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魅惑の!?恋だおれツアー! 黒澤2話

ゆるキャラ・アップルンルンが好きと透くんに告白できないまま。

司会
「アップルンルンー!」

黒澤
アップルンルンー!

サトコ
「アップルンルン···!」

アップルンルン
「はーいップルン!」

(本物のアップルンルン!)

ステージをちょこちょこと歩く愛らしいアップルンルンにテンションが上がる。

サトコ
「アップルンルンー!」

思わず両手を挙げてアピールしてしまってから、隣の透くんの存在にハッとする。

(今ので、きっと···)

バレてしまっただろうと、傍らを見てみると。

黒澤
······

サトコ
「透くん?」

透くんは俯いて肩をプルプルと震わせている。

(笑ってる!?やっぱり、ゆるキャラ好きなんて子どもっぽいって···)

黒澤
カワイイ···

サトコ
「え?」

黒澤
本当にどうして誘ってくれなかったんですかー!

サトコ
「ええ!?」

ガバッと顔を上げた透くんが私の両肩を掴んだ。

黒澤
アップルンルン、最高にカワイイです!
いや、正確に言うなればアップルンルンを見るサトコさんが···ですが

サトコ
「ん?」

横を向いてポツリと付け足された言葉は私の耳には届かなかった。

黒澤
好きなんですか?アップルンルン

ステージ上のアップルンルンダンスをチラッと見れば、頬が緩む。

(もう隠してはおけない···)

サトコ
「うん···このステージが目的でツアーに参加したの」

黒澤
それならそうと、初めから言ってくれればよかったのに

サトコ
「ゆるキャラにハマってるなんて子どもっぽいかなと思って。恥ずかしくて···」

黒澤
恥ずかしくなんてないですよ!カワイイは正義です
オレなんて年中カワイイサトコさんの追っかけをしてるんですから

サトコ
「透くん···」

(カワイイなんて···何度言われても照れ···)
(ん?待って、この流れだと、私はゆるキャラと同枠?)

小さな疑問が胸を過ったものの。

サトコ
「透くんも気に入った?」

黒澤
もちろんです!

(よかった!)

黒澤
じゃあ、張り切って握手会に参加しましょう!

サトコ
「うん!」

アップルンルンダンス、アップルンルン体操と続き、最後は握手会。
透くんが入手してくれた握手券のおかげで、私たちは列に並ぶことができた。

アップルンルン
「こんにちはップルン!」

サトコ
「こんにちは!」

黒澤
うわ、ツーショット可愛すぎでしょ!目が潰れる!

サトコ
「ちょ、透く···」

黒澤
この角度も、こっちの角度もいい!撮影用のドローン持ってくればよかったな~

透くんがあらゆる角度から写真を撮りまくる。

男の子
「あのお兄ちゃん、動きがおもしろーい!」

サトコ
「恥ずかしいよ···」

アップルンルン
「プルン···」

黒澤
はい、二人ともこっち向いてー!

(アップルンルンより、透くんの方が目立ってるような···)
(ツーショットを撮ってもらえるのはうれしいけども!)

サトコ
「透くんも握手して!私が撮るから」

黒澤
じゃあ、せっかくなので···

透くんがいそいそとアップルンルンの前にやって来て、ぎゅっと手を握った。

黒澤
わー、手もフワフワなんですねー!
このフワフワでサトコさんを夢中にさせてるなんて···
ゆるせな···いえ、ゆるキャラさすがですね!

アップルンルン
「い、いた···」

(今、アップルンルン、『痛い』って言わなかった···?)

透くんが握るアップルンルンの手に、やけにシワが寄って見えた。

サトコ
「そろそろ、後ろが詰まってるから···」

黒澤
そうですね。アップルンルン、ありがとルン!

アップルンルン
「ありがとルン~♪」

私よりもハイテンション気味の透くんと共にアップルンルンの前をあとにした。

黒澤
楽しかったー!撮った写真、あとで送りますね

サトコ
「うん。ありがとう」

(いろいろ心配してたけど···)
(透くんは私が楽しむものを一緒に楽しもうとしてくれる人なんだよね)

サトコ
「ありがとう」

黒澤
え、何がですか?

サトコ
「いろいろ」

黒澤
お礼を言うのはオレの方ですよ
素敵な笑顔を、たくさん見せてもらったんですから

屈託のない彼の笑顔に、胸の奥がジワッと温かくなる。

サトコ
「そういえば、さっきどれくらいの強さでアップルンルンの手を握ったの?」

黒澤
大した力じゃないですよ?親愛の情を伝えるくらいの強さで

サトコ
「でも、『痛い』って言ってなかった?」
「このくらいの強さ?」

さりげなく透くんの手を握ってみる。

黒澤
あー···もうちょっと強いですね

サトコ
「これくらい?」

黒澤
もうちょっと

握る力が強くなれば、その分互いの距離が縮まる。

サトコ
「これは?」

黒澤
うーん、惜しいです

肩がトン···と触れ合えば、自然に顔を見合わせた。

サトコ
「これより強くって、やっぱり強すぎたんじゃない?」

黒澤
もっと強くても全然大丈夫ですよ

やっとデートらしい雰囲気になった頃。

黒澤
もう少し観光気分を楽しみたいところですけど、そろそろバスに戻る時間ですね

サトコ
「本当だ···あっという間だったな」

黒澤
それだけ楽しかったってことですよ

サトコ
「そうだね」

(バスの中で透くんを見つけたときはどうなることかと思ったけど)
(一緒に来られてよかった)

チラッと見えたアップルンルンの物販まで買う時間は取れなかったけれど。
大満足のバスツアーだった。

黒澤
旅行から帰ってくると、家がいつも以上に特別に感じられますよね~

サトコ
「私の家だけどね?」

黒澤
サトコさんの家はオレの家みたいなものですよ★

さも当然といった顔で透くんが一緒の家に帰って来たのは、数分前のこと。

(私も今日はまだ一緒にいたかったから、嬉しいけど)

サトコ
「日本茶でよかった?」

黒澤
ありがとうございます。ちょうど日本茶が飲みたいなーって思ってたところなんです

サトコ
「今日はいろいろ付き合ってくれて、ありがとうございます」

黒澤
オレも楽しかったですよ
でも、サトコさんがアップルンルンにハマったのって本当に最近なんですね

サトコ
「そうだけど···どうしてわかるの?」

黒澤
部屋にアップルンルンのグッズが全然ないから
何かハマったきっかけとかあるんですか?

サトコ
「!」

(そ、それは···!)

今回のバスツアーを透くんに知られたくない1番の理由は、実はここにあった。

(初めてテレビでアップルンルンを見た時···)
(笑顔で縦横無尽に動くところが透くんに似てると思ったなんて···言えない!)

サトコ
「き、きっかけとかは別に···テレビで見て可愛いなって思っただけで···」

黒澤
どうして、そこで目を逸らすの?

透くんの笑顔が追いかけてくる。
その黒い瞳はしっかりと私を捕らえて離さない。

サトコ
「逸らしてなんかないよ?」

黒澤
じゃあ、オレの目を見つめてください

サトコ
「う、うん···」

黒澤
······

サトコ
「······」

ぐっと近づけられる透くんの顔。
アップルンルンと透くんのことを重ねた瞬間のことが脳裏に蘇ってきてーー

サトコ
「···っ」

黒澤
顔、真っ赤になってる。アップルンルンのほっぺより赤い

彼の指先が頬に触れた。
体温を馴染ませるような触れ方は優しいのに、顔を動かすことができない。

黒澤
こんなに赤くなるなんて···特別な理由があるんですよね?

答えを引き出すように、いつもより低く甘めの声が耳に流れ込んでくる。

(もう言うしかない···)

サトコ
「透くんに、似てると思ったから···」

黒澤
···はい?

サトコ
「アップルンルンの笑顔で縦横無尽に動く姿が、透くんに重なって。それで···」

黒澤
オレに似てるから···好きになったんですか?

サトコ
「う、うん···」

頬がますます熱くなって、顔がどんどん下を向いていく。
すると、私とは正反対に透くんの顔が上を向いていくのがわかった。

サトコ
「透くん···?」

視線だけ上げて見てみると、透くんは天井を仰いでいた。

黒澤
オレ、生きててよかった···

サトコ
「え?」

黒澤
幸せって、人生の意外なところに潜んでいるんですね···
日々の小さな幸せこそが人生の幸せを作るって、公安課の皆さんに教えてあげたい!

(皆さんの前で、そんなことを言った日には···)

石神
······

東雲
······

瞬殺。

加賀
ちっ

百瀬
「ちっ」

舌打ち。

颯馬
何か言いました?

津軽
気のせいでしょ

なかったことに。

後藤
そういうものかもしれないな

共感。

(あ、黒澤さんが後藤さんに懐いてる理由、分かった気がする···)

黒澤
はい、これお土産

手に上に小さな何かが乗せられた。

サトコ
「これ···アップルンルンのキーホルダー!いつの間に···」
「時間なかったからグッズは諦めてたのに」

黒澤
お揃いです

サトコ
「ありがとう!大切にするね」

黒澤
オレのことも大切にしてくださいね

サトコ
「もちろ···んっ」

食むように軽く唇を重ねられる。

黒澤
大切にしてくれないと、今日の秘密、バラしちゃうかも

サトコ
「!」
「そんなの···っ」

黒澤
心配、いりませんよね?

僅かに濡れた唇に吐息がかかる距離で尋ねられる。
透くんを大切にするとーー約束する言葉。

サトコ
「聞くまでもないでしょ?」

答えを教えるように自分からキスをすると。

黒澤
うん

より深い口づけが返って来た。

週明けの公安課。

津軽
ウサちゃん、ちょっと

サトコ
「はい、何ですか?」

黒澤
サトコさんはリンゴちゃんなのになぁ···

サトコ
「!?」

津軽
リンゴちゃん?

(透くん、突然何を言い出してるの!?)
(秘密にするって···)

黒澤
♪~

透くんの方を見ると、彼は鼻歌を歌いながらデスクに向かっている。

津軽
ああ、そっか···そうなんだ、ウサちゃん

サトコ
「そうなんだって···」

津軽
だって、それ···

サトコ
「それ···?」

津軽さんが何かを見つめていて、その視線を追ってみると。

サトコ
「!」

(アップルンルンのキーホルダーがカバンに着けられてる!)
(誰が···)

黒澤
♪~

(考えるまでもない···)

津軽
リンゴのマスコットつけるほど、俺のこと慕ってくれてるんだ

サトコ
「え···?」

黒澤
は?

津軽
わかるよ。リンゴは津軽の暗喩···ウサちゃんって、可愛いところあるね

サトコ
「いや、これは···」

黒澤
これは津軽リンゴじゃなくて
サトコさんの大好きなアップルンルンなんですー!

サトコ
「!!」

透くんの叫びに完全に白くなったのはーー私だった。

Happy End

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