「守りたい存在」
事件は無事に解決したものの、怪我の為しばらくの間、自宅療養することになった。
颯馬
「ふぅ···」
(森尾に撃たれたところも、だいぶラクになったな)
颯馬
「しばらく放置してしまったし···今日はステファニーの手入れもしますかね」
園芸用の鋏を取り出し、ステファニーの手入れを始める。
(やっぱり、ステファニーを見ているとサトコさんを思い出すな···)
この前の事件の出来事を、ふと思い出す。
颯馬
『オレの何が分かる?何を知ってる?』
サトコ
『分かりません!でも、分かりたいと思うんです!』
『私は、颯馬教官が大切なんです!ずっとそばにいたいんです!』
颯馬
「フフ···」
その時のことを思い出すだけで、笑みがこぼれる。
(あそこまで真っ直ぐぶつかってくる子は初めてだな)
(純粋で、真っ直ぐで、だけどどこか不器用で···目が離せない)
(彼女のおかげで私はまた、人を信じられるようになったんだ···)
彼女の姿を思い浮かべると、胸が温かくなるのを感じた。
(ちゃんと、彼女の気持ちに応えよう)
(今度は···オレがサトコさんを守っていくんだ)
数日後。
無事に復帰を果たし廊下を歩いていると、黒澤と歩に絡まれているサトコさんの姿を見かけた。
黒澤
「周介さんは女関係に関しては百戦錬磨ですからね!」
東雲
「でもあの時の告白、後藤さんでさえちょっと照れてたのにね」
「後藤さんすら気付くのに、颯馬さんが気付かないなんてありえないんじゃない?」
(まったく、あの2人は何を話しているんだか···)
私はため息をつくと、サトコさんの肩をぽんっと叩く。
颯馬
「あまり、私の補佐官をいじめないでもらえますか?」
サトコ
「そ、颯馬教官!」
黒澤
「そんな、いじめてないですよ~」
颯馬
「そうですか?サトコさんは困っていたようですけど?」
笑顔で凄みをきかせると、黒澤たちはそそくさと立ち去って行った。
サトコさんは今の話を聞かれていたのかと、そわそわしている。
(フフッ、この表情を見ていたら何を話していたかなんて丸わかりだけど···)
(それを伝えたらどういう反応をするのだろうか)
サトコさんのことだから、きっと可愛らしい反応を示すのだろう。
試してみたかったけど、そろそろ講義の時間が迫っていた。
颯馬
「では、次の講義に遅れないように来てくださいね」
サトコ
「は、はい···!」
サトコさんをからかいたい気持ちを抑え、私はその場を後にした。
数日後。
私は佐々木さん伝手に、サトコさんを個別教官室へ呼び出した。
サトコ
「あの、ご用でしたか?」
颯馬
「ええ。書類整理をお願いしようと思ったんです。いいですか?」
サトコ
「はい!このファイルですね」
サトコさんは慣れた手つきで、ファイリングしていく。
颯馬
「だいぶ、手慣れてきましたね」
サトコ
「颯馬教官のおかげです。最初にすごく丁寧に教えていただいたので」
颯馬
「···私も、貴女に教えてもらったことがありますよ」
サトコ
「え?」
私はサトコさんへの想いを自覚したあの時のことを思い返しながら、
ひとつひとつ言葉を紡いでいく。
颯馬
「私の中に、今まで···『誰かを信じる』という気持ちは欠落していました」
「石神さんも後藤も、ここぞという時にはちゃんと私を信頼して任せてくれる」
「それでも···私自身は、周りに対してその気持ちを持つことができなかった」
それは、妹を見殺しにしまったという事実が大きく関係している。
(自分の選択肢が間違えていなければ、妹は死なずに済んだのかもしれない···)
(そう思わずにはいられなかったんだ)
(誰も信じられない···)
(自分自身すら許せなくなるほど、信じることが出来なくなってしまっていたんだ)
だけど、それを変えてくれたのは···。
颯馬
「···でも、もう少し···皆を信じてみようと思います」
サトコ
「えっ?」
颯馬
「私たちが閉じ込められたあの時」
「まさか石神さんたちが、上の指示が出る前に来てくれるとは思いませんでした」
「でも、貴女はそれを信じていた···私よりも、皆との付き合いは短いはずなのに」
(それなのに、皆を信じるサトコさんの言葉で···)
(私は大切なことに気付くことができたんだ)
(公安はオレの居場所なのだ、と···)
颯馬
「それに···自分の居場所である公安のみんなも大事ですが」
「私にとっては、サトコさんはそれ以上に大切ですよ」
サトコ
「えっ?」
サトコさんは私の言葉に、バサバサと書類を落とす。
サトコ
「あっ···す、すみません!」
颯馬
「フフ···大丈夫ですか?」
(思った通りの反応をするな···)
サトコ
「あの、教官···い、い、今の···その、補佐官として大切、ってこと···ですよね?」
恐る恐る聞くサトコさんに、口元が緩みそうになる。
(わざと聞いているのか、本気でそう思っているのか···まぁ、彼女なら後者なんだろうけど)
(クスッ···本当に可愛い反応をする子だ)
颯馬
「貴女のことは···一人の女性として、とても大切に思っているんです」
サトコ
「···え?」
颯馬
「これからも、私の補佐官として···それに、恋人として、そばにいてください」
私はありったけの想いを込めて、彼女にそう伝えた。
あの時のことを思い出し、サトコさんの頬に触れる。
颯馬
「オレを変えたのは他の誰でもない、サトコなんだよ」
サトコ
「颯馬···教、官···」
颯馬
「クス···本当、どんな夢を見ているんだろうな」
微笑みながら、大切なことを教えてくれた愛しい彼女の額にキスをする。
サトコ
「う、ん···あれ?颯馬、教官···?」
颯馬
「おはようございます」
サトコ
「おはようございます···え!?」
サトコさんは驚き、身を引こうとする。
私は逃がさないように肩を抱き寄せて、彼女のこめかみにそっと唇を寄せた。
(真っ赤になって···本当、何度可愛いと言っても言い足りないな)
颯馬
「こんなことくらいで照れて、この先どうするんですか?」
サトコ
「え···」
颯馬
「私の愛を全部受け止めたら、身が持ちませんよ」
顔どころか耳まで真っ赤にした彼女の肌に、唇を這わせる。
颯馬
「···昨日の続き。もっと、貴女を感じさせてくださいね」
サトコ
「そ、颯馬教官······」
颯馬
「···名前」
サトコ
「え···?」
颯馬
「名前で呼んでくれないんですか?」
サトコ
「そ、それは···」
しどろもどろになるサトコさんの耳元に、唇を寄せる。
颯馬
「···ねぇ、サトコ。オレのこと名前で呼んでよ」
サトコ
「っ···!しゅ、周介、さん···」
颯馬
「よく出来ました」
サトコ
「んっ···」
ご褒美に、深く口づけをする。
吐息が絡み合い、息が絶え絶えになってもサトコを逃がさない。
(サトコ、ありがとう···)
心の中でそう呟きながら、オレはサトコと一緒にベッドに身を沈めた······。
Happy End