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出逢い編 颯馬1話

もし失敗したら···

颯馬
優秀な新人のために、とびきりのものを考えておきますよ

(とびきりの罰って···なんだろう···)

颯馬
行きましょうか

緊張感で、ごくりと息を飲んだその時だった。

???
「また公安は邪魔をしに来たのか?」

振り向くと、そこにはどう見てもヤクザとしか思えない風体の男が2人立っていた。
こっちをもの凄い形相で睨みつけている。

颯馬
ああ、意外に早いご到着ですね

颯馬教官はフッと笑った。

???
「一課の邪魔どころか、四課の邪魔までしにくるとはな」
「うちが目ェつけてんだから引っ掻き回すんじゃねぇよ!」

怒鳴りまくる2人の男たちの話を聞いて、何となく理解した。

(この人たちは、刑事部・捜査四課の人たちだ···)
(ヤクザの捜査に関わってる四課···)

颯馬
公安警察は刑事警察と犬猿の仲なのは、あなたも知ってますよね

サトコ
「···はい」

颯馬
さっそくいらっしゃるとは
そんなに邪魔になると思ったんですか?

颯馬教官は小声で私に言った。

刑事1
「何をこそこそ話してる!」

彼らはどこか敵意むき出しだった。

颯馬
申し訳ないのですが、少しだけお時間貰えませんか?

そう言ってニコッと笑う。

刑事2
「時間だぁ?」

颯馬
はい。すぐ終わりますから

教官の言葉に舌打ちをしながら、男たちは言うことに従った。

刑事1
「まったく、公安はこれだからよ!」

サトコ
「······」

(話には聞いてたけど、四課の人たちはすごい強面だな···)
(ヤクザと渡り合うんだから、当たり前だけど···)

颯馬
あなたはここで待っていてもらえますか

サトコ
「え?は、はい。わかりました」

颯馬
すぐ戻ります

颯馬教官は小さく手を振ると、刑事さんたちを連れてどこかに行ってしまった。

10分後。
颯馬教官は行く前と変わらずの笑みで戻ってくる。

颯馬
お待たせしました

刑事1
「······」

刑事2
「······」

教官とは反対に刑事さんたちは顔色も悪く、急に静かになっている。

(ど、どうしちゃったの?)

教官をチラッと見るが、ニコリといつもの笑顔で返される。

刑事1
「さすが公安、というべきか···」

刑事2
「···汚いやり口だな」

颯馬
本当に申し訳ありません。板谷公一さんに河村直樹さん

2人は何故かびくっと肩を震わせる。

(あれ?この人たち、名乗ってないよね?)

颯馬
行きましょうか、サトコさん。また日を改めましょう

サトコ
「わ、わかりました」

(話してる時に聞いたのかな?)

颯馬教官は私の背を押してその場から移動させた。

颯馬教官に促されて、喫茶店に入った。
一番奥のひと気のない席に座る。

颯馬
私はアイスコーヒーで
サトコさんはどうします?

サトコ
「私もアイスコーヒーで···」

注文を済ませ、ホッと小さく弾息をつく。
初めての訓練もあって無意識に力が入っていたのか、自然と息が漏れた。

サトコ
「あの、さっき刑事さんたちと何を話してたんですか?」

颯馬
ああ、さっきのことですか

運ばれてきたコーヒーを飲んで、教官は口を開く。

颯馬
たいしたことじゃないんですけどね

サトコ
「刑事さんたち、急にしおれてしまいましたけど······」

颯馬
フフ
どうしたと思います?

<選択してください>

きつく言って聞かせた

サトコ
「あの様子じゃ、結構きつく言わないと聞いてもらえなかったと思うんですけど」
「話し合いの末に暴力団関係の四課と、合同で捜査することになったとか···」

颯馬
公安が刑事部と、ですか?

サトコ
「そ、それはないですよね······」

(まあ、そんな話聞いたことないよね)

わからない

サトコ
「わからないです······」
「何か言っても聞くような人たちには見えませんでしたから」

颯馬
まぁ、そうですね

颯馬教官は意味ありげに笑った。

互いに譲り合った

サトコ
「互いに譲り合った、とか」

颯馬
そう見えました?

サトコ
「いえ···」

(刑事さんたち、こっちをすごい目で睨んでたし···違うか)

颯馬
四課の刑事さんたちは、なんであそこに来たと思います?

サトコ
「ヤクザは四課の管轄ですから、手を出すなってことですか?」

颯馬
フフ

颯馬教官はニコニコと楽しそうにストローを回す。

颯馬
あなたは公安に適していませんね

サトコ
「え···?」

颯馬
今は、ですけど

サトコ
「······」

(私、公安に向いてないんだ···)

わかってはいたけれど、面と向かって言われると身に染みる。
しかも教官で、上司にあたる人に。

サトコ
「あの···公安に向いてるっていうのは、どんな人間なんでしょうか」

颯馬
そうですね···

颯馬教官は顎の下に手を置き、じっと私を見つめる。

颯馬
近々、キングオブ公安に会わせてあげますよ

(キ、キングオブ公安!?)

サトコ
「私がまだ会ったことがない人ってことですよね?」

颯馬
ええ

(キングオブ公安···公安の中の公安ってこと···?)
(想像もつかない···)

サトコ
「石神教官や加賀教官よりも凄いってことですか?」

颯馬
クス···

颯馬教官は意味ありげに笑う。

颯馬
まあ、ある意味では

サトコ
「······」

颯馬
あなたみたいな人は、参考にするといいかもしれません

(それはどんな人なのかすごく気になる···)

颯馬
一人前になるには、少々準備が必要になりますが
あなたはいい目をしています
ヤクザとの接触はまた後日

数日後。
颯馬教官から呼び出されて、教官室のドアをノックする。

(あれから書類整理ばかりやらされてたけど、とうとう暴力団と接触する日が来たのかも)

颯馬
どうぞ

中には石神教官と後藤教官もいて、何か打ち合わせをしているようだった。

???
「おおっ!ひょっとして、あなたが氷川サトコさん?」

声の主は、見知らぬ男の人だった。

颯馬
先日お話したあなたに会わせたい人物です。黒澤透。石神班に属しています

(石神班···えっ!)
(じゃあ、この人がキングオブ公安!?)

サトコ
「は、初めまして!」

思わず上から下まで、まじまじと見てしまう。

黒澤
初めまして~!
安定・安心・安全パイの黒澤透です★

(チャラそう···じゃなかった親しみやすそう!)
(でも本当にこの人が公安の人なの···?)

黒澤
周介さん、先日話したって、オレのことなんて話してたんですか?

颯馬
お前はキングオブ公安だって話をしたんだよ

黒澤さんはぐわっと目を見開き、颯馬教官を見つめる。

黒澤
~~っ!

颯馬
どうしたんです?この世の終わりみたいな顔して

黒澤
そ、そんなふうに思ってくれたんですか、周介さん!オレがキングオブ公安···!

黒澤さんは胸のところでぐっと拳を握る。

黒澤
結婚してください!

サトコ
「!?」

石神
······

後藤
······

その場にいた後藤教官と石神教官が······心底うんざりした顔をした。

黒澤
周介さん、僕と結婚してください!
あなたを満足させられる稼ぎなのかは微妙ですけど······オレ、頑張りますからっ!

颯馬
······

その瞬間、石神教官と後藤教官がガタンと立ち上がって黒澤さんの耳を引っ張る。

石神
島に飛ばすぞ、黒澤

後藤
随分と自由だな、黒澤

黒澤
い、痛い!ひ~!初めて会ったけど、助けてサトコさん!

サトコ
「えっ!?」

そう言って手をバタバタしている。

颯馬
結婚ですか。黒澤が女性に生まれ変わってくれるなら考えます

黒澤
それは···

ゴクリと生唾を飲み込んだ黒澤さんに、颯馬教官はニコッと笑った。

颯馬
今すぐ生まれ変わりますか?

黒澤
それはいやあぁぁっ

ニコニコと笑う颯馬教官が黒澤さんを追い詰めている状況を見て、石神教官がため息をついた。

(なんか···いいコンビネーション?なのかな)

颯馬
おふざけはこの辺にして
黒澤とサトコさんはこちらへ

ぐったりする黒澤さんの隣で颯馬教官はくすくす笑っていた。

颯馬
サトコさん、私が “協力者” 全般の管理をしているのは知っていますね

サトコ
「はい」

(一般人や組織内の人間を取り込んで、情報提供や協力を要請···)
(要はスパイのようなことをさせるって習ったよね)
(颯馬教官は協力者全体の管理をしているんだっけ)

颯馬
そのうち授業で協力者の獲得・運営方法を習うと思いますが
なかなかこればかりは、口で説明するのが難しい部分でもあるんですよ

黒澤
······

黒澤さんは先程の明るい表情から一変して、すっと真剣な顔になった。

黒澤
オレの協力者と接触させるんですね?

颯馬
ええ。実際に見せてあげてもらえませんか
先日はちょっと四課に邪魔されてしまって、体験入学ができなかったので

黒澤
ああ~。小耳に挟みましたよ
周介さん、相変わらず怖~い~♪

黒澤さんはひゅ~っと口笛を鳴らした。

サトコ
「?」

2人が何の話をしているのかわからない。

颯馬
今日一日だけでいいです。黒澤について行って彼の仕事を見てもらえませんか?
あなたに必要な経験です

サトコ
「はい、わかりました!」

(今回の仕事で、なにか協力者を使うことがあるのかな)

颯馬
では、彼女をお願いしますね

黒澤
分かりました~★

颯馬教官はそう言ってモニタールームを出て行った。

黒澤さんは車の中でも気さくに色んな話をしてくれた。

黒澤
サトコさん、サソリって食べたことあります?

サトコ
「砂漠とかにいる···毒があるアレですか?」

黒澤
ええ。今度食べに来ませんか?

サトコ
「え···」

黒澤
カリカリで香ばしくて美味しいですよ

サトコ
「い、いえ···ダイジョウブです···」

黒澤さんはミラー越しに私の顔をチラッと見ると、ふと真顔になった。

黒澤
今日は公安の怖さを思い知らせろってことでオレを呼んだんでしょうね、周介さんは

サトコ
「そうなん、ですか?」

黒澤
ええ

(公安の···怖さ···)

黒澤
すみません、ちょっと買い物をしますね

ブレーキを踏むと急に無口になった。

連れて来られたのは、病院だった。

(病院······?)

黒澤さんはそのまま中に入って行った。

病室にはおばあさんが寝ていて、近くには身体の大きな男が立っていた。

黒澤
こんにちは~

協力者
「···トールちゃんか」

お婆さん
「昨日アンタがいないときにも、透ちゃんが来てくれたんだよ」

協力者
「そうか···ありがとな」

黒澤
いえいえ。今日は花を買ってきましたよ~

黒澤さんは椅子を引いて座り、途中で買った花束を渡した。

黒澤
もうすぐ退院できるんですってね?

お婆さん
「おかげさまでね。息子が退院したら旅行に連れて行くって言ってくれたの」

お婆さんは嬉しそうに、その大柄な男性を見上げた。
その拍子にお婆さんと目が合う。

お婆さん
「あら、そちらの方は?」

サトコ
「わ、私はあの、黒澤さんの···」

黒澤
ははっ
この人はオレの恋人

お婆さん
「あらっ!透ちゃんは恋人がいるのね」

黒澤
だといいな~★なんて!

笑い合う2人の横で、男性がチラッと私を鋭い目で見た。

(余計なことを言わないほうが良さそう···)
(よく状況が分からないけど···今は見ていよう)

協力者
「俺はちょっと洗濯しに行ってくるわ」

男性はそう言って、かすかに目で黒澤さんに合図した。

黒澤
あ、じゃあ俺、飲み物でも買ってきますね

<選択してください>

この場に残る

(2人で話したいことがあるのかもしれない···)

サトコ
「じゃあ、私はお花でも活けて···」

黒澤
サトコさんもジュースを買うの手伝ってくださいよ~

黒澤たちについて行く

サトコ
「私もお手伝いしますね」

私も2人の後に従った。

様子を見る

(ついていった方がいいのかな。2人にしてあげた方がいいのかな)

黒澤
サトコさんもジュース買うの手伝ってくださいよ~

(あ。私も行った方がいいんだ)

私は2人の後に従った。

病院の屋上は風が強く、気を抜くと飛ばされそうな勢いだった。

黒澤
···お母さん、身体が良くないんですね

協力者
「ああ。年内まで持てばいい方だってさ」

黒澤
これ、使ってください

黒澤さんは紙袋を男の人に手渡している。

協力者
「······」

黒澤
いくらあっても困ることはありませんから
ギリギリまでお母さんの身体は諦めたくないし、そのためにはお金が必要なはずです

協力者
「···ありがとうな。トールちゃん」
「こんな時に頼れて、見舞いに来てくれるのは親戚でもなきゃ、友だちでもない」
「トールちゃんだけだもんなぁ···」

その響きには、悲しい、地の底から響くような実感があった。

協力者
「俺は、トールちゃんの為なら死ねるよ」

黒澤
······

黒澤さんの目に、一瞬暗い影が宿った。

協力者
「この間の施設の見取り図、ちゃんと入手するからさ」

黒澤
無理は止めてください
···そのためにお母さんのお見舞いに来てるんじゃないし
それでお金を持ってきたんじゃありませんよ

協力者
「そんなことはわかってるよ。長い付き合いだしさ」
「トールちゃんは優しいもんな」

男性は、今時誰も吸わないような古いタイプの煙草に火を点ける。
胸の奥までタバコを吸って、ふぅっと吐き出す。

協力者
「あんたも···公安の人間なんだろ」

男の人は初めて私の顔をまともに見た。

サトコ
「···はい」

協力者
「そういう目、してるよ」

サトコ
「私が···ですか?」

協力者
「ああ、公安の目だ。根っからのね」

それがいいことなのか、悪いことなのか。
私はつい、聞きそびれてしまった。

学校まで送ってもらって、少し黒澤さんと話をした。

黒澤
ああいう風に協力者の人と付き合うんですよ
情報を得るために

サトコ
「······」

黒澤
周介さんはこれを見せるために今日、オレをここに呼びました
学校じゃここまでは教えてくれませんからね

何もいい言葉が出ない。

黒澤
···黒澤さんは、あの人を駒のように利用してるんですか?
それとも、本当の家族みたいに思って心配してるんですか?

黒澤さんは、何を考えているのか分からない目で私を見る。

黒澤
公安の仕事をしていると、何もかも分からなくなることがあります
本当の自分の顔も、本心もね
オレは協力者を駒みたいに使ってます
ああやって彼らの一番弱い部分に入り込んで、情報をとって来させるんですよ

黒澤さんは何も写さない瞳で私を見つめる。

サトコ
「嘘、ですよね···?」

黒澤
······

サトコ
「黒澤さん、一瞬辛そうな目をしてました」
「それに黒澤さんの態度が演技だったらあの人は···あんなことを言わないと思います」
「それに黒澤さん、お婆さんに花を渡す時···少しだけ手が震えてました」

黒澤
サトコさん

黒澤さんはふぅっと息をついて、ニッコリ笑った。

黒澤
あなたは、最高に公安に向いていますよ

その夜、どっと疲れてベッドに倒れ込む。

サトコ
「疲れた···」

もう何もしたくないし、手も足も動かない。
目を閉じると、今日の出来事が浮かぶ。
そして···なぜか交番勤務の日々が蘇る······

サトコ
「あっ!お母さんが迎えに来てくれたよ!」

子供
「わあああん······おかあさん······!」

お母さん
「もう!どこに行ってたの?心配したのよ···」
「この度は本当に、本当にありがとうございます」

サトコ
「いえ。ずっと泣かずに我慢して待ってて偉かったんですよ」
「今度から迷子にならないようにね?」

子供
「うん!」

そう言って帰って行ったお母さんと子供。

お婆さん
「財布が見つかって本当に良かった······まだまだ世の中捨てたもんじゃないよ」
「落とした時は、もうダメかと思ったけどね」

サトコ
「この国はそういう素晴らしい人がたくさんいるんです」

お婆さん
「ええ。あなたもありがとうね。何度も何度も連絡をくれて」

サトコ
「いえ、届いたって早くお知らせしたくって······」

そう言って帰って行ったお婆さん。
交番勤務の頃は、酔っ払いや喧嘩。
万引きに見回り。
辛いことも多かったけれど、いろんな人に感謝されていた。
たくさんの人に喜んでもらえた。

(この公安の仕事は、誰かに喜んでもらえるような仕事なの?)
(目的のためには手段を選ばない······それが正しいこと?)

颯馬
あなたはいい目をしています

協力者
「ああ、公安の目だ。根っからのね」

黒澤
あなたは、最高に公安に向いていますよ

(どうして······そう思うんだろう)

いろんなことを考えているうち、意識がみるみるうちに遠のいて行った。

(あれ···?)

外が明るい気がして、慌てて時計を見るともう時間ギリギリだった。

サトコ
「し、支度···!」

(昨日は疲れてあのままで寝ちゃったんだ···)

自分でも信じられない速さで支度を整える。
その時、電話に着信が入った。

(こんな忙しいときに···誰!?)

プルルル
ディスプレイには
『颯馬教官』
と表示されていた。

to be continued

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