カテゴリー

カンタンにイチャイチャできると思うなよ 加賀1話

サトコ
「はぁっ、はあっ···!」
「加賀さん···加賀さん···!」

(お願い、どうか無事でいて···!)

黒澤

サトコさん···!

廊下を走る私に気付いたのは、病室の前にいた黒澤さんだ。
その隣には、深刻な顔をした石神さんの姿。

黒澤
サトコさん、すみません···オレの···オレのせいで

サトコ
「加賀さんは···!」

石神
······

(嘘···!まさか、そんな···っ)

目の前の病室のドアを開けようとする私を、石神さんが止める。

石神
今入るのはやめておけ···取り込んでる

サトコ
「え···」

黒澤
入らない方が···サトコさんの為だと思います
きっと、辛い思いをすると思いますから···

サトコ
「そんな···!」

(まさか加賀さんは、もう···!)

ふたりの制止を振り切り、病室のドアを開けたーー

サトコ
「加賀さん!加賀さん···!」

加賀
おい花、やめろ

加賀花
「きゃー!ひょーごのあし、ふとーい!」

加賀
痛っ···触んなっつってんだろ

加賀花
「ねー、ひょーごのあし、なんでこんなにふとくなっちゃったの?」

加賀
太いんじゃねぇ。これはギプスだ

加賀美優紀
「兵吾がドジ踏んだ証拠よ」

加賀花
「ひょーご、ドジ!」

加賀
······

サトコ
「······」

ギプスで固定された左足を花ちゃんにいじられながら、加賀さんがベッドに横になっている。
無言でドアを閉めようとした瞬間、ギン!と強い視線を感じた。

加賀
何コソコソしてやがる

サトコ
「ハイ···」

加賀美優紀
「サトコちゃん、ごめんねー。うちのバカが」

加賀
······

黒澤
謝るのはオレのほうです!加賀さん、ほんっとーーーにすみませんでした!

私を追いかけて病室に入ってきた黒澤さんが、最敬礼くらいの角度で頭を下げる。

加賀
うるせぇ、済んだことをガタガタ言うな

黒澤
でも···でも!
あのときオレが足を滑らせて加賀さんの上にダイブしなければ、こんなことには···

加賀
黒澤

ちょいちょい、と加賀さんが指で黒澤さんを呼び寄せた。

黒澤
なんですか···?

加賀
······

黒澤
ああ、痛々しい···そりゃそうですよね、あんなアクロバティックな転び方すれば
あの時の加賀さん、まるで中国雑技団···

ガッと、加賀さんが目の前の黒澤さんの顔面を掴む。

黒澤
!!!???

加賀
済んだことだ

黒澤
痛い!痛いですって加賀さん!

加賀
あのときのことは二度と口にするんじゃねぇ

黒澤
ちょっ、待っ、わかりました!メリメリって言ってる!骨が!

(ああ···私、普段周りから見るとあんな感じなんだ···)

騒ぎを聞いて、石神さんと、その後ろから東雲さんも病室に入ってきた。

東雲
兵吾さん、手続きが終わりましたよ

加賀
ああ

東雲
それにしても仰々しい姿ですね

石神
あんな転び方をすれば、複雑骨折するのも無理はない

サトコ
「複雑骨折···」

東雲
ねぇ、聞いた?兵吾さんがなんで骨折ったか

サトコ
「いえ···話そうとした黒澤さんの末路を見たので、聞く勇気が···」

東雲
今日って加賀班と石神班の合同調査だったんだけど
ようやく犯人を確保したと思ったら、雨が降ってきたんだよね
で、全部終わって建物の裏口から撤収しようとしたら···

石神
黒澤が雨で足を滑らせ、隣にいた加賀もろとも階段から落ちた
結果、加賀が黒澤の下敷きになったという訳だ

加賀
余計なこと言うなって言っただろ

黒澤
えー!オレの時はアイアンクローで、歩さんと石神さんには何もなし···!?

サトコ
「その気持ち、よくわかります···」
「っていうか黒澤さん、なんで私が病室に入る時『辛い思いをする』って言ったんですか?」

黒澤
いえ、花ちゃんと楽しそうにしてるところを見たらサトコさんが嫉妬するんじゃないかと

サトコ
「······」

黒澤
まぁ結果的に、一番つらい思いをしたのはオレでしたけどね!
はあ···まだ骨がみしみし言ってる気がする···

さっきまでの悲壮感はどこへやら、一気に病室が賑やかになった。

加賀美優紀
「本当にすみません、うちの愚弟がご迷惑をおかけして」

黒澤
いえ、オレの方こそ···

石神
加賀、しっかり入院して完治させてから復帰しろ
くれぐれも、勝手に退院して戻って来るなよ

加賀
テメェに言われる筋合いはねぇ

東雲
花ちゃん、兵吾さんによーく言っといてくれる?
ちゃんと治るまで、おねんねしてないとダメですよーって

加賀花
「わかった!はな、ひょーごにきつーくいっておく!」

加賀
チッ···

サトコ
「あ、あの···入院中は誰か付き添ったりするんですか?」

加賀美優紀
「それがねぇ、私も仕事があるし」

黒澤
責任取ってオレが···と言いたいところですけど

加賀
むさくるしい

黒澤
···って、すでに断られたあとです★

東雲
キミがついててあげたら?

サトコ
「い、いいんですか?」

石神
職務に支障をきたさないのなら、お前の自由だ

サトコ
「それじゃ···!」

加賀
必要ねぇ

張り切ってお世話しようとした私に、加賀さんの冷たい声が飛んでくる。

サトコ
「え···」

加賀
ここは病院だ。テメェの世話なんざいらねぇ

加賀美優紀
「こら、兵吾!せっかくサトコちゃんが···」

看護師1
「はーい、加賀さん、検温のお時間ですよ~」

看護師2
「それに、身体も拭きましょうね」

看護師3
「すみません、ちょっと出ていていただけますか?」

入ってきたのは、やたらと色気のあるセクシーな看護師たちだった。

看護師4
「加賀さん、痛みはないですかぁ?」

看護師5
「もう少ししたら回診のお時間ですよ~」

サトコ
「ま、まさかの5人体制···!?」

東雲
手厚いねー

黒澤
まさにハーレム状態ですね!

東雲
あれじゃ、キミの世話なんて必要ないって言われても仕方ないんじゃない?
完全に勝ち目ないし。おとなしく任せておきなよ

サトコ
「ええ···!?ていうかここ、警察病院ですよね!?」
「なんであんなにセクシーなナースたちが···」

加賀
うるせぇ。いつまでボサッとしてやがる
テメェにはテメェのやることがあるだろ。さっさと仕事に戻れ

サトコ
「そんな···!」

東雲
いっそのこと、キミも入院したら?
そうすればいつでも看病に来れるでしょ

加賀
入院したいならさせてやる
五体満足で退院できればいいがな

サトコ
「わ、私まで入院すると、仕事が滞りますから···!」

東雲
キミひとりいなくても全然困らないけど

サトコ
「辛らつ···!」

(仕事に支障来さなければお世話してもいいって、石神さんも言ってたのに···!)

黒澤
···まぁ仕方ないですよね。あんなに綺麗な人たちに囲まれちゃ
でも大丈夫ですよ!美人は三日で飽きるって言うじゃないですか!

東雲
その点、キミは飽きられる心配ないもんね

サトコ
「なんの慰めにもなってません···!」

加賀美優紀
「ホントあの子、素直じゃないんだから···」
「ごめんね、サトコちゃん。せっかく来てくれたのに」

サトコ
「いえ···でも確かにここに看護師さんもいるし、あまりお世話役は必要ないですよね」

(だけど、ちょっとしたことでもいいから何かしたかったな)
(あの足じゃ、しばらくはベッドから動けないだろうし···)

サトコ
「はぁ···小間使いでもいいから役に立ちたかった···」

東雲
マゾ?

黒澤
あ、でもオレ、その気持ちわかりますよ!
後藤さんならパシリ扱いされてもいいです!

加賀美優紀
「警察って、変わった人が多いのね···」
「歩くんもごめんね。迷惑かけると思うけど」

東雲
いえ、加賀さんがいない間に命の洗濯しておきます

加賀美優紀
「あはは!そうね、そのほうがいいかも」
「退院したら、それまでの鬱屈したものを吐き出すように仕事するだろうから」

加賀花
「ねーママ、ひょーご、ずっとびょういんにいるの?」
「はな、またおみまいこれる?」

加賀美優紀
「そうね。たまに保育園の帰りにでも寄ろうか」

(お見舞いかぁ···お世話は必要ないって言われたけど、お見舞いくらいならいいよね)
(明日からは仕事帰りに連絡して、必要なものを届けよう)

···と思っていたのに。

(仕事が終わったあと、毎日『何か必要なものないですか』ってLIDEしてるのに)
(今まで一度も、連絡来たことがない···!)

加賀さんが入院して一週間。
私は、捜査が忙しい日以外は足しげく病院に通っていた。

(よし!今日こそは···!)

サトコ
「失礼します。加賀さん、怪我の具合、どうですか?」

加賀
······

サトコ
「なんですかその、『また来やがって』みたいな···」

加賀
わかってんなら、しょっちゅう来んな

サトコ
「だって加賀さん、LIDEの返事も全然くれないし」

加賀
必要ねぇからだ

サトコ
「でも、買い物にも行けませんよね?欲しいものがあったらなんでも言ってもください」

加賀
いらねぇ。テメェは仕事の心配だけしてろ

サトコ
「ちゃ、ちゃんと終わらせてから来てますよ···!」

加賀花
「ひょーご!きょうもきたよー!」

加賀美優紀
「こら、花!病院で騒がないの!」

病室のドアが開いて、花ちゃんが駆け込んできた。

加賀花
「あっ、サトコもきてたの!?」

サトコ
「うん。花ちゃん、保育園の帰り?」

加賀花
「そう!きょうはほいくえんで、ひょーごのためにおりがみではなつくったの!」
「はい、ひょーご!ここにかざっておくね!」

加賀
ああ

加賀美優紀
「頼まれてたもの、買って来たわよ。はい、タオルと下着」
「でもアンタ、こういうのはサトコちゃんに頼んだ方がよかったんじゃないの?」

加賀
誰が買っても同じだろ

サトコ
「そういうことじゃなくて···」

(っていうか、美優紀さんには普通に頼みごとを···!?)
(お姉さんだから言いやすいのはあるだろうけど、でもそれなら私だって···!)

加賀
もういいから、帰れ

サトコ
「毎日そうやって、すぐ追い返そうとして···!」
「心配のひとつもろくにさせてくれないんですか!」

加賀花
「ねーひょーご、あしたもきていい?」

加賀
ああ

サトコ
「無視!?」
「私が花ちゃんよりもずっとずっと立場が下なのは分かってますけど···!」

加賀
分かってんなら、さっさと出てけ

看護師1
「加賀さ~ん、お食事は全部食べれましたか~?」

看護師2
「もし食べにくければ、私たちが食べさせてあげますよぉ」

(ま、また···!)

加賀美優紀
「ちょっと、花の教育に悪いから、病室で変なことしないでよね」

加賀
するわけねぇだろ

加賀花
「ねーひょーご、あしたははなが『あーん』でごはんたべさせてあげる!」

加賀
いいからお前は、ちゃんと給食全部食って来い

加賀美優紀
「好き嫌いが多すぎるアンタに言われたくないでしょ」

サトコ
「うう···!」

セクシーな看護師たちや花ちゃんお前に、成す術もない。
結局その日も、加賀さんに追い払われるようにして病院を後にしたのだった···

to be continued

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする