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カンタンにイチャイチャできると思うなよ 加賀2話

加賀さんが入院して、2週間。

(今日退院···っていうのは美優紀さんから聞いたけど)
(···できれば、加賀さんに直接教えてもらいたかった!)

サトコ
「うう···なぜ···なぜ···」

百瀬
「すげー顔」

サトコ
「わっ、百瀬さん···!」

百瀬
「その顔、生まれつきか?」

サトコ
「もう!そうですよ!」

百瀬
「何キレてんだよ」

ガン!と私の椅子を蹴り、百瀬さんが自分のデスクへ戻っていく。

サトコ
「キレられたのはこっちのほうな気が···」

百瀬
「さっきから唸り声がうるせぇ」

サトコ
「えっ、声に出てました···?」

(美優紀さんから連絡をもらって、昨夜急いで加賀さんにLIDEしたけど)
(既読はつくのに、完全スルー···入院してからずっとそうだ···)

退院できるとはいえ、しばらくは松葉杖の生活になるらしい。
それを聞いて以来どうしても気になってしまい、油断すると上の空になりそうだ。

(かなり不便な生活だろうし、本当に小間使いでもいいから呼んで欲しいのに)
(でもお見舞いも差し入れも許してもらえなかったから)
(きっと『いらねぇ』って言われるだろうな···)

東雲
そういえば兵吾さん、今日帰ってくるんだっけ

サトコ
「はい···せめて退院する日は送迎させて欲しいってお願いしたんですけど」
「光の速さで拒否されました···」

東雲
だろうね
あーあ、オレの命の洗濯期間も終わりか
それはそうと、はいこれ

百瀬さんから見えないように、東雲さんが私のデスクに書類を置く。

東雲
今日の分、よろしく

サトコ
「はぁ···」

(加賀さんが入院してからというもの、東雲さんから仕事が流れてくるようになった···)
(班が違うのに、なぜ···私は別に構わなんだけど)

加賀さんがいなければ、東雲さんの負担は相当だろう。
それが分かるので、津軽さんに気付かれないようにこっそり仕事を引き受けていた。

(結局、お見舞いに行っても毎日すぐ追いかえされたし)
(個室だから多少の電話は許されるはずなのに、全然出てくれないし)

LIDEも既読スルー、完全に加賀さん不足だ。

サトコ
「早く···早く帰ってきてくれますように···」

東雲
ねぇ、屍になるのは帰ってからにしてくれない?
邪魔なんだけど

サトコ
「一応仕事を手伝ってる私に、何たる仕打ち···」

津軽
ウサちゃん、ずいぶんと落ち込んでるね?

サトコ
「つ、津軽さん···!」

慌てて加賀班の仕事を隠しながら立ち上がる私に、津軽さんが意味深に笑った。

(もしかして···東雲さんの手伝いしてること、バレてる!?)

津軽
ウサちゃんさぁ、兵吾くんの送迎を買って出たらしいね

サトコ
「えっ···」

津軽
随分と熱心だね~。他の班の班長なのに
それとも、そんなに兵吾くんが好きなんだ

サトコ
「そっ、そういうことでは···!」

(まずい···!津軽さんに、加賀さんとのことを知られるわけには···!)

サトコ
「あの···じょ、条件反射というか!」

サトコ
「学生の頃からの習慣がいまだに抜けなくて···ははは···!」

津軽
ああ、そういえば専属補佐官だったんだっけ?
そうだよね~。朝から晩まで、ずーっと一緒だったんだもんね

サトコ
「そっ、そっ、そうですね!事件があるとき限定ですけど!」
「ずっと加賀さんの手足として働いてきたので、今もその癖が抜けなくて···!」
「あと、尽くさないと何されるか分からないと言いますか!」

津軽
へぇー、そうなんだ
そうことらしいよ、兵吾くん

サトコ
「!?」

加賀
······

振り返った先には、ドアに寄り掛かり松葉杖をついた加賀さんが立っていた。

(い、いつからそこに···!?)
(今の、聞かれた···!?津軽さん、わざと言わせたの!?)

加賀
クソ眼鏡はどこだ

後藤
所用で出てます。すぐ戻ってくると思いますが

加賀
戻って来たことだけ伝えとけ
歩。銀さんは

東雲
えー、その辺歩いてるんじゃないですか?

加賀
相変わらずつかまらねぇな、あの人は

津軽
兵吾くん、退院報告でしょ。俺には?

加賀
テメェに報告する義務はねぇ

みんなと話す加賀さんは、こちらをチラリとも見てくれない。

(お怒り···!?い、今のは違うんです···!)
(津軽さんにバレたらマズいと思って、思ってもいないことをペラペラと···口が勝手に···!)

津軽
それにしても、兵吾くんも隅に置けないなー
入院中、ずいぶんと楽しんだみたいだね?

加賀
あ?

津軽
ついてるよ、ココ

トントン、と津軽さんが自分の首筋を叩く。
思わず加賀さんを振り返ると、その首筋にはいくつかの痕が残っていた。

サトコ
「そっ、そっ、それは、まさか···!」

東雲
あの看護師さんたち、積極的でしたもんねー

サトコ
「!!!」

(そんな···!加賀さんが、あのナースさんたちと···!?)

加賀
あの看護師ども···次会ったら容赦しねぇ

津軽
え、なんで?イイコトしてくれたんでしょ?

加賀
人が動けねぇのを知ってて、好き勝手しやがって
止めろっつってんのに、ふざけてつけやがった

東雲
向こうは本気だったかもしれませんよー

津軽
で?夜勤のナースと色々楽しんだんでしょ

加賀
クズが

津軽
うわー、傷つくなー
だってねぇ。兵吾くん、個室だったじゃない
夜勤で見回りにきたナースと···っことがあっても不思議じゃない

加賀
頭湧いてんのか

東雲
兵吾さんが拒否しても、寝込み襲いそうな看護師はいましたけどね

加賀
あんな飢えた女どもがいるところで、熟睡できるか
おかげで寝不足だ

東雲
じゃあ、早く帰ってゆっくり寝てください
その状態で仕事してたら、石神さんに怒られますよ

加賀
わかってる

(ああ···)

結局私とは一度も目を合わせず、加賀さんはオフィスを出て行ってしまった。

(退院おめでとうございます、の一言すら、言う隙が無かった···)
(はぁ···なんで私っていつもタイミング悪いんだろう···)

津軽
はーい、そこで落ち込んでるウサちゃん、お仕事だよ

サトコ
「はい···」

百瀬
「これもやっとけ」

サトコ
「はい···」

東雲
はい、これもね

サトコ
「はい···」

津軽
ん?歩くん、今どさくさに紛れてウサちゃんに仕事頼まなかった?

東雲
まさか。津軽さんが忙しくて確認できなかった書類を戻しただけですよ

(嘘だ···本当にどさくさに紛れて仕事増やした···)
(すごい量だな···これ、今日中に終わるだろうか···)

サトコ
「···いや、絶対に終わらせる!」

津軽
ウサちゃん、最近毎日そう言ってるね

サトコ
「なんだかこの2週間、やたらと書類の仕事が多いので···」

津軽
おかしいなー。俺はいつも通りの仕事しか回してないけど

東雲
ほーんと、不思議ですよねー
効率が落ちてるんじゃない?

サトコ
「ぐっ···」

(東雲さんがちゃっかり仕事を増やすから···とは、津軽さんのいる前では言えない···!)
(でもなんとしても終わらせないと、加賀さんに会いに行けない···頑張らなきゃ!)

そんな危機感から、休憩を取る間もなく仕事に集中した。

全ての仕事を終わらせる頃には、とっくに定時を過ぎていた。

(でも、何とか終わった···!津軽さんも百瀬さんも、先に帰ったし)
(よし、今日は帰りに加賀さんが好きな老舗和菓子店で大福を買おう)

サトコ
「それを持って行って謝ろう···許してもらえないかもしれないけど」
「確かこの間、新しい大福が発売されたんだよね」

スマホで、和菓子屋さんの情報を調べてみる。

サトコ
「なになに、豆腐を使った和餅抹茶か···」
「抹茶かぁ···加賀さん、好きだったかな···」

東雲
お疲れさま

誰もいない公安課に、東雲さんが入ってきた。

サトコ
「お疲れさまです。今日の分、デスクに置いておきましたから」

東雲
ありがと
ほんと、百瀬さんが言ってたけどすごい顔してるね

サトコ
「うっ···そこまでですか?」

東雲
般若みたいな

サトコ
「般若!?」

東雲
それくらい険しいってこと
加賀さんがいないから、気が緩んでるじゃないの?

サトコ
「いえ···どっちかっていうと、東雲さんのせいでもあるんですけど」

東雲
なんで?

サトコ
「容赦なく仕事を投げてきたじゃないですか···普段の仕事は倍近くになりましたよ」

東雲
お陰で効率のいい雑務のこなし方、身についたんじゃない

サトコ
「それは、公安学校時代からもうすでに···」
「っと···すみません。今日はお先に失礼します」

東雲
兵吾さんのところ?

サトコ
「はい···さっき『尽くさないと何されるか分からない』って言っちゃったの」
「たぶん聞かれてたと思うので、謝りに···」

東雲
今さら気にするような人じゃないと思うけど

サトコ
「でも、心にもないこと言っちゃって···」
「ただ加賀さんの役に立ちたかっただけなのに、なんであんなこと言っちゃったのか···」

東雲
ふーん

さして興味なさげに返事をしてから、東雲さんが自分のデスクへ向かう。

東雲
ま、キミのおかげで助かったのもあるし

サトコ
「え?」

東雲
仕事
さすがに兵吾さんの分までやるとね
だから、ひとついいこと教えてあげるよ

サトコ
「いいこと···?」

私が作成した書類をトントンと集め、東雲さんが数枚の確認をしながら口を開いた。

東雲
兵吾さんって、割と子どもだよ

サトコ
「え···?」

東雲
これ以上言うとあとが面倒だから、オレのヒントはこれで終わり
あとは自分で考えて

(加賀さんが、割と子ども···?いったい、どういう···?)

オフィスを出ても、東雲さんからの “ヒント” の意味は結局分からないままだった。

to be continued

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