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あの日、僕らは隠れてキスをした 後藤3話

突然開催されることになった、公安課の研修旅行。

(この課の急な旅行にも慣れてきたのは···銀室も公安学校に染まり始めてるのか?)

そんなことを考えたが、物議を醸し出しそうなので黙っておく。

(こういうひなびた温泉もいい。欲を言うなら、サトコと2人で来たかった)
(いや、これは研修旅行。一応仕事だ)

プライベートな気持ちは切り離さなければと思ったのも、束の間。

黒澤
あ、サトコさん、鳴子さん!

サトコ
「皆さん!」

(サトコ···温泉の浴衣もよく似合う)

反射的に視線が吸い寄せられてしまう。
だがそれを堪え、目に入らないように一歩先を歩いていると。

黒澤
湯上りのサトコさんって、きっと色っぽいですよね~
シャッターチャンス、逃さないようにしないと!

後藤
······

黒澤
ちょ、後藤さん、オレのスマホ返してください!

後藤
せっかく温泉に来たんだ。少しはスマホから離れて脳を休めろ

黒澤
え、後藤さんがオレを癒そうと···!?

後藤
気色悪いから、頬を染めるな!これは石神さんに預けておく

黒澤
ええー!

石神
そうだな。お前は少し情報社会から隔離された方がいい

黒澤
情報戦に遅れたら死も同然ですよ!

(これでとりあえず、サトコを撮られることはなくなった)

狭い心だと我ながら思うが、撮らせるつもりはない。

後藤
······

ちょっとしたことで、独占欲の引き金は聞かれる。

後藤
氷川、少しいいか?

サトコ
「え?はい。何か?」

後藤
残してきた仕事の件で、耳に入れておきたいことがある

サトコ
「?」

サトコが首を傾げた。
当然だ、そんな仕事は存在しないのだから。

(何をやってるんだ、俺は)

やっぱり何でもないーーと言いかけた時、サトコがカッと目を見開いた。

サトコ
「あ、ああ、あの件ですね!鳴子、ちょっと先に行っててくれる?」

意味が通じてホッとすると同時に、どうしようもない気恥ずかしさに襲われる。
それでも近くで見る彼女の顔に “後悔” の二文字は彼方へ消えて行った。

夜、旅館裏にあるという滝と社にサトコと行った。
静かな雰囲気と相まり、良い時間が過ごせたと思う。

(サトコが風邪を引いてなければいいんだが)

夜風で身体が冷えたのは間違いない。
温泉で温まろうと、大浴場に向かうと。

サトコ
「鳴子?」

後藤
サトコ?

サトコ
「誠二さん!?」

(どうして、サトコが男湯に···)
(俺が間違えたか?いや、確かに男湯の青い暖簾がかかってた)

サトコ
「幻···?」

(サトコも “まさか” って顔だな。どうして、こうなった?)

後藤
幻じゃない。ここは男湯だ

サトコ
「え!?でも、私が入った時には、確かに女湯の暖簾が···」

(サトコが入った時は女湯の暖簾?)

その一言で謎は解けた。

後藤
今、0時を回ったばかりだ。男湯と女湯が入れ替わる時間だ

(サトコが入った時は、確かに女湯だったんだ)
(鉢合わせたのが俺でよかった)

安堵したのも、束の間。
ガヤガヤと他の皆の声がした。

後藤

サトコ
「ど、どうしましょう!」

後藤
隠れろ!

サトコを抱き寄せ、岩陰に隠れる。

サトコ
「あ、あの···」

後藤
しっ

(見つからないように出られるか?)
(お湯から上がって内風呂を通って、脱衣所で服を着て···)

かなり難しいが、絶対に成功させなければいけない任務。
効果的、かつ確実にできる方法を考えているとーー

サトコ
「······」

腕の中の彼女が身じろぐ。
意図してはいないだろうが、柔らかいものが身体に押し付けられると。

後藤
···っ
···頼むから、動かないでくれ

サトコ
「す、すみません···っ」

大人しくしようと、サトコが身を縮めて固くする。

後藤
いや、そこまで緊張する必要はない

サトコ
「そうですか···?じゃあ···」

水音をたてないように、1番収まりのいい体勢をふたりで探せば···。

後藤
···っ!サトコ、そこは···っ

サトコ
「ご、ごめんなさい!」

後藤
いや、俺の方こそ···

サトコ
「あの、これはどうしたら···」

後藤
静かに···離してくれ···

サトコ
「は、はい···」

(熱い···)

触れる、彼女の肌も。

(···熱すぎないか?)

サトコ
「誠二さ···」

後藤

腕の中のサトコが、ぐにゃりと脱力する。

(のぼせたのか!)

事態は急を要する。

(こうなったら···)

そっとサトコを岩陰のくぼみに座らせると。
温泉の中にある大きな岩を掴み、思い切り茂みに向かって投げる。

黒澤
い、今のガサッて音、なんですか!?

津軽
熊でもいるんじゃない?

百瀬
「熊か」

難波
相撲でもとるか?

皆の意識が奥の茂みに逸れているうちに、サトコを抱き上げ速攻で露天風呂を後にした。

気を失ったサトコに服を着せることは難しく、
とりあえずタオルと浴衣を適当に巻いて廊下に出た。

(俺の部屋は···ダメだ)
(サトコの部屋には佐々木がいるが···)

この状況を説明するのは骨が折れるだろう。

女将
「おやおや、まあまあ···今どきの子は、やることが大胆だねぇ」

後藤
女将!

暗闇の奥からぬっと出てきた女将に一瞬驚いたが、救いの神だと駆け寄る。

後藤
一部屋、今すぐ貸してくれませんか?

女将
「はいはい、いいですよ」

後藤
助かります

女将
「あんた、うちの人の若い頃によく似てるからねぇ」

鍵を受け取り、部屋へと急いだ。

後藤
······

とりあえず浴衣だけを整え、布団に寝かせた。
窓を開ければ夜風が入り、彼女熱を冷ますようにうちわで扇ぐ。

(唇の色はだいぶ良くなってきた)

サトコ
「ん···」

サトコが目を開け、安堵する。
水を渡すと一気に飲み干し、大きく息を吐いた。

(休ませてやらなきゃいけないのに)

塗れた口元に誘われるように口づけてしまう。

サトコ
「んっ···」

後藤
······

唇を重ねたまま、その肌に手を滑らせると。

サトコ
「あ、あれ?私、下着···っ」

後藤
着せてる暇がなかった。ちゃんと回収してあるから安心しろ

サトコ
「は、はい···っ」

決して下心はなかったのだが、
結果的にすぐに彼女を求めることができてしまう。

(だが、湯あたりしたばかりだ···)

浴衣を乱しながらも、なけなしの理性を振り絞った。

後藤
今は、やめておいたほうがいいな

サトコ
「······」

身体を起こすと、サトコが微かに首を振る。

サトコ
「···大丈夫、ですから」

後藤
アンタ···

一度赤みが収まったはずのサトコの顔が、また上気していた。
ぎゅっと俺の浴衣の袷を握る手に、今度は俺の頭がクラッとする。

後藤
本当にいいのか?

こくりと頷かれれば、もう抗えるはずもない。

後藤
ふたりきりで入れる温泉に行くまで待つつもりだったんだ

サトコ
「わかってます。でも、今は皆さん宴会中ですし···」

後藤
誰も俺たちのことを気にしない···か?

サトコ
「はい」

言い訳を言わせないサトコの優しさを感じながら。
その肌を露わにし、自分の浴衣も脱ぎ落す。

サトコ
「誠二さん···」

サトコが自分から手を伸ばし、触れてきた。

サトコ
「私のですよ」

後藤
···どういう意味だ?

サトコ
「男湯の会話、聞こえてたんです。誠二さんの身体に触れていいのは、私だけです」

思わぬ言葉に驚かされたものの、もっと彼女が愛おしくなって。

後藤
全部アンタのものだって教えてくれ

熱が燻る肌を合わせれば、火が灯るのはすぐだった。

Happy End

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