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カンタンにイチャイチャできると思うなよ 後藤カレ目線

この頃、心が狭くなっている自覚は何となくあった。

津軽
ほら、ウサちゃんはうちの子なんだから、そっちウロウロしてないの
よしよし、さすがうちのウサちゃんだね~

後藤
······

原因はきっと、日々繰り返される “うちの子” “うちのウサちゃん” が
ジワジワと効いてきているのだろう。

(相手は津軽さんだ)
(いちいち気にする方が馬鹿だというのは十分わかっているが···)

慣れるかと思ったが、この手の感情をコントロールしたこと自体があまりなく。
そう簡単にはいかないようだった。

石神班の潜入捜査にサトコが参加することになった。
サトコは給仕係として、周さんは代議士秘書として潜入している。

石神
俺たちも行くぞ

後藤
はい

俺と石神さんはSPとして会場に入る。
会場に危機が潜んでいないか意識を張りつつ、視界の隅でサトコの様子も観察する。

(順調にやっているようだな。堂々としたものだ)

訓練生時代よりも自信を持って任務にあたっているのが分かった。
安心して見守っていられると思った矢先。

男性A
「君、グラスをひとつ」

サトコ
「かしこまりました」

男性A
「ありがとう」

サトコ
「!」

サトコからグラスを受け取った男が彼女の尻を撫でるのが、しっかりと見えた。

(あの野郎···!)

反射的に動きそうになり、爪先に力を入れることで、それをグッと堪える。
その先もかなりの忍耐が必要になったのは、彼女がやたら触れられているからだ。

(おかしい···サトコだけじゃない)
(給仕係の女ばかりがセクハラされているのは、なぜだ?)

サトコに触れようとする男たちを奥歯を噛んで見過ごし、任務に集中しようと努める。
その我慢が募ったせいかーー

一旦待機室に戻り、サトコが給仕係からコンパニオンになるという話になった時だった。

颯馬
ドレスは、これを

周さんが選んだ、露出の高いドレス。
俺が口を出すべき事柄ではないと、わかっていたのに。

後藤
いえ、こっちで

颯馬
······

極力肌の見えない服を推してしまったのは、公私混同で。

サトコ
「これなら、なんとか!」

颯馬
ふふ、そうですね

後藤
······

意味深に微笑んでくる周さんの目を、まともに見ることができなかった。

そして、任務が終わった後の車内。

颯馬
サトコさんとの潜入は訓練生時代以来でしたね

サトコ
「勉強になりました。まだ津軽班では本格的な捜査にはあまり連れて行ってもらえないので」

颯馬
私で良かったら、いつでも力になりますよ

サトコ
「は、はい···」

後藤
······

(戻ってきてから、サトコが周さんと目を合わせないようにしてる···?)

この時はまだ潜入捜査の緊張が残っているからなのかと、思っていたがーー

翌日。

颯馬
大丈夫ですか?

サトコ
「そ、颯馬さん!」

少し離れた場所で、イスから落ちそうになったサトコを周さんが助けていた。

サトコ
「だ、大丈夫です!ありがとうございます!」

颯馬
そう、ですか···

津軽
ねぇ、なんでそんなにぎこちないの?

サトコ
「ぎ、ぎこちないって!全然そんなことないですヨ!」

(津軽さんの言うことに同意することなんて滅多にないが、今日ばかりは···)

俺の目にもサトコはぎこちなく見える。

(周さんとの間に何かあったのか?)

心当たりと言えばーー

颯馬
···っと!

サトコ
「!」

颯馬
ぁ···

サトコ
「ひゃあっ!」

(あの時、何かが···サトコが『ひゃあっ!』と叫ぶような···)

後藤
······

あんな声を出す状況は特殊かつ限られている。
考え出せば、手にしているカップを割ってしまいそうで強引に考えを中断した。

(憶測を重ねていても意味がない。直接聞こう)

そう決めた時、ちょうどサトコが給湯室に向かう姿が見えた。

事の真実は、そこまで意外性は大きくなかったーーと、思い込んでいる。

(いや、こんなことをしている時点で、俺は···)

昨日の報告書を早々に仕上げ、無理に作った空き時間。
誰もいない会議室でPCを広げ、何をしているのかと言えば。

颯馬
···っと!

サトコ
『!』

見ているのは、昨日の監視カメラの映像。

後藤
······

(本当に唇の端に軽く···周さんはサトコを助けてくれたんだ)
(妬く方がどうかしてる)
(···周さんに謝らなければ。突っかかるような態度だった、さっき)

後藤
はぁ···

空回りした自覚はあり、ため息を零すと。

颯馬
ひとりで籠って何をしてるんですか?

後藤

周さん···どうしてここが···

颯馬
ひと言、謝っておきたくて

周さんが後ろ手に、静かに会議室のドアを閉める。

後藤
それだったら、さっき十分···俺の方こそ突っかかるような態度で
すみませんでした

颯馬
昔の後藤を見るようで、嬉しかったですよ
ですが···

ふっと笑いながら、周さんは斜め前のイスを引いて、腰を下ろした。

颯馬
あの時、お前が自分の感情を抑え切れば、『秘密』に彼女を誘いはしなかった

後藤
あの時···?

周さんの視線が心なしか鈍くなり、ぴりっとした空気が流れる。

(昨日、俺が感情を抑えられなかったのは···)

後藤
氷川のドレスを選んだ時···

颯馬
そういうことです。今回は捜査に影響することではありませんでしたが
もう少し感情を抑えられるようにしなければいけませんね
彼女と潜入捜査で組みたいなら

後藤
···はい

颯馬
恋愛禁止の職場ですから。鍛えるに越したことはありません。要は···
カンタンにイチャイチャできると思うなよ···って、ことです

後藤
······

ぐうの音も出せないところは、さすが周さん。

(俺もまだまだ訓練が足りないということだな···)

サトコ
「あ、あの···っ、もう本当にこれ以上の甘やかしは···っ」

後藤
緊張が残ってる。まだだ

サトコ
「だ、だけど···もう十分にほぐされ···っ、あぁっ!」

後藤
もう少し我慢しろ

サトコ
「あ、あぁっ!そこっ!」

後藤
昨日、高いヒールで歩き回ったせいだな。太ももと腰が随分張ってる

今回の任務、周さんに言われたことで、あらためて実感する。

(俺はもっと自制心を鍛える必要がある)

そのために、今夜は徹底的にサトコの望みを優先させようと決めた。
“甘やかし” という名のもとに。

サトコ
「こんなに丁寧にマッサージしてもらうなんて、申し訳ないです···」

後藤
いいだろう、たまには。配属されてから、アンタも働きどおしなんだ

サトコ
「それだったら、誠二さんの方こそ···今度は私にマッサージさせてください!」

後藤
いや···

身体を起こしたサトコに、反対にベッドに押し倒された。

サトコ
「私がやりたいことをやらせてくれるのだって、甘やかしですよ」

後藤
···問題はそれだけじゃない

サトコ
「え?」

彼女の身体が密着し、手が動けばーー

(自制心だ、自制心···!)

サトコ
「···こういう甘やかしもしてほしいって言ったら···ダメ、ですか?」

後藤

顔を赤く染めた彼女が屈んできて、そっと唇が重なれば···

後藤
···敵わないな、アンタには

返す声がすでに掠れている。
どこまで自制心が保つのか···どんな任務より厳しくも甘い夜が待っていた。

Happy End

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