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あの日、僕らは隠れてキスをした 加賀1話

加賀
おい

振り返って返事をする前に、加賀さんが畳みかけるように続けた。

加賀
ふたふたまるまる

サトコ
「へっ?」

それ以上の情報はくれないまま、加賀さんは自分の部屋へと消えていく。

(ふたふたまるまる···22時ってことだよね)
(その時間に部屋に来い、って意味···?)

サトコ
「いや、もしかしたら何か秘密裏に動かなきゃいけないことが···?」

(とすれば、加賀さんは大福につられてきたように見せかけて、実は仕事だったとか)
(その可能性もなくはない···!22時まで、気を引き締めておかなきゃ)

部屋に荷物を置くと、鳴子と誘い合って露天風呂へとやって来た。

佐々木鳴子
「わ~、いい眺め!」

サトコ
「うん、そうだね」

佐々木鳴子
「しかも私以外誰もいないよ!こんな素敵な露天風呂が貸し切り状態なんて!」

サトコ
「うん、嬉しいね」

佐々木鳴子
「···なんか今日のサトコ、ずいぶんと冷静じゃない?」
「いつもなら『今日は目いっぱい楽しもう!』ってはしゃぐのに」

サトコ
「いや、その···公安刑事たるもの、こういうところでも常に落ち着いてなきゃと思って」

佐々木鳴子
「まあ確かに、ハメを外すのはよくないけどさ」
「こんな研修旅行めったにないんだから、少しくらいのんびりしようよ」

(本当は、加賀さんに言われた『ふたふたまるまる』が気になってるんだけど)
(でも確かに鳴子が言うように、ちょっとくらいゆっくりしてもいいのかも)

サトコ
「そうと決まれば···ふぅ~!いいお湯!」

佐々木鳴子
「さすが変わり身の早さ!」
「あーあ、こんなにいいところなら、今度カレを誘ってみようかな~」

サトコ
「鳴子、彼氏できたんだよね。うまくいってる?」

佐々木鳴子
「そうだねー。ちょっと子供っぽいところもあるけど、頼りがいあるよ」

サトコ
「そっか、年下だっけ」

佐々木鳴子
「私より、サトコはどうなのよー。相変わらずラブラブ?」

サトコ
「相変わらずラブラブ···!?」

(今まで加賀さんと、ラブラブだったことがあっただろうか···!?)

佐々木鳴子
「ほら、サトコの話を聞いてると甘い雰囲気とは無縁な感じがするけど」
「でも同時に、ちゃーんと愛されてるっていうのが伝わってくるんだよね」

サトコ
「ってことは、それが俗に言う『ラブラブ』···?」

佐々木鳴子
「ラブラブは人それぞれだから」
「それで?最近はどんな感じ?」

サトコ
「鳴子、ぐいぐい来るね···」
「最近は···なんていうか、前にも増して凄さが分かってきたというか」
「前はあまりにも遠い存在だったから、遠くから『すごいな』って思ってる感じだったんだけど」

佐々木鳴子
「じゃあ、少しずつ近づけてるんだ?」

サトコ
「どうかな···そうだといいけど」
「私にとっては、やっぱり憧れる部分がすごく多いし」

佐々木鳴子
「うんうん」

サトコ
「あんなに仕事ができて、プライベートでも私を引っ張っていってくれるから」
「頑張って早く追いついて、肩を並べて歩けるようになりたい」
「意地悪だし、たまに本気で命の危機を感じるけど···」
「でもやっぱり、大好きだから」

佐々木鳴子
「······」

(···ハッ!私、語りすぎた···!?)

慌てて鳴子を振り向くと、あふれんばかりのニヤニヤ笑いを浮かべてきた。

佐々木鳴子
「そっか~そっか~」

サトコ
「ど、どうしたの···?」

佐々木鳴子
「いやあ~!サトコに惚気られるのって新鮮で!」
「いいね、愛し愛されてるね!」

サトコ
「そ、そんな···!」

ザバザバと隣の男湯から音が聞こえてきて、思わず鳴子と顔を見合わせる。

サトコ
「···男湯、誰か入ってきた?」

佐々木鳴子
「みたいだね。びっくりした、こんなにはっきりわかるほど近くなんだ」
「さて、私たちはそろそろ上がろうか」

サトコ
「そうだね」

(あの壁のすぐ向こうが男湯なのか···)
(意識してなかったから、ちょっと大きな声で話しすぎたかも)

少し反省しながら、鳴子を追いかけて私も露天風呂を出たのだった。

温泉の後は、広い宴会場で美味しい料理に舌鼓を打った。

サトコ
「すごい豪華···!刺身しゃぶしゃぶなんて初めて食べました!」

黒澤
でっしょ~☆ここ、食べ物は美味しいしロケーションは最高だって評判なんですよ

津軽
あれ?七味とマヨなくなった。かけすぎたかな

百瀬
「予備、持ってます」

津軽
さっすがモモ。俺のことが分かってるね

千葉大輔
「···津軽警視、さっきこの刺身しゃぶしゃぶのタレに思いっきりコチュジャン入れてたけど」

サトコ
「うん···さすが料理クラッシャー···」

ふと加賀さんを見ると、熱心にメニューを見ている。

(なんだろう?飲み物が足りないのかな?)

サトコ
「加賀さん、ビール追加で頼みましょうか」

加賀
いらねぇ

サトコ
「でも、メニュー見て···」

(···違う!飲み物じゃなくて、デザートのページ見てる!)
(そうだ、ここは温泉大福が有名なんだっけ)

サトコ
「もうデザート食べるんですか?刺身しゃぶしゃぶ、美味しいですよ」

加賀
食い終わった
それに、今日のメインはこっちだ

サトコ
「デザートがメインって、加賀さんらしいですけど···ん?」

加賀さんから少し離れた席で、石神さんも同じようにメニューを見ている。

(石神さんはプリン・ア・ラ・モード狙いだよね)
(加賀さんと石神さんってほんと、真逆だけどこういう時はすごく似てる···)

その後、黒澤さんの司会でカラオケ大会が始まり···

カラオケ大会が終わると、今度は卓球大会が始まった。

(卓球も楽しいけど、そろそろお土産も買っておかないと···明日は時間ないかもだし)
(それにしても、みんなほんと楽しそう)
(研修旅行じゃなくて社員旅行状態だな)

サトコ
「うーん、何買おうかな···あっ、温泉大福!」
「ふむふむ、3種類入ってるのと、1種類ずつのがあるのか···」

(加賀さん、全部食べてたけどどれが好きだったのかな)
(とりあえず、3種類入ってるのを私と加賀さんの分···)

サトコ
「あれ?そういえば何か忘れているような」
「······」

(···あっ!?ふたふたまるまる!?)

慌てて時計を見ると、すでに22時10分を回っている。
大急ぎで大福を買い、売店を出たその瞬間ーー

to be continued

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