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出逢い編 颯馬 シークレット2

Episode 4.5
「みんなの颯馬教官」

颯馬
おめでとうございます。合格ですよ

颯馬教官にそう言われた時の喜び。

(やっと、この学校に正式にいられることになったんだ···)
(確かに、これからが大変なんだろうけど···)
(颯馬教官の補佐として頑張ろう!)

テンションが上がって揚々と歩いていると、ふと手が止まる。

(それにしても、盆栽に似てる、かぁ···)
(どうしても気になるよね···)

1人でいろんなことを目まぐるしく考えていると、鳴子と千葉さんがいた。

千葉大輔
「あ、氷川」

佐々木鳴子
「やっほ~、何してるの?」

サトコ
「颯馬教官を探しているんだけど、見当たらなくて」

千葉大輔
「···颯馬教官ね」

佐々木鳴子
「···颯馬教官か」

サトコ
「え、どうしたの?」

2人は困ったような顔をして、そのまま行ってしまった。

(どうしたんだろう···)

そこに石神教官が通りかかった。

サトコ
「あ、石神教官。颯馬教官を見ませんでしたか?」

石神
···聞かない方がいい

サトコ
「えっ···?」

石神
深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている
知らない方がいいこともある

石神教官はそう言うと、どこかに行ってしまった。

サトコ
「?」

そこに今度は東雲教官が通りかかる。

東雲
颯馬さんの居場所、ね

加賀
俺たちだって探してんだ

サトコ
「えっ、そうなんですか?」

後藤
周さんは行方不明だ

後ろにいた後藤教官がそう言って首を振る。

サトコ
「えっ!」

(行方不明って···)

深刻そうな後藤教官の顔を見て、本当なんだと悟る。

サトコ
「······」

私は教官たちに軽く会釈をして、その場を去る。

(颯馬教官···)

不安からつい小走りになる。

(どこ···)

とりあえず、手あたり次第教官がいそうな場所を探すが、
どこを探してもその姿は見つからなかった。

サトコ
「颯馬教官、どこですか···」

裏庭まで来て、思わずつぶやいた。

颯馬
サトコさん。しっ!

声に振り向くと、颯馬教官が人差し指を口に当てて物陰に隠れていた。

サトコ
「颯馬教官!?」

颯馬
静かに

サトコ
「す、すみません」

颯馬
もう少し身を低く

サトコ
「は、はい···?」

教官は私を引き寄せるとぎゅっと抱き締めて、そのまま物陰に身を隠す。

(ち、近い···!)

颯馬
······

加賀
どこだ?

東雲
見つからないですね

男子学生A
「どこに行ったんだ、颯馬教官」

男子学生B
「早く見つけないと!」

(そういえば、どうして颯馬教官は隠れてるんだろ···?)

みんながバタバタと走っていくのが見える。

(ってそれよりも!この距離は···心臓が口から出そう···!)

目の前にある教官の顔を直視できない。

サトコ
「あの···颯馬教官···」

颯馬
···いなくなりましたね

颯馬教官は固く抱きしめていた腕を解いた。

(離れたら離れたで寂しいな、なんて···そうじゃなくて!)

サトコ
「どうして隠れていたんですか?」

颯馬
もし捕まったら、大変なことに···

(えっ?)

黒澤
周介さん、確保ー!

サトコ
「!?」

顔を上げると、いつの間にか黒澤さんが立っていた。
その声にみんなが気付いたのか、続々と人が押し寄せてくる。
なぜか加賀教官や後藤教官、成田教官まで···

加賀
颯馬

石神
もう逃がさない

成田
「待ってくれ!」

後藤
その場から動かないでください

東雲
手間かけさせないでよ!

颯馬
······

とびきり笑顔の黒澤さんがじりじり近付いてくる。

黒澤
補佐官だと言って、独り占めさせませんよ、サトコさん
周介さんはみんなのものです

(な、なんなの···!?)

颯馬
······

颯馬教官は私の肩をぎゅっと引き寄せる。

颯馬
······

みんながじり、じり、と近付いてくる。

颯馬
サトコさん。下がって

サトコ
「······」

颯馬
私はサトコさんだけのものです

サトコ
「!」

サトコ
「教官···」

自分の声で目が覚めて、がばっと起き上がる。

サトコ
「あれ···夢···?」

起き上がると自室のベッドの上だった。

(颯馬教官ってみんなに人気があるなって思ってたから···あんな夢を見たのかな···)
(それにまだ補佐官として不安があるのかも···)

なんとなくモヤモヤしたような、すっきりしない不安な気持ちが胸を覆った。

颯馬
どうしたんですか?今日は集中力がありませんね

サトコ
「···すみません」

教官との稽古が始まっても、その日は何となく身が入らなかった。

颯馬
右!隙だらけです!

思い切り突き倒されて、道場に転がる。

颯馬
少し、休憩しましょうか

サトコ
「はい···」

颯馬
体調でも悪いんですか?

サトコ
「······」

面を外した私は、ほとんど涙目で颯馬教官に聞いた。

サトコ
「あの···颯馬教官は···私だけの颯馬教官ですよね?」
「あ···いえ、違う···えっと、私、颯馬教官の補佐ですよね?」

颯馬教官は目を丸くして、私の話を聞いていた。

颯馬
······
突然ですね

フフッと、私の目をジッと見る。

颯馬
ええ、もちろん私の補佐官はあなただけですよ

目が合うと、颯馬教官は微笑む。
その笑顔を見て、モヤモヤとした気持ちはすっかり消えていた。
随分単純だと自分でも思い、心の中で小さく笑ったーー

Secret End

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