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本編カレ目線 颯馬1話

「純粋な補佐官」

公安学校での仕事を終えると、サトコさんを連れて自分の家に向かっていた。

サトコ
「······」

颯馬
······

運転をしながらチラリとサトコさんを見る。
彼女は顔を赤くして俯いたり、何を想像しているのかニヤついたりと、
どこか落ち着きがないようだった。

颯馬
サトコさん

サトコ
「······」

颯馬
サトコさん···?

サトコ
「······」

(名前を呼ばれても気付かないなんて···どれだけ緊張しているんだ?)

颯馬
サトコさん

サトコ
「···あっ、は、はい!なんですか!?」

颯馬
先程から何度も呼んでいたのですが···何か考え事でも?

サトコ
「い、いえ!そ、それは、その···」

サトコさんは先程よりも顔を赤くし、それを隠すように俯いた。

(フフッ···この反応じゃあ、何を考えていたのか丸わかりですよ)

可愛い反応を示す彼女にいたずら心が疼き、ゆっくりと口を開く。

颯馬
もしかして···私の家に来るのがイヤだったんじゃ···?

サトコ
「へ···?」

颯馬
そうですよね。いきなり家に誘われるなんて、戸惑うのも仕方ありません

サトコ
「い、イヤなんてそんなことありません!私は、ただ···」

颯馬
ただ?

サトコ
「そ、その···颯馬教官の家に誘われて、う、うれしかった、と言いますか···」

恥ずかしいのか言葉尻が小さくなるサトコさんに、頬が緩む。

サトコ
「だから、私は···って、颯馬教官、なんで笑っているんですか?」

颯馬
サトコさんが可愛らしかったからでしょうか

サトコ
「なっ···!か、可愛いって···」

颯馬
フフ、また赤くなりましたね
···ああ、すみません
先程の言葉、よく聞こえなかったのでもう一度言ってもらってもいいですか?

車が家に到着するまで、そんな調子でサトコさんをからかい続けた。

ふと目を覚ますと、目の前にサトコさんの寝顔があった。

颯馬
クスッ

(気持ち良さそうに眠っているな···)

サトコさんは幸せそうな表情を浮かべ、すやすやと眠っている。

(いくら寝ているとはいえ、この表情は反則だ···)

起こさないように、彼女の髪をそっと撫でる。

サトコ
「あっ···」

するとサトさんは小さく声を出し、僅かに身じろぎをした。

(起こしてしまったか···?)

サトコ
「···おばちゃん···エビフライ、定食···」

颯馬
ぷっ···

(まったく、この子は···この状況で、何の夢を見ているんだか···)

いつもと変わらないサトコさんを目の前に、彼女と出逢ってからのことを思い返す。

(まさか、オレが公安を信用できるようになるなんて···そんな日が来るとは思わなかった)

もう一度サトコさんの髪を撫でると、今度はくすぐったそうに笑みを浮かべた。

(これも、この子のおかげだな···)

潜入捜査の訓練で、私はサトコさんと組むことになった。
私たちは一度潜入捜査先の豪邸へ向かい、喫茶店にやって来た。

(まさか、四課と被るなんて···まあ、想定の範囲内と言えば範囲内、か···)

強面の四課を話し合いで通した私のことを、
サトコさんは先程から不思議そうな顔で見ている。

(この先、女性とペアだと色々と厄介だな···)
(男でも辛いと辞めていく奴が多い。女性が続けられるものだとは思えない)
(···この子は真っ直ぐで純粋な目をしている)
(本当の公安を知ったら···いや、そうでなくても、いずれ挫折するだろう)

私はニコニコと笑顔を見せたまま、楽しそうにストローを回す。

颯馬
貴女は公安に適していませんね

サトコ
「え···?」

颯馬
今は、ですけど···

サトコ
「······」

サトコさんは少しだけ肩を落とすも、すぐに私の目を真っ直ぐ見つめた。

サトコ
「あの···公安に向いているって言うのは、どんな人間なんでしょうか」

颯馬
そうですね···

(面と向かってはっきり言われたのに退かない、か···根性は座っているようだな)

颯馬
近々、キングオブ公安に会わせてあげますよ

サトコ
「私がまだ会ったことがない人ってことですよね?」

颯馬
ええ

サトコ
「石神教官や加賀教官よりも凄いってことですか?」

颯馬
クス···
まぁ、ある意味では
貴女みたいな人は、参考にするといいかもしれません

サトコ
「······」

颯馬
一人前になるには、少々準備が必要になりますが···貴女はいい目をしています

(それで、黒澤に会って···早いうちに現実を知った方がいい。それがこの子のためにもなるだろう)

サトコさんと黒澤を引き合わせた翌日。
私は講義が始まる前にサトコさんを教官室に呼び出した。

颯馬
使えるものは何でも使うのが公安だとわかりましたか?

サトコ
「···はい」

颯馬
スパイが嫌になって抜けようとしたら脅したり、嘘をつくなんて日常茶飯事です

淡々と、仕事への自分の考え方を伝える。

颯馬
家族で笑って食卓を囲んで、安心して眠る普通の毎日
それがある日、いきなりなくなる気持ちが貴女には分かりますか?
大事な人を失って泣き叫ぶ人に幸せを返してあげることはできません

サトコ
「······」

そして私の話をすべて聞き終わると、サトコさんは暗い表情で教官室から去って行った。
それから少しして盆栽の手入れをしていると、歩と加賀さんの話が聞こえてきた。

東雲
あ、そういえばさっき、サトコちゃんたちが···

(1時間900バイオレンスだなんて···あの話を聞いた後で、なんて話をしているんだ···)

加賀
チッ、あのクズが···

加賀さんは舌打ちをしながら次の講義の準備をし、教官室を出て行った。

東雲
サトコちゃん、このあと大変だろうなぁ

颯馬
はぁ···

(まったく、歩は···)

きっとサトコさん、加賀さんにこってり絞られるだろう。

(彼女のことだから、大丈夫だとは思うけど···)

私はサトコさんの息抜きのためにも、彼女を剣道の稽古に誘うことにした。

剣道場についた私たちは防具をつけると、打ち合いを始める。

ダンッ!

サトコさんが、思い切り剣道場の床に身体を叩きつける。

サトコ
「っ!」

颯馬
動きが読めます。踏み込みが遅いですよ。考える前に、相手の動きに身体が反応するように

サトコ
「···くっ、はい!」

何度も床に弾き飛ばされて叩きつけられても、
サトコさんは何度も立ち上がり私に向かってくる。
どこまでも食らいついてくる彼女を、わたしはサッと手で制した。

颯馬
本日はここまでにしましょう

サトコ
「···あ、ありがとう···ございました···」

(まったく、この子は···)
(辛い現実を突きつけられて、ここまで叩きのめされても真っ直ぐに向かってくるなんて···)
(他の連中より、よほど補佐官として使えるだろう)

颯馬
合格です

サトコ
「···え」

颯馬
サトコさん。正式に私の補佐官になってください

私はニッコリと笑みを浮かべて、彼女にそう伝えた。

to be continued

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