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本編カレ目線 津軽9話

警察庁近くの歩道橋。
深夜にもかかわらず、そこそこの交通量はあって流れるヘッドライトをぼんやりと眺める。

(全部、終わった···)

サトコ
「二度目ですね。でも、今回は反射的なものじゃありません」

津軽
······

サトコ
「あなたなんてもう、顔も見たくありません!」

サトコが全部を知った。
彼女が自分で気が付いたのは良かったのか、悪かったのか。

(良かったのかもな。俺が言ったら、余計に傷つけるような言い方だっただろうし)

叩かれた頬に触れてみる。
もう痛くはないのに、そこだけ感覚が失われているようだった。

(ビンタ1発で済んだのは、まだマシな方か)
(俺を信じた結果が、これだ)
(石神が言うように、俺を信じ続けようとしていたサトコを···)

裏切ったーー
使い潰して捨てるつもりだったのに、捨てられたのは俺の方かもしれない。

(タバコ、兵吾くんのくすねて来たけど)

吸っていたのは学生の頃。
警察に入って止めたものを久しぶりに吸ってみると。

津軽
げほっ

(マズッ、何でこんなの吸ってたんだよ)

眉間にシワを寄せながら、それでも吸い続ける。
夜に紫煙が溶けていく。

(短い間にいろんなことがあったなー···)

手すりに突っ伏すと、浮かんでくるのはーー

津軽
はい、ウサちゃんの飲み物だよ

サトコ
「炭酸おしるこ···?ちょ、待って!これ、津軽さんの好みで選びましたよね!?」
「私が言ったことと関係なく選んでますよね!?」

サトコ
「津軽さん、津軽さん!」

津軽
ウサちゃん!?なんでいるの?

サトコ
「なんででもです!早くここから出て、任務を完了しましょう!」

花巻富士夫
「芹香は私の娘なんだ···」

サトコ
「芹香さんにとっても、それはアイデンティティです」
「芹香さんの父親は、花巻監督しかいません」

サトコ
「任務達成はよかったですけど、津軽さんのあの態度は何なんですか!」
「津軽さんはもっと自分を大事にしてください!」

津軽
はは···

命懸けで助けに来て、ガキみたいな遊びをして。
血の繋がらない家族を結んで、俺に生きてていいと言った。

(五ノ井をどうしても潰したかったのは、ヤツの新説が遺伝子に関するものだったから)

『犯罪者や反社会的行動になる気質の8~9割以上は遺伝子に影響される』という仮説。
つまり血縁に犯罪者がいる者は犯罪者になる確率が非常に高いという話だ。

(花巻富士夫と芹香が親子だって言われて、安堵したのは俺だ)
(血や遺伝が自己形成に、どれほど影響を及ぼすのか···)

考えたくないーー
流れる血を確かめるように夜空に手を伸ばし、手首の静脈を見つめていると。

百瀬
「···危ないですよ」

津軽
···百瀬

コツ、と靴音を鳴らしながら近づいてくる。

津軽
どうした?

百瀬
「電話にも出ないし、全然連絡取れないから探しに来ました」

津軽
そう

百瀬
「そのまま手すりに体重をかけ続けると、後ろにひっくり返りますよ」

津軽
モモも吸う?

百瀬
「いえ」

首を振ると、モモが携帯灰皿を差し出してくる。

津軽
サンキュ

(死ぬ前にモモにも恩返ししなきゃな)

何も言わずに迎えに来てくれる存在は楽で有り難かった。

津軽
この辺でマスク売ってるとこ、どこ?

百瀬
「そこのドラッグストアか、コンビニじゃないですか」

津軽
じゃ、コンビニ寄って

百瀬
「風邪でもひいたんですか?」

津軽
心の風邪

明日からはマスクで顔を隠すことにしよう。
もう顔も見たくないって、君に言われたから。

to be continued

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