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出逢い編 颯馬3話

次の日レポートを提出に行くと、東雲教官がすごい勢いでパソコンのキーを叩いていた。

(うっ···加賀教官にバイオレンスのことをバラした東雲教官だ······)

サトコ
「お、おはようございます。レポートはここに置けばいいですか?」

東雲
いいよー。ねえ、聞いたんだけど世紀に颯馬さんの補佐になったんだって?

東雲教官はキーボードを叩きながら私に声を掛ける。

サトコ
「はい。合格ですって言ってもらえました」

私がそう言うと、東雲教官は手を止めてフッと意味ありげに笑い、
席を立ちだんだんと距離を縮めてきた。

東雲
ふーん···嬉しそうだね

サトコ
「はい!嬉しいです。颯馬教官に恥をかかせないようにこれからもっと頑張らないと···」

東雲教官は私を見て、少し呆れた顔をした。

東雲
あんまり気負わない方がいいよ。期待したらつっかえ棒を外されると思うけど
颯馬さん、優しいだけじゃないしね···

サトコ
「···どういうことですか?」

(廊下で声を掛けてくれたり、私の稽古に付き合ってくれたり、優しい人だと思うけど···)

東雲
わかんないなら、それでいいんじゃない?

東雲教官は私の不思議そうな顔を見て、諦めたようだった。

サトコ
「え······?」

東雲
ほら、補佐官になれたのに、ここで油売ってていいの?

サトコ
「あ···そうだ!トレーニングしなきゃ!」
「すみません···失礼しました」

先程の東雲教官の言葉を不思議に思いながら、頭を下げ教官室を出た。

着替えて外に出ると、思わず笑顔になってしまうほどいい天気だった。

(颯馬教官の補佐にしてもらえたんだし、もっと頑張らなきゃ···)

ランニングしようと、少しずつ走り出す。

(んっ···?)

すると、グラウンドの周りの大きな気の影に、人が2人立っているのが見えた。
少し気になり、そちらに意識がいってしまう···

(あれは···男女かな?かなり密着してるけど···カップルとか?)
(あんまり見てると失礼だよね···)

再びランニングに集中しようと意識を集中させる。
少し進んだところで男性側の横顔がはっきりと見えた。

サトコ
「えっ!!?」

そこには女性と顔を寄せて、親密そうに話している颯馬教官がいた。
颯馬教官は私に背を向けていたけれど、女性の肩にそっと触れた。

(···えーっ!?)

颯馬
···ですね

(何を話しているのか聞こえないけど、プライベートなのかな···)
(気付かれないうちに、一刻も早くこの場を離れよう)

なるべくそちらを見ないようにして、不自然にならないように遠ざかる。
忘れようとして、徐々に走るスピードを上げてしまう。

サトコ
「···はぁ」

思わずため息が出てしまう。

(あんなに親密そうだったし、颯馬教官の彼女なのかな)
(こんな学校の近くでなんて···大胆だよなぁ···)
(あぁ···なんか、もやもやするけど、考えててもしょうがないよね···)

その日はそれ以上考えないことにして、そのまま寮に戻った。

その日も基礎体力を上げようと、早朝に学校の周りを走っている時だった。
物陰に人の気配がして見ると、また男女がくっついているのが見えた。

(この辺、カップルが多いな···)
(お邪魔になってもなんだし、今度からコースを変え···)

サトコ
「···ん?」

そこにはこの間と同じく、颯馬教官が女性と仲良く話しているのが見える。
ただ、この間一緒にいた女性とはまた違う雰囲気の女性と一緒にいた。

(ど、どういうこと···!??)

<選択してください>

さらによく見ようとする

(もう少し近くで···って、覗き見はダメだよね)
(教官だってプライベートなんだし)

私はやっぱり見ないことにして通り過ぎる。

鉢合わせを避ける

コースを逸らせて脇道に入った。

(不自然な避け方をしちゃったけど、気付かれるよりはいいよね)
(颯馬教官、気付いてないといいけど···)

声をかける

サトコ
「···颯」

声をかけようとしてはっと気が付く。

(ここで部外者が話に入っても、お邪魔なだけだよね···)

サトコ
「···はぁ、はぁ」

(一体どんな関係なんだろう···?)
(まさか、どっちも恋人とかじゃないよね···)

その時、教官室での東雲教官の言葉がよぎった。

東雲
颯馬さん、優しいだけじゃないしね

サトコ
「ま、まさか···やっぱり!?」

東雲教官の言葉に続き、嫌な妄想をしてしまう。

(いや···颯馬教官はそんな人じゃないよね!)
(どのみち、私がどうこう言うことじゃないし、見なかったことにしよう···)

モヤモヤと考えていてもしょうがないと思い、授業に向かった。

サトコ
「ふぁ~あ···」

早朝トレーニングをしたせいもあって授業中ずっと睡魔との戦いだった。

(なんだか今日の授業は長く感じたなぁ···)

授業が全部終わり、片づけをしていた時。

佐々木鳴子
「サトコ!ちょっとちょっと!」

鳴子が慌てた様子で戻ってきた。

サトコ
「ど、どうしたの?」

佐々木鳴子
「今、教室を出たところで成田教官に会ったんだけど」
「すぐに教官室に来いってサトコに伝えろだって!」
「すごく怖い顔してたけど、何かしたの?」

サトコ
「えっ···何もした覚えないけど···」

(まさか、授業中ウトウトしてたのがバレたとか?)

佐々木鳴子
「···なんか怒り狂ってる感じだったよ?」

サトコ
「そ、そんなに!?どうしよう···」

身に覚えはないけど、良くないことだとはわかる。

サトコ
「···ちょっと行ってくるね。鳴子、ありがとう!」

心配そうな顔をしている鳴子にお礼を言うと、とりあえず教官室に向かって走る。

ノックをして中に入ると、
鬼のような形相の成田教官がこちらを睨んでいる。
中には加賀教官と颯馬教官、後藤教官もいて、全員険しい顔をしていた。

(っ······な、なんだろう)

教官たちが並んで、更にみんな険しい表情をしているからいつもに増して威圧感がスゴイ。

サトコ
「し、失礼致します。お呼びでしょうか···」

成田
「お前は不正入学した自覚はあるのか?」

(ふ、不正入学っ!?)

なんのことなのか、全く分からない。

サトコ
「不正入学って···何のことです?」

私の様子を見て、加賀教官がイライラしたように口を挟んだ。

加賀
このクズは何の自覚もなかったんだろ。要は推薦したやつがコイツの成績盛ったってことだな

サトコ
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
「不正だなんて···」

加賀
この学校に入学できるだけで、エリート中のエリートだしな
この学校を卒業した者は上級幹部以上に覚えがめでたいからな

サトコ
「······」

加賀教官の言葉に何にも返せなくなってしまう。

成田
「お前は不正な書類でこの学校に入学したんだな!」

サトコ
「不正な書類···どうしてそんな···」

青ざめる私の様子を見て、後藤教官がポツリポツリと話し始める。

後藤
つまり、氷川の上司が成績を改ざんしてここにお前を送り込んだんだな
自分の管轄から卒業者が出れば、名誉にもなるだろう

(この学校に推薦してくれた上司が、私の成績を改ざんしたってこと?)
(確かに···トップ入学なんて自分でも変だとは思ってたけど···)

サトコ
「管轄の名誉だなんて、私の上司はそんな人じゃありません!」

成田
「これでわかっただろう。お前はこの学校にいる資格はない!」
「もちろん退学してもらうからな」

サトコ
「そんな···退学って···」

(まだ入学したばかりなのに···)
(それに···せっかく颯馬教官に合格をもらえたのに)

サトコ
「退学なんて、絶対に嫌です!!」

成田教官はぎろりと私を睨んだ。

成田
「退学届を提出してさっさと荷物を纏めて出て行け」
「警察関係者でも一定以上の階級の者しか、この学校の存在は知らないんだ」
「退学してもらう際に、この学校で起きたことや授業内容は一切口外しないと」
「念書を書いてもらうからな!」

サトコ
「退学と言われても···私はこの学校に残ります!」

(頑張るって決めたんだもん!)
(これで退学なんて、あんまりだよ···)

目の奥が熱くなってきて、涙をグッと堪える。

<選択してください>

颯馬を見る

颯馬教官はさっきから何も言わずに黙っている。

(颯馬教官は···このことをどう思ってるんだろう?)
(やっぱり退学した方がいいと思ってるのかな···)

思わず颯馬教官の顔をチラリと見てしまう。

ここでやっていきたいと頼む

サトコ
「入学した以上、頑張りますから···」

加賀
根性論で通用すると思ってんのか?

サトコ
「···どうか結果くらい見てもらえないでしょうか」

加賀
結果の前に入学資格がねぇんだよ!

何も言えない

サトコ
「······」

(おかしいとは思ってたけど、まず入学資格すらなかったんだ···)
(口を開いたら涙が出そう···)

すると、ずっと黙っていた颯馬教官が、すっと手を挙げ話し始めた。

颯馬
それを言ったら、我々も同罪じゃないですか?
公安なのに書類の偽造にも気付かないなんて、世間から見たら笑止千万ですね

成田
「なっ······」

成田教官は颯馬教官の言葉に言葉を失ってしまう。

颯馬
確か···書類審査は成田教官、でしたね?
まさか内部調査もせず、提出された書類を鵜呑みにして成績を決めたなんて
おおざっぱなことはされていませんよね?

成田
「くっ···」

颯馬
公安にいる者が、まさか···ね?

颯馬教官はニッコリ笑った。
それを聞いた成田教官は焦りたちまち青くなる。

成田
「そっ···れは!」

颯馬
成績を改ざんした者がこの学校にいるより、調べもせずに入学を許したことの方が問題です
我々はまず、そのことを恥ずべきなのではないでしょうか?

成田
「うっ······」

加賀
はぁ···

加賀教官が深く溜息をついた。

加賀
俺はクズには興味ねぇ···好きにしろ

加賀教官はつまらなそうな顔で教官室を出て行ってしまった。

後藤
···周さんがそう言うならしょうがないな

後藤教官もどことなく納得したのかそれ以上は何も言ってこなかった。

颯馬
どうでしょう。この学校にふさわしい成績が取れたら、彼女を残すというのは

成田
「そんなことは認めない!」

颯馬
私は···彼女よりあなたが心配なんですよ?

そう言って颯馬教官は急に険しい顔で成田教官をじっと見つめ、
じわじわと距離を縮めて行った。

成田
「えっ······」

颯馬
公にすれば、成田教官の書類審査のあり方にも厳しい監査が入るでしょう

成田
「うっ······」

颯馬
すみません、あなたを思うあまりについ···

成田
「······」

成田教官は静かになってしまった。

成田
「つ、次の査定で誰もが認める成績を取らなかったら、すぐに辞めてもらうからな!」
「わかったな!!?」

サトコ
「は、はいっ!」

成田教官は力いっぱい扉を閉めて出て行ってしまった。

サトコ
「はぁ~···」

颯馬
ふぅ。みんな短気ですね···クスッ

急に静かになった教官室で、颯馬教官は肩を竦める。
颯馬教官の言葉に私も一気に緊張が和らぎため息が漏れてしまう。

後藤
相変わらずの人心操作っぷりですね

後藤教官は少し呆れた様子で颯馬教官を見ていた。

颯馬
そうですかね?クスッ

颯馬教官はクスッと笑いながら私の背中を押して、教官室を出るように促した。

近くのファミリーレストランで颯馬教官と話をすることになった。

サトコ
「この度はご迷惑をおかけしてすみませんでした!」

立ち上がって頭を下げると、颯馬教官はフフッと笑って私を押しとどめた。

颯馬
いえいえ。あなたの上司は、皆の言うように自分の手柄の為ではなく
あなたのことを想ってしたことだと思います
ですが、その方には厳重に注意くらいはしておきますからね

サトコ
「は、はい···本当に、なんてお礼を言ったらいいのか···」
「···私、颯馬教官に恥をかかせないように誠心誠意頑張りますし、どんなことでもやります!」

颯馬
フフッ···

必死に気持ちを伝えると、急に颯馬教官が笑った。

(···あれ?何か変なことを言ったかな?)

サトコ
「颯馬教官···?」

颯馬
いいですか?こうやって協力者を獲得していくんです

サトコ
「···え?」

颯馬教官がにこりと笑う。

颯馬
恩を売り、この人の為なら何でもしたいと思わせる
適度に優しく、適度に厳しく···使えるだけ使っていくんです

サトコ
「······」

颯馬
覚えましたか?

先ほどまでの表情とは違い、思わず凍り付くほど冷淡なな表情をしていた。

颯馬
あ、パフェでも食べますか?

冷淡な表情から打って変わり、颯馬教官はいつもの表情に戻り、私にメニューを渡した。

サトコ
「あ···はい」

(あれ?···今のって何だったんだろう···)

数日後···
集中して資料を読んでいると、誰かに肩を叩かれた。

佐々木鳴子
「どうしたの?そんなに古い資料読んじゃって」

サトコ
「あ、お疲れさま。···うん、後がないから普通の方法じゃ無理だと思って···」

佐々木鳴子
「あー···」

鳴子は困ったような顔をして私の前に座る。
鳴子は広まっている私の不正入学の話を、もう知っているようだ。

佐々木鳴子
「朝早く起きて走ったり、夜遅くまで勉強してるみたいだけど大丈夫?」
「悩んでるかと思ったら、バリバリいろんなことをしてるからびっくりしたよ!」

サトコ
「うん。私ね、お母さんにいつも言われてたことがあるんだ···」
「悩むのと考えるのは全く違う。常に考えなさい!って」

佐々木鳴子
「え、どう違うの?」

サトコ
「悩むって言うのは、“この学校を追い出されちゃう。ひどいよ。でもそれは嫌だし···”」
「ってただ思ってること」
「考えるって言うのは、いい成績を取って学校を辞めずに済むために何のスキルが必要か」
「自分には何が欠けていて、何だったら人より一歩先に立てるかはじき出すこと」
「私、剣道は大好きだから、他の人よりも上に行ける」
「あとの勉強や技術は人の倍やって、なんとか···でもそれだけだとこの学校では人並みだから」
「プラス人がやっていないことをやらないと、上に行けないんだ」

この学校の前身は昭和13年に設立された「後方勤要員養成所」だ。
通称「中野学校」と呼ばれていたことまではみんな知っている。

(みんな目の前の勉強で手一杯だし、私もそうだけど)
(私が他の人よりリードする方法は、昔の資料にあるはず···)

私は当時の資料を読んだり、武器の研究秘話など、時間を見つけては頭に叩き込んでいた。

(使っている機器は、当然今の方が新しいけど···)
(必要になる技能は、今も昔も変わらないよね。きっとヒントがあるはず)
(颯馬教官が与えてくれたチャンス。颯馬教官がどんな人なのかは、未だに全く分からない)
(あの時言ったように、ただ私のことも協力者のように使い捨てるつもりなのかもしれない)
(それとは別に、私はちゃんと颯馬教官の恩に報いたいし、この学校に残りたい)

佐々木鳴子
「頑張れ、サトコ!」

サトコ
「うん。ありがとう!」

(私に残された時間···できることを全部やらなきゃ!)

勉強のしすぎで頭がぼんやりしてきたので、近くにコーヒーを買いに出た。

(もうこんな時間···さすがに眠いな···)
(でも、お腹も空いたし何か食べるものも···)

角を曲がった時、話し声が聞こえた。

???
「ひど···っ」

女性の興奮したような声が聞こえる。

(こんな時間に何だろう!?)

何かあったのかと思い声がした方へと近づく。
月明かりに照らされて、人の姿が何となく認識できた。

(えっ······颯馬教官?)

颯馬
では···さよならですね
また困ったことがあったら、いつでも連絡してきてください

女性
「誰が!人でなし!」

サトコ
「······」

女の人が泣きながら走って行ってしまった···

to be continued

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