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恋の行方編 颯馬3話

その週の土曜日。
鳴子と一緒にショッピングへ出かけた。

サトコ
「鳴子、急に買い物に行こうなんて···何か欲しいものでもあったの?」

佐々木鳴子
「もう、そうじゃないよ!サトコとゆっくり話したいな~と思って!」

サトコ
「私と?」

佐々木鳴子
「なんか、ここ一週間くらい、ずっと元気ないなって思って」
「講義中もぼんやりしてるし」
「···何か悩み事、だったり?」

サトコ
「鳴子···」

(ここ一週間くらい···変わったことと言えば、颯馬教官との『夫婦役』がなくなったこと)
(教官と週末に同棲してた頃は、毎日楽しくて···全部うまく行く気がしてたっけ)

サトコ
「心配してくれてありがとう」

佐々木鳴子
「ねえ···もしかして、颯馬教官と何かあった?」

サトコ
「えっ?」

佐々木鳴子
「なんか、補佐官なのに、最近よそよそしい気がするから」

(まさか、任務とはいえ教官と同棲してたなんて言えないし)

笑って誤魔化すと、鳴子が悲しそうに目を伏せる。

佐々木鳴子
「サトコはなんでも一人で抱え込みすぎなんだよ」
「もっと私を頼ってよ!」

鳴子の言葉に、胸がじんと熱くなった。

サトコ
「ありがとう。今度からは何かあったら一番に鳴子に話すね」

佐々木鳴子
「そうして!私だって結構、サトコに悩みを聞いてもらってるし」
「さて!そうと決まれば、今日は思いっきり買い物しよ!」

サトコ
「そうだね!そういえば最近全然ショッピングしてなかったし、欲しいものがいっぱい!」

佐々木鳴子
「ストレスは買い物で発散するのが一番だよね」

鳴子と話しているうちに、心に重くのしかかったものが消えていくのを感じた。

ショッピングを楽しんだ後、知り合いから電話が入った鳴子と駅前で別れた。
大量の紙袋を抱えながらも、さっきよりも前向きな気持ちになっていた。

サトコ
「すごく楽しかった!久しぶりにこんなにたくさん買っちゃった」
「帰ったらこれ全部整理しないと···」

(でも、何かしてた方が余計なこと考えずに済むよね)
(鳴子のお陰だな···後でお礼言わなきゃ!)

颯馬
サトコさん?

その声に振り返ると、颯馬教官がこちらに歩いてくるのが見えた。

サトコ
「颯馬教官!偶然ですね」

颯馬
買い物ですか?

サトコ
「はい、鳴子と一緒に···」

私の手から、颯馬教官がさりげなく大量の袋を持って行く。

サトコ
「え?」

颯馬
このあと、どこかに寄るんですか?

<選択してください>

寮に帰ります

サトコ
「いえ、まっすぐ寮に帰ろうかなって」

颯馬
そうですか。では、一緒に帰りましょうか

サトコ
「教官も買い物ですか?」

颯馬
そうですね。色々と済ませておかなければならない用事があったので

お茶してから帰ろうかと

サトコ
「どこかでお茶してから帰ろうかなって」

颯馬
そうですか。では、私もご一緒しても?

サトコ
「えっ?きょ、教官とお茶ですか?」

颯馬
いけませんか?

妖艶に微笑まれ、慌てて首を振る。

道場に行くつもりでした

サトコ
「一度寮に戻ってから、道場で自主練するつもりだったんです」

颯馬
休みの日にまでとは、感心ですね

(実は、まだ少し残ってる心のもやもやを吹き飛ばそうと思ったんだけど)

颯馬
そういうことなら、私もご一緒しましょう

サトコ
「いいんですか?ありがとうございます!」

サトコ
「あの、教官···荷物、自分で持てますよ」

颯馬
随分買い物したんですね。楽しかったですか?

遠慮する私を笑顔で制して、教官はそのまま、荷物を持ってくれた。

サトコ
「ありがとうございます。すみません」

颯馬
···この間まで、こうして2人で買い物してましたね

サトコ
「···はい」

同棲生活のことを思い出して、照れくさいような少し寂しいような気持になる。

サトコ
「そうですね···こうして並んで歩いてましたよね」

颯馬
先週の話なのに、もう懐かしい
そういえば、今日加賀さんが貴女のことをぼやいていましたよ

サトコ
「うっ」

(きっと、あの使えねぇクズなんざ、どっか山にでも捨てて来い、とか······)

颯馬
あんな使えねぇクズなんざ、現場の最前線に放り出してこい、と

サトコ
「私が考えてるのよりひどかった···」

颯馬
いったい何をしたんですか?

サトコ
「その···ぼんやりしてしまったり、当たり前のことなのに間違えたりして」

颯馬
どうしたんですか?ミスをしないよう極力注意するのが貴女の取り柄だったのに

(褒められてる気がしない)

でも、教官との同棲生活が終わったからかもしれない、
などとは言えず、慌てて取り繕うに笑った。

サトコ
「今までは、週末はずっとマンション暮らしだったので」
「久しぶりに寮に戻って、ちょっと時差ボケというか」

颯馬
時差ボケは違うでしょう

サトコ
「ですよね···」

颯馬
とにかく、気を引き締めて行きましょう

サトコ
「はい、そうですね。今後は気を付けて···」

颯馬
···お互いに

最後に小さく言って、颯馬教官が微笑む。

(今のって···?)

でも、その言葉の意味を聞けないまま、寮の前についてしまった。

数日後、颯馬教官に頼まれた資料を持って教官室へ行くと、他の教官たちも集まっていた。

颯馬
そうですか···何か関係があるのかもしれませんね

加賀
薄気味悪ぃな

後藤
跡形もなくですか?

石神
そうらしい。何か手掛かりになるようなものが見つかればいいんだがな

サトコ
「あの、失礼します」

小さく声をかけると、全員がこちらを振り向く。
颯馬教官が手を挙げてくれたので、そちらへ向かった。

東雲
けど、それだけの人数がいっぺんに、っていうのは何か想像しづらいですよね

後藤
問題は、どこに行ったかだな

加賀
ゾロゾロ歩いてりゃ、嫌でも目につくだろ。隠れ家でもあるんじゃねぇか

サトコ
「何の話ですか?」

颯馬
最近立て続けに起きている、失踪事件ですよ
市民が集団で忽然といなくなるんです。近所全員がいなくなるので、通報も遅れる

石神
それだけ、捜査が後手に回ってしまうのは否めないな

(市民が集団で失踪?なんかちょっと怖いな···)

サトコ
「でも、大勢でいっぺんに引っ越しとかなら、場所もすぐに特定できそうですけど」

颯馬
それが、一向に手がかりがないんです。誰かが匿ってるとしか

黒澤
神隠しじゃないですか?

ちょうど入ってきた黒澤さんが、ドアのところで大袈裟に震えていた。

黒澤
次々消えていく市民、止まらない失踪···その陰にはカルト教団の存在が!?

後藤
うるさい

黒澤
痛い!後藤さん、耳ちぎれる!

立ち上がった後藤教官が、ぐいぐいと黒澤さんの耳を引っ張って教官室から出て行った。

サトコ
「だ、大丈夫ですかね···」

颯馬
神隠しは言い過ぎですけど、カルト教団は有り得ますよね

石神
そうだな。これだけ見事に失踪されると、その可能性もなくはない

東雲
じゃあとりあえず、唯一の情報を辿るしかないですよね

サトコ
「唯一の情報?」

颯馬
銃を密売している男が潜伏している雑居ビルの情報が入ってきたんです
一般人が銃を手に入れることができる···ということは
なんらかの事件に関わっている可能性が高い

東雲
その男、最近人身売買にまで手を染め始めたって話ですよ

あっけらかんと言ってのける東雲教官の言葉に、思わず背筋がゾクリとした。

(人身売買···カルト集団···確かに、何か繋がっていそうな感じではあるけど)

颯馬
では、私がその男の確保に行きます
サトコさん、今日の夜、早速動きます。準備をしておいてくださいね

<選択してください>

私もですか?

サトコ
「え?私もですか?」

颯馬
自信ありませんか?

サトコ
「そんなことありません!連れて行ってください!」

(最近、ずっとミスしてるって加賀教官から聞いてるはずなのに···連れて行ってもらえるんだ)

頑張ります!

サトコ
「は、はい!頑張ります!」

颯馬
いい返事ですね

東雲
大丈夫ですか?ある意味、透より面倒かもしれませんよ

颯馬
いや、アレよりは大丈夫でしょう

サトコ
「『アレよりは』···」

(ここまで言われるなんて、黒澤さんが気の毒になってきた···)

準備って、なんの?

サトコ
「えっと···準備って、なんのですか?」

颯馬
夜の雑居ビルですから、それなりの格好をしてきてください

(それなりの格好···?)

石神
目立たない服装という意味だ

加賀
おい颯馬、そのクズも連れて行くのかよ

石神
足手まといにならないか?

颯馬
大丈夫です

涼しい笑顔で答える颯馬教官に、加賀教官が口の端を歪める。

加賀
最近、ずいぶんとそのクズを買ってるじゃねぇか

颯馬
ええ、私の優秀な補佐官ですからね

サトコ
「颯馬教官···」

(前に、補佐官を下ろされた時···教官が心配で、一人で現場に向かったことがあったけど)
(あの時、教官は私の事、信用してくれてなかった···でも、今はあの時とは違う気がする)

加賀
講義の理解力はクズ以下だがな

サトコ
「すみません···」

東雲
まあまあ、それは別に今に始まったことじゃないし

颯馬
歩、フォローになってませんよ

みんなに笑われながらも、決意を新たにする。

(よし、信じてくれてる教官の為にも、役に立てるように頑張ろう!)

空が白み始める頃、教官の後ろから慎重に雑居ビルへと足を踏み入れた。

颯馬
小さな音も気を付けてください。向こうは神経過敏になってるでしょうから

サトコ
「わ、わかりました」

階段を上がっていくと、踊り場に全身黒ずくめの男が立っていた。

黒ずくめの男
「あぁ?なんだテメェら」

颯馬
あなたが銃の売人ですか?

黒ずくめの男
「···なんだテメェ」

颯馬教官の単刀直入な言葉に、男が顔色を変えた。

颯馬
あなたと売買がしたいんです

黒ずくめの男
「···誰から俺のことを聞いた?」

颯馬
業界では有名ですよ。ここに来ればすぐにわかるというのもね
あなたが扱う武器は確かだと聞きましたが

黒ずくめの男
「そりゃ···確かに間違いはねぇけどな」

颯馬教官の物越しの柔らかさと相手を信用させる話術で、男は少し心を開いたようだった。

(このまま、なんとか武器を持っているところを確保できれば、現行犯で···)

その時、男の携帯が着信を告げた。
私たちを見ながら携帯で何か話すと、電話を切る直前に非常階段の方へと走り出した。

サトコ
「え!?」

颯馬
気付かれたみたいですね。追いましょう

サトコ
「は、はい!」

颯馬教官と一緒に、逃げた男を追いかけた。

教官と一緒に屋上へのドアを開けると、突然、足元で何かが弾けた。

(何···!?)

黒ずくめの男
「それ以上近付くんじゃねぇ!次はマジで撃つぞ!」

見ると、私たちの方に銃を構えた男が、興奮した様子でまくし立てている。

黒ずくめの男
「今のは威嚇だ!次は女を撃つからな!」

サトコ
「きょ、教官···!」

颯馬
···銃を捨てろ

そのまま、私の前に立ちはだかった。

颯馬
構え方を見ればわかる。密売はしていても撃つことには慣れていない

黒ずくめの男
「···!」

颯馬
銃を地面に置いて、手を頭の後ろで組め

黒ずくめの男
「くっ···やっぱりテメェら、サツの人間かよ!」
「仲間から連絡が入ったんだ、俺の周りを嗅ぎ回ってる奴らがいるって」

(じゃあ、さっきの電話が···?)

颯馬
もう一度言う。銃を地面に置け。こちらの要求に従わないのなら、容赦なく撃つ

街灯の明かりに照らされた教官の横顔は驚くほど冷たく、思わず息を飲む。
銃を向けられた恐怖に足がすくむ私の腰を支えながらも、教官は決して男から目を離さなかった。

(こんな時まで、私を守ってくれるなんて···)

颯馬
どうしますか?

黒ずくめの男
「くっ······」

男の態度に、教官がカチリと引き金を鳴らす。

黒ずくめの男
「わ、わかった!わかったから撃たないでくれ!」

颯馬
銃を置け

黒ずくめの男
「くそっ···」

男は、観念したように銃を地面に置くと、手を頭の後ろで組み···
教官が取り押さえ、私たちは無事、銃を売買している男の身柄を確保したのだった。

数日後、颯馬教官に呼び出された私は、驚くべき事実を聞かされた。

サトコ
「え···?あの男は、市民失踪事件には関係ない?」

颯馬
ええ···銃の密売は動かぬ証拠がありますが、失踪事件とは全く関りがないそうです

(そんな···じゃあ、結局何の手掛かりもないままってっこと!?)

to be continued

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