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出逢い編 颯馬6話

来月の大きな取引まで潜入捜査の大きな動きはないため、
颯馬教官とはあれからあまり話せていなかった。

(颯馬教官のことや妹さんの事、協力者の人の事といい、知らなかったことが多すぎる···)

サトコ
「······」

颯馬教官が、なぜ私や協力者の人を道具として使っているのか正直分からない。

(でも私はちゃんと自分の目で颯馬教官がどんな人か確かめなきゃいけない···)
(先入観とか、目先の感情で何かを決めたらダメだ)

佐々木鳴子
「お疲れ~」
「あれ?どうしたの、そんな顔して」

前から歩いてきた鳴子と千葉さんが、心配そうにこっちを見ている。

千葉大輔
「正式にこの学校にいられることになったのに、なんかあった?」

サトコ
「ああ、うん。私、もう子供じゃないんだな···って」

千葉大輔
「ゴホッ!」

何故か千葉さんが盛大に咳き込む。

佐々木鳴子
「ええっ!?そ、それってまさか···」
「颯馬教官と、大人の階段を昇ってしまったとかそういうことっ!?」

<選択してください>

肯定する

サトコ
「大人の階段···うん。そうだね、そうかも」
「いろんなことを知っちゃったから···」

千葉大輔
「そ、それは···」

否定する

サトコ
「大人の階段っていうか···うん、私って子供だったんだなって思ってさ」
「なんにも分かってなかったんだなって」

千葉大輔
「そ、そういう意味だったのか」

大人の階段って?

サトコ
「···大人の階段って?」

千葉大輔
「意味が分からなければ、そのままにした方がいいよ」

加賀
うるせぇな、クズ共

ハッと振り向くと、加賀教官が冷たい目で私たちを見下ろしていた。

加賀
こんなところで溜まってんじゃねぇ

サトコ
「す、すみません」

頭を下げると、いきなり頭上にファイルをバン、と置かれた。

サトコ
「うっ···」

加賀
ちょうどいい。この資料を全部まとめろ

サトコ
「え?あの···」

加賀
暇なんだろ?

サトコ
「······」

加賀
クズに勉強の機会をくれてやってんだよ

(それってもう嫌がらせに近いような···)

颯馬
サトコさん

乗せられたファイルを手にして振り向くと、颯馬教官が笑っていた。

颯馬
今から例の件で打ち合わせがあるんですが···

(あれ?何も聞いてないけど···)

颯馬
すみません。サトコさんは私と打ち合わせがありますので連れて行きますね

そう言って、私が持っていたファイルを手に取った。

加賀
チッ···

加賀教官は、颯馬教官をじっと睨んでいた。

加賀
いつになくそのクズがお気に入りだな、颯馬

颯馬
そうですか?

加賀
肩入れなんてお前らしくねぇんじゃねーか

加賀教官は意地悪そうにニヤッとした。

颯馬
お気に入り···そうですね。確かにステファニーは特にお気に入りですが

加賀
あ?

颯馬
サトコさんは私の盆栽のステファニーに似ていて、つい手が出ちゃうんですよ

そう言ってクスリと笑い、私の頭を優しく撫でた。

サトコ
「っ···」

加賀
···チッ、お前と話してると頭がおかしくなる

加賀教官は呆れ気味でどこかに行ってしまった。

(加賀教官の前でも颯馬教官はこんな感じなんだ···)

颯馬
フフッ···では、お疲れさまです

颯馬教官は加賀教官を見てフフッと笑った後、教官室へと戻って行った。

サトコ
「あ、お疲れさまです!ありがとうございました」

千葉大輔
「···氷川を庇ってくれたんだな」

佐々木鳴子
「颯馬教官···」
「やっぱり素敵っ!」

鳴子がそう言って颯馬教官の後ろ姿にうっとりしてる。

サトコ
「鳴子···それその間、後藤教官にも言ってた気がする」

佐々木鳴子
「素敵なものは素敵なの!」
「それにしても、颯馬教官とはどうなの?」

サトコ
「ど、どうなのって···」

佐々木鳴子
「なにかあったんじゃない?」

鳴子が興味津々と言った顔で見てくる。

サトコ
「なにかって···ただの教官と補佐官の関係だよ」

佐々木鳴子
「頭撫でられてたのに?」

鳴子がニヤリと笑い、私の頭を撫でる。

サトコ
「ちょっと、本当に何もないってばっ!」

千葉大輔
「······」

横で千葉さんが困ったような顔をしていた。

その後、剣道場で素振りと掃除をしてから部屋に戻った。

(はぁ、すっかり遅くなっちゃった)

くたくたになりながらも、鞄から部屋の鍵を探す。

サトコ
「あ、あれ?」

鞄の中を探すが、部屋の鍵が見当たらない。

サトコ
「どうしよう···」

(どっかに落としてきたのかな···)

慌てて荷物を全部床に出して探してみるけれど、鍵はどこにも見当たらない。
もしかしたらと思い、道場へ探しに行くことにした。

道場の中を必死に探したが、鍵は見当たらなかった。
探し疲れてふと、時計を見るともう深夜すぎている。

(寮母さんはとっくに帰ってる時間だろうし···)

唯一女子の鳴子は、早寝早起きだからとっくに寝てしまっているから、呼んでも起きないだろう。

(自分の不注意で誰かを起こすのも申し訳ないしな···)

サトコ
「···今日はもう、この道場で寝よう」

私は道場の隅に行って、置いてある道着を毛布代わりにした。

(さ、さすがに寒い···)

床も固く、冷たくてなかなか寝付けなそうだった。

(でも、我慢するしかないか···)

諦めて再び床に寝転がる。

颯馬
サトコさん?

パッと顔を上げると、颯馬教官が目を丸くして立っていた。

颯馬
どうしたんですか?こんなところで倒れて。どこか気分でも悪いんですか?

サトコ
「い、いや···違うんです。私、部屋の鍵を失くしちゃったみたいで」

颯馬
鍵ですか?

サトコ
「はい。こんな深夜に誰かにご迷惑をかけるのも申し訳ないし、ここで寝ようかなって思って···」

颯馬
はぁ···見回りをしていて、道場にまだ電気がついていたので驚きましたよ

颯馬教官は、はぁっとため息をついた。

颯馬
女性なんですから、こんなところで寝てはいけませんよ

そう言って寝転んでいる私に手を差し出してくれた。

颯馬
私の部屋に行きましょう

サトコ
「えっ···そ、颯馬教官の部屋にですか!?」

まさかの言葉に、大声が出てしまう。

颯馬
はい

サトコ
「そ、それはご迷惑かと···」

(いくら補佐官だからって、そんな図々しいだろし···)
(そ、それに男の人の部屋に泊まったことなんか···)

颯馬
遠慮なさらずに、行きますよ

<選択してください>

断る

サトコ
「いえ···ひと晩くらいここで大丈夫です」

颯馬
こんな寒いところで寝て、風邪を拗らせてしまうよりかはいいかと思いますが···
それに、この学校はほぼ男性しかいないし危ないです

遠慮してみる

サトコ
「さすがにお邪魔だと思うんですけど···」

颯馬
あなたは生徒なんですから、守るのも教官の仕事です

行く

颯馬
あ、ステファニーが見られますよ

そう言いながらニコリと微笑む。

サトコ
「はい···では、お邪魔させていただきます」

思わず即答してしまう。

差し出された手をそっと握ると、ひんやりして心地が良かった。
なんだか···とても恥ずかしくなり、俯いてしまう。

(どうしよう···心臓の音がすごく早い)

颯馬教官は笑って私の手を引いた。

颯馬
さ、行きましょう

颯馬教官が少し強めに引いたので、よろけてもたれかかるような格好になってしまった。

サトコ
「っ···」

(こんなに近くで教官の顔を見たのは初めてかも···)
(やっぱり、颯馬教官ってかっこいいんだな···)

颯馬
サトコさん?

サトコ
「はっ···すみません!」

颯馬教官は笑いながら私の手を再び引いてくれた。

颯馬
どうぞ

中に入ると、たくさんの本と隅にいくつか盆栽が置いてある。
その盆栽の中でも、一番端に置いてあるものに目が行った。

颯馬
フフッ···これがステファニーですよ

颯馬教官は私に似ているというステファニーを見せてくれる。

颯馬
ここがこう立ってて、ふにゃっとしている感じが似てるでしょう?

サトコ
「······」

(こ、これがステファニー···!)

確かに、私がネットで見た長寿梅と一緒だけれど、それよりもずっと高価そうだった。

(でも、どこが似てるのか全くわからない···)

私が長寿梅を見て1人で百面相をしていると、颯馬教官は後ろでクスクス笑っている。
長寿梅の近くには···女性の写真が飾ってあった。

(もしかして···妹さん···?)

どことなく、颯馬教官と目元が似ている気がした。

颯馬
身体が冷えたでしょうから、お茶を淹れてきますね

サトコ
「お茶なら私が···」

颯馬
気を遣わなくても大丈夫ですよ。ここは一応私の部屋になるので
もてなしくらいさせてください

そう言って、颯馬教官はキッチンへと向かう。
私は写真の妹さんが気になり、その場で写真を眺めていた。

颯馬
座りましょうか

颯馬教官がハーブティーを淹れて戻ってきた。
ソファーに座ってバーブティーを飲んでいると、颯馬教官が静かに口を開いた。

颯馬
その写真···私の妹なんです

サトコ
「···はい」

颯馬
···きっともう誰かに聞いていますよね

教官は微笑むと、立ち上がって写真を手に取った。

颯馬
···カルト教団によって神経ガスが撒かれた事件を覚えてますか?

サトコ
「はい。よく覚えています」

颯馬
あの事件は多数の犠牲者が出ました。妹もそのうちの1人です

(テロで亡くなったっていうのは···あの事件だったんだ)

颯馬
妹はその日、駅前に買い物に出かけていました
事件をニュースで知り···私はすぐに駅前に走りました
救急車と怒号と···いろんな人がハンカチで目や口元を押さえていた
ちょうど妹が担架に乗せられているところに私は出くわしました

サトコ
「え···」

颯馬
担架から力ない手が垂れていて···もう彼女はこの世のものではないことがわかったんです
もう片方の手で何かを胸に抱え込んでました

サトコ
「······」

颯馬
その日は、私の誕生日だったんです。妹は、私にプレゼントを買いに行ってたんです

サトコ
「そ···れは···」

胸が詰まって言葉にならなかった。
颯馬教官はフッと私に笑った。

颯馬
そんな顔しないでください。私はその時一生分泣いて···これからは泣かないと決めたんです

サトコ
「颯馬教官は···どうして私にそのことを話してくれたんですか」

颯馬教官は悲しく笑い何も答えなかった···

颯馬
さぁ、遅くなってしまいましたね。ゆっくりお風呂に入って休んでください

それ以上は何も言わず、私をお風呂へと案内した。

お風呂から出ると、颯馬教官は机で何か整理をしていた。

颯馬
気にせずベッドを使ってくださいね

サトコ
「い、いえ!私はソファーを使わせていただきますから」

そう言って私はソファーに身を横たえる。
教官は黙って枕を貸してくれて、私のいる方のライトを落としてくれた。

サトコ
「颯馬教官は···眠らないんですか?」

颯馬
もう少し書類整理してから休みます

サトコ
「そう···ですか」

颯馬
おやすみなさい

サトコ
「おやすみなさい···」

颯馬教官と眠る前に挨拶を交わすなんて不思議な感じがした。
そんなことを考えていると、急速に意識が落ちていく。

パチッと目を開けた時、見慣れない天井が見えて跳ね起きる。

(あれ···?ここ、どこだっけ···)

慌てて周囲を見回すと、ステファニーが目に入る。

(そうだった···昨日の夜、鍵を失くして颯馬教官の部屋に泊まらせてもらったんだ)

サトコ
「ん?」

(でも、どうしてベッドで寝てるんだろう?)

昨日の夜、確かにソファーで眠ったはずだ···
なぜかベッドの上にいたので、一瞬頭が混乱し、きょろきょろとしてしまう。

(まさか、勝手にベッドに移動して颯馬教官を追い出しちゃったとか···)

私は自分がふらふら歩いて行って、我が物顔にベッドに寝ているところを想像した。

(い、いやいや···流石にそれはないか。でも、颯馬教官の姿がないし···)

時計に目をやったけれど、まだかなり早い時間だった。

(今日講義は休みだし···)

立ち上がって、洗面所の方に行こうとした時だった。

颯馬
よく眠れましたか?

サトコ
「!?」

微笑みながらバスルームから出てきた颯馬教官は、上半身何も着ていない状態だった。

(はっ···裸!?)

引き締まって何ひとつ無駄のない身体つき。
ほっそりしていてそれでいて、ほどよく筋肉のついた胸。
濡れた髪に、シャンプーの香りなのかウッド系のいい香りがする。

サトコ
「···っ」

あまりにも色気がある教官に見とれてしまった。

颯馬
ふふ。あまり見られると、恥ずかしいのですが

サトコ
「すすす、すみません!」
「キ、キッチン借りますね!朝食を作っています!」

颯馬
お願いします。冷蔵庫のものは好きに使ってくれて構いませんので

私はすぐに背を向けて、キッチンの方に走った。
後ろで颯馬教官が笑っている声がする。

(はぁ···恥ずかしい)

冷蔵庫を開けると、中にはチーズがたくさん入っていた。

(こんなに色んな種類のチーズがあるってことは···チーズが好きなのかな?)

朝食は小麦粉を炒めてホワイトソースをこしらえて、チーズグラタンを作る。
朝食を並べると、颯馬教官は目を輝かせた。

サトコ
「どうぞ」

颯馬
チーズグラタンですか?嬉しいですね

さっそく2人で朝食を食べることにした。
颯馬教官はグラタンを口にすると、ふわりと微笑んだ。

颯馬
とてもおいしいです。このコクはなんですか?

サトコ
「少しだけ西京味噌を使わせていただきました」

颯馬
和の要素が加わって本当に美味しい

サトコ
「本当ですか!···よかったです」

颯馬教官は、私が作ったものをとっても美味しそうに綺麗に食べてくれた。

(やっぱり、女性にモテるんだろうな···いろんな言葉で褒めてくれるし)

颯馬
それにしてもサトコさんは意外性のある人ですよね

サトコ
「そ、そうですか?」

颯馬
ええ。成田教官を自分の力で追い詰めたところもそうですし···不器用そうに見えて料理は上手ですし

サトコ
「は、はぁ···」

(ニコニコしてるけど、内容は結構毒舌だな···)

颯馬
あと歩が言ってました。“今まで見たことがない変な女” だって

サトコ
「ええっ!?変な女って···」

(東雲教官らしい···)

颯馬
誉め言葉ですよ。サトコさんに興味を持ってるんです
彼は関心のないものにはとても冷淡ですからね

サトコ
「···あまり褒められてる感じはしません···」

颯馬
フフッ···

その後も食事をとりながら、楽しく笑い合った。

(なんだか、不思議な光景だな···)

胸に明かりが灯ったように、とても温かかった。

to be continued

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