カテゴリー

カンタンにイチャイチャできると思うなよ 加賀3話

老舗和菓子店で加賀さんの好きな大福を買ったあと。
加賀さんのマンションへ向かうと、先客がいた。

看護師
「そう言わないで。怪我の具合を見に来たんですよ」

加賀
退院した人間にまで、ずいぶんと手厚いことだな

看護師
「加賀さん、先生が止めるのも聞かずに早めに退院しちゃったから心配で」
「怪我の状態を見たら帰りますから···ねぇ、部屋に入れて?」

(こっ、これは···!)

どうやら、あの病院の看護師が家まで押しかけて来たらしい。
呆気にとられる私に気付いた加賀さんが、顎でくいっと部屋の中を指した。

(『先に入ってろ』かな···でも、この状況で、どうやって···)

加賀さんの動きに気付いて、看護師が振り返る。
思った通り、病院で加賀さんを担当していたセクシーナースのひとりだった。

看護師
「あら、あなた···加賀さんの部下の方だったかしら?」

加賀
構わなくていい。さっさと行け

サトコ
「で、でも···」

看護師
「私は部屋に入れてくれないのに、この人のことは入れるんですか?」
「刑事のお仕事では別ですけど、女性としては私の方が役に立ちますよ?」

(すごい自信だ···いや、これだけ美人なら自信があって当たり前か···)

加賀
······

サトコ
「ハッ···」

禍々しいオーラを感じて、慌てて加賀さんを止める。

サトコ
「加賀さん、落ち着いてください···!彼女にも、悪気があったわけじゃ···」

看護師
「私は、看護師としての職務を果たすために来たのよ」
「あなたは仕事の報告?そんなの明日にしたら?相手は怪我人よ?」

サトコ
「あの、すぐ帰った方がいいです!加賀さんの怒りがMAXになる前に」

看護師
「はぁ?帰るのはあなたの方でしょ」

加賀
うるせぇ···

看護師
「え?」

加賀
ギャーギャー喚くな

看護師
「······!」

ようやく、加賀さんのこめかみに太い血管が浮き上がっていることに看護師さんも気付いたらしい。

(でも、もう遅い···!)

加賀
次会ったら容赦しねぇと思ってたところだ

サトコ
「···ってことは、この人が加賀さんにキスマークを付けた···?」

看護師
「あ、あれは···ちょっとした、その···」

加賀
おい、この場合は罪状は?

ドアの縁に寄り掛かって腕組みをしたまま、加賀さんが静かに私に尋ねる。

サトコ
「えーと···個人情報の不正使用に、個人宅まで押しかけたことによるプライバシーの侵害」
「そうなってくると、安全管理と従事者の監督にも不備がありますね」

看護師
「······!」

サトコ
「もし加賀さんがこれを訴えるとなると、守秘義務違反で損害賠償も···」

看護師
「し、失礼しましたー!」

真っ青になって逃げるように帰っていく看護師さんを、加賀さんと並んで見送る。

(そりゃ『罪状』なんて言われたら焦るよね···なんかそのちょっと気の毒···)

加賀
あとで病院に苦情入れとけ

サトコ
「は、はい···」

加賀
だから、専属の看護師なんざいらねぇんだ

サトコ
「専属!?あの5人、全員ですか!?」

加賀
暇なんだろ

サトコ
「いや、警察病院ですから激務だと思いますよ···」
「あ···って、そうじゃなくて!」

加賀
あ?

サトコ
「あの、今日は···本当にすみませんでした!」
「津軽さんに加賀さんのことがバレたらマズいと思って、売り言葉に買い言葉で」

加賀
······

サトコ
「け、決して、加賀さん尽くさないと何されるかわからないなんて本気で···」
「···思う時もありますけど、でもむしろ、自分から尽くしたいと思ってます!」

加賀
······

(無言が怖い···!)

サトコ
「···というわけで、どうかこれをお納めください···」

加賀
なんだ

サトコ
「老舗和菓子店の和餅抹茶と、プリン大福です!」

ピン!と顔が後ろにプレるくらいの強さでデコピンされた。

サトコ
「いったぁ!?」
「脳が···脳が揺れた···」

加賀
何大福だって?

サトコ
「プ、プリン···」

加賀
テメェ···

サトコ
「でも、すごくおいしそうだったんです!店員さんオススメで!」
「加賀さんも、あのお店の店員さんのオススメ商品はだいたい買うじゃないですか···」

加賀
プリンは別だ

サトコ
「一見合わなそうなコンビでも、意外とマッチするかもしれませんよ」
「窮地に陥ったときだけすごいチームワークを発揮する、加賀さんと石神さ···」

加賀
······

サトコ
「···なんでもないです···」

(絶対美味しいのに···プリン大福はおとなしく私が食べよう···)

部屋に入って行く加賀さんのあとを、すごすごと追いかけた。

ひとまず大福をテーブルに置いて、加賀さんを振り返る。

サトコ
「ご飯、まだですよね?材料買ってきたので、数日分作り置きしていきますから」

加賀
それより先にこっちだ

サトコ
「こっち?」

加賀
風呂、手伝え

(あ、そっか。脚が自由に動かなければ、ひとりで入るのは少し苦労するかも)

足を引き摺りながら歩き出す加賀さんに続いて、脱衣所へ向かった。

脱衣所のドアを開けると、加賀さんが無造作に服を脱ぎ捨てているところだった。

サトコ
「わぁ!せめて私が後ろ向いてから···!」

加賀
待ってられるか

サトコ
「あ!ちょっと待ってください」

一度脱衣所を出て、キッチンからビニール袋と輪ゴムを持って戻る。
包帯で固定されている怪我の部分が濡れないようにして、私はドアの前に座った。

サトコ
「何かお手伝いが必要だったら呼んでください。ここにいますから」

加賀
ああ
で?

サトコ
「え?」

加賀
歩の仕事手伝ったんだろ。なんかあったか

サトコ
「えっと···東雲さんに任された書類のほとんどは報告書だったんですけど」
「···あれ、大丈夫ですか?加賀班が何を追ってるか、私知っちゃいましたよ」

加賀
お前に回したのは他の班に知られても問題ねぇやつだろ
進捗は

サトコ
「まず、この間の石神班との合同調査で浮上した···」

書類の記憶をたどりながら、加賀さんに近況を報告する。

サトコ
「···で、東雲さんが現在密かに追ってるそうです」

加賀
わかった

サトコ
「···これって、東雲さんが報告すればいいんじゃ?」
「それか、加賀さんが復帰したあと報告書に目を通せば···」

加賀
復帰早々、書類確認なんざしてられるか
これで歩が報告する手間も省けただろ

サトコ
「なんか私、加賀班に所属していながら津軽班にスパイしてるみたいになってる···」

加賀
おい、入ってこい

サトコ
「へ?」

加賀
身体洗うの手伝え

サトコ
「あ、はいはい」

ストッキングを脱ぎ、腕まくりをしてお風呂にお邪魔する。
不自由そうに足を引き摺りながら椅子に座った加賀さんの後ろに立ち、髪を洗った。

(···よく考えたら、髪は足と関係ないから自分で洗えるんじゃ)
(でも、やっと加賀さんの役に立てた気がしてちょっと嬉しいな)

サトコ
「痒いところはないですか?」

加賀
ねぇ

サトコ
「じゃあ次、背中流しますね」
「···そういえば加賀さん、入院中のお風呂ってどうしたんですか?」

加賀
病院にも風呂くらいある。動けるようになりゃ入るだろ

サトコ
「いや、そうですけど···」

(もしかして、あのナースたちにこうやって···)

加賀
···男の職員もいるだろうが

サトコ
「あっ、そ、そうですよね!」
「でも、あの人たちに身体拭いてもらってましたよね···」

加賀
······
おい、もういい

サトコ
「え?」

身体を洗い終わった加賀さんが、足を引き摺りながら私を浴槽へと引きずり込んだ。

サトコ
「ぶはっ!?ちょっ···私、服···!」

加賀
テメェで脱げ。こっちは怪我人なんだ

サトコ
「怪我人にしては、力が強すぎませんか···!?」

結局服のままお湯に浸かるハメになり、加賀さんがブラウスのボタンを外してくれる。

サトコ
「自分で脱げって言ったのに」

加賀
行動が遅い
···
···あんな女どもに触られても、どうにもなんねぇ

サトコ
「え···」

加賀
そういうもんだろ

脱がされたシャツやスカート、下着が浴槽から投げ出される。
加賀さんの足に負担をかけないように、向き合って抱き合いながらそっと腰を落とした。

サトコ
「つまり、私じゃないとダメ···ってこと、ですか?」

加賀
調子に乗んな

サトコ
「ふふ、悪態は肯定ですね」
「···入院中、何も役に立てないのが悲しかったんです」
「だから···だから今日は、わ、私がっ···」

加賀
さっさと言え

サトコ
「···ごっ、ご奉仕、します···ね!」

加賀
言ってろ

ニヤリと笑うその笑顔が、心地いい。
怪我を悪化させないよう、静かに静かに、久しぶりの熱を味わった。

お風呂から上がると、加賀さんの髪を乾かしてあげてベッドに入る。

加賀
電気消すぞ

サトコ
「あ、私がやります。加賀さんは動かないでください」

加賀
日常のことができねぇほどじゃねぇ
病院でずっとベッドに縛りつけられて、身体もなまってる

サトコ
「そういえば、先生の制止を振り切って退院してきたって看護師さんが言ってましたけど」
「石神さんにバレたら、また怒られますよ」

加賀
言わなきゃわかんねぇだろ

話している間に加賀さんが電気を消して、ベッドに戻って来た。

サトコ
「···加賀さん、ひとつ聞いてもいいですか?」

加賀
なんだ

サトコ
「お風呂に入るのとか、電気消すのですらこんなに大変なのに」
「なんで入院中は、私の付き添いを拒否したんですか?」

加賀
······

(答えてくれない···)
(東雲さんが言ってた、『加賀さんは意外と子ども』っていう言葉の意味もわからないままだし)

加賀
黙って寝ろ

サトコ
「はーい」

ベッドに潜り込んだ加賀さんにすり寄りながら、目を閉じる。

(わからないことばっかりだけど、でも退院してからはこうして頼ってくれたし)
(···ま、いっか!)

久しぶりの加賀さんの匂いと体温に安心して、平和な気分で納得したのだった。

Happy End

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする