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エピローグ 颯馬1話

公安学校に入学してから様々なことを学んだり実際に事件に携わったりと、
めまぐるしい毎日を送っていた。

佐々木鳴子
「次でやっと最後の講義だね」

サトコ
「うん。今日は演習もあったし、もうクタクタ···」

(だけど、次の講義は···颯馬教官、なんだよね)

颯馬教官と付き合い始めてから、教官の講義の時間んは楽しみの一つになっていた。

(少しでも会えるなら、嬉しいなぁ···)

私は颯馬教官の補佐官を務めているから、他の同期よりは会える時間は多いけど···
恋人と会える時間は、かなり少なかった。

(最近も任務に出て、臨時教官が講義することが多かったし···)
(でも、今日は颯馬教官の講義が受けられるんだ)

佐々木鳴子
「···な~に、百面相してるのよ」

サトコ
「え?」

佐々木鳴子
「ニヤニヤしたり、ちょっと落ち込んだからどうしたのかと思えば」
「嬉しそうな顔をして···」
「何、考えてたの?」

サトコ
「え、そんな顔してた?」

佐々木鳴子
「してたから、聞いているんじゃない」
「誰か好きな人とか···恋人ができたのかな?ってことよ」

サトコ
「な、なんで!?」

佐々木鳴子
「最近のサトコはどこか幸せそうというか、浮かれてるというか···」
「そう感じることが多いからね~」

(鳴子、こういうことには察しがいいから···)
(だけど、私たちの関係がバレるわけにもいかない···)

佐々木鳴子
「ほらほら、この鳴子さんに白状しなさい!」

サトコ
「え、えっと···これだけ忙しいのに、恋人なんて作る時間ないって」
「そんな時間あるなら、少しでも身体鍛えたり勉強しなきゃ!」

(ご、ごめん、鳴子···!)

佐々木鳴子
「考えてみれば、サトコは颯馬教官の補佐官もしているのよね」
「演習に講義に自主練に···それに補佐官の仕事なんて、恋している暇も···」
「···ハッ!もしかして、サトコの恋のお相手は···颯馬教官だったりして!」

サトコ
「ななな、なんでそうなるの!?」

サトコ
「これだけ忙しい中で恋をするとしたら、やっぱり一番身近にいる人じゃない?」
「サトコと颯馬教官が一緒にいるところ、よく見かけるし···」

鳴子はニヤニヤと笑みを浮かべながら私を見る。

サトコ
「そ、それは···ほら、補佐官の仕事があるからね」
「補佐官の仕事って、結構多いんだよ?」

佐々木鳴子
「それもそっかぁ~」
「たしかに···これだけ男が多いのに、恋愛するのって難しいよね」

そんな話をしていると、教場に颯馬教官が入ってきた。
教官が教壇に立つと、早速講義が始まる。

颯馬
さて、今日の講義内容ですが···

それまで騒がしかった教場は、講義が始まると途端に静かになった。

(私も講義に集中しなきゃ!)

颯馬
今日は板書も多いので、皆さんちゃんと着いて来てくださいね

教官は説明しながら、どんどん板書をしていく。

(綺麗な字だな···ただ板書しているだけなのに、立ち姿も優雅だし···)
(この人が私の彼氏、なんだよね···)

想いが通じ合ってそこまで経っていないせいか、
たまにあの時のことは夢なんじゃないかと思ってしまう。

(あっ···)

ボーッと教官のことを見ていたら、視線が絡み合う。

(い、いけない···集中しなきゃいけないのに)

私はみんなと同じようにノートにい指揮を向けるも、どうしても気になりもう一度教官のことを見た。

颯馬
······

サトコ
「っ!」

再び視線が合うと、教官は私に向かって微笑んだ。
頬に熱が上がるのを感じ、思わず辺りをキョロキョロと見てしまう。
他の人たちは板書を写すのに必死で、気付いていないようだった。

(私だけに微笑んでくれた···嬉しけど、もし皆にバレたらと思うと···)

それから講義が終わるまでの間、
教官は皆にバレないよう時折私に向かって微笑んだり、視線を向けるのだった。

颯馬教官の講義が終わると、私は教官室にやって来た。

颯馬
サトコさん。今日は資料の整理をお願いしていいですか?

サトコ
「はい」

指示され、さっそく資料の整理に取り掛かる。

(···ん?)

視線を感じて顔を上げると、教官と視線がぶつかった。

サトコ
「あの···なんですか?」

颯馬
いえ、講義中のことを思い出していただけです
視線が合うたび、貴女は照れくさそうにして···とても可愛かったですよ

サトコ
「そ、それは···!」

講義中のことを思い返し、赤面してしまう。

サトコ
「教官があんなことするからです···もし、皆にバレたらって···」

(そのせいで、あまり講義に集中できなかったんだよね···)

颯馬
確かに···それは困りますね

サトコ
「······」

颯馬
でも···今はこうして教官室で二人きりですし···

サトコ
「あっ···」

教官は私の頬にそっと触れると、私の耳元に唇を寄せた。

颯馬
こうして触れ合っていても、誰かに見られる心配はありません

サトコ
「っ···」

教官の唇が耳元に触れ、ピクリと反応する。

サトコ
「そ、そういう問題じゃないです!」

颯馬
フフ、私の恋人は真面目ですね
まあ、それが貴女のいいところなんですけどね

サトコ
「そ、颯馬さ···」

颯馬
···ということで、お仕事頑張りましょうか

サトコ
「はい···え!?」

颯馬教官は私の頬から手を離してニコリと笑うと、自分のデスクに戻った。

(うぅ···なんだか、遊ばれてる気がする···)

だけど、それもイヤな気は全然しなくて···
こうして二人で居られる時間を、何よりも幸せに感じでいた。

夕食が終わると、私は同期の皆と談話室で話をしていた。

佐々木鳴子
「はぁ~、今日も一日疲れた~」

サトコ
「鳴子、それ毎日言ってるよね?」
「だって、毎日そう思うんだから仕方ないでしょ?」

千葉大輔
「ははっ、佐々木の気持ちも分かるよ。今日の演習もキツかったし」

男性同期1
「しかも、演習は加賀教官だったしな。思い出すだけで、もう···」

男性同期2
「明日の朝イチの講義は石神教官だし···あのふたりの威圧感って、ハンパねぇよな」

サトコ
「そうだね。でも、刑事になるためには頑張らないと」

佐々木鳴子
「うわっ、真面目だなぁ。サトコは本当にすごいよね」
「でも、少しは恋愛ごとにも意識を向けた方がいいんじゃない?」
「私たちの年代なんて、彼氏の一人や二人いてもおかしくないんだし···」

サトコ
「一人や二人って···」

男性同期1
「あー、オレも彼女欲しいな」

男性同期2
「でも、いざ彼女が出来たとしてもデートする時間を取れるかどうかって話だよな」

『付き合いたてのマンネリ注意!』

サトコ
「へ?マンネリ···?」

誰かがつけたテレビから不穏な言葉が聞こえて、思わず視線を向ける。

『付き合いたてなのに、彼氏や彼女とマンネリ化してしまう···そんなカップルも多いはず!』
『まずはマンネリ化してるかどうか、診断に行ってみましょう!』

思わずテレビに釘付けになっていると、皆もテレビに視線を向けていた。

佐々木鳴子
「付き合いたてって言ったら普通ラブラブってイメージだけど」
「相手が忙しかったりするとマンネリになっちゃうのかもね」

サトコ
「え···?」

千葉大輔
「う~ん、彼女が出来たら大切にしたいって思うけど···」
「俺たちの職業は、相手の理解が必要だからな」

男性同期1
「だよな~。『私と仕事のどっちが大事なの!?』って聞かれても困るし」

(颯馬教官は忙しい人だけど···)
(私だって同じ公安を目指しているわけだし···大丈夫だよね?)

『相手が年上の場合も、注意が必要!』

佐々木鳴子
「へぇ、そうなんだ」
「年上の彼氏から見ると、子どもっぽく見えちゃうのかな?妹みたいな?」

サトコ
「!!!」

(妹って···もしかして、教官からみたら私も妹のように見えてるとか···?)
(私は教官の妹さんと似てるって言われたことがあるし···)
(いや、でも···颯馬教官だし!そんな『子どもっぽいから飽きました』なんて言うはずが···)

千葉大輔
「氷川?急に黙り込んで、どうしたんだ?」

サトコ
「あ、ううん。なんでもないよ」

佐々木鳴子
「でもでも、歳の差カップルもいいよね。例えば···先生と生徒の恋とか!」
「誰もいない放課後で熱く見つめ合う二人···」
「そして、いつしか男女の関係に···!」

サトコ
「ちょ、ちょっと、鳴子···」

千葉大輔
「ははっ、相変わらずだな佐々木は」

佐々木鳴子
「はぁ、ここの教官は皆レベルが高いし、いつか私も···なんて、あるわけないよね」

サトコ
「アハハハハ···」

それから私たちは、就寝時間になるまで談話室で話し続けた。

翌日。
レポートを提出するため、私は教官室に向かっていた。

(はぁ···昨日のことが頭から離れないよ···)

佐々木鳴子
『年上の彼氏から見ると、子どもっぽく見えちゃうのかな?妹みたいな?』

(別に気にしてたわけじゃないけど···ちょっと不安だなぁ···)
(も、もしかして最近何もないのは、飽きられちゃったとか···!?)

ネガティブ思考に陥ってしまい、肩を落としながら歩いた。

教官室に着くと、颯馬教官と石神教官以外の教官たちが揃っていた。

サトコ
「失礼します。颯馬教官のレポート提出に来ました」

後藤
周さんはいないから、デスクの上に置いておけ

サトコ
「はい」

東雲
······

サトコ
「あの···?」

東雲教官から視線を感じ、思わず首を傾げる。

東雲
キミさ、颯馬さんと何かあった?

サトコ
「!」

(す、鋭い···!)

サトコ
「別に、何もないですけど···」

加賀
クズが吐けねぇ嘘は吐くもんじゃねぇ
そんな甘くて、公安になれると思ってんのか?

黒澤
呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン!皆の黒澤透です★

後藤
いちいち騒がしいヤツだな

黒澤
石神さんに用があって参りました!
って、なんですかこの雰囲気は?何の話をしていたんです?

東雲
彼女と颯馬さんのことだよ

黒澤
ほほ~う。それは···面白そうな話をしているじゃないですか!

東雲
彼女が悩んでいるようだったから相談に乗ってあげようかなって思ってたんだけど
しらを切ろうとするんだよね

黒澤
それはいけません!
ささ、この黒澤透にドーンと話してください!

東雲
それとも···人に話せないような悩みごと?
公務員の副業とかシャレにならないから、やめてよね

サトコ
「ち、違います!」

黒澤
じゃあ、思い切って吐いちゃいましょう!

サトコ
「うぅ···」

私はふたりに詰め寄られ、観念して口を開く。

サトコ
「わ、私の友達から相談を受けてるんですけど···」
「その···彼氏が年上で」
「その子は子どもっぽく見られてるのかなって悩んでいるみたいで···」

黒澤
ふむふむ、歳の差カップルならではの悩みですね!

東雲
子どもっぽく見られてるなら、大人っぽく見えるようにすればいいんじゃない?

サトコ
「大人っぽく···例えば、どんな感じでしょうか?」

東雲
せいぜいヒールのある靴でも履いてみたら?
足も綺麗に見えるし、一石二鳥になるしね
ま、似合う足とそうじゃない足があるだろうけどさ···

(わ、私の足を一瞥しながら、余計なことを···!)

加賀
露出して色気のある格好でもしとけ。あいつ、そういうの好きそうだしな

サトコ
「い、色気···!?」

(た、確かに足りてないかもしれない···)

東雲
颯馬さんならありそうですね
ま、ただのむっつりみたいだけど

加賀
あいつはどっからどう見てもむっつりだろ。風呂なんか誘ってみれば、あっさりだな

黒澤
おおっ、加賀さんも乗ってきましたね!じゃあ次は後藤さんです!

後藤
そこで俺に振るな

黒澤
いいじゃないですか~。可愛い生徒からのお悩み相談なんですよ?

サトコ
「わ、私じゃなくて、友だちのです!」

黒澤
ほらほら、後藤さん!頼れる教官の見せ場ですよ!

後藤
はぁ···
家庭的な女とかいいんじゃないか?

黒澤
おお、定番なところで来ましたね!

東雲
後藤さん、自分は家事全般壊滅的だから

後藤
···何か言ったか?

東雲
いえ、何も
そういう透は、何かないの?

黒澤
そうですね···
やっぱり、ウルウルした瞳でじっと見られたいです!
ふたりきりの中、ウルウルした瞳で自分のことを見上げる彼女···
くぅ~!たまらないですね!
あとは、彼女から可愛くおねだりされたりとか!

後藤
それ、お前がされたいだけだろ

黒澤
いいじゃないですか~!
絶対にグッときますよ!
後藤さんだって、彼女にやられたらグッときて···
あ、後藤さんは彼女いなかったですね

東雲
それは透も一緒だろ?

加賀
女なんていてもめんどくせぇだけだろ

黒澤
そんなこと言って、本当は彼女が出来たら溺愛するんじゃないですか?

加賀
お前、誰にものを言ってんだ?

黒澤
ひぃ!そんなに睨まないでください~!

東雲
まあ、これらのアドバイスを実践するかどうかはサトコちゃん次第じゃない?

サトコ
「だ、だから···」

東雲
ああ、キミのお友だち···だっけ?

黒澤
大丈夫ですよ、サトコさん!自信持ってください···
と、お友だちさんに伝えてくださいね!

何故か黒澤さんが自信満々そうに、ガッツポーズをした。

数日後。
夜になり部屋で休んでいると、携帯に電話がかかってきた。

サトコ
「はい」

颯馬
私です。夜分遅くにすみません

サトコ
「颯馬教官!?どうしたんですか?」

颯馬
今度の休みですが、よかったら二人で出かけませんか?

(二人でって···これってもしかしてデート!?)

サトコ
「はい!」

颯馬
フフ、そんなに嬉しそうに返されるとは···当日、楽しみにしていますね

電話を切ると、私はこの前教官たちから受けたアドバイスを思い返す。

サトコ
「これはチャンスかも···!」

私は気合を入れ、タンスを開ける。

サトコ
「うっ···地味な服しかない···それに、靴も···」

(どうしよう···せっかくのデートなのに···!)
(鳴子と買いに行くかなぁ···)
(でも、デートまであまり時間もないし、自分でどうにかするしかないかな···)

それからデート当日に向けて、私はいつも以上に慌ただしい日常を送ることになった。

to be continued

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