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エピローグ 颯馬2話

デート当日。
あれから私は時間を見つけ、なんとかデート服を用意することができた。
普段は履かないようなヒールに色っぽさを加えるため···
考えに考えた挙句、少し短めのスカート。
教官たちのアドバイス通りにコーディネートする。

(えっと、颯馬教官は···まだ来てないのかな?)

暫く待っていると、人混みの中から颯馬教官がこちらにやって来た。

颯馬
お待たせしました

サトコ
「いえ···」

(教官、いつもよりラフな格好で···かっこいいなぁ)

颯馬
······

ボーッと教官のことを見ていると、視線が向けられていることに気付いた。

(み、見られてる···アドバイス通り頑張ってみたけど···教官、何か言ってくれるかな···?)

颯馬
···さて、そろそろ行きましょうか

(···あれ?)

颯馬教官はニッコリと笑顔を見せ、私を車に乗せた。

(ち、違ったかも)

私が助手席に乗ったことを確認すると、教官は車を出す。

サトコ
「教官。今日はどこに行くんですか?」

颯馬
ついてからのお楽しみです。サトコさんも楽しめるところだと思いますよ
それと···サトコさん。今日はせっかくのデートなんですよ?

サトコ
「え?」

颯馬
先程から私のことを『教官』と呼んでいます

サトコ
「あっ···す、すみません。なかなか、慣れなくて···」

颯馬
まあ、学校では名前で呼ぶわけにもいきませんしね
でも···今はこうしてデート中なんですから

サトコ
「は、はい···そ、颯馬···さん」

颯馬
はい、よくできました

微笑む颯馬さんに、胸が高鳴る。
そして颯馬さんは前を向き、運転に集中しているようだった。
静かに運転するその姿に、思わず目が奪われる。

(颯馬さんって、本当に格好いい。鳴子が騒ぐのも、わかるなぁ···)
(でも、アドバイス通りの服装にしてみたけど···さっきは反応薄かったな)
(まぁ、もらったアドバイスはまだまだあるし···)
(それにデートは始まったばかりなんだから、これからだよね!)

颯馬
···サトコさん。見つめ過ぎですよ

颯馬さんは少しだけ困ったような笑みを浮かべる。

サトコ
「あっ···す、すみません!」

颯馬
フフ···可愛い恋人に見つめられると、私も照れてしまいます

それからしばらく車を走らせると、目的の場所に到着した。

颯馬さんが連れて来てくれたのは、都内から少し離れた場所にある遊園地だった。

颯馬
私はチケットを買ってくるので、サトコさんはここで待っていてください

サトコ
「はい」

(遊園地に来るの、久しぶりだなぁ。最後に来たのは学生の時だったっけ···)
(でも、デートに遊園地って颯馬さんっぽくないけど···やっぱり私、子ども扱いされてるのかな···)

颯馬
お待たせしました···
サトコさん?どうしたんですか、そんな顔をして
もしかして、遊園地は嫌いでしたか?

サトコ
「いえ!私、遊園地は大好きなんです!」

颯馬
そうですか。それはよかった
実はサトコさんと一緒に、遊園地に来てみたかったんです

サトコ
「え···?」

颯馬
職業柄、人が多い場所にはあまり行かないので
こうして初めて行く場所は、サトコさんと行きたいと思っていたんです

サトコ
「颯馬さん···」

颯馬
さて···

サトコ
「あっ···」

颯馬さんは微笑みながら、私の手を優しく握る。

颯馬
まずはどこに行きますか?

サトコ
「えっと···ジェットコースターに乗りたいです!」

颯馬
フフ、いきなりのジェットコースターですか。サトコさんらしいですね
いいですよ。それでは、行きましょう

サトコ
「はい!」

ジェットコースターに乗った私たちは、それからいくつかアトラクションを回る。

サトコ
「楽しかったですね!」

颯馬
ええ。特に最初に乗ったジェットコースターは迫力がありました

サトコ
「落ちる時の疾走感がたまらないですよね···あっ」

颯馬
どうしたんですか?

サトコ
「ちょっとお土産屋さんを見てもいいですか?」

颯馬
もちろん、いいですよ

お土産屋に入った私たちは、色々見て回る。

サトコ
「このストラップ可愛いですね。へぇ、対になってるんだ···」

颯馬
この遊園地のキャラクターのようですね

サトコ
「······」

(確か、黒澤さんが『可愛くおねだり』って言ってたっけ···)

サトコ
「あ、あの···颯馬さん」

颯馬
はい?

私は勇気を出して、なるべく可愛く見せるように颯馬さんの袖をギュッと掴む。

サトコ
「こ、このストラップ···ほしい、です。颯馬さんとお揃いがいいなぁ···」

颯馬
お揃い、ですか
それもいいですね
ですが、お揃いの物をつけて変に疑われても困りませんか?

サトコ
「あ···そ、そうですよね」

(私たちが付き合ってるのは秘密だから···うぅ、失敗した···)
(でも、ここでめげちゃダメだよね!)

サトコ
「あ、あの!そろそろお腹空きませんか?」

颯馬
そうですね。そろそろお昼にちょうどいい時間ですし、どこかお店に入って···

サトコ
「私、お弁当作ってきたんです。よかったら、食べてください」

後藤教官が言っていた『家庭的なところ』をアピールするために、お弁当を用意していた。

颯馬
サトコさんのお弁当···
サトコさんは料理が上手ですからね。どんなお弁当なのか楽しみです
···と、すみません
ちょっと電話がかかって来たので、先に行って場所を取っててもらえますか?

私は二人掛けのテーブルに場所を取り、颯馬さんを待っていた。

颯馬
すみません、お待たせしました

サトコ
「いえ。お仕事の電話ですか?」

颯馬
はい。少し、確認したいことがあったらしくて
ああ、もう大丈夫なので気にしないでください
早速ですが···お弁当、頂いてもいいですか?

サトコ
「はい、どうぞ」

颯馬さんはお弁当を開けると、うれしそうに微笑んだ。

颯馬
では···いただきます

サトコ
「······」

(ど、どうかな···頑張って早起きして、作ってみたけど···)

颯馬
···うん、すごく美味しいですよ

サトコ
「本当ですか!?」

颯馬
はい。同棲していた時も、サトコさんには料理を作ってもらっていましたし
サトコさんは家庭的な方ですよね

(後藤教官···やりました!颯馬教官に家庭的って言ってもらえましたよ!)

心の中でガッツポーズをし、後藤教官にお礼を言う。

颯馬
それに、誰よりも気合も根性もありますし···
男ばかりの学校の中でも人一倍頑張り屋ですよね

(あ、あれ···?それはあまり女らしくないような···)

颯馬
貴女は私にとって素敵な恋人ですが···自慢の生徒でもあります

サトコ
「あ、ありがとうございます···」

(褒められるのは嬉しいど···何かが違う、よね?)

颯馬
···ああ、これを渡すのを忘れていました

頭に疑問符を浮かべていると、颯馬さんは何かを取り出した。

サトコ
「これは···ストラップ、ですか?」

颯馬
はい。私からのプレゼントです。···お揃い、ですよ

サトコ
「で、でも···お揃いの物を着けたら···」

颯馬
大丈夫です。要はバレなければいいんですから

サトコ
「颯馬さん···ありがとうございます!」

颯馬
喜んでいただけで何よりです···いずれは、堂々と一緒の鍵につけましょうね

(一緒の鍵って···)

颯馬さんと同棲していた時のことを思い返し、ドキッとした。

それからお弁当を食べ終わると、いくつかアトラクションを回る。
そして颯馬さんの要望で、お化け屋敷にやって来た。

(真っ暗だし、通路も狭いし···こ、怖い···)

颯馬さんはビクビクと怯える私を見て、笑みを見せる。

颯馬
パンフを見て、これが一番気になっていたんです

サトコ
「そ、そうなんですか···」

颯馬
なかなか本格的な作りをしていますね
ほら、そこの枯れ井戸なんかも、いかにも何か出て来そうな感じがしませんか?

サトコ
「は、はは···また、そんなこと言って···」

(ほ、本当に何か出てきたらどうしよう···!)

そして、井戸に意識を向けた、その瞬間······

ゾンビ
「うわあああああああ!!!」

サトコ
「きゃあああああああっ!!」

突然、後ろから現れたゾンビに驚き、颯馬さんに抱きつく。

颯馬
っと···大丈夫ですか?

サトコ
「む、ムリです、怖いです、早く出たいです~!」

颯馬
フフ、そんなに怯えちゃって···

サトコ
「だ、だって!今、いきなりゾンビが!後ろから突然、うわあああって!!」

颯馬
落ち着いてください

サトコ
「そ、そんなこと言われても···!」

颯馬
仕方ないですね。ほら···

颯馬さんは私の腰を、そっと抱き寄せる。

サトコ
「あ···」

颯馬
···こうしていれば、大丈夫ですよね?

サトコ
「は、はい···」

颯馬さんのたくましい腕に抱かれ、胸が高鳴る。

(さっきまでいつお化けが出て来るかって緊張していたのに···)
(今度は別の意味で緊張してきた···!)

お化けへの恐怖と颯馬さんへのドキドキに挟まれながら、
私はやっとの思いでお化け屋敷を脱出するのだった。

お化け屋敷を後にした私たちは、ベンチで休んでいた。

颯馬
お化け屋敷、楽しかったですね

サトコ
「そ、そうですね···」

颯馬
···サトコさん、大丈夫ですか?

サトコ
「は、はい···なんとか···」

颯馬
少し顔色が悪いですね···
飲み物を買ってくるので、待っていてください

サトコ
「飲み物なら、私が···」

颯馬
これくらい、遠慮しないでください
···たまには、彼氏に甘えることも必要ですよ?

颯馬さんはそう言い、飲み物を買いに行った。

サトコ
「はぁ···」

(颯馬さん、途中から私の反応楽しんでたよね···)
(まさかあそこまで怖いなんて思わなかったし···)

???
「ねぇ、キミ一人?」

サトコ
「え···?」

顔を上げると、見知らぬ男たちがいた。

男1
「ねぇ、よかったら俺たちと一緒に遊ばない?」

サトコ
「私は···」

男2
「この様子だと、ひとりで来てるってことはないか。友だちもいるなら、皆で遊ぼうぜ」

(これって···ナンパ?)

サトコ
「彼氏と一緒に来てるので」

男1
「彼氏?じゃあ、彼氏にナイショでさ」

男2
「ほら、彼氏が来ないうちに行こうぜ」

サトコ
「ちょ、ちょっと···」

男は私に近づくと、強引に腕を取る。

サトコ
「止めてください!」

男1
「少しくらい、いいだろ?」

サトコ
「ほ、本当にやめ···」

男2
「大丈夫だって」

男たちは聞く耳を持たず、そのまま私を連れて行こうとする。

(こ、こうなったら···)

サトコ
「あっ···」

私は護身術で腕を振りほどこうとするも、
ミニスカとヒールという格好のせいか、踏ん張りがきかない。

(まずい···このままだと···)

サトコ
「お願いだから、離し···」

???
「私の彼女に、何か用ですか?」

(あ、颯馬さん···)

男1
「は?なんだ、お前···」

いつも微笑んでいる颯馬さんは、無表情に男たちを見ていた。

颯馬
···この手、離してもらえませんか?

男2
「っ···!」

颯馬さんは普段からは信じられないような冷酷な声を出し、男の手を握る。
力を込めているのか男の顔が苦痛に歪み、私の腕を離した。

男2
「な、なんだよ、こいつ···」

男1
「···行こうぜ」

男2
「ああ···」

男たちが去っていくのを見届けると、颯馬さんは私の手を引き歩き始めた。

サトコ
「あ、あの···颯馬さん?」

颯馬
······

颯馬さんは何も言わず手を引き、私の少し前を歩く。
私は小走りで、颯馬さんについて行った。

そして颯馬さんはメリーゴーランドの前で止まった。

サトコ
「あの···颯馬さん。先程は、ありがとうございました」

颯馬
···そんな恰好をしているからです。動けないのも当然ですよ

サトコ
「あ···」

いつもは見せない冷たい表情に、委縮してしまう。

(颯馬さんのために頑張ったつもりだったのに···迷惑かけちゃった···)
(慣れないことをするから、こんなことになっちゃったのかな···)
(張り切ってこんな格好して···なのに、迷惑もかけて···恥ずかしい)

颯馬さんの顔をまともに見ることができずに、俯く。

颯馬
はぁ···

颯馬さんのため息が聞こえ、私の頭にポンッと手が乗せられた。
男の人らしいたくましい掌···私を守ってくれたその手で、颯馬さんは頭を撫でる。

颯馬
すみません···少し、言い過ぎましたね

サトコ
「っ···」

顔を上げると、そこにはいつもの微笑みを浮かべる颯馬さんがいた。

サトコ
「颯馬さ···」

彼の名前を呼びかけようとしたその時、メリーゴーランドのライトが点灯した。

サトコ
「わぁ、綺麗···」

色とりどりのライトがキラキラ光り、思わず見惚れてしまう。

颯馬
はい。綺麗ですね

私たちは顔を見合わせ、微笑み合う。
そしてどちらともなく手を繋ぎ、イルミネーションに目を向けた。

to be continued

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