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出会い編 颯馬7話

2人とも朝食を食べ終わると、颯馬教官は急にニコリとする。

サトコ
「···?」

颯馬
今夜は大型麻薬取引がありますが···
その前に少し、街にデートしませんか?

サトコ
「デ、デート!?」

颯馬
ええ。準備もありますし

教官の言葉に思わず固まってしまう。

颯馬
フフ···準備が終わったら、行きましょうか

そう言って颯馬教官は優しく微笑んだ。

(ど、どうしよう···颯馬教官と、デート!?)

結局、一緒に買い物に来てしまい、さっきから颯馬教官はいろんなものを買っている。

(何にするんだろう···さっきから不思議なものばかり買ってるけど···)

颯馬
少し、どこかで休憩でもしましょうか

サトコ
「そうですね。少し休憩しましょうか」

颯馬
あそこにジェラートのワゴンがありますね。食べませんか?

サトコ
「はい。ジェラートいいですね」

店員
「いらっしゃいませ」

ディスプレイの中にはたくさんの種類のジェラートが並んでいた。

颯馬
何にしましょうか?

サトコ
「いっぱいあって迷ってしまいますね···」

店員
「ピスタチオが女性に人気なんですよ」

サトコ
「そうなんですか。じゃあ、ピスタチオにします」
「颯馬教官は何にします?」

颯馬
そうですね···何にしましょう

(なんか、こういうのって普通のカップルみたいだな···)

颯馬
私はグリーンティーですね
ピスタチオとグリーンティーをお願いします

店員
「はい、かしこまりました」

颯馬
持って行きますので、そこのベンチで待っていてください

颯馬教官はそう言うと、お財布を出した。

サトコ
「あ···そんな、悪いです」

颯馬
いいんですよ。女性には払わせられないですから

サトコ
「···すみません」

颯馬教官はふふっと笑いお会計を済ませた。

(泊めてもらったうえに、ジェラートまで奢ってもらっちゃった···)

申し訳ない気持ちになりながら、ベンチで待っていると颯馬教官がジェラートを買って戻ってきた。
2人で陽の当たるベンチに腰掛けて、ジェラートを食べる。

颯馬
ん、これは大人向けの味で美味しいですね。サトコさんも食べてみますか?

そう言って口元にひょいとジェラートを出される。

(こ、これって···間接キスになるんじゃ!)

颯馬
···いらないんですか?

私が戸惑っていると、教官が首を傾げて聞いてくる。

サトコ
「い、頂きます!」

恥ずかしさもあり、端っこの方を少しだけ舐めさせてもらう。

サトコ
「···あの、私のピスタチオも食べますか?」

颯馬
あ、頂きます。ピスタチオも気になってたんですよ

そう言って、大きな口を開けぱくっと私のジェラートを齧った。

サトコ
「ああっ···こ、こんなに!」

颯馬
クスクス

颯馬教官は楽しそうにクスクスと笑った。

サトコ
「颯馬教官のジェラートももっとくださいっ!」

颯馬
えー。どうしましょう

そう言って笑いつつ、またジェラートを齧らせてくれる。

(なんだかんだ言って、やっぱり颯馬教官優しいな···)

颯馬
あっ···

サトコ
「はい?」

食べ終わった頃、颯馬教官がいきなり声を上げた。
すると、ひょいと手を伸ばして、私の口元についたジェラートを拭ってくれる。

サトコ
「す、すみません···」

(はぁ···子供みたいで恥ずかしい···)

ジェラートを食べ終え、隣に並んで街を歩く。
急に颯馬教官は何かが気になったらしく、雑貨屋の前で足を止めた。

颯馬
······

サトコ
「何を見てるんです?」

颯馬
このストラップ、かわいいと思いませんか?

サトコ
「······」

(ど、どうしよう···何とも言えない···)

そこにはガリガリの真っ青なボディに、血糊が付いた骸骨が見える。

サトコ
「そ、そうですね···」

否定することはできず、一緒に共感する。
颯馬教官は手に取って、しげしげと骸骨ストラップを見ている。

颯馬
ふふ。とってもかわいい

(颯馬教官って···本当に掴めない人だなー)

颯馬
ちょっと待っていてください

颯馬教官はストラップをレジに持って行った。

(えっ?あれを買って付けるのかな?)

教官はレジでお会計を済ませると、にこにこして戻ってきた。

颯馬
お待たせしました。行きましょうか

颯馬教官の趣味に不思議に思いながら、私たちは近くのカフェに入ることになった。

カフェに着いてカウンターで注文しようとした時···

颯馬
あ、先に中に行って席を取っておいてもらえますか。すぐに行きます

サトコ
「はい」

颯馬
お待たせしました

数分くらいで颯馬教官は本当にすぐに戻ってきた。
コーヒーを待っているとき、教官は袋をガサガサ開けて、私に何か差し出してくる。

颯馬
はい。これはサトコさんの分です

サトコ
「え?なんですか?」

颯馬
開けてみてください

サトコ
「!?!?」

(これは···さっきの骸骨ストラップ!)

袋を開けると、先ほど教官が買った骸骨のストラップが入っていた。

サトコ
「···私にですか?」

颯馬
そうですよ。私からのプレゼントです

そう言って満面の笑顔で微笑んでいる。
折角のプレゼントを断るわけもいかず、2人ともその場でストラップをつける。
つけると骸骨の手足がカタカタと揺れた。

(ふふ。こうやって見ると、結構かわいい···)

颯馬
これってどことなく石神さんに似てますね

サトコ
「······」

(確かに···石神教官に似ている気がする···)

学校に戻ると、校門のところで東雲教官に会った。

東雲
あれ?

サトコ
「し、東雲教官···」

東雲
···2人で何してきたの?もしかして、デート?

サトコ
「いえ、あの買い物をしに···」

颯馬
捜査で使うものを買い揃えに行ってきただけですよ

そう言って颯馬教官はくすくすと笑った。

東雲
ふーん。デートじゃないんだ?まぁ、どうでもいいけどね

そう言うとすぐに歩いて行ってしまった。

(なんか、変に疑われちゃったかな?)

颯馬
さぁ、中に入りましょうか

サトコ
「···はい」

颯馬教官と別れ、部屋に入るために寮母さんに鍵を借りに行く。
その時、いきなり携帯に電話がかかってきた。
電話の通知を確認すると、杉村さんだった。

(どうして颯馬教官じゃなく、私に?)

慌てて電話に出てみる。

サトコ
「はい、もしもし?」

杉村
『突然すみません』

サトコ
「は、はい」

杉村
『今日、これから会えませんか?』

サトコ
「え?···今からですか?」

杉村
『はい。···なるべく早い方がいいんですが』

サトコ
「それは大丈夫ですけど···颯馬教官じゃなくて、私でいいんですか?」

杉村
『あなたじゃないとダメなんです。颯馬さんには何も言わずに来て欲しくて···』

(颯馬教官には内緒ってことだよね···?)

<選択してください>

断る

サトコ
「颯馬教官の判断を仰がずに行くわけには···」

杉村
『電話では詳しく話せないんです!』
『ただ、直接颯馬さんに話すと、あの人が危ないんです!』

(えっ!?颯馬教官が危ないって···)

杉村
『会った時に全てご説明します!』

理由を聞く

サトコ
「どうして私じゃないとダメなんです?」

杉村
『颯馬さんより、あなたの方が顔が割れていないからです』

(何かあったのかな···)

杉村
『黙っていて欲しい理由も···その時に話しますから』

行く

サトコ
「わかりました。すぐに向かいます!」

急いで待ち合わせ場所に向かうと、杉村さんの姿を見て驚いた。

サトコ
「どうしたんですか!?その傷は!」

杉村さんはあちこち怪我をしていて血だらけだった。

杉村
「···っ」

杉村さんは私に『ライ麦畑でつかまえて』の文庫本を差し出した。

杉村
「それより、これを颯馬さんに渡してください!」
「それで···あの政治団体に関わるのは止めた方がいいと伝えてください!」

サトコ
「えっ!?」

杉村
「バックにとんでもない奴がいることが分かったんです」
「···颯馬さんは今オレと接触をしない方がいいです」
「あなたなら、まだ顔を見られてない」
「あいつら···とんでもないことをしようとしてます!」

サトコ
「······」

杉村
「 “Under the Rose” という恐ろしい作戦です」

( “Under the Rose” 作戦!?)

杉村
「あとは、颯馬さんにSDカードの中身を見てもらえば···お願いします!」

サトコ
「えっ···」

そう言って、杉村さんはふらふらと立ち上がりどこかに行こうとする。

サトコ
「待ってください!その身体でどこにいくんですか!?」

杉村
「オレは組に戻ります」

サトコ
「待ってください!」

慌てて杉村さんの腕を抑える。

サトコ
「政治団体からこれを手に入れるために···かなり無茶したんですよね?」
「きっと政治団体から組に連絡が行きます。今戻ったら危険です!」

杉村
「顔は見られていません···それに今夜は大型麻薬取引です」
「こんな時にオレが消えたら、子分が何をされるか···」

サトコ
「ダメです!」

私は杉村さんにバッと通せんぼをした。

サトコ
「このままだと···何をされるか分かりません!」
「田舎に帰って、お母さんを大事にするんでしょう?」

杉村
「それに···あなたにこれを渡したのも、そのためなんです」
「颯馬さんはきっと力づくでオレを止めるでしょう」

サトコ
「······」

杉村
「···オレ、長い間子分たちを裏切ってることが辛かったんです」
「やっと···ラクになれるかもしれないですね」

サトコ
「なに···言ってるんですか!」

杉村
「ただ、オフクロに口座の金を送って欲しいと颯馬さんに伝えてください」

サトコ
「そんな···どうしてここまでするんです···」

杉村さんは肩で息をしながら言う。

杉村
「きっかけは颯馬さんに命を救ってもらったことだけど···オレ、あの人に賭けてるんです」

サトコ
「賭けてる···」

杉村
「いつか、不幸な事件や政治家の私利私欲。そんなもので泣く人が出ない世の中にしてくれるって」
「いつも関係ない人ばかりが命を亡くす世の中を変えてくれるって···綺麗ごとですよね」

サトコ
「······」

杉村
「でも、オレはあの人に賭けてるんです」

サトコ
「!」

(公安と協力者として付き合うだけだったら、決してこんな風に思わない···)

颯馬
黒澤に会わせたのは、公安だって人間であることを見せたかったからです
彼は本気で協力者を案じ、本気で思ってるから協力者も真剣に応じてくれる
利用されるとか使われているなんて考えはお互い、とっくにないんです

(颯馬教官だって同じだ···)

私はいつの間にかボロボロと泣いていた。
杉村さんは私をじっと見つめる。

杉村
「サトコさんって、目が颯馬さんに似ていますね」

そう言って悲しそうに笑った。

杉村
「ごめんなさい···」

サトコ
「えっ?」

次の瞬間、強烈な衝撃がみぞちに走った。

サトコ
「う···っ」

その場に崩れ落ちてしまう。

(くっ···痺れて···動けない)

杉村
「手荒な真似してすみません!こうするしかないんです···」

サトコ
「だ、だめです···」

杉村
「ありがとう、サトコさん」

杉村さんが走って行ってしまった。

(そ、颯馬教官に知らせなきゃ···)

サトコ
「っ···」

なんとか動けるようになって立ち上がる。

(早く!早く颯馬教官に知らせないと···)

サトコ
「くっ···」

私はよろよろしながらも颯馬教官の元へと急いだ。

血相を変えて走っていると、石神教官が前から歩いてきた。

石神
···?何かあったのか?

サトコ
「石神教官っ!颯馬教官はどこですか!?」

石神教官は私のただならぬ様子を見て驚いた顔をする。

石神
···モニタールームだ

サトコ
「ありがとうございます!」

私がすごい勢いで走っているのを見て、すれ違う生徒はみんな唖然としている。

颯馬教官は1人でモニタールームにいた。

サトコ
「そ、颯馬教官っ!」

颯馬
サトコさん!?···どうかしました?

私はさっき呼び出されてあった出来事を話し、文庫本を渡した。
颯馬教官はすぐに、パソコンにSDカードを入れ映像を確認した。

颯馬
······

キーを叩く手が止まった。

颯馬
こ···れは···

颯馬教官は真剣な表情で映像を見ていた。
私も何が映されていたのか確認すると、さっと画面を閉じられてしまった。

サトコ
「···杉村さん、これを持ってくるためにとても無茶をしました」
「止めたんですけど、どうしても組に戻るって···このままだと、殺されてしまいます!」

颯馬
······

私が必死に伝えると、颯馬教官はすっと冷たい目になった。

颯馬
彼も協力者ですから、その覚悟はあるはずです···

サトコ
「え···」

颯馬
あのヤクザから政治団体に多額の資金が流れるのは危険極まりないことなんです
今、彼を救いに行ったら今夜の麻薬取引は中止されてしまいます

サトコ
「そ、そんな···」

颯馬
このタイミングで一斉検挙し、資金流出を防ぐべきですね

(まさか···)

サトコ
「あの人を···見殺しにするつもりなんですか!?」

颯馬
見殺し?

颯馬教官はふっと笑って、私のことを軽蔑したような目で見る。

颯馬
もともと使い捨ての駒にすぎませんからね···

サトコ
「っ!?!?」

足元から全部の力が抜けて行った。

(颯馬教官のことをちゃんと自分の目で見ようと思った···)
(自分が見て、感じた教官は···そんな人じゃないと思ってたのに···)

颯馬
サトコさんは今日限り、私の補佐を降りていただきます

サトコ
「え!?そんな···!」

頭を殴られたような衝撃を受ける。

<選択してください>

嫌です

サトコ
「嫌です。まだ任務も途中だし、それにあの人が···」

颯馬
上官の指示も仰がずに、無断で私の協力者と接触
杉村さんが尾行されて、貴女も拉致されたらどうするつもりだったんですか?
それだけで公安全体を脅かすような内容です。十分な理由だと思いますが

言葉もない

サトコ
「······」

(颯馬教官の指示を仰がずに独断で行動したんだから···当たり前だよ···)

颯馬
杉村さんが尾行されて、貴女も拉致されたらどうするつもりだったんですか?

サトコ
「で、でも···」

颯馬
それだけで公安全体を脅かすような問題です

···分かりました

サトコ
「···分かりました」

(颯馬教官の指示を仰がずに独断で行動したんだから···当たり前だ···)

颯馬
杉村さんが尾行されて、貴女も拉致されたらどうするつもりだったんですか?
それだけで公安全体を脅かすような内容です

サトコ
「···っ」

(それは···その通りだけど···)

颯馬
今までありがとうございました
それと今から3日間、自室で謹慎してください。一歩も外に出てはなりませんよ
講義にも出なくて結構ですので

サトコ
「颯馬教官!」

颯馬
···命令です

そう言った颯馬教官の顔は、今まで見たことがないくらい厳しい顔だった。

部屋に戻ったけれど、杉村さんのことを考えると不安で居たたまれない。

(それに···もうすぐ大型麻薬取引の時間だ)

部屋でウロウロしていると、急に携帯が鳴った。

(杉村さんの番号だっ!)

サトコ
「もしもし!」

???
『サトコちゃんだよね?』

(···あれ?杉村さんじゃない?)

電話先の声は明らかに違う人の声がした。

御子柴
『オレだよ。アニキの子分!』
『アニキが殺される!今、アニキの携帯から電話してるんだ』
『サツに通じてた裏切り者だってバレて···』

サトコ
「杉村さんが···杉村さんが捕まったんですか?」

御子柴
『サトコちゃん···』
『オレ、本当はアニキがヤクザじゃないって何となくだけど、知ってたんだ···』

サトコ
「え···」

(ヤクザじゃないって、知ってたの···?)

御子柴
『アニキ、オレらと違ってインテリだもんな···』

サトコ
「······」

御子柴
『今、接触してたサツの名前を言えって拷問にかけられてる』
『アニキは何されても口を割らなくて···』
『ソーマちゃんとは電話繋がらないし···』
『ホントは、ソーマちゃんもサトコちゃんもオレらとは別の世界の人なんだろ?』
『アニキを···アニキを助け···』

“バーン!”

その瞬間、背後から銃声が聞こえた。

サトコ
「!」

to be continued

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