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本編カレ目線 颯馬2話

「表と裏」

書類の整理をしていると、携帯が着信を告げた。

颯馬
はい、颯馬です

女性1
『もしもし、颯馬さん?今、大丈夫?』

颯馬
もちろんです。どうしたんですか?」

女性1
『颯馬さんと···会いたいの』

颯馬
······

女性1
『近くまで来ているから。ね、お願い』

颯馬
···分かりました。いいですよ

携帯を切ると、小さく溜息をつく。

(いくら協力者からとはいえ、面倒だな···)
(だけど、あの女はヤクザが通うキャバクラで働いている···)
(ちょうど、今回の潜入捜査の情報を聞き出そうと思っていたところだ)

私は重い腰を上げ、協力者の女と会うために教官室を後にした。

協力者と会い、教官室へ戻ろうとすると歩が近くを通りかかった。

東雲
あ、颯馬さん。お疲れさまです

颯馬
お疲れさま、歩

東雲
颯馬さんも、相変わらず大変ですね
誰が見ているか分からないんだから、気を付けた方がいいですよ

歩はそう言って、ニッコリと笑みを浮かべる。

(オレと協力者が運動場で会っていたのを、見ていたのか···)

颯馬
歩が心配することないですよ?でも、ご忠告ありがとうございます

東雲
いえいえ。それでは、オレは失礼しますね

歩は笑顔を崩さないまま、その場から去って行った。

翌日。
教官室で資料をまとめていると、突然、成田教官が乗り込んできた。

成田
「···どういうことだ」

颯馬
はい?どうしたんですか、成田教官

成田
「氷川サトコの不正入学のことだ!」

成田教官は声を上げながら、1枚の紙を私たちの前に出す。

成田
「これがその証拠だ!おかしいと思ったんだ、あいつがトップの成績で入学なんてな」

颯馬
これは···

私は成田教官が出した紙を、まじまじと見つめる。

(彼女の成績がトップだということに、違和感がなかったわけじゃない)
(だけど、本当に不正入学だったなんて···)

後藤
これが本当なら、氷川は···

加賀
退学決定だな

颯馬
······

教官たちの言葉に、サトコさんの顔が脳裏を過る。

(あの子は不正入学をするような子ではないだろう)
(ということは、彼女以外の誰かが故意的にやったとしか思えない)
(こんなところで彼女の可能性を無くすのは惜しい···)

颯馬
まだ本人に聞いてみないと分かりませんよ?

成田
「何を言っている。氷川が不正したのは事実だ」

颯馬
落ち着いてください。本人に証拠を取るのが1番じゃないですか?

後藤
まあ、周さんが言うことも一理ありますね

加賀
ふん。くだらねぇことに俺を巻き込むんじゃねぇよ

颯馬
···それでは、サトコさんに事情を聴くということでいいですね?

成田
「あいつを呼び出したから、もうそろそろ来るだろう···」

颯馬
分かりました

しばらくすると、サトコさんが教官室にやって来た。
サトコさんは険しい顔をしている教官たちに、たじろいでいるようだった。

サトコ
「し、失礼致します。お呼びでしょうか···」

成田
「お前は不正入学した自覚はあるのか?」

サトコ
「!?」

成田教官の言葉に、サトコさんは目を見張る。

サトコ
「不正入学って···何のことです?」

加賀
このクズは何の自覚もなかったんだろ。要は推薦したやつがコイツの成績盛ったってことだな

サトコ
「ちょ、ちょっと待ってください!不正だなんて···」

(サトコさんのこの反応···やはり、サトコさんは不正入学のことは何も知らないのか)
(だとしても、不正入学をしたのは確かだ。彼女はここでどう意思を示すか···)

成田
「これで分かっただろう。お前はこの学校にいる資格はない!」
「もちろん退学してもらうからな」

サトコ
「そんな···退学って···」
「退学なんて、絶対に嫌です!!」

サトコさんは強い意志を持っていうも、成田教官はぎろりと睨み返し、退学だと繰り返す。

サトコ
「退学と言われても···私はこの学校に残ります!」

(···彼女の意思は本物だ。ここで彼女が潰されるのは惜しい)

颯馬
それを言ったら、我々も同罪なんじゃないですか?
公安なのに書類の偽造にも気付かないなんて、世間から見たら笑止千万ですね

成田
「なっ···」

そして私は『次の査定で誰もが認める点数を取ることが条件で在学できる』ことを条件に、
成田教官を説得した。

(この条件はかなり厳しいものだろう。だけど、サトコさんならきっと···)

不安そうな目で私を見る彼女を安心させるように、私は笑みを浮かべた。

数日後。
夜になり協力者に呼び出された私は、学校の校門で相手をする羽目になった。

(こんな時間に···その上、学校にまで押しかけて来るとは···)

颯馬
私の立場···それに、あなたの立場を分かっての行動なんですよね?

女性
「だって、私は本気で颯馬さんのことが···」

颯馬
あなたはもっと、頭のいい女性だと思っていました

女性
「な、何よ···」

(···ん?)

私は協力者の相手をしつつ、背後からの視線に気付く。
さりげなく視線元をたどると、サトコさんがいた。

女性
「ちょっと、聞いてるの!?」

颯馬
······

(これ以上、この女は使えないですね···)

颯馬
···もう、止めにしましょう

女性
「え···?」

颯馬
ここで恋愛感情を持たれても困ります
自分の立場を理解できない人ほど、使えないものはありませんからね

女性
「ひど···っ」

颯馬
では···さよならですね。また困ったことがあったら、いつでも連絡してきてください

女性
「誰が!人でなし」

協力者は泣きながら去って行き、サトコさんも私に気付かれないうちにと早々に去って行った。

颯馬
はぁ···

(仕事のためとは分かっているとはいえ···オレは何をしているんだろう)
(···こんなことを考えるなんて、初めてだな)

サトコさんとの剣道訓練が終わり、一度着替えてから道場に顔を出す。

サトコ
「はぁ、はぁ···」

颯馬
······

(あれだけ練習をしたのに、まだ続けるのか···)
(最近、腕が上がったのも頑張りの成果だな)

私は練習を続けるサトコさんに小さな声で、
「頑張ってください」とエールを送り、剣道場を後にした。

校内の見回りを終えて教官室に戻ると、後藤がいた。

後藤
あの···周さん

颯馬
ん?後藤、どうかしましたか?

後藤
あ、いや···

颯馬

(後藤のこの反応···珍しいな。何かあったのか?)

颯馬
言いたいことがあるなら、今すぐじゃなくても大丈夫ですよ

手早く帰り支度をし教官室を出ようとすると、後ろから声をかけられる。

後藤
周さん···!

颯馬
なんですか?

後藤
その···すみません!さっき氷川に、周さんの妹さんの話をしてしまいました

颯馬
っ···

(妹の話を、サトコさんに···)

私は気まずそうな後藤の肩を、ポンポンっと叩いた。

颯馬
フフ···大丈夫ですよ

後藤
周さん···

颯馬
もう遅いですから、後藤も早く帰るように

笑みを浮かべたままそう言って、私は教官室を後にした。

to be continued

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