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出逢い編 颯馬8話

その瞬間、電話の向こうから銃声が聞こえた。

サトコ
「!」

御子柴
『ア···アニキは···A倉庫···っ』

サトコ
「···もしもし···もしもしっ!」

携帯が壊れたのか、もう何の音もしない。

(まさか···!)

自室で謹慎を言い渡されていたけれど、もうじっとしているつもりはなかった。

御子柴
『ホントは、ソーマちゃんもサトコちゃんもオレらとは別な世界の人なんだろ?』

杉村
「ありがとう」

(絶対に見殺しにできない···)
(颯馬教官は···あの様子だとこの話をしても助けに行くことに反対する···)

他の教官に話しをしている時間はない。

サトコ
「······」

(銃は厳重に管理されているから持ち出せない。木刀や竹刀は目立ちすぎる···)
(なるべく荷物にならないもので、すぐに持てるもの!)

(準備できた)

国家の安全を守る公安警察。
家族や大切なものを守りたい人たち。

(私もあの人たちを守らなきゃ!)
(A倉庫か)
(麻薬の取引が行われる場所の近くだ)

私は全力で走りながら颯馬教官のことを思い浮かべた。

颯馬
あなたはいい目をしています

颯馬
公安は今日も明日も毎日変わらない穏やかな幸せを守るのが仕事です
それを疑わずにやっていくしかないんですよ

颯馬
はい、これはサトコさんの分です

全力で走っているせいなのか···胸が苦しくて、無意識に手を当てる。

颯馬
もともと使い捨ての駒に過ぎませんから

(それでも···それでも···颯馬教官はそんな人じゃない···)

私は首をぶんぶん振ってスピードを上げる。

到着すると、目つきの悪い男たちが何人もウロウロしている。
あたりは一面霧がかかっていた。
A倉庫近くに行こうとした瞬間、背後から声がした。

手下A
「なんだお前?」

シューッ!

手下A
「うわああああっ!」

振り向いた瞬間、片手に隠し持っていた小型のアトマイザーでヤクザの目に酢をスプレーする。

手下A
「ぐっ···!」

ヤクザが目を押さえて地面に転がった隙に、気絶させて手足を拘束する。
その叫び声を聞いて、3人のヤクザが走ってきた。

手下B
「なにしとんじゃーっ!」

サトコ
「······」

交番勤務時代からずっと携帯している警棒を取り出す。

手下C
「······」

3人ともこちらの様子を窺いながら、カチリと折り畳みナイフの刃を出した。

手下C
「死ねーっ!」

警棒を使うと見せかけて、フェイントで目に酢を噴射する。

手下D
「うわーっ」

サトコ
「······っ」

目が見えなくなって闇雲にナイフを振り回してきたので、すべて警棒で叩き落とした。

(さすがに···この人数はきついな···)

すぐに全員拘束しようとした。

サトコ
「う···っ!」

その時、急に背後から羽交い絞めにされた。

手下E
「誰だてめぇ!」

<選択してください>

わめく

サトコ
「···離してっ!」

相手のみぞおちに肘を食らわせる。

手下E
「うっ!」

肘でみぞおちにヒット

(···身体を沈めて、両肘をダルマ落としの要領で!)

手下E
「ぐぇぇっ!」

すり抜けて相手のみぞおちに肘を食らわせる。

もがく

サトコ
「···くっ!」

相手の力強くて振りほどけない。

(···身体を沈めて、両肘をダルマ落としの要領で!)

相手E
「ぐはぁっ!」

サトコ
「はぁっ···はぁっ···」

(持てるものが限られてたから、どこまで行けるかな···)

身を隠しながら倉庫の前に近づくと、見張りらしい男が二人立っている。

(入り口にいる男2人は特に屈強な感じ···)
(1人ずつ倒さないときついな···どうやって引き剥がそう···)

サトコ
「······」

(直接行くしかない···)

サトコ
「助けてください!」

手下F
「······!」

手下G
「!」

突然走ってきた私を見て、ヤクザ2人はぎょっとしている。

手下F
「な、なんだお前···!」

サトコ
「港に車を停めて彼と夜景を見てたら、変な男たちが私たちを襲ってきたんです!」
「私だけ逃げてここまで来たら、あちこちにいっぱい人が倒れてて···」
「か、彼を助けてください!」

ヤクザ2人はぎょっとして顔を見合わせる。

手下G
「まさか···あいつらモノだけ取る気じゃねぇだろうな」

手下F
「お前はここで見張ってろ。オレが見て来るわ!」

もう1人の姿が完全に消えた。

サトコ
「あの···ちょっとここから血が出ていないか見てもらっていいですか···」

手下G
「血だぁ?怪我でも···」

ヤクザが私の頭の後ろを見ようとした瞬間、ガッと首を抑え込んで力いっぱい締める。

手下G
「うぎぃぃぃぃっ」

(さすがにこの体格じゃ、なかなか意識を落とせないっ)

振り払われて地面に叩きつけられる。

手下G
「て···てめぇ何者だ!」

脇に回られて、ガッチリと男にロックされる。

手下G
「動くんじゃねぇぞ。テメーはサツか!」

その時、もう1人のヤクザが戻ってくるのが見えた。

(戻ってきた!くっ···動けな···)

もがいている、その時だった。
カーッと顔に眩しいライトが照らされる。

サトコ
「······っ」

手下F
「向こうはやべぇことになってた!あ、重機を積み込むトラックが来たぞ!」

手下G
「おう!ちょっとその前にこの女を···」

その瞬間。
トラックが止まって人が降りてくる。
帽子を被った男は、何か知らない言葉でヤクザに話しかけていた。

手下G
「ああ。ちょっと待ってくれ。まずこの女を片付けてから···」

???
「片付くのはあなたからです」

手下F
「なっ······」

バン!
バン!

ヤクザ2人の足が撃ち抜かれた。

手下F
「うっ······」

手下G
「ぐあっ···」

その男が帽子を取ると、ふわっと綺麗な髪が風になびく。

サトコ
「あっ!」

霧の中には···颯馬教官が立っていた。

颯馬
サトコさん、無茶しすぎですよ
あまりに危険だから謹慎にしたのに

(颯馬···教官···)
(どうしよう···勝手に涙が···)
(なんだか···曇ってハッキリ顔が見えない)

サトコ
「···どうして···ここが···」

颯馬
サトコさんの携帯ストラップの発信器、なかなか性能がいいんですよ

(あの骸骨ストラップが···!)

サトコ
「······っ」

<選択してください>

颯馬を信じてた

サトコ
「颯馬教官の事、信じてました···」

颯馬
簡単に人を信用したらダメですよ

サトコ
「か···簡単じゃありません···」

颯馬教官は微笑みながら、手で私の頬の汚れを拭ってくれた。

嬉しくて言葉にならない

サトコ
「······」

(だめだ···胸がいっぱいで言葉が出てこない···)

発信器に気が付かなかった

サトコ
「···そんな仕掛けがあるなんて···全然気が付かなかったです···」

颯馬教官は何も言わずに頭を撫でてくれた。

(やっぱり···やっぱり颯馬教官は···私の思った通りの人だ···)

教官の顔を見ていると、つい声を上げて泣きそうになる。

手下F
「くっ···!」

その時、転がっていたヤクザがバッとこちらに銃を向けた。

バンッ!

加賀
俺にだるい真似させんな、颯馬!

荷台から忌々しそうな顔の加賀教官が顔を出す。

サトコ
「加賀教官!」

バン!

もう1人のヤクザの銃も吹き飛んで滑っていく。

東雲
オレ、頭脳派なんだからこういうのはマジで今回限りね

サトコ
「東雲教官!」

東雲教官がつまらなそうな顔をして銃を構えていた。
この騒ぎに倉庫の扉が開いて、次々ヤクザが飛び出してくる。

ヤクザたち
「何だお前らあああ!」
「ぶち殺すぞ!」

ヤクザたちがこちらに向かって走ってこようとしたとき、
級に後ろからドン、という花火のような音がした。

ヤクザたち
「!?」

次の瞬間、ぱーっと雪のようなものが降ってくる。
後ろには、あの人が立っていた。

黒澤
どーも。しばし、トロンとしちゃうハッピー花火でもご覧ください!

(黒澤さん!?)

その時、またドーンという音がした。
あたりには真っ白な粉が降り続いている。

ヤクザたち
「ま···さか」

石神
黒澤、やりすぎだ

後藤
100億、残念だったな

いつの間にか来ていた石神教官と後藤教官がニヤッと笑った。

サトコ
「石神教官!後藤教官!」

ヤクザたち
「100億がーっ!」
「取引相手に何て言うんだよぉぉぉ」

辺りが大パニックになった。

石神
ここは任せてくれ

颯馬
お願いします

颯馬教官が何かを私に手渡してきた。

颯馬
あなたには銃よりこれの方が使いやすいでしょう?

手にずっしりと木刀の重みを感じる。

颯馬
援護します。行きますよ

サトコ
「はい!」

私と颯馬教官は、倉庫の中に向かう。

倉庫に入ると、入り口で待ち構えていたらしい男がナイフを振りかざしてくるのが見える。

サトコ
「······っ!」

手下H
「くっ···」

小手でナイフをピシリと叩き落とす。
不思議と考える前に身体が動いていた。
その瞬間、うずくまった男を颯馬教官が確保して転がす。

サトコ
「ハッ!」

荷物の背後に隠れていた男は額を割って気絶させた。

颯馬
なかなかの人数を揃えてきましたね

サトコ
「はい。倒しても倒しても···」
「あっ···」

倉庫の真ん中には、杉村が転がっている。
すぐ後ろには電話をくれた子分が倒れている。
近くには背広を着た、大柄な男がいて···杉村に銃を突き付けている。

ボス
「そこの2人、止まれ」

颯馬

大柄な男の顔を見た瞬間、颯馬教官の顔に緊張が走った。

(2人とも···生きてるの?)

ボス
「後ろの男が知らねぇが、この男はまだ生きている」

ボスは私の気持ちを読んだかのように言うと、思い切りス杉村さんを蹴り飛ばした。

杉村
「うっ······」

もううめき声にも力がない。

ボス
「随分目をかけてやったのに、この男は長い間私を裏切っていた」
「許すわけにはいかないんだよ」

颯馬
······

ボス
「ただ、取引しないか?」

カチッ···という銃の安全装置が外れる音がした。

ボス
「私だけ見逃してくれたら、この引き金は引かない」
「この男と仲良しなんだろ?」

(この状態じゃ···教官が銃を撃っても間に合わない···)
(もちろん私も···)

ボス
「自分の大事なもののために、ちょっとばかり手が汚れたっていいじゃないか」
「それが公安ってもんだろう」

サトコ
「え···」

(この人···私たちがただの警察官じゃないことを知ってる···)
(刑事さんたちが来ると思うはずなのに···)

颯馬
······

颯馬教官はヤクザのボスに銃の照準をピタリと合わせたまま、何も答えない。

杉村
「颯馬さん···オレ、もう···いいですから」
「オレのことは···見捨ててください」

ボス
「ふーん···そうか」
「オレはずっとお前を食わせてやったのに」
「こんな時も、お前はこの男を選ぶんだなぁ···」

ヤクザのボスの指が引き金にかかった時。

ボス
「!?」

物陰からダッと誰かが走ってきた。
慌ててヤクザのボスが銃を向けて引き金を引いた。

バン!

颯馬
伏せて!

ヤクザのボスが引き金を引いたのと同時に颯馬教官の銃も火を噴く。

バン!

ボス
「がっ······っ」

(あっ······)

そこには···ヤクザのボスと···もう1人の子分が倒れていた。
私も颯馬教官も彼の前に走っていく。

ヤクザ1
「アニキ···」

杉村
「バカ、おめぇ···」

ヤクザ1
「あいつも、アニキの居場所を知らせて···撃たれて···」

颯馬
もう話さないでください

颯馬教官は自分のシャツを裂いて止血している。
私はすぐ後ろに倒れている御子柴さんの脈をとる。

(良かった!御子柴さん、まだ生きてる···)

杉村
「どうして···オレのことなんて···オレはお前たちを裏切ってたのに」

ヤクザ1
「アニキ。オレ、バカだからそういうの···よくわからないっすよ···」

外へ出ると、救急車が何台も停まっていた。

救護班
「怪我人は!?」

救護班の人たちが現れて、怪我人を運び出す。

杉村
「颯馬さん···」

杉村は、荒い息をしながら何か言っている。
颯馬教官はぐっと杉村の手を握る。

颯馬
はい

杉村
「あの組織は颯馬さんを···」

その瞬間、カクンと意識がなくなった。

サトコ
「!?」

慌てて私が近寄ろうとすると、颯馬教官は私を押しとどめる。

颯馬
多分3人とも大丈夫です。撃たれた人も急所は逸れていました

颯馬教官は私の頭にそっと手を乗せた。

サトコ
「は、はい···」

倉庫の外に出た時、意外な人たちに会った。

サトコ
「あっ!」

刑事1
「手柄は捜査4課がもらえるんだよな、ソーマちゃん」

(颯馬教官に怒ってきた刑事さんたち···)

そこには、刑事部・捜査4課の刑事さん2人がニコニコしていた。

颯馬
こちらもその方が都合がいいです
その代わり、あれこれ目を瞑ってくださいね?

刑事1
「おう、任せろ。それより聞いていた取引時間より速かったな。全部終わってるじゃねぇか」

颯馬
すみません。ちょっと変更が多かったんですよ

刑事2
「それにしてもよ、こんなすげぇ量の押収は初めてでウハウハだ」
「ヤクザの本部はこれで壊滅だな。みーんなソーマちゃんのお・か・げ」

刑事1
「なぁソーマちゃん、今度飲みに行こうよぉ」

颯馬
いいですね。いつ行きましょうか

颯馬教官は笑って、刑事さんたちの手を両手でキュッと包んで握手している。

刑事1
「な、なるべく早く行こうぜ?」

何故か···刑事さん2人の顔が赤い。

(い···いつの間にか4課の刑事さんたちも颯馬教官に懐いてる!)
(さすが颯馬さん···)
(とにかく事件が解決してよかった)

張り詰めていた緊張が一気にほどけた。

to be continued

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