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あの日、僕らは隠れてキスをした 加賀3話

【カレ目線】

黒澤に無理やり連れて来られた “研修旅行” は、ただの慰安旅行だった。

(どいつもこいつもはしゃぎやがって、くだらねぇ)
(さっさと売店で大福買って部屋で食うか)

他の奴らよりも先に来てひとり露天風呂に浸かっていると、壁の向こうが騒がしくなった。

佐々木鳴子
「見て見て!いい景色!」

サトコ
「本当だ。綺麗だね」

(···サトコか)

楽しそうな声をぼんやり聞いていると、そのうち話は恋愛のことへと向かう。

(くだらねぇ···女は大体こういう話しかしねぇな)

佐々木鳴子
「で?最近はどんな感じなの?」

サトコ
「そうだな···前にも増して、すごさが分かってきた気がする」
「憧れだし、尊敬するし、非の打ち所がないというか」
「あ、でも意地悪されると命の危険を感じるけど」

佐々木鳴子
「それってもう、意地悪ってレベル超えてない···?」

サトコ
「でも、何をされてもやっぱり大好きなんだ」

加賀
······

(···クズが。人前で何ペラペラ喋ってやがる)

その時、勢いよく戸が開いて颯馬たちが入ってきた。

颯馬
加賀さん、早いですね

加賀
···ああ

東雲
兵吾さん···もしかしてのぼせました?

加賀
んなわけねぇだろ

黒澤
ややっ!?女湯から女性たちの声···!?
あーっ!もうちょっと早く来てたら楽しめたかもしれないのに!

黒澤が言い終わる前に、後藤が垂直に拳を振り下ろした。

黒澤
ぎゃっ!痛い!

後藤
変なことを考えるな

黒澤
別にいかがわしい想像してたわけじゃないですよ~!
女の子たちのキャッキャした会話を聞くのって楽しいじゃないですか!

颯馬
盗み聞きですか?最低ですね

東雲
透、そろそろ容疑者側になるんじゃない?
今までありがとう。さよなら

黒澤
待って待って待って!まだギリギリセーフですから!

加賀
アウトだろ。存在自体が

黒澤
加賀さん、なんか機嫌悪くないですか···!?

東雲
ああ···なるほど

何かを思い出したように、歩がしたり顔になる。

加賀
何がだ

東雲
ついさっきまで女湯にいたの、もしかして···

加賀
······

東雲
兵吾さんって意外と可愛いところありますよね~

(···クソガキが)

舌打ちして、歩たちを置いて先に上がった。

名ばかりの研修旅行から戻ると、そのままサトコを家に連れ込んだ。
帰ってきてまっすぐ寝室に入り、旅行中消化不良だった分もたっぷりと可愛がり···

サトコ
「も···ダメ···無理···です···」

加賀
テメェはいつもそれだな

サトコ
「加賀さんが容赦なさ過ぎるんです···」

ベッドに力なく横たわり、サトコはシーツで身体を隠しながら息も絶え絶えだ。

(···やりすぎたか)

いつも、後になってそう思う。
だが求めている時は夢中で、まるで子どものようにどこまでも貪欲だ。

(それは、相手がテメェだからだ)
(恨むなら、理性も何もかも捨てさせるテメェを恨め)

大切にしてやりたい。
そう思う一方で、抱きつぶして壊して、全部自分のものにしたいとも思う。

(···クソガキは俺の方か)

自嘲気味に笑った時、サトコの荷物と一緒に置いてある温泉大福の袋に気付いた。

加賀
テメェも買ってきたのか

サトコ
「あっ、はい。加賀さん、どのあんこが好きか分からなかったので」
「とりあえず、3種類全部入ってるの選んだんです」

加賀
クズが

サトコ
「え?」

顎で、隣の荷物を示してやる。
そこには、サトコのものよりもいくらか大きい袋が置いてあった。

サトコ
「あっ!やっぱり加賀さんも買ったんですね」

加賀
これ目的で言ったのに買わねぇわけねぇだろ

サトコ
「もしかして、3種類網羅してる6個入のやつじゃなくて」
「ひとつの味が6個入ってるやつを3種類買いました?」

加賀
当然だ

サトコ
「さすが···全部で18個も買うなんて、正気の沙汰とは思えな···」

加賀
······

サトコ
「な、なんでもないです!」

加賀
テメェも食うだろ

サトコ
「え?」

加賀
隣でよだれ垂らして見られちゃ、大福が不味くなるからな

サトコ
「よ、よだれなんて垂らしませんよ、たぶん···!」
「でも···そうですね、ふふふふふ」

加賀
薄気味悪ぃ

サトコ
「だって、私と一緒に食べるために買ってくれたんですよね?」

加賀
口に大福詰め込んで黙らせてやろうか?

サトコ
「だ、大福がもったいないからやめてください···!」

加賀
···確かにな

サトコ
「そこは『大福よりお前の方が大事』って言って欲しかった···」
「私も、加賀さんと一緒に食べようと思って買ってきたんです」

ベッドに座る俺の後ろで身を起こし、そっとサトコが腕に触れてきた。

サトコ
「きっと加賀さんは自分で買うって思ったんですけど」
「でも、好きな大福がたくさんあった方が」
「加賀さんが幸せになれる瞬間がいっぱいあるなって!」

加賀
······

(だからクズだって言ってんだ)

伸ばした手で、自然とサトコの頬をぎゅっとつねっていた。

サトコ
「痛い!なんで!?」

加賀
生意気だ

サトコ
「うう···!だって加賀さん、柔らかいもの全部好きですけど」
「結局は大福が一番なんだなってことが、これまでの検証でわかったから」

加賀
······

サトコ
「羽二重餅とか求肥とか、柔らかさを求めるならケーキもアリかなと思ったんですけど」
「調査の結果、大福がぶっちぎりの1位です」

加賀
勝手に調査してんじゃねぇ

サトコ
「因みに知ってますか?プリン大福というとても柔らくて美味しい食べ物がありましてね」

加賀
潰す

サトコ
「何をですか···!?プリンを!?それとも私を!?」

頬をつかむ俺の手を逆につかみ、サトコは死から逃れようとするかのように必死だ。

(···大福でも餅でも、ましてもプリンでもねぇ)
(俺が一番好きな柔らかさは···)

頬から手を離し、そのままサトコを抱きしめた。

サトコ
「···ふふ」

加賀
······

サトコ
「······」
「···加賀さん!痛い!きつい!」

加賀
テメェ···痩せたんじゃねぇんだろうな

サトコ
「いや、体重はどうかな···最近測ってないですけど」

加賀
今すぐ測ってこい

サトコ
「ええ···!?」
「痩せたか太ったかは言いますけど、体重は言いませんからね···?」

もう一度きつく抱きしめて、なんとなく柔らかさに変化があった気がするその身体を堪能する。

(···最初は、二の腕の感触だったな)
(そのうち、常に傍にいるようになって)

いつの間にか、柔らかさなどどうでもよくなっていた。
隣にいなければ落ち着かない、どんなときも頭の片隅にいる。

(まったく、うぜぇな)
(人の人生にここまで介入してきやがって)

サトコ
「加賀さん···?大福、食べなくていいんですか?」

加賀
今の俺にはこっちだ、クズが

唇を這わせ、その柔らかさに思わず何度もキスを繰り返す。

サトコ
「んっ···」

加賀
やわらけぇな

次第に、サトコの表情がとろけていく。

加賀
···言っただろ、覚えとけって

サトコ
「···兵吾、さん···」

耳に寄せた唇からこぼれた声は、
自分でも驚くほどに甘く、優しい響きを含んでいた。

Happy End

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コメント

  1. りんご より:

    初めまして。いつもお世話になってます。
    今も更新してくださっていることが嬉しくなり思わずコメントしてしまいました…!

    • sato より:

      りんごさん
      コメありがとうございます(#^^#)
      公安刑事のファンを増やすため日々頑張っております!
      これからも応援よろしくお願いします(^^)/

      サトコ