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魅惑の!?恋だおれツアー! 津軽1話

待望のバスツアー。
乗り込んだバスの中にいたのはーー

津軽
あ、ウサちゃん。ここ、ここ

サトコ
「はい?」

ポンポンとバスの座席を叩くのは、見間違えようもない美形の上司。

サトコ
「なんで···いるのは鳴子のハズなのに···?」
「え?まさか2人が入れ替わってる?」

津軽
なにバカみたいなこと言ってるの

混乱の中でこぼれた言葉には、あきれたような声が返ってきた。

サトコ
「そりゃバカみたいなことも言いますよ!私は鳴子と行く約束したんですよ?」
「『牧場めぐり・幻のチーズを求めて』のバスツアーに···!」

(牛乳毎日飲んで応募券集めて、やっと当選したツアーなのに!)

津軽
鳴子ちゃんから聞いてないの?急に仕事入っちゃったんだって

サトコ
「え···」

(そういえば、朝から浮かれてスマホのチェックもしてなかった!)

津軽さんからの指摘にLIDEを見れば、早朝に鳴子からの連絡が来ていた。

サトコ
「ほんとだ···呼び出しが入ったって···鳴子、楽しみにしてたのに···!」

(お土産、いっぱい買って帰るからね!)

津軽
そろそろ出発だから、早く座りなよ

サトコ
「あ、はい」

うながされつい座ってしまったけれど、津軽さんが隣にいる理由は何も聞いていない。

サトコ
「···で、何でなんです?」

津軽
何が?

サトコ
「だから、どうして鳴子の代わりが津軽さん···」

津軽
俺に黙ってバスツアーなんて、ウサちゃんのイケズ

サトコ
「······」

(説明する気、ゼロ···)

津軽
まあ、気にする気持ちもわかるけどね

サトコ
「え···」

動き出したバスに、ふっと津軽さんが窓の方に顔を向けた。
意味ありげな横顔に内心ドキッとさせられる。

(津軽さんへの想いは洩れないようにしてるのに!?)

サトコ
「わ、わかるって、何がですか?」

津軽
ほら、バレちゃったじゃん。俺たちのこと

サトコ
「だ、誰に、何が···」

津軽
昴くんに言われちゃったでしょ。俺のせいでキレイになったって

サトコ
「それ···」

一柳昴
「随分キレイになってるけど、男か?」

サトコ
「あれが本当だとしたら、私をキレイにしたのは “幻のチーズ” ですね···」

津軽
チーズ好きなら、この “チーズ風味酢昆布” あげるよ

サトコ
「ちょ、ん···っ」

(チーズの風味と酸っぱさと昆布の磯くささが混ざり合って···)
(まずっ!)

津軽
バス酔いには、酸っぱいものがいいんでしょ?
レモンコーヒーもボトルで持ってきたから、いつでも言ってね

サトコ
「だ、大丈夫です···」

(むしろ気持ちが悪くなる!)
(津軽さんには悪いけど、この味覚の人とじゃせっかくのチーズが···!)

台無しになる可能性大だ。

津軽
ねぇ、ウサちゃんのおやつは?

サトコ
「持ってきてませんよ」

津軽
ウソ。バスって言ったら、おやつでしょ
もー、仕方ないなぁ。俺の半分わけてあげるよ

サトコ
「大丈夫です!私はサービスエリアでいろいろ食べようと思ってるので!」

津軽
そう?ま、それも楽しそうか

とりあえず納得してくれたのか、津軽さんは “チーズ風味酢昆布” を食べながらシートに沈んだ。

津軽
アイマスクもあるからね

サトコ
「はぁ···仮眠用ですか?」

津軽
耳栓とネックピローも

サトコ
「このバスツアー片道2時間くらいなんですが」

(どれだけ準備万端なの?)
(もしかして、結構楽しみにしてたとか···?)

窓に頬杖をついている津軽さんをチラッと見てみると。

津軽
ん?エア枕より、俺の腕枕の方がいい?

サトコ
「そ、そんなこと言ってないです!」

津軽
俺はウサちゃんを枕にする方がいいけどなー

(ニヤニヤして!からかう気満々なんだから!)

津軽
···なんで通路の方に寄るの

サトコ
「気のせいじゃないですか?」

津軽
もっとこっちにおいでよ

サトコ
「ちょ···!」

グッと肩を抱き寄せられれば、まるでごくごく普通のカップルで。

(考えたら、これって捜査でも何でもなく、ただ津軽さんとバスツアーに···)
(デート···なんて期待しないけど!今日は完全に牧場仕様の頭と格好だよ···)

津軽
ウサちゃんてさ、一張羅一枚しかないタイプ?

サトコ
「だって、お給料が···」

津軽
ん?お口返し縫して欲しい?

サトコ
「いえ···」

津軽さんと出掛けると分かっていれば、もう少しおしゃれも頑張りましたーーなんて。
答える訳もなく、酢昆布くささの隣で、ただバスに揺られていた。

津軽
うわー、家畜臭いねー

サトコ
「草木の匂いって言ってくださいよ···」

バスは予定通り牧場に到着し、気が付けば周りはカップルだらけ。

(ペアでご当選の場合は、ほぼカップルになるんだ···)
(ということは、私たちも傍から見れば···)

鳴子曰く “全人類の宝” であるイケメンとカップルに見えてるのだろうか。

津軽
俺とウサちゃんもさ

サトコ
「は、はい!?」

津軽
早くあの牧羊犬と羊みたいな関係になりたいよね

サトコ
「全く意味がわかりません···」

津軽
モモを見習いなよ?

(人をダメな子みたいに!納得いかない···)

サトコ
「さー、チーズ作りと乳搾り頑張ろうかな~」

津軽
乳搾りって、響きがいやらしいよね

サトコ
「いやらしいのは津軽さんです!」

思わず声が大きくなってしまい、周りの注目を集めてしまった。

サトコ
「あ···」

津軽
恥ずかしい子

(誰のせいだと···!)

津軽
俺って都会っ子だから、牧場体験とか上手くできるかな~

ジロリと睨む視線は完全に無視され、
私は津軽さんに手を引かれて牧場の建物へと向かうことになった。

モッツァレラチーズを手作りし、それを使って手作りピザ教室にも参加した。

(うん、なかなかよくできたんじゃないかな!)

焼き上がった自分のピザが目の前に運ばれてきて満足していると。

津軽
初めてなら、こんなもんかなー

サトコ
「津軽さんって、こういうの···」

案外苦手なんじゃ?ーーなんて、肘で突いてみようと隣を見れば。

津軽
退職したらピザ屋さんもいいかも

(な、なに、この完璧なフォルムのピザは!)

サトコ
「え、なんで?」

津軽
なんでって、何が?

サトコ
「どうして、こんなに上手にピザ作れるんですか!?」

津軽
普通に褒めればいいのに
津軽さんは顔もいいけど、全部がパーフェクトですねって

サトコ
「···ぜんぶがぱーふぇくとですね」

津軽
負けず嫌いなんだから。俺の方が乳搾り上手かったのも怒ってる?

サトコ
「べ、別に怒ったりなんかしてませんよ」

(釈然としないものはあるけど···いるんだよね)
(こういう涼しい顔で何でも出来ちゃう人って)

津軽
さて、仕上げのスパイスをかけて···

サトコ
「ちょーっ!せっかく最高にできたピザに何しようとしてるんですか!」

津軽
最高のピザって認めるんだ?

サトコ
「認めます!認めますから、謎のスパイスで台無しにしないでください!」

津軽
これ、どこでも持ち歩ける旅行用津軽さん特製スパイスだよ?

サトコ
「その瓶のラベルの字、百瀬さんのですね?」

(こんな時、百瀬さんだったら津軽さんの好きにさせるんだろうな···)
(でも、私は···!)

サトコ
「ひと切れでいいから、そのままで食べてください!」

津軽
そんな必死にならなくても

津軽さんは両手でピザを一切れずつ取ると、1枚を自分の口に、もう1枚を私の口に入れた。

サトコ
「ん···」

(美味しい!レストラン並の味!味覚は壊れてるのに、料理は上手いなんて···!)

津軽
やっぱり、スパイスあった方がいいんじゃない?
これも悪くないけどさ

サトコ
「悪くないどころか、こんなに美味しいのに!」

津軽
そんなに好きなの?俺のこと

サトコ
「津軽さんのピザ、好きですよ」

津軽
キミね、そこは少し焦ったりするとこでしょ

サトコ
「ぐっ···」

もう1枚続いてピザを口に詰め込まれた。

(ほんとに美味しい···)

サトコ
「津軽さんも私のピザ···ああ!私のピザがスパイスまみれに!」

津軽
俺のがダメならウサちゃんのにかけるしかないじゃん

サトコ
「かけないって選択肢もあるじゃないですかー!」

(私のピザが···!)

牧場のおばちゃん
「あらあら、仲良しで羨ましいわね~」

サトコ
「え」

(仲良し···に見えてるの!?)

津軽
ほんと、この子俺が大好きで

牧場のおばちゃん
「あら、のろけられちゃった」

サトコ
「の、のろけ!?」

牧場のおばちゃん
「ピザより熱々のカップルばかりね~」

確かに、周りは自分のことしか見えていないカップルたちばかり。

(私たちも、あの仲間に···?)

津軽
熱々だって。皆に聞かせてあげたいね

サトコ
「ピザ、美味しいですね···」

津軽
それ、ウサちゃんのピザだよ

サトコ
「!!??」

(心臓に悪すぎる···)

“津軽さん特製スパイス” ピザを水で飲み込むと、お土産売り場へと移動した。

(鳴子には、このチーズのセットをクール便で送って···)
(皆さんにはバタークッキーと···美味しそうなもばっかりで迷っちゃうな)

サトコ
「あの、津軽さん。皆さんは···」

どれがいいか、意見を求めようと横を見ると。
さっきまで近くをうろうろしていた津軽さんがいない。

サトコ
「津軽さん?」

(どこに···)

行ったのかーーは、すぐにわかった。

女性A
「このクッキーすっごく美味しいから食べてみてください!」

津軽
ほんと?

女性B
「牧場生搾りのソフトクリームは食べました?まだなら一緒に···」

(この女性ホイホイ!!)

津軽さんの周りには女性の輪ができていて。
あぶれたカップルの片割れである男性陣たちがお土産屋さんの隅で肩を寄せ合っていた。

男性A
「なんであんなイケメンが牧場に!」

男性B
「芸能人かよ!!」

(相手の気力も削ぐほどのイケメン力···このまま放っておくわけには···)

何とかするのが連れの役目だと津軽さんの方を見ると。

津軽
······

(あ···思いっきり目が合った···)

津軽
ごめんね、彼女が妬いてるから戻るね

サトコ
「!?」

女性たち
「きゃー!うらやましーい!」

(こっちに···来るんですか!?彼女とか言った後に!)

津軽
俺には君しか見えてないよ

サトコ
「!」

女性たち
「きゃああっ!!」

サトコ
「私を見世物にするのはやめてください···」

真っ赤にされた顔がさらし者になったのは、言うまでもなかった。

to be continued

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