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出逢い編 颯馬4話

次の日···
昨日は、颯馬教官と女性のやり取りを見てしまい、
なんだか気まずくてそのまま寮に戻ってきてしまった。

(あの女性泣いてたけど···何があったんだろう?)
(『人でなし!』って聞こえた気がしたんだけど···)
(やっぱり、颯馬教官ってよく分からない人だな···)

考えれば考えるほど、颯馬教官のことが分からなくなってしまう。
授業に向かおうと廊下を歩いていると、後ろからポンと肩を叩かれた。

東雲
おはよ

サトコ
「東雲教官、おはようございます」

東雲
あれ?

サトコ
「あれ?」

じっと私の顔を見る東雲教官は、急に顔を覗き込んでくる。

東雲
颯馬さんと何かあったの?

サトコ
「へっ!?」

東雲教官はニヤリと笑いながら聞いてくる。

東雲
プッ···ほんと、サトコちゃんってわかりやすいな
ね。だから颯馬さんは優しいだけじゃないって言ったでしょ?

まるで、昨日のことを知ってるかのようだ···

(もしかして···東雲教官は何か知ってるの?)

東雲
オレは何も知らないけどね

サトコ
「っ!?」

(心が読まれてる···!)

東雲
だってサトコちゃん、顔に出るから

サトコ
「そ、そんなに出てますか···」

東雲
うん、バレバレ

(私、そんなに分かりやすいの!?)

東雲
まぁ、そのうち颯馬さんの事分かってくると思うよ

サトコ
「···どんな人かだなんて、私はまだ颯馬教官の事を知らないのに決めつけれられないです」
「それに人間誰でも、清濁あわせ持ってるものだと思うんですよね」

そう言うと、東雲教官はちょっと驚いた顔をした。

サトコ
「何かあったからって···優しい部分を全部否定したくないんです···」

東雲
へー。オレ、そんな風に考えてる人って初めて見たよ
頭いい。見た目で判断する。権力に従ってしまう。そんな風に簡単に決めつけてお終いでしょ

<選択してください>

そういうのが嫌いなんですか

サトコ
「···東雲教官は、そういうのが嫌いなんですか」
「決めつけられてレッテルを貼られるのが」

東雲
···まあね

そうかもしれない

サトコ
「···そうかもしれませんね」
「人は一度持った印象とか、イメージであれこれ何か言うかもしれないです」
「でもそれだけだと淋しいですよ」
「宝物を発見するように相手の中からいろんなところを見つけたいですから」

東雲
···キミ、あんまりいないタイプだと思うよ

そんなことはない

サトコ
「···そんなことはないと思います」

東雲
そうかな。そんなことあるよ

なぜか東雲教官は歯切れ悪く答えると、すぐに行ってしまった。

(東雲教官って···何回話してもよく分からない人だなぁ)

昔の資料を読んでいると、あることに気が付いた。

(颯馬教官は前に、黒澤さんみたいな人を参考にするといいって言ってたよね···)

勉強するうちに分かったのは、力で制圧する強引なタイプは、それに向いている現場がある。
ただ、いろんな集会に出入りして、
ある程度多くの団体と渡りをつけたり、場合によっては穏便にやって行かなくてはならない。

(きっと私は、こっちの方が向いてるんだろうな···)
(人の気持ちを読んで、その場に応じて柔軟に対応すること)
(だとすると、試験科目で私が良い点を取れるのは、これしかない!)

その日から私は、さらに自主トレーニングに励んだ。

お昼休み。昨日眠れなかったせいもあって、疲れて半分眠りながら、焼肉定食をかき込んでいた。

千葉大輔
「随分食べてるね···」

佐々木鳴子
「もう無意識に食べてる感がすごいよ」

サトコ
「なんか、脳みそがタンパク質を要求してくるっていうか···」

佐々木鳴子
「ちょっと、怖いこと言わないでよ!」

すると、そこに颯馬教官が通った。

颯馬
食事をとることはいいことですよ

サトコ
「そ、颯馬教官!?」

昨日のことを思い出してしまい、少し構えてしまう。

颯馬
食べるのと食べないとでは、生き残る確率が全く違いますからね
試験、頑張ってくださいね

そう言って颯馬教官は微かに笑い、カフェテラスを出て行った。

サトコ
「は、はい···!」

思わず立ち上がって大声で返事をすると、カフェテラスにいた人たちがクスクス笑っていた。

佐々木鳴子
「颯馬教官素敵~」

鳴子がそう言ってうっとりしている。

(そうだ···颯馬教官がどうとかじゃないよね!)
(今は試験結果のことをちゃんと考えなきゃ···)

筆記も実技も終わり、残る試験はひとつだけだ···

(絶対に退学なんかになるわけにはいかない)
(そのためにここまで頑張ってきたんだから···)

颯馬教官の応援を聞いて、最後の試験も頑張らなきゃ!

コンコン。
グッと拳を握ってドアをノックする。

成田
「入れ」

そこには被疑者役の成田教官が、“絶対に合格させない” と言うかのようかの顔で私を見ていた。
教官室には東雲教官と颯馬教官もいて、私たちのやり取りを見届ける役で立っている。

成田
「被疑者に自分のやったことを認めさせる試験だ!」

サトコ
「···はい」

私の答えはあらかじめ決まっていた···

(犯人は3ヶ所の爆弾をA駅ちかくの、よつばとビルに仕掛けてるから···)
(問題はどうやって追い込むかだよね···起爆スイッチはどこにあるか吐かせないと!)

成田
「お前が犯人の口を割らせないと、爆破事件はどれだけ人が死ぬかわからないぞ!」

(成田教官は最初にプレッシャーをかけてるんだ···その手には乗らない!)

サトコ
「はい!」

成田
「では、始め!」

私は成田教官の前に座ると、にこにこと笑顔で話しかける。

サトコ
「今日って···何日でしたっけ?」

成田
「···3日だが」

サトコ
「あ、そうでしたね。忘れっぽくてすみません」

わざと、全く関係のないことを話していく。

サトコ
「最近、ほんとに暑いですよね···」

成田
「······」

それに対し、成田教官は何を言ってるんだ、と言わんばかりに無視してくる。

サトコ
「唐突ですけど、頭に好きな数字を思い浮かべてください」
「2でも4でもなんでもいいです。ああ、3でも」

成田
「は?」

成田教官は呆れた顔をする。

サトコ
「取り調べの前に少し軽く遊びましょう!まず、手品を見せます」

成田
「突然なんだ」

サトコ
「頭で考えた数字を紙に書いて、東雲教官に渡してください。後ろを向いてますから」

成田
「······」

取り調べ演習は、主導権はこちらにある。
成田教官は言われるままに紙に書いて、東雲教官に渡したようだった。

サトコ
「その数字は3、ですね」

東雲
···フッ

東雲教官はニヤッとして紙を広げて私に見せると、『3』と書かれていた。

成田
「な、何が手品だ!?そんな手には乗らないからな!」

成田教官は怒鳴ると、私をじろっと睨みつける。

サトコ
「···実は私、霊感があるんです。お婆ちゃんが霊媒師だったもので」

成田
「さっきからなんなんだ!ふざけるなっ!」

成田教官はますます怒り出しながらも、混乱した顔をする。

サトコ
「あ、昨日A駅に行ったのは、洋服を買いに行ったんですか?」

話しが急に変わったので、成田教官は驚いた顔をした。

成田
「洋服なんて買っていない」

サトコ
「あの辺は人が多いですよね。私もたまに行くんですけど、よく道が分からなくて」
「駅前にある大きな緑の劇場、なんでしたっけ?」

成田
「 “ゲキヤ” だろう。よくいろんな芝居を公演している」

サトコ
「そうでした!観に行ったお芝居のタイトルは覚えてるのに···」
「本当に物忘れがひどくて···成田教官さすがです!」

私が少し褒めると、ふふんと得意げな顔をした。

サトコ
「あの道から右に曲がったところにある、本屋の入ってるビルはなんでしたっけ?」
「屋上に遊戯場のある···」

成田
「よつばとビルだ」

サトコ
「そうそう。よつばとビルです。よくビル名をご存知でしたね」
「ビル名で記憶してるなんて、さすがです!」

颯馬
クスッ···

その瞬間、颯馬教官がクスリと笑った。

サトコ
「先ほどあなたに、“昨日A駅に行ったのは、洋服を買いに行ったんですか?” と聞いたら」
「『洋服なんて買ってない』と答えましたよね?」
「A駅に行ったことは、認めるんですね?」

成田
「っ!?」

攻め寄った瞬間、成田教官はしまったという顔をした。

サトコ
「劇場は通称で覚えていたのに、なぜビルの名前は正式名称で呼んだんですか?」

成田
「ぐ、偶然だ。そんなことは誰にでもあることだろう」

サトコ
「そうですよね。でも、偶然がこう重なる人はそういないです」
「爆弾、3ヶ所に仕掛けたのはわかってるんですよ」
「あなたが3を選んだのは偶然じゃない。無意識に爆弾の数が頭に残っていたからです」

成田
「ど···どれもこじつけじゃないか!」

サトコ
「じゃあ、これはどうでしょうか···?」

精とは取り調べの試験では、
なんでもひとつだけ相手を追い込むのにアイテムを使っていいことになっている。
それに、何のアイテムを使うのかは、教官には知らされていない。
成田教官に向かって、私は起爆スイッチを出して見せた。

サトコ
「あなたの娘さん、いまビルの屋上で奥さんと遊んでるみたいです」
「お婆ちゃん譲りの霊感ですけど···」

成田
「···!まさかそんなはず···」

サトコ
「奥さんと娘さん、よくA駅にいくそうじゃないですか」
「来週の水曜だけは行くな、と伝えてあるそうですね···来週なにかあるんですか?」

成田
「起爆装置をお前が持っているはずがない!」

サトコ
「私が持っていないという確信があるんですね。でも、本当にこれは偽物でしょうか」
「押してみましょうか?本物かもしれませんし、確認しに行ったほうがいいんじゃないですか?」

成田
「くっ···!」

ピー!
その時ちょうど、試験の終わりを知らせる音が鳴った。

東雲
はい、終了

教官の声に、私は肩の力を抜いた。

東雲
ふーん、なるほどね

颯馬
ホット・リーディングとコールド・リーディングってわけですね
しかも、成田教官に娘さんがいることまで調べてきたと···

東雲
でも、霊媒師のお婆ちゃんがいるってところは嘘だよね?

サトコ
「···はい」

(やっぱり、颯馬教官たちには見破られてたよね···)

成田
「······」

成田教官は、本当に追い詰められた犯人のようにぐったりとしていた。
私は試験が終わり、一気に緊張がほぐれた気がした。

すべての試験が終わって、次の日。
颯馬教官から教官室に呼び出された。

(ついに結果発表···)

さっきから心臓がドキドキしてしまい、ずっと教官室の前で中に入れないでいた。

(でも···ずっとこうしているわけにはいかない)

サトコ
「···失礼します」

意を決して中に入ると、颯馬教官は厳しい顔で立っている。

颯馬
······

(···やっぱり、あんな勉強方法じゃダメだよね···)

颯馬
なんて声をかけたらいいのか分かりませんね···

サトコ
「っ······」

(やっぱり···ダメだったんだ···)

颯馬
これからが修羅の道ですからね···

サトコ
「え···?」

颯馬
おめでとうございます。合格ですよ

颯馬教官はにっこりと笑った。

サトコ
「え···本当ですかっ!?」

颯馬
はい

サトコ
「っ···!」

颯馬教官の言葉に思わず嬉しくて涙がこぼれた。
そんな様子を見て、颯馬教官はフフッと笑う。

颯馬
まだまだスタートに立ったばかりです

サトコ
「はい!ありがとうございます!」

すると、
颯馬教官は急に、白く綺麗な手を私に伸ばしてきた。
そして、ゆっくり頭を撫でられる。

颯馬
よく、頑張りましたね

サトコ
「······」

(なんだろう··この不思議な気持ち)
(胸の奥がぎゅうっと締め付けられるような感覚···)

にこにこしている颯馬教官を見ているうちに、はっきりあることが分かった。

(私は颯馬教官がどんな人かはわからないけれど、補佐官としてこの人について行こう)
(颯馬教官にはいろんな面があるだろうけど、それも含めて信じよう···)

そんなことを思い、颯馬教官をジッと見上げる。
すると、颯馬教官と目が合い恥ずかしくなって思わず目を逸らす。

颯馬
フフ···本当にかわいいですね

サトコ
「え···?」

その言葉に耳を疑い、再び颯馬教官を見上げると、優しく微笑んでいる。

(い、今···かわいいって言ったよね?)

思わず動揺してキョロキョロしてしまう。

(男の人にかわいいなんて言われたの、いつ以来だろう···)

サトコ
「あ、あの···颯馬教官?」

顔が真っ赤になっているのが自分でも分かる。

颯馬
そんな風にふるふるとしているところも、ステファニーにそっくりですよ

サトコ
「ス、ステファニー···??」

颯馬教官の言葉に、私の心臓のドキドキが止まった。

(ス、ステファニーって···が、外人だよね?)
(外人の知り合いに似てるってこと?)

<選択してください>

そんなに似てますか

サトコ
「あの···そんなに似てますか?そのステファニーさんに···」

颯馬
はい。ここがこう立ってて、ふにゃっとしてて可愛いところが特に

(ふ、ふにゃって···なんだか全然分からない···)

どこの国の方ですか

サトコ
「あの、その人はどこの国の方なんですか?」
「名前からすると···フランスかイギリスっぽい感じですが?」

颯馬
ふふ···いえ、純日本人ですよ

(じゅ···純日本人のステファニーさん!?)

何をしている方ですか

サトコ
「ステファニーさんは、その···何をされている方なんですか?」

颯馬
そうですね···何をって···
主にいつもじっとしていますよ

(主にじっとしている···引っ込み思案なのかな?)

ステファニーさんの想像がつかない私は、思い切って颯馬教官に聞いてみる。

サトコ
「あの···ステファニーさんって···知り合いの外人の方ですか?」

颯馬
いえいえ、家にある長寿梅のことです

サトコ
「チョ、チョージュバイ?」

颯馬
はい、長寿梅です。盆栽ですよ

サトコ
「ぼっ···盆栽!?」

颯馬
ステファニーは、大切な子の1人なんです

そう言って颯馬教官は、今までで一番優しい顔で微笑んだ。

(まさか···盆栽に似てるって言われていたとは···)
(···やっぱり颯馬教官って、どんな人だか全然分からないかも···)

私はその場で倒れそうになってしまった。

to be continued

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