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恋の行方編 颯馬 エピソード2

Episode 5.5
『夫婦の呼び名』

颯馬教官との夫婦役の任務が終わって、しばらく経った。
あれから颯馬教官は忙しいみたいでなかなか会えていなかった。

(今日の講義が終わったら、モニタールームに来て欲しい、って···何かあったのかな)

何かあったのかと不安に思いながらも、颯馬教官に久しぶりに会えることが嬉しかった。

サトコ
「失礼します。颯馬教官に呼ばれてきました」

後藤
じゃあ、ここは俺が行きます

石神
そうだな。後藤なら大丈夫だろう

加賀
おい、テメェらばっかりで話進めてんじゃねぇ、そこは俺の取り分だ

東雲
でも、兵吾さんだと顔が割れてる可能性があるんじゃないですか?

教官たちは、モニターを眺めながら捜査について話し合っているようだった。
東雲教官が操作して映し出す画像の中には、重要だと思われるのも混ざっている。

(私、ここにいていいのかな···出直してきた方がいいんじゃ)

戸惑う私に、颯馬教官が振り返る。

颯馬
すみません。もう少し、そこで待っていてもらえますか?

サトコ
「あ···はい!」

近くの椅子に座りながらぼんやりと教官たちを眺めていると、
颯馬教官の真剣な横顔に、なんとなく、夫婦役をしていた頃のことが思い出された···

颯馬
ただいま、サトコ。帰りましたよ

サトコ
『お帰りなさい、周介さん』

(···お互い、名前で呼び合って)


『でもいいわね、新婚さんはアツアツで』

颯馬
ええ、彼女と出逢えたことが、私の人生で一番の幸福ですよ

(ターゲットの前では、本当の夫婦みたいに振る舞えたっけ···?)

颯馬
パーティーでは話をしてばかりで、せっかくの高級料理を食べられませんでしたね

サトコ
『でも、食べる時間があったとしても緊張して食べられなかったと思います』

颯馬
ふふ、貴女らしいですね

(他愛ない会話が楽しかったなぁ···)
(捜査の為だったけど、でも···すごく楽しかった)

(他にも、教官と一緒に···)

颯馬
···さん。サトコさん?

サトコ
「えっ?」

颯馬
大丈夫ですか?お待たせしてすみません

サトコ
「あ、いえ···私こそ、ボーとしてしまって」

慌てて立ち上がり、教官から書類を受け取る。
以前のことを思い出していたせいか、なんとなくフワフワした気分だった。

颯馬
この件の、ここなんですが···昔のデータと照合してみてもらえませんか?
証言に食い違いがあるんです。どちらかが虚偽の証言をしている可能性がありますから

サトコ
「わかりました。データの場所は、東雲教官に聞けばいいんですよね」

颯馬
そうですね。それから、これの···

(そういえば、あのマンションでも2人きりの時は仕事の話ばっかりだったかも···)
(他の住人に聞かれてる可能性がある時は、『周介さん』『サトコ』って呼び合ってたけど)

颯馬
···です。お願いできますか?

サトコ
「えっ?は、はい。わかりました、周介さん!」

黒澤
えっ!?

パッと、黒澤さんがこちらを振り返った。

東雲
···へぇ、周介さんね

黒澤
聞きましたよ!この耳でしっかりと!

後藤
名前···

サトコ
「···あっ!?」

慌てて口を押えたけど、教官たちは興味津々といった様子で私たちを見ている。

加賀
なるほどな。夫婦役を演じているうちに、本気になっちまったってことか

石神
子どもだな

サトコ
「ち、違うんです!そうじゃなくて、今のはその···」
「ちょうど、夫婦役をしてた時のことを思い出して、ついっ!」

東雲
『つい』呼んじゃうくらい、普段から自然に名前呼びだったわけでしょ?

黒澤
「『周介さん、大好きです!』『私だって愛してますよ、サトコ』
···みたいな感じですか!?

サトコ
「そんなこと言うわけないじゃないですか!」

後藤
······

サトコ
「後藤教官!嘘ですから!全部黒澤さんの妄想ですから!」

慌てる私の隣で、颯馬教官は涼しい顔で微笑んでいる。

サトコ
「颯馬教官も否定してください!」

颯馬
いえ、真っ赤になっている貴女を見ているのが楽しくて

サトコ
「教官までからかって······!」

焦っているのは私一人で、颯馬教官はいつものようにクスリと笑った。

必死にみんなに弁解し、なんとか教官たちから解放され、
颯馬教官と一緒に、書類を探しに資料室までやって来た。

(はぁ、さっきのでどっと疲れたな···)

颯馬
大丈夫ですか?ずいぶんとからかわれていましたね

サトコ
「黒澤さんなんて、最後に『あー面白かった』って言ってましたからね···」

颯馬
貴女はからかい甲斐がありますからね。反応を楽しんでるんでしょう

(ってことは、颯馬教官も面白がってたってこと!?)

颯馬
貴女との夫婦生活が終わってしばらく経ちますけど、どうですか?
最近ミスが目立つと、加賀さんがぼやいていましたが···

サトコ
「うっ···も、もう大丈夫です!ちゃんと調子を取り戻しました」

確かに、颯馬教官との週末同棲生活が終わってしばらくは、
なぜか調子が出ず、ミスばかりして加賀教官に怒られたりもした。

(教官と一緒に暮らしてた時は、全部がうまくいくような気がしてたのにな···)
(あ···あの頃のことを思い出したら、またちょっと寂しくなってきた)

そんな私の様子を見て、颯馬教官が意味深に笑う。

颯馬
普段から、さっきのように名前で呼んでくれてもいいんですよ?

サトコ
「えっ!?」

(そういえば、さっき『周介さん』って呼んだこと···謝ってない!)

サトコ
「あの、本当にすみませんでした!」

颯馬
いえ、たまには新鮮ですから

サトコ
「で、でも···教官のことを名前で呼ぶなんて」
「それに、そのせいでみんなにもからかわれて」

颯馬
私は全然気にしてませんよ

ふふ、と笑うと、恥ずかしさに資料のファイルに顔を埋める私の耳に、教官が唇を寄せる。

颯馬
···サトコ

サトコ
「!?!?」

颯馬
私も、2人きりの時には名前で呼びましょうか?

サトコ
「えええ!?」

焦る私を見て、教官が笑う。

サトコ
「じょ、冗談ですよね···!?」

颯馬
さあ、どうでしょう?

(完全にからかわれてる···!)

そう思って必死に首を振るのに、
私の頭の中には、さっきの颯馬教官の声がいつまでも響いていた。

Secret End

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