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魅惑の!?恋だおれツアー! 黒澤1話

黒澤
~♪

サトコ
「······」

(透くん···?)

バスの一番後ろに座っているのは、どう見ても彼ーーな気がする。

ガイド
「あの、お客様···」

サトコ
「はい?」

ガイド
「実はバス酔いしやすいというお客様がいらっしゃいまして···」
「もしよろしければ、前のお席を後方のお席と変わっていただくことは···」

サトコ
「構いませんよ···」

ガイド
「ありがとうございます!では、こちらが新しい座席チケットになります」

(新しい席は後ろの···一番後ろ!?)
(透くんの隣···)

黒澤
······

サトコ
「······」

(うわ、満面の笑顔···)
(バスに乗って、座席の交換を頼まれた隣に透くんがいるなんて、こんなことある?)

サトコ
「別のバスだったかな···」

一度バスを降りてツアー名を確認しようと踵を返すと。

黒澤
合ってます、合ってます!これこそ、サトコさんが申し込んだツアーですよ!

慌てたように立ち上がった透くんが、私の二の腕を掴んで後部座席に引っ張って行った。
半ば強制的に横に座らされる事態になり、私は半眼で透くんを見る。

サトコ
「どういうことか教えてくれる?」

黒澤
いや、聞いてみれば簡単な話ですよ

サトコ
「ぜひ、聞かせて?」

颯馬さんから盗んだ笑顔の問い詰め術を透くんに向けてみると。
ハハッという乾いた笑いが漏れた。

黒澤
サトコさんを心配する気持ちからだったんですよ?
普段は行かない美容院に行ったり、臨時収入があったわけでもないのに服を新調したり

サトコ
「だから、どうしてそれを知ってるの···?」

黒澤
愛のテレバシー?

サトコ
「やっぱり私、別のバスに···」

黒澤
いやいや!ちょっとした仕事のついででカード会社の、ね?
でも、水臭いじゃないですか~
バス旅行に行くなら、どうしてオレを誘ってくれないんですか?

サトコ
「それは···」

黒澤
恋人なのに冷たいですよ

サトコ
「う···」

弱いところを突かれ、今度はこちらが言葉に詰まる。

(恋人ならバス旅行に誘って欲しいというのは普通なこと)
(でも、今回は···)

そう、どうしても透くんを誘えない理由があったのだ。

(バレたら引かれちゃうかもしれないし···)

黒澤
何かバレたら困ることなんて···

サトコ
「!」

顔を覗き込まれ、透くんの黒髪がサラッと音を立てた。
爽やかな動きとは裏腹に、その漆黒の瞳が私の頭の奥まで覗いてくるーーような気がする。

(うまく誤魔化さないと!)

サトコ
「透くんは仕事かなと思って。最近、石神班忙しそうだったから」

黒澤
ですよね。隠し事なんて、サトコさんに限ってないない
でも、仕事の心配なら不要ですよ
サトコさんの為なら、いくらでも放り出しますから

サトコ
「それ、石神さんの前でも言える?」

黒澤
まさか!いないから言えるんじゃないですか

ケロッと笑う透くんは今日も絶好調だ。

黒澤
とにかく無事に合流できて良かったです
今日は、めいっぱい楽しみましょうね!

サトコ
「う、うん···」

(こうなったら、何とかバレないようにしつつ、ツアー参加目的を果たさなければ!)

透くんに笑顔を向けつつも、私の頭はこれからの計画でいっぱいだった。

バスが着いた先は、東京と隣接しているある県の観光地。
地元の大きな神社の門前町として栄えている場所だった。

黒澤
はい、じゃあ、サトコさんはこの旗についてきてくださいね★

(その添乗員さん風の旗は手作り?)

黒澤
この門前町の歴史は古く、そもそも室町時代まで遡り···

どう考えてもツアーガイドより詳しい説明が蕩々と語られる。

(どれだけ下調べしてきたの···というか、いつからこのツアーのこと知ってたの!?)

気になることが多すぎて、門前町の説明にも観光にも集中できない。

(まあ、私の真の目的は観光ではないから、今のうちに気持ちを立て直して···)

黒澤
ここ、修学旅行生が多いですね~

サトコ
「言われれば···」

黒澤
修学旅行とか、超青春ってカンジでいいですよね!

サトコ
「確かに、学生時代の旅行って特別かも」

(長野にいた頃、何回か東京に行ったけど···やっぱり思い出深いのは学生時代の時な気がする)
(あの頃は透くんみたいな彼ができるなんて想像もしてなくて···)

彼との出会いを感慨深く思いながら、傍らを向くと。

黒澤
ああ···絶対可愛かったですよね!サトコさんの制服姿···

肝心の彼はかなり夢見る顔で空を見つめていた。

黒澤
セーラー服、ブレザー···どっちもいいな~。いや、むしろどっちかなんて選べない!
···どうしてオレ、学生時代のサトコさんとのツーショット持ってないんでしょうね?

(むしろ、どうしてそういう質問を真顔で出来るの···?)

サトコ
「透くんが長野の学校にいないからだよ?」

黒澤
なぜ?

サトコ
「いや、それは透くんと生まれ育った土地が違うからでしょ」

黒澤
それは、なぜなの?

サトコ
「······」

(···冗談言ってるんだよね?目が笑ってないように見えて、少し怖いんだけど)

黒澤
そんな顔しないでくださいよ~
それだけ学生時代のサトコさんと一緒に過ごしたかったって意味です
せっかく同い年で生まれたんですから

サトコ
「透くんが同級生だったら···今頃、私のアルバム倍くらいになってたかもね」

黒澤
それから、その数倍データでしょうね

サトコ
「はは···」

そこは冗談ではなさそうで、乾いた笑いを返す。

(写真を撮ってくれる気持ちは嬉しいけど、自分の写真ばっかりいるかって言われるとなぁ)

黒澤
オレの制服姿も気になりません?

サトコ
「え···」

(どんな制服でも透くんは透くんだし···)

制服よりも、この目力の強い顔の方にどうしても意識が行ってしまう。

黒澤
気にならないワケないですよね~

サトコ
「あ、うん、まあ···どっちだったの?学ラン?ブレザー?」

黒澤
そこでまさかの私服

サトコ
「私服の学校だったんだ?」

(それはちょっと想定外だったかも)

黒澤
ふふ、ヒミツ★

サトコ
「······」

(自分から聞いておいて···)

黒澤
秘めた過去がある男の方が魅力的ですからね

サトコ
「じゃあ、私も過去は秘めておこうかな」

黒澤
え、オレが収集している超個人的なプライバシー情報以外にも、まだ秘密が!?

サトコ
「···職権乱用してるなら、石神さんに言うよ?」

黒澤
冗談ですって、冗談

(透くんとの会話は何が冗談で何が本気なのか判断が難しい···)
(でもこれって公安員としてはかなりの能力だよね)
(ナチュラルボーン公安マン!)

日頃叱られっぱなしでも、石神さんが透くんを手元に置いている理由を肌で感じていると。

黒澤

透くんが不意に足を止めた。

サトコ
「どうかした?」

黒澤
サトコさん、アップルンルンって知ってます?

サトコ
「!」

(アップルンルンといえば···)

黒澤
ほら、あそこのお店の軒先にぶら下がってるリンゴのマスコット

サトコ
「ええと···ゆるキャラ···だっけ?」

(ゆるキャラにして、私がこのツアーを申し込んだ理由!)

何を隠そう、私はこのゆるキャラーーアップルンルンに今盛大にハマっていた。

黒澤
最近、人気急上昇中なんですよね。今年のゆるキャラ選挙で5位だったとか

サトコ
「4位だよ」

黒澤
え、そうでしたっけ?

(あ、つい···)

サトコ
「ニュースでやってたのを見て···」

黒澤
ああ、特集でよくやってますよね
実は、今日ここでアップルンルンのステージショーがあるんですよ!

サトコ
「そ、そっか」

(それが目的なんだけど!)
(どうしよう。ここで正直に来た目的を伝えるか···)
(でも、ゆるキャラに会うためにバスツアーに参加したなんて子どもっぽいと思われるかも)

黒澤
ショーの後に握手会もあるみたいで

サトコ
「朝から整理券を配るってやつでしょう?」

(本当はそれにも参加したかったんだけど)
(配布1時間くらいでなくなるって話だから諦めたんだよね)

黒澤
そうなんですけど、それがここに2枚あります

サトコ
「え、どうしてここに!?ここに着いたの、ついさっきなのに」

黒澤
それを手に入れちゃうのが、オレが黒澤透たる由縁なんですよね~
どうします?これ

2枚の握手券をぴらっと見せ、透くんがニコッと笑う。

(参加したいに決まってる!でも···)

すぐにでも食いつきたい気持ちをグッと堪える。

(いつもの透くんだったら、『握手券があるんで参加しましょうよ!』とか言うよね?)
(『どうします?』なんて、わざわざこっちの反応を探って来るなんて···)
(もしや···)

黒澤
サトコさん?

(私がアップルンルン目的でツアーに参加してることを、初めから知ってる!?)

サトコ
「···透くんは、どうしたい?」

(まさか、ゆるキャラネタで腹の探り合いになるなんて···)

内心の動揺は悟られぬよう、私も笑顔で聞いてみる。

黒澤
オレはサトコさんがいいのでいいですよ

サトコ
「透くんの意見も聞かせて?」

黒澤
いやいや、サトコさんの

サトコ
「いやいや、透くんの」

(って、私たち恋人なんだから、こんな会話···)
(もう正直に言っちゃおうかな。アップルンルンに会いに来たって···)

サトコ
「あのね、私···!」

黒澤
あ、もうこんな時間!アップルンルンのステージショー始まっちゃいますよ!

サトコ
「え!?」

透くんが私の手を掴むと、門前町に設置された簡易ステージの方へと走り始めた。

司会
「皆さん、元気な声でアップルンルンって、呼んでくださいねー!」

黒澤
はーい!

サトコ
「は、はーい···」

(もうすぐアップルンルンが登場してしまう。透くんには、本当のことを言えないまま···)
(アップルンルンを前に、どういうリアクションをすればいいの!?)

決断ができないまま、すぐそこまで待望のアップルンルンが迫っていたーー

to be continued

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