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本編カレ目線 颯馬3話

「頑張り屋さん」

サトコさんと共にヤクザたちをキャバクラへ連れて行き、無事に潜入捜査を終える。
寮に帰宅すると、妹の写真が目に入った。

颯馬
ただいま

写真の中で微笑んでいる妹は「おかえり」と返しているようだった。
ネクタイを緩めながら、ベッドに腰掛ける。

(後藤はサトコさんに、妹のことを話したと言っていたな···)

後藤
氷川に、周さんの妹さんの話をしてしまいました

颯馬
······

(あの時の···妹が亡くなった時のことは、今でも鮮明に覚えている)
(いつかは断ち切らなきゃいけない···そう思っているけど、今はまだ···)

頭ではわかっていても、公安のことが信じられず、許せないと思っている自分がいた。
写真立ての横に視線を向けると、ステファニーが目に入る。

(フフッ)

ふとサトコさんの顔が脳裏を過り、口元が緩む。

(彼女はいつも一生懸命で、真っ直ぐで···時々、眩しくて仕方ないときがある)

颯馬
ステファニーを見ていると、彼女を思い出します

気が付いたら、そうひとりごちていた。

数日後。
鍵を失くしたというサトコさんを、部屋に招いて泊って行くように促した。
ハーブティーを淹れてサトコさんの元へ戻ると、彼女は妹の写真を見ている。

颯馬
その写真···私の妹なんです

サトコ
「···はい」

颯馬
···きっともう誰かに聞いていますよね

(今までの妹の話は···自分から誰にもしてこなかった)
(だけど、サトコさんには聞いて欲しい···)

いつからかそんな気持ちが強くなり、気付いたらサトコさんに妹の話をしていた。

颯馬
私はその時一生分泣いて···これからは泣かないと決めたんです

サトコ
「颯馬教官は···どうして私にそのことを話してくれたんですか」

颯馬
······

(なんで、か···)

聞いて欲しい···だけど、これ以上は突っ込んでほしくない。
そんな相反する気持ちが湧き起こり、私は曖昧な笑みを浮かべていた。

颯馬
さぁ、遅くなってしまいましたね。ゆっくりお風呂に入って休んでください

私はそれ以上何も言わず、サトコさんをお風呂へと案内した。

翌日。
私は “潜入捜査の準備” という口実で、サトコさんをデートに誘った。
ジェラートを購入し、ベンチに座る。

颯馬
ん、これは大人向けの味で美味しいですね。サトコさんも食べてみますか?

口元にジェラートを出すと、サトコさんは戸惑い始める。

(フフ、こういうのには慣れていないんだな)

颯馬
···いらないんですか?

サトコ
「い、いただきます!」

サトコさんは恥ずかしそうに端っこの方を少しだけ舐める。

サトコ
「···あの、私のピスタチオも食べますか?」

颯馬
あ、いただきます。ピスタチオも気になっていたんですよ

差し出されたジェラートをぱくっと大きく齧ると、サトコさんは声を上げた。

サトコ
「ああっ···こ、こんなに!」

颯馬
クスクス

(なんでも素直に反応する子だな···)

サトコさんのいろいろな反応を見ていると、最近の疲れが癒されていくように感じた。

そして雑貨屋を回り、私たちはカフェにやって来た。

颯馬
はい、これはサトコさんの分です

サトコ
「え?なんですか?」

颯馬
開けてみてください

サトコ
「!?!?」

先ほど雑貨屋で見ていた骸骨のストラップが現れ、サトコさんは目をパチクリさせる。

サトコ
「···私に、ですか?」

颯馬
そうですよ。私からのプレゼントです

サトコさんは面食らっていたものの、その場で一緒にストラップをつけた。
サトコさんがストラップをつけたことを確認すると、彼女にバレないように息を漏らす。

(これで、完了ですね)

彼女に渡したストラップには、発信器を付けていた。

(これから先、潜入捜査で何があるか分からない。これがあれば、少しは安心だろう)

寮に戻ると、石神さんからモニタールームに来るように呼び出された。

石神
例の麻薬捜査の件で、動きがあった

颯馬
そうですか···

石神
今夜あたりになりそうだな···

颯馬
はい、そうですね···

石神
その捜査資料に目を通しておいてくれ

颯馬
了解しました

石神さんがモニタールームから出て行き、捜査資料に目を通していると、
息を切らせたサトコさんがモニタールームに飛び込んできた。

サトコ
「そ、颯馬教官っ!」

颯馬
サトコさん!?···どうかしました?

サトコさんから話を聞き、パソコンにSDカードを差して映像を確認した。

颯馬
······

(杉村さんが危ない···すぐにでも助けに行きたいが···)

チラリとサトコさんを見ると、今にも部屋を飛び出しそうな勢いだった。

(これ以上、彼女を危険な目に遭わせるわけにはいかない)

杉村さんを捨て駒にすることを伝えると、案の定サトコさんは反論してきた。

(本当にこの子は···どこまで真っ直ぐなんだ)

颯馬
···サトコさんは今日限り、私の補佐を降りていただきます

サトコ
「えっ!?そんな···!」

そして3日間の自宅謹慎を告げ、寮に帰した。

寮に視線を向けると、サトコさんが寮から出て行く姿が見えた。

(あの子が大人しく言うことを聞くわけない、か···)

後藤
いいんですか?

颯馬
私たちの邪魔さえしなければ、あの子がどう動こうが関係ありませんよ

口ではそう言いながらも、走りゆくサトコさんの姿に不安が募っていった。

颯馬
···それでは、私は先に行きますね

後藤
あっ、周さん···!

私は後藤にあとのことを任せ、サトコさんの後を追った。

港に着くと、サトコさんはひとりで大勢の犯人たちと対峙していた。

(あの子は、またあんな無茶をして······)

後から来た石神さんたちと作戦を立て、私は配置に着く。
トラックが止まり、人が降りてくるのを確認すると銃を構えた。
狙いを定めて、引き金を引く。

パン!パン!

手下F
「うっ······」

手下G
「ぐあっ···」

サトコ
「あっ!」

サトコさんは私の姿を見つけ、小さく声を上げた。

颯馬
サトコさん。無茶しすぎですよ
あまりに危険だから、謹慎にしたのに

サトコ
「···どうして···ここが···」

サトコさんの肩は、小刻みに震えている。

(サトコさん···震えるくらい怖い思いをしてまで、ひとりで犯人に立ち向かってたのか···)

震えながらも気丈に振る舞おうとする彼女の姿を見て、ぎゅっと胸が締め付けられる。
私はそれに気付かない振りをして、サトコさんに微笑みかけた。

すやすやと眠るサトコさんを見ながら、あの時のことを思い返す。

颯馬
この小さい身体で、よくひとりで立ち向かいましたね···

(サトコさんがいなかったら、杉村さんの命はなかっただろう)
(それに、無事に犯人グループを逮捕出来なかったかもしれない)

ひとりで犯人グループと対峙しているサトコさんの姿は、今でも鮮明に覚えていた。

颯馬
私はきっとあの時から···

サトコさんのことを強く意識し始めたのだろう。
そんなことを思いながら、彼女の頬をそっと撫でた。

to be continued

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