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恋の行方編 颯馬6話

御子柴さんから情報をもらった翌日、颯馬教官に呼ばれてモニタールームへ向かった。

サトコ
「失礼します。颯馬教官···」

颯馬
来ましたか。昨日の話を石神さんに報告するのに、貴女にもいてもらおうと思ったんですが

サトコ
「はい、私でよければ」

石神
そろったな。では、報告を頼む

颯馬
昨日、あの集落に行った後···

颯馬教官が、昨日の話を最初から他の教官に説明する。
報告が終わると、石神教官がうなずき私を見た。

石神
大体は分かった。後の詳しい報告は颯馬から行ってもらう
氷川、ご苦労だった。もういいぞ

帰るよう促され、頭を下げて教官室を出ようとする私の背中を、颯馬教官の声が追いかけてきた。

颯馬
サトコさんには、このまま継続して捜査に参加してもらいます

サトコ
「えっ?」

石神
何を言っている、颯馬

加賀
何トチ狂ったこと言ってやがる。クズは足手まといだ

後藤
周さん、それ以上に危険です

東雲
確かに、ちょっと今回のは···相手が相手だしね

颯馬
危険は重々承知です。それでも、彼女が居なければ今回の情報は手に入らなかった
サトコさんが住民の暮らしぶりに気付いてくれたからこそ
裏で森尾と繋がっている可能性を見つけられてたんです

サトコ
「え?」

驚く私に、颯馬教官が優しく微笑む。

颯馬
あの時、言ったでしょう。ずいぶん豪華な暮らしをしている、と
私は気付かなかった。おそらく、その前に入った捜査員たちも

サトコ
「でも、そんな特別なことじゃ」

颯馬
いえ、確かにおかしいんです。あの集落に働くところはなかった
それなのに、あんな豪華な暮らしができる人たちがわざわざ少人数の集落で暮らす···

石神
麻薬売買に絡んでいる政治家たちが、資金繰りをしていたと?

颯馬
そう考えるのが妥当だと思います。そして、全員忽然と消えた
クスリで操られていると考えた方が自然です

加賀
確かに、そういうのはクズじゃなきゃ気付かなかったかもな

東雲
サトコちゃん、生活質素っぽいもんね

サトコ
「う···その通りです」

颯馬
何度も言いますが、彼女は優秀な補佐官です
危険があれば、私が守ります。今回の件に関しては、必要な人材です

サトコ
「教官···」

颯馬教官の珍しく強い口調に、他の教官たちも黙り込んでしまった。

(教官のこんな表情、初めて見た···)

サトコ
「私、頑張ります。だから···やらせてください!」

石神
···颯馬

颯馬
はい

石神
無理だと感じたら、即刻外せ

加賀
現場においてくりゃいいだろ

颯馬
大丈夫です。そうはなりませんよ

笑顔の颯馬教官にため息をつくと、石神教官が眼鏡を押し上げた。

石神
では、例の試食販売の女性から聞いた証言のもと
再び夫婦のふりをして、現場に潜入捜査に向かえ

サトコ
「はい!」

颯馬
現場はかなり山奥のマンションのようです。準備は怠らないように

サトコ
「わかりました」

(また、教官と夫婦役で潜入···)
(教官に守ってもらわなくても済むように、気を引き締めて行こう!)

操られているセレブたちが潜伏しているとみられる、山奥のマンションに潜入を試みて数日。
大規模なパーティーが開かれるとの噂を聞き、私たちも参加することにした。

サトコ
「夫婦を装って暮らし始めて何日か経ちますけど、全然疑われないですね」

颯馬
というより···疑うような精神状態ではないのでしょう

サトコ
「え?」

颯馬
あのマンションに入居してから、住民の様子を見ていましたが
御子柴くんの言った通り、みんな目がうつろで、自分たちの意思で行動しているとは思えません

(確かに···何人かと廊下ですれ違うこともあったけど、みんな挨拶もしないし)
(前に颯馬教官と同棲してたマンションにいた夫婦にも会ったけど)
(私たちに気付かなかったみたい)

ちょうど、私たちの前をその夫婦が通り過ぎていく。
でもじっと前を見据えたまま、周りを気にすることは一切なかった。

サトコ
「やっぱり、様子が変ですね」

颯馬
私たちも、そういうフリをした方がいいかもしれませんね。あまりしゃべらないようにしましょう

頷いた時、颯馬教官の視線を感じて顔を上げる。
じっと私を見て、優しく微笑んでくれた。

颯馬
そのドレス、馬子にも衣裳ですね

サトコ
「馬子···っ!」

颯馬
冗談ですよ。とても綺麗です

<選択してください>

ドレスが?

サトコ
「···ドレスが、ですか?」

思わず上目遣いでそう尋ねると、教官が笑いだす。

颯馬
ええ、ドレスもとても綺麗ですが
もちろん、貴女のことを言ったんですよ

(からかわれてるような気もするけど、でも嬉しいな···)

本心ですか?

サトコ
「あの···それ、本心ですか?」

颯馬
そう思いませんか?

サトコ
「きょうか···周介さんは本音を隠す人だから、ちょっとわからないです···」

颯馬
貴女には、ちゃんと本当のことを話してますよ

教官も似合ってます

サトコ
「ありがとうございます。教官も似合ってますよ」

颯馬
『周介』

サトコ
「あ···すみません」

颯馬
誰が聞いているかわかりませんから、気を付けてください

(ドレスの下には、最小限の武器···私も、太ももに銃を隠してる)
(でも、いざとなったら撃てるのかな···ちゃんと訓練は受けてきたつもりだけど)

颯馬
···そろそろですね。行きましょうか

サトコ
「外の様子は?」

颯馬
配置についたようです

言葉少なに、教官が答える。
外では石神教官、後藤教官、そして加賀教官が待機していた。

(私たちのインカムは、教官たちに繋がってる···)
(何かあったら、GPSで私たちの動きを追ってる東雲教官が、導いてくれるはず)

颯馬
サトコ、手を

スッと、颯馬教官が手を差し伸べてくれる。その仕草に、頬が熱くなるのを感じた、
おずおずとそれを取り、私は教官にエスコートされながら会場へと足を踏み入れた。

中は、異様な雰囲気を醸し出していた。

女性
「さあ、みなさん、パーティーの始まりです」

男性
「森尾先生が、あなたたちのために駆けつけてくれました!」

豪華な服に身を包んだセレブたち数人が、他の人たちを誘導している。
誘導されている人たちはみんな一様に目がうつろで、焦点が定まっていない。

サトコ
「これ···」

颯馬
なるほど···一部のセレブが政治家と繋がって、市民をここに閉じ込めているわけですね
クスリで意識を混濁させて、自分たちの言いなりにさせているんでしょう

サトコ
「どうしてそんなこと···」

颯馬
クスリの売買目的でしょうね
どっちにしろ、莫大な金が絡んでいるのは間違いなさそうです

操られている側には、あのマンションで仲良くなった住民たちもいた。

(もしあの人たちが操る側だったら、すぐ私たちのことがバレたかもしれない)
(そうならなくてありがたい···とは、この状況じゃ思えないよ···!)

やがて、壇上に政治家の森尾が現れると、会場から弱々しい拍手が起きた。
まるでそうするよう身体にインプットされているような、機械的な動きだった。

(何、これ···クスリで洗脳して、自分たちの思い通りにさせるなんて)
(こんなの異常だよ···ついていけない!)

挨拶をした森尾が手を振りながら壇上から消えると、颯馬教官の表情が厳しくなった。

颯馬
サトコ、二手に分かれましょう

サトコ
「え?」

颯馬
私は森尾を追います。貴女はセレブたちの動向を見張っていてください
意識がまともな人間は、きっとこの会場のどこかに集まるはずです。そこを探します

サトコ
「わかりました!」

颯馬
何があるか分かりません。気を付けて

サトコ
「周介さんも」

教官が森尾を追って会場を出て少しすると、セレブたちもまた、会場を出てどこかへ向かい始めた。

サトコ
「颯馬教官、東雲教官!セレブたちが動きます。追います」

颯馬
了解

東雲
こっちで両方の動きを追ってるよ。サトコちゃん、見つからないように気をつけて

サトコ
「わかりました」

インカムに返事をすると、私もそっと会場を出た。

セレブたちを追って、慎重に廊下を進む。
すると、インカムから東雲教官の声が聞こえてきた。

東雲
サトコちゃん、返事しなくていいから聞いて
セレブたちは、その廊下の角を曲がって真っ直ぐ進んだ一番奥の部屋にいるみたい

(廊下を進んだ奥の部屋···もし途中で隠れ場所がなければ、振り返られたら終わりだ)

少し距離を置いて角を曲がると、すでにセレブたちの姿はない。
途中の空き部屋に隠れたりしながら進むと、突き当りの部屋からセレブのひとりが出てきた。

(あの部屋だ···)

東雲
いた?

サトコ
「はい。突き当りの部屋から一人出てきました。あ···戻りました」

颯馬
そちらに向かいます。貴女はそこで待機していてください

サトコ
「わかりました」

間もなくして、颯馬教官が合流する。
しばらくそのまま様子を窺う状態が続いたけど、不意に気配を感じて振り返った。

(あ···あの人!)

颯馬教官に目で合図すると、教官が私の視線を追いかける。
森尾が向こうから歩いてきて、少し手前の別室に入ったところだった。

颯馬
···行きましょう

石神
待て!何があった?

サトコ
「森尾が別室に入ったんです」

颯馬
何かあれば突入できるように待機します

石神
2人で突入は無茶だ。応援を待て

颯馬
時間がありません。せっかくの証拠を逃すかもしれない

石神教官の制止を振り切り、颯馬教官が別室の方へ向かう。

颯馬
貴女はここで待っていてください

<選択してください>

私も行きます

サトコ
「待ってください、私も行きます」

颯馬
ダメです。危険すぎる

サトコ
「危険すぎるところに、教官一人でいくつもりですか?」
「私は、何のために連れて来られたんですか?」

何かあったらどうすれば?

サトコ
「な、何かあったらどうすれば」

颯馬
インカムで連絡してください。こちらも、貴女の応援が必要ならば呼びます

サトコ
「それなら、最初から一緒に行きます」
「セレブたちよりも、森尾を張っていた方が証拠をつかめる可能性が高いですよね?」

一緒に待機していた方が···

サトコ
「でも、石神教官は待機してろって···一緒に待機してた方がいいんじゃ」

颯馬
言ったでしょう。それでは時間がない
重大な証拠を逃がしてしまえば、二度とチャンスは来ないかもしれません

サトコ
「それなら、私も連れて行ってください」

颯馬
サトコさん···

サトコ
「危険なのは分かってます。でも···私は、颯馬教官の補佐官です」
「こんな時に補佐できなかったら、補佐官失格です」

颯馬
ですが···

サトコ
「お願いします···教官!」

私の気持ちが変わらないとわかったのか、教官は少し目を伏せた後、小さく頷いた。

颯馬
わかりました。でも、絶対に私の傍を離れないでくださいね

サトコ
「はい!」

別室の手前で、中にいる人に気付かれないよう、先に銃を手にして準備を整える。
そして奥の部屋から出てきても見えないように、死角に潜んで中を窺った。

サトコ
「···何も聞こえませんね」

颯馬
しっ

私を制した教官が、ドアに顔を近づけた。
そして隙間に鼻を近づけると、その表情を険しくする。

(まさか、中で···!?)

教官の言いたいことを理解すると、目を合わせて頷く。
ドアノブに手をかけると、教官は一気にドアを開けた!

中は、甘いような酸っぱいような香りが充満していた。

(こ、これは···)

森尾
「お前たち···!」

見ると、森尾が注射器を持って今まさに、自分の腕に針を沈み込ませようとしていた。

サトコ
「注射器を捨てなさい!」

颯馬
こんなところで麻薬を楽しむとは、ずいぶん無防備ですね

???
「それはこっちのセリフだ!」

突然後ろから声が聞こえて、振り向く間もなく誰かの腕が振り下ろされた。
でもその直前で、颯馬教官が相手の腕を撃ち、私に襲い掛かってきた人がその場に倒れ込む。

セレブ夫
「くそおぉ···銃を持ってやがる!こいつら、やっぱり警察の人間だ!」

森尾
「落ち着け。数ではこちらが勝っている!」

中にいた男女、それに廊下から中に入ってきたセレブたち、大勢に囲まれ次々に襲い掛かられた。
颯馬教官が相手の脚や腕を狙い、的確に戦闘不能にしていく。

(私もやらなきゃ···!威嚇射撃程度でもいいから!)

セレブたちや森尾から外れるように銃を撃とうとした時、後ろから羽交い絞めにされた。

サトコ
「ぐっ···」

セレブ夫
「大人しくしやがれ!」

颯馬
サトコさん!

颯馬教官の意識がこちらに逸れた瞬間、森尾が教官に銃口を向けた。

サトコ
「教官!後ろ!」

颯馬

咄嗟に教官は床を蹴ったけど、かわし切れず弾は教官の腕を掠った。
そのまま、バランスを崩して教官が床に倒れ込む。

森尾
「まさか、お前たちが公安の人間だったとはな」

サトコ
「!?」

(どうして私たちの事···!)

森尾
「俺たちを嗅ぎ回っていることは知っていたが···無事におびき出せて何よりだ」

(じゃあこれ全部、罠···!?)

森尾
「こいつらを連れて行け!パーティーが終わった後でゆっくり始末してやる」

颯馬
っ···

その場にいた男たちに、乱暴に立ち上がらされ···私たちは、一番奥の部屋へと連れて行かれた。

to be continued

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