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あの日、僕らは隠れてキスをした 東雲1話

東雲
怠···研修旅行とか

(歩さん···!)

サトコ
「あゆ···東雲さんの研修先はどちらですか?」

東雲
知りたい?

サトコ
「はい、ぜひ!」

東雲
······教えない

(ちょ···っ)

東雲
着いてくるなら別だけど

(え···)
(あ、待って···!)
(行きたい!行きたいけど、その前に上司の許可が···)

サトコ
「···あれ?」

(津軽さん、いないんですけど。それに百瀬さんも···)

佐々木鳴子
「どうしたの、キョロキョロして」

サトコ
「鳴子、津軽さんは···」

佐々木鳴子
「さっき出て行ったよ。百瀬さんと一緒に」

(ええっ!?)

サトコ
「ひどい···いつの間に···」
「私の研修先、まだ決まってないのに」

佐々木鳴子
「いいじゃん。きっと『好きにすれば』ってことだよ」

千葉大輔
「俺と佐々木は、颯馬さんに着いて行く予定だけど」
「氷川も一緒に来る?」

サトコ
「う···ううん、私は···」

(私は······)

サトコ
「東雲さーーん!」

東雲
······

サトコ
「行きます、一緒に行きます!」

東雲
へぇ、いいの?
津軽さんの許可は?

(う···)

サトコ
「それは、その···たぶん、大丈夫かと···」

東雲
······

サトコ
「とにかく、ご一緒します。連れて行ってください」

東雲
あっそう。じゃあ···
着替えて。これに

サトコ
「え···」

(これって···ジャージ?)

(意外だな。歩さんがスポーツ系の研修を選ぶなんて)
(何をやるつもりなんだろう。筋トレ···武道···ランニング···)
(あ、ふたりで「登山」なんて可能性も···)

スタッフ
「良い子のみんなー、『化石発掘体験』へようこそ」

(これかーい!)

スタッフ
「みなさんには大昔の『化石』を発掘してもらいます」
「もしかしたら、恐竜の化石が見つかるかもしれませんよ」

男の子1
「すげぇ、恐竜だって!」

男の子2
「俺、絶対恐竜見つけるんだ!!」

女の子1
「私も!!」

(みんな、テンション高いな。さすが小学生···)

東雲
まぁ、当然だけどね
恐竜狙いなのは

(こっちにも、さっきからずっとソワソワしてる人が···)

スタッフ
「それでは、発掘の説明をします」
「まず、ここにある軍手を履いて···」

(化石の発掘か)
(あ、ひとつだけ持ち帰りOKなんだ。だったら···)

東雲
え、この化石をオレに?
いいの?こんな貴重な恐竜の化石を···
ありがとう、サトコ
じゃあ、この化石のお礼に···

サトコ
「!!!」

(やる···やります!)
(すべては、歩さんからの『お礼キッス』のため!)

女の子2
「ねぇ、ママ···あのお姉ちゃん、何だか怖い···」

母親
「ダメ!見てはいけません!」

(よーし、頑張るぞー!)

と、息巻いてはみたものの···

男の子1
「すげぇ、葉っぱの化石だ!」

男の子2
「オレのは貝だ!これで5つ目」

(え、もう5つも?)

カツカツカツ···ガツッ!

東雲
へぇ。今度は二枚貝···
さすが発掘率ナンバー1の現場だね

(そうなの?)
(その割に、私···ひとつも化石が···)

釈然としない様子の私に気付いたのだろう。
歩さんは「見せて」と私のバケツを覗き込んできた。

東雲
···え、まさかのゼロ?
赤点だよ、このままだと

(う···)
(そういえば、これ···いちおう「研修」だった)

それに、このままではとてもじゃないけどご褒美をもらえそうにない。

(ダメだ、気合を入れろ)

決意を新たに、私はタガネを強く握り直した。

(とにかく恐竜···絶対、恐竜を掘り当てるんだ···!)
(そうすれば、一発逆転で「ご褒美キッス」が···)

サトコ
「は···っ!」

ガツッ!

サトコ
「あれ···」

(なんか、化石っぽい···?)

カツカツカツ···

(結構大きいな···葉っぱとかじゃないよね)
(貝···にしても、ずいぶんサイズが···)

ガツッ!

サトコ
「あ、出た···」

東雲
へぇ、やっとひとつめ···
!!?

(あれ、なんか反応が···)

東雲
キミ、これ···
モサ···モサ······

(モサモサ?髪が乱れてるってこと?)

東雲
すみません、ちょっと!
この化石、見て欲しいんですけど

スタッフ
「はーい。どちらの···」
「!!!」

東雲
これ、恐竜ですよね?

スタッフ
「ええ、おそらくはモササウルスの···」

(モササウルス?)

周囲はちょっとした騒ぎになった。
他のスタッフ、参加者、さらには研究員までもが駆けつけてきてーー

サトコ
「あの···そんなにすごいんですか、あれ」

東雲
当然。めずらしいから
あの大きさで、キレイに残ってるの

(そうなんだ···)
(ってことは···)

サトコ
「ふふ···ぐふふ···」

東雲
···何、その笑い

サトコ
「だって、発掘した化石ってひとつだけ持ち帰れるんですよね?」

(あのモサモサを、歩さんにあげたら···)
(そうしたら、きっと···)

東雲
無理だと思うけど。持ち帰るの

サトコ
「えっ、どうしてですか?」

東雲
どうしても何も···

研究員
「すみませーん、発掘された方ですよね」

研究員のプレートを下げた人が、小走りでやって来た。

研究員
「申し訳ありません。あの発掘した化石ですけど···」
「こちらの研究所に寄付していただきたいのですが」

(ええええええっ!?)

サトコ
「はぁぁ···」

(恐竜の化石、まさか持って行かれちゃうなんて)

東雲
···なに、まだ納得できないの

サトコ
「だって···」

東雲
意味ないじゃん。キミのとこにあっても
恐竜に興味ないんだし

サトコ
「それはそうですけど···っ」

(歩さんにプレゼントしたかったのに!)
(せっかくの恐竜の骨だったのに···)

東雲
ていうかキミ、才能あるんじゃない?化石発掘の

サトコ
「え、ほんとですか?」

東雲
うん。研究員の人たちもずいぶん驚いていたし
就職先、間違えたんじゃない?

(ひど···っ!)

サトコ
「そんなことないです」
「私が見つけたいのは、化石じゃなくて犯人ですから」

東雲
······

サトコ
「そっちの才能は···いまいちかもしれないですけど」

東雲
だろうね
なにせ元ウラグチだし

(うっ···)

サトコ
「でも『才能』の足りなさは適切な努力で埋められるーー」

東雲
それを証明したのは、他でもないキミだと思うけど

(···歩さん?)

東雲
それに認めてるみたいだしね。いちおう
キミの上司も

(歩さん···)

胸の奥で、なんとも言葉にできない想いが膨れ上がった。

(歩さん···歩さん歩さん···)

サトコ
「歩さーーー」

東雲
ところでさ
本当に大丈夫なの、キミの上司

(ぐ···っ)

東雲
あの人、かなり縄張り意識が強いし
大変だったりしてね。今晩の宴会とか

(そ、それは···)

津軽
ウーサちゃん!

(うわっ!)

津軽
飲んでる?
飲んでるよね、せっかくの宴会なんだし

サトコ
「は、はい···まぁ···」

(落ち着け···落ち着いて···)
(こういうときは、まず···)

サトコ
「ええと···注ぎましょうか?」
「今、飲んでるの···ビールですよね?」

津軽
うん、ハバネロ入りの

(ハバネロ!?)

津軽
透くんが教えてくれたんだよねー
『ピリッとスパイシーで美味しくなる』って
モモには合わなかったみたいだけど

(あ、百瀬さん、撃沈してる···)
(きっと、うっかり飲んでしまったんだろうなぁ)

心の中で、そっと手を合わせていると···

津軽
ところで、今日の研修だけどさ
ウサちゃんは、どこに行ってきたのかな?

津軽さんが、にっこり笑顔で、私の顔を覗き込んできた。

to be continued

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