子っぽい顔だったなー。浮かれてつい呑んでる感じだったし)
(俺に褒められたのが、そんなに嬉しかったのかな)

『おいで』と手招きした時も、いそいそとこちらにやって来た。

(あの時の締まりのない顔、よかったなー)
(今も、あんな顔してんのかな)

背中を向けて寝ているため、顔は見えない。
枕に手をついて寝顔を覗き込もうとすると。

サトコ
「ん···っ」

津軽
ぐっ!

寝返りをうったウサの裏拳が顔面に直撃した。

津軽
いって!

鼻がツンとする。

(なんでこういう時にクリティカルヒットすんだよ!)

鼻を押さえる俺の前で、ウサは口をもぐもぐさせながら、だらしない横顔を見せていた。

(この子、どうして公安なんかに入ったんだろ)
(呑気の申し子みたいな生き物なのに)

津軽
さてと···横で寝た日には、起きたら顔面ボコボコにされそうだし

(俺の家なのに納得いかないけど、ソファで寝るか)
(女の子を泊めて一緒に寝なかったの、初めてかもな)

ベッドから降りようとすると、何かが引っかかった。

津軽
ん?

振り返ると、ウサの手が服の裾を掴んでいる。

(これはどうしろと?)

サトコ
「つが···さ···」

津軽
······

寝言のような声は、普段よりも彼女を幼く見せた。

津軽
俺の夢見てんの?ねぇ

寝言の続きを聞きたくて催促してみるも、もごもごと口を動かすだけ。
髪を梳いてみると、額が露になる。
使い潰すつもりの、この子。

(あー、失敗だったかな。家に連れて来たのは)
(捨て犬だって目が合えば情が湧くっていうし)

いわゆる “良心” が、この頃顔を覗かせてうざったい。
この前だってーー

メンドくさいなら、無視すればよかったのにーー
そう言ってくるもう一人の自分にイラっとする。

(できるものなら、俺だってそうしたい)
(それができないのは···)

( “良心” を無視できないのは、“普通” でいようとする俺がいるから)

“普通” から逃げられないのは、カウンセラーの呪いみたいなものだろう。
彼らは俺に “日常” を取り戻させるため、“普通” に振る舞うことを教え込んだ。

( “日常” なんて、戻るわけないのにな)

今、目の前で寝ている彼女の “日常” と。
俺の目に映る “日常” は、あまりにかけ離れているだろう。

津軽
······

俺の服の裾を掴む手に、なぜか罪悪感を覚えた。
そっと外させると、ベッドから立ち上がる。

津軽
ふわ···

(寝るかぁ)

妙な心地の悪さに首の後ろを掻きながら、ソファに寝転んだ。

to be continued

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