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恋の行方編 颯馬8話

森尾は逮捕され、森尾と共に市民たちに麻薬を売買していたセレブたちの身柄も拘束された。
大物政治家が麻薬密売容疑で逮捕されたことで、世間は大騒ぎになり···
私はというと、あの翌日からすぐ学校に戻り、普段と同じように講義を受け始めた。
颯馬教官は、けがの治療のためにあの日からずっと休んでいる。

(大丈夫かな···でも東雲教官や黒澤さんに聞いたら、絶対からかわれるし)

佐々木鳴子
「サトコ、ぼんやりしてるけど大丈夫?また加賀教官に怒られるよ」

サトコ
「えっ、加賀教官、もう来た!?」

佐々木鳴子
「ううん、まだだけど」

私の慌てぶりに笑いながらも、鳴子が心配そうに顔を覗き込んでくる。

佐々木鳴子
「本当に大丈夫?事件の疲れが取れてないんじゃない?」

サトコ
「そんなことないよ。心配かけてごめんね」

佐々木鳴子
「それはいいんだけど···大変だったんでしょ?」
「撃たれたり、閉じ込められたり」

サトコ
「うん···でも、私を庇った颯馬教官の方が···」

(腕のケガ、大丈夫かな···ただでさえ消毒もしてなかったのに、ドアに体当たりして)
(なおさら、傷口が広がって···本当なら、こんなに長く休むケガじゃなかったのに)

佐々木鳴子
「···ねぇ、サトコ」

サトコ
「え?」

佐々木鳴子
「颯馬教官がいないから、寂しいんでしょ?」

突然の鳴子の言葉に、咄嗟に言葉が出て来ない。

サトコ
「な···なんで!?」

佐々木鳴子
「も~、内緒にしてるみたいだから、知らないフリしてたけど」
「サトコってほんとにわかりやすいよね。顔に全部出てるよ」

(ぜ、全部!?私が、颯馬教官を好きだってことも!?)

佐々木鳴子
「あーあ、千葉さんは失恋決定か~」

サトコ
「え?千葉さん?」

千葉大輔
「何?呼んだ?」

佐々木鳴子
「千葉さん、ヤケ酒なら付き合うからね!」

千葉大輔
「···なんとなく、何の話してたのか分かった気がするんだけど」
「だからオレはそう言うんじゃないって、何度言えば···」

鳴子と千葉さんを眺めながらも、考えてしまうのは颯馬教官のこと。

(自宅療養って言ってたよね···お見舞いに行ったら、やっぱり迷惑かな)
(でも心配だし···教官のことだから、きっと体調管理はしっかりしてるだろうけど)

一人であれこれ悩んでしまう私だった。

教官が戻って来ない道場で私は毎日、自主練を続けていた。

(はぁ···まさか鳴子に気付かれてたなんて)

颯馬
公安を信じていない俺を、みんなが信じてくれるはずがない

(教官にあんなふうに言われて、すごく悲しくて···)
(どうしても、教官にみんなを···私を、信じて欲しかった)

サトコ
『もっと自分を大切にしてください!みんなを信じてください!』
『教官に何かあったら、みんな悲しむんですよ!』

颯馬
···貴女にはわからない

(あの時の教官の目、すごく冷たかった。私自身を否定されたような気がして、つらくて···)

颯馬
俺の何が分かる?何を知ってる?

サトコ
『分かりません!でも、分かりたいと思うんです!』
『私は、教官が大切なんです!ずっとそばにいたいんです!』
『教官に何かあったら、私が一番悲しみます』

自分の言葉を思い出した瞬間、あまりの恥ずかしさに顔を覆ってうずくまってしまった。

(しかも、東雲教官たちに聞かれてたなんて···!恥ずかしくて死ぬ···!)

颯馬
ありがとうございます

みんなに冷やかされた時の、颯馬教官の笑顔と手の温もりが蘇る。

(···あれは、何に対しての『ありがとう』だったんだろう)
(教官は、私のことどう思ってるんだろう···?)

数日後。

佐々木鳴子
「今日も颯馬教官、休みかな」

サトコ
「うん、多分···何も連絡来てないし」

佐々木鳴子
「今までは颯馬教官の代わりに後藤教官だったし、今日もきっとそうだよね」

その時、教場のドアが開いてみんなの視線が集中する。
でも、ドアの向こうから現れたのは···

颯馬
講義を始めます。席に着いてください

(え···!?颯馬教官!?)

佐々木鳴子
「サトコ、颯馬教官だよ!」

サトコ
「う、うん···」

佐々木鳴子
「はぁ、久しぶりに見た···やっぱりかっこいい」

予期していなかった颯馬教官の登場に、鳴子だけでなく他の同期たちもざわめき始める。

(教官、ケガはもう大丈夫なのかな。でも、元気そう···)

持ってきたファイルを教卓に置くと、久々に颯馬教官が教壇に立った。

颯馬
いない間、何かと迷惑をかけましたが、今日からまたよろしくお願いします

教官が挨拶すると、みんなから拍手が湧き起こる。

<選択してください>

一緒に拍手する

(教官、元気そう···本当に良かった)

みんなと一緒に必死に拍手すると、不意に教官がこちらを見た。

颯馬
···

(今、笑われた?拍手しすぎ!?)

じっと見つめる

(ケガ、もう大丈夫なんだよね···よかった)

拍手も忘れてじっと見つめていると、教官がこちらを見る。

サトコ
「あ···」

颯馬
······

(今、目が合ったよね···見つめ過ぎたかな···)

ケガは大丈夫ですか?

サトコ
「あの···颯馬教官!もうケガは大丈夫ですか?」

颯馬
ええ、すっかりよくなりました。いない間、後藤教官にも迷惑をかけてしまいましたが

佐々木鳴子
「実地の講義も出られるんですか?」

颯馬
もちろんです。復帰したからには甘えるつもりはありませんよ

颯馬
では早速始めましょうか。今日は···

教官が、以前の方に笑顔で講義を始める。

(教官の笑顔、久しぶりに見た···嬉しいな)
(私、自分で思ってるよりも颯馬教官に会いたかったのかも)

教鞭を振るう颯馬教官を眺めながら、緩みそうになる頬を必死に引き締めた。

講義が終わって廊下に出ると、颯馬教官が教場から出てきた。

颯馬
サトコさん、ちょっといいですか?

サトコ
「教官!もう本当にケガは治ったんですか?」

颯馬
ええ、石神さんにも『完治するまで絶対に出て来るな』と釘を刺されましたから
医者の診断書もありますし、本当に大丈夫ですよ

ホッとする私を見て、教官が目を細める。

颯馬
それで···今夜、時間をもらえませんか?

サトコ
「え?」

颯馬
貴女と一緒に行きたいところがあるんです

(私と···?)

サトコ
「あの、それは···」

颯馬
まだ内緒ですよ。行ってからのお楽しみです

どこかいたずらっ子のような表情を浮かべる颯馬教官に、つい見惚れそうになりながら、
私は緊張しながらも、小さく頷いた。

その夜、颯馬教官が連れて来てくれたのは···

御子柴
「あ、颯馬さん!姉御!」

サトコ
「あの···呼び方、更におかしくなってませんか?」

颯馬
目立つ呼び方はご法度ですよ、御子柴くん

御子柴
「すいません。やっぱり姐さんの方がいいですかね」

(普通に名前で呼んで欲しい···)

サトコ
「颯馬教官、私と一緒に行きたいところって、ここだったんですね」

颯馬
ええ。今回の事件のことを報告に来ようと思っていたんです
貴女にもいて欲しかったんですが、迷惑でしたか?

サトコ
「そ、そんな!とんでもないです」

(でも、誘われた時、何かを期待してしまった自分がちょっと恥ずかしい···)

御子柴
「颯馬さん、報告って···自分にっすか?」

颯馬
ええ。あなたの情報のお陰で、森尾とその周辺の人間を逮捕することができました
色々とありがとうございます。また何かあったらよろしくお願いしますね

御子柴
「感激っす!わざわざそんなことで······」
「これからも、何でも自分に聞いちゃってくださいよ!」

ドン!と自分の胸を叩く御子柴さんに、颯馬教官がクスリと笑う。

颯馬
あまり調子の乗るのは感心しませんが···まあ、今日くらいはいいでしょう

御子柴
「でも、ニュースで見ましたよ。森尾が逮捕されたの」
「世間は大騒ぎっすね。うちの客も、その話で持ちきりっすよ」

颯馬
取り調べはこれからですから、他の政治家が芋づる式に捕まる可能性もあります
ともあれ···せっかくだし、何かもらいましょうか。サトコさん、何がいいですか?

サトコ
「えっと···そうですね」

慌ててメニューを見る私に、御子柴さんが首を傾げた。

御子柴
「姐さん、なんか今日、様子が変じゃないっすか?」

サトコ
「え!?」

御子柴
「なんていうか、大人しいっつーか···颯馬さんも姐さんに対してよそよそしいし」

颯馬
そうですか?私は普通ですよ

御子柴
「私『は』ってことは、やっぱり姐さんは変なんすね」

<選択してください>

私も普通です

サトコ
「わ、私だって普通ですよ···」

御子柴
「え~?どう見てもおかしいじゃないっすか。さっきから全然、颯馬さんと話してないし」
「いつもならもっと元気があるっていうか、明るいっていうか」

颯馬
御子柴くんは、意外と観察力がありますね

変に見えますか?

サトコ
「へ、変に見えますか?」

御子柴
「すっげー変っすね」
「でも、オレには別に普通っすよね」
「ってことはやっぱり、颯馬さんに対してだけっすか?」

(御子柴さんって、意外に鋭い···!)

いつも変ですから

サトコ
「わ、私···いつも変ですから!」

颯馬
······
···ふふっ

颯馬教官が、吹き出すように笑う。

御子柴
「あれ?颯馬さんも笑ったりするんすね」

颯馬
あなたは私を何だと思っているんですか?
ただ···今のサトコさんの答えには、少し意表を突かれました

(とりあえず、誤魔化せてよかった···)

御子柴
「で、2人とも何があったんすか?」

サトコ
「何もないですよ!」

颯馬
御子柴くん、注文いいですか?

御子柴
「あ、はい!どうぞどうぞ」

メニューを見ながら、颯馬教官はいつものように涼しい顔をしている。

(···もしかして、私のあの言葉···告白だと思われてないとか?)
(『ずっと教官のそばにいたいんです』っていうのも)
(『補佐官として』って思われたのかもしれないし)

そう考えると、何となく気がラクになったような、どこか残念なような気持になる。

(もしあれが告白だと思われてないとしたら、教官に思いを知って欲しい場合)
(もう一度、告白しなきゃいけないってこと···!?)

颯馬
そうだ、サトコさん

サトコ
「ははは、はい!」

焦りすぎて、声が上ずってしまう。
そんな私を見て教官は少しだけ笑い、御子柴さんは吹き出していた。

御子柴
「やっぱりなんかあったんでしょ。2人とも!」

サトコ
「な、何もないですって!」

御子柴
「まったまた~、オレにくらい話してくれてもいいじゃないっすか~」

颯馬
御子柴くんは、黒澤と歩を足して2で割った感じですね

サトコ
「確かに···」

御子柴
「黒澤?歩?誰っすかそれ?」

きょとんとする御子柴さんを見て、思わず颯馬教官と顔を見合わせて笑った。

翌日。
休みだったので、どこにも出かけず部屋の掃除などをして過ごした。
不意に手が止まると、考えてしまうのは颯馬教官のこと。

御子柴
『姐さん、なんか今日、様子が変じゃないっすか?』

サトコ
『え!?』

御子柴
『なんていうか、大人しいっつーか···颯馬さんも姐さんに対してよそよそしいし』

颯馬
そうですか?私は普通ですよ

御子柴さんの指摘に慌てた私とは対照的に、颯馬教官は終始落ち着いていた。

(やっぱり、告白だって気付かれてないか···けど、それでよかったのかも)
(刑事になるためにまだまだ勉強中なのに、教官を好きになるなんて、そんなの)

サトコ
「有り得ないよね、普通···」

整理してた本を本棚にしまうと、思わずため息をつく。

(きっと、告白だって気付いてても、颯馬教官の態度は変わらないだろうな)
(私は教官に、補佐官としてしか見られてないってことなんだ···)

サトコ
「女として意識なんてされてないよね、やっぱり」
「それもちょっと悲しいな···」

その日はひとりで、ずっと片付けものをしながら考え込んでしまった。

to be continued

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