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カンタンにイチャイチャできると思うなよ 加賀カレ目線

加賀
っ······

痛みに目を覚ますと、ギプスで固定された足が天井からぶら下がっていた。

(···クソッ、やっちまったか)

麻酔が切れて、目が覚めたらしい。
黒澤が上から降ってきたことは覚えているが、そのあとのことはよく思い出せなかった。

(黒澤に潰されるなんざ、情けねぇ···)
(さすがに、上から降ってくるとは予測できなかったが···)

黒澤
加賀さぁーーん!目が覚めたんですか!?大丈夫ですか!?

加賀
······

黒澤
本当にすみません!まさか加賀さんの上にダイブするなんて!
まさか雨で足元が滑るなんて思ってもみなかったんですよぉー!

加賀
黙れ

泣きながら抱きつこうとしてきた黒澤に、肘でボディブローをお見舞いする。
腹を押さえた黒澤が、その場に膝をついた。

黒澤
加賀さっ···怪我人なのに元気すぎ···!

加賀
怪我してんのは足だけだ。他はピンピンしてる

バタバタと廊下を走る音が聞こえて、勢いよく病室のドアが開いた。

加賀花
「ひょーご!おけが、だいじょうぶ!?」

加賀
···わざわざ来たのか

加賀美優紀
「もー、歩くんから連絡もらった時はびっくりしたわ」
「ちょっと、本当に骨折ったの?ギプスしてるアンタ、面白いんだけど」
「写真撮ってサトコちゃんに送っとこうかな」

加賀
ふざけんじゃねぇ。やめろ
黒澤、もういいから出てけ

黒澤
はーい···

津軽
兵吾くん、やっちゃったんだって?大丈夫?

石神
難波室長には連絡を入れておいた

黒澤と入れ替わりで病室に入ってきたのは、石神と津軽だ。

(めんどくせぇ···いちいち来なくていいものを)

津軽
あーあ、これはしばらく復帰できそうにないね

石神
複雑骨折だそうだ。医者の言うことを守って絶対安静にしていろ
まかり間違っても、勝手に退院してきたりするなよ

加賀
テメェにゃ関係ねぇだろ

津軽
あーこれ、無断で帰ってくる気満々だね
あんまり無理すると、後に響くよ。若くもないんだから

加賀
テメェにゃ関係ねぇだろ

加賀花
「きゃはは!ひょーご、おなじこといってる!」

加賀美優紀
「使えないくせに無理して退院しても、逆に迷惑よ」
「みなさんが言うように、大人しくてさっさと治しなさい」

津軽
そのはっきりした物言い、兵吾くんにそっくり

(くだらねぇ···)

加賀花
「ひょーごがはやくよくなりますように、ってかいておくねー」

加賀
······
おい花、そのマジック、どこから持ってきた

加賀花
「ママが、ひょーごのあしにかいてあげなさい、ってくれた!」

加賀
てめぇ···

加賀美優紀
「ギプスに落書きされるのは通過儀礼みたいなものでしょ」

早速落書きする花を見ながら、考えるのは仕事のことだ。

(今のところ、抱えてる事件で一番デカいのは今回クソ眼鏡と合同で捜査した案件か)
(被疑者は確保したが、まだ裏に別の奴がいそうだな)

このあとも、歩に追わせるつもりだった。

(他は···すぐには動かなそうなのが多いな)

加賀
···三日くらいで退院すれば、どうにかなるか

津軽
さすがに複雑骨折で三日は無理だって

石神
さっき言ったばかりだろう、黙って医者の言うことを聞いていろ

加賀
うるせぇ

津軽
そんなに入院が嫌なら、世話役にウサちゃん寄越そうか?

加賀
······

ムカつく笑顔を浮かべる津軽に、舌打ちがこぼれる。

(テメェのもんみてぇに言いやがって)

加賀
いらねぇ

津軽
でも、ひとりじゃ大変でしょ?

加賀
クズはクズで、きっちり仕事させとけ

津軽
えー、けど兵吾くんには早く治ってもらわないと
入院してる間も税金使うんだよ。無駄じゃん

加賀
テメェの存在が無駄だ
歩に来るよう言っとけ

津軽
はいはい
あーあ、ウサちゃんが意気消沈する姿が目に浮かぶ

加賀
······

そのままムカつく笑みを残し、津軽は先に病室を出て行った。

病室に駆け込んできたサトコを追い出したあと。
姉貴や花、石神たちも帰し、歩だけ残るように指示した。

加賀
俺がいない間の雑務は全部あいつに投げろ

東雲
別の班ですよ。津軽さんにバレたら面倒だな

加賀
うまくやれ

東雲
またそうやって、簡単に言う
まぁ実際、オレひとりじゃきついので
彼女に振っていいか、兵吾さんに聞こうと思ってました

加賀
あいつなら尻尾振ってやるだろ

東雲
いいんですか?
自分以外の男に尻尾振っても

加賀
······

(こいつはこいつでめんどくせぇな)

東雲
っていうか、さっき来てたんだから指示すればよかったのに
セクシーナースが···ってうわごとのように言いながら帰って行きましたけど

加賀
いてもギャーギャー喚いて邪魔なだけだ
ここで俺の世話する暇があんなら、その分仕事させといたほうがいい

東雲
じゃあありがたく、大切な元補佐官、オレが使っちゃいますよ

加賀
···口の減らねぇガキだな

東雲
だって兵吾さん、素直じゃないから
もう少しちゃんと言ってあげた方がいいんじゃないですか

加賀
なんの話だ

東雲
オレは、あの子が落ち込んでても別にいいですけど
正直、仕事してる時にちょっとうざいだけですし

加賀
······

東雲
足折った兵吾さんをカッコ悪いとか、思う子じゃないですよ

(···言われなくてもわかってる。あいつはそんな女じゃねぇ)
(だが···それとこれとは別だ)

ベッドで寝たまま動けない自分。大袈裟に固定された足。
自分でも情けないその姿を、できることならサトコには晒したくなかった。

加賀
···クズにはクズの、やんなきゃなんねぇことがあるだろ

東雲
オレの手伝いしたり?

加賀
自分の仕事に加えて、うちの班の雑務も押し付けられてんだ
こんなところに来てる場合じゃねぇだろ

東雲
それでもあの子のことだから、毎日お見舞いに来そうですけど

加賀
来るなって言っとけ
それか、来れないくらい仕事振ってやれ

東雲
兵吾さんがカッコ悪い姿見られたくないから、って?

加賀
······

最後の最後までかわいくない言葉を残し、歩が病室からいなくなる。

(···来るだろうな、毎日。山積みの仕事を意地でも終わらせて)
(見舞いになんざ来なくても死なねぇってのに)

だがいつだってあいつは、俺のことになるとそうやって必死になる。
そのせいで学べるはずだった仕事を逃すサトコを、見たくない。

(まだまだ甘いからな、あいつは)
(いつになったら一人前になるんだか)

加賀
···人のことは言えねぇか

天井から吊るされた自由のきかない片足を眺めながら、
今頃落ち込んでいるだろうサトコの顔を思い浮かべ、苦笑を零した。

Happy End

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