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カンタンにイチャイチャできると思うなよ 東雲1話

ある日の夜···

黒澤
いや~、ここのお酒美味しいですね!

後藤
飲みすぎだ、黒澤

黒澤
そんな固いこと言わずに、後藤さんもさぁさぁ!
石神さんも···あっ、プリンカクテルなんてどうです?

石神
···いただこう

颯馬
味の想像が全くつきませんね

東雲
ていうか、それ美味しいんですか?

加賀
マズいに決まってんだろ

津軽
俺的には、こっちのメロンカレー酎ハイが気になるけど

百瀬
「注文してます」

津軽
さっすが、モモ。よく分かってるね~

(飲み会、久しぶりだなぁ)
(難波さんはいないけど、他の皆さんが揃うなんて珍しいかも)

黒澤
サトコさんも飲んでますか?

サトコ
「あっ、はい」

黒澤
ここ、変わったお酒がたくさんあるんですよ

(ほんとだ)
(えっ、コーンスープに、お味噌汁酎ハイまで···!?)

サトコ
「あ、でも意外と美味しいのかな···?」

東雲
それ飲むの?

サトコ
「はい」
「···って、あれ?飲まないんですか?」

東雲
ああ、うん。そろそろ帰るから

サトコ
「えっ!?」

東雲
仕事あるし

(忙しいのに来てくれたんだ···)

東雲
飲むのはいいけど、あんまり飲み過ぎないこと

サトコ
「はい、気を付けます」

東雲
······

サトコ
「?」

東雲
···ほんとにわかってる?

サトコ
「え?はい」
「大人ですから大丈夫ですよ。お酒の量は調整します」

東雲
うん、それ以外もね

(それ以外?)

首を傾げる私を置いて、歩さんは席を立つ。
加賀さんたちに一言告げると、そのまま店を出て行った。

(···歩さん、行っちゃった)
(それ以外って、なんだろう?)

なにはともあれ、久しぶりの飲み会は楽しく過ぎていった。
夜が深まった頃にお聞きになると、皆さん順に帰宅していき···

黒澤
あっ···ダメです···加賀さん···

加賀
······

(ぜ、絶妙なメンバー···!)

居酒屋の前に残ったのは、泥酔した黒澤さんを担いだ加賀さん、そして私の3人だった。

(酔った黒澤さんが気になって、帰るタイミングを見失ってしまった···)
(この店は駅の近くだし、まだ終電には間に合うからいいんだけど)

黒澤
それ以上は食べられませんってば···
···って、痛っ!!
ちょ、加賀さん···、痛いのもいいですけど、もっと優しく···

加賀
しばらくこのクズ見張っておけ

サトコ
「あっ、はい」

加賀さんは酔った黒澤さんを容赦なく地面に落とすと、会計のため店に戻っていく。

サトコ
「黒澤さん、立てますか?」

黒澤
ダメです、加賀さん···これはおんぶじゃないと···

サトコ
「加賀さんじゃないです」

黒澤
加賀さーん!!

サトコ
「ちょっ···黒澤さん、叫ばないでください···!」

(お店の人や通行人に迷惑が···)
(え···私がおんぶするべき···?)

サトコ
「···どうぞ、乗ってください」

黒澤
ありがとうございます、サトコさん!

サトコ
「うっ···」

(お···重っ···)
(加賀さんが戻ってくるまでの我慢、我慢我慢···)

黒澤
サトコさんは~、タレ派ですか?塩派ですか?

サトコ
「はい?」

黒澤
オレは断然、タレ派です!!!

サトコ
「!?」

(鼓膜が!鼓膜が破れる!)
(耳も痛いし、身体も痛い···)
(これは絶対に朝日が腰が使い物にならなくな···)

黒澤
と、いうわけで!さっそくいただきます!

サトコ
「ぎゃあ!!?」

(う、うなじ噛まれた···!!?)

黒澤
んん······?この手羽先、タレがかかってない···?

サトコ
「黒澤さん!それ手羽先じゃなくて私の···い、痛い痛い!」

(食べられる!このままじゃ食べられる!)

加賀
!何して···

いつになく慌てた様子の加賀さんが、店から飛び出してきたその瞬間。
命の危険を感じた私は、気付けば黒澤さんの腕を取ってーー

ダーン!!!

加賀
···一本

(はっ···!)
(つい、一本背負い投げを···!)

加賀さんは地面に倒れた黒澤さんを一瞥し、私の襟元に視線を落とす。
おそらく歯形がついているであろううなじを見ると、深く溜息をついた。

加賀
コイツは俺が殴っておく

サトコ
「でも···」

加賀
いいから乗れ

サトコ
「!」
「あ、ありがとうございます···」

強引にタクシーに押し込まれる。
動き出したタクシーのリアガラスから外を見ると、
黒澤さんを叩き起こす加賀さんの姿が目に入った。

(加賀さん、ありがとうございます···!)
(それにしても···)
(腰と手首、それに噛まれた首が痛い······)

サトコ
「はぁぁ···」

翌日になっても、痛みは治まるどころか悪化する一方だった。
痛めた手首を庇いながら、休憩室でコーヒーを口に運ぶ。

(痛めた腰と黒澤さんに噛まれたところには、湿布を貼って来たけど)
(手首にも貼っておけばよかった···)
(ああ···身体が資本なのに···)

東雲
おつかれ

サトコ
「!」
「歩さん!」

(飲み過ぎないように気を付けていたとはいえ)
(昨日のことを話したら、心配かけちゃうよね)

誤魔化すように両手でコーヒーを持つ。
しかし、隣に座った歩さんはじっと私の手を見て···

東雲
大変だね。身体が資本なのに

(え···)

<選択してください>

以心伝心···?

サトコ
「い、以心伝心ですか···?」
「今、私もまったく同じことを思っていたんですけど···!」

東雲
偶然
持ち方変だし、手首痛めてるってことは明白だよね

(歩さんと以心伝心···)
(想いが通じ合っているだけで、こんなにも嬉しい···!)

東雲
聞いてないし
ていうか···

どうしてわかったんですか?

サトコ
「どうして、私が手首を痛めてるってわかったんですか?」

東雲
コーヒーの持ち方、どうみてもおかしいし

(隠したつもりだったのに、見抜かれてたんだ)

サトコ
「······」

東雲
何で感動してるの?

サトコ
「歩さんの愛を感じました······」

東雲
怖···
こんなの誰でも気づくから
それよりさ

何がですか?

(もしかして、手首のこと気付かれてる?)

サトコ
「な、何がですか?」

東雲
手首以外に何かある?
コーヒー、震えてるけど

サトコ
「あっ···」

東雲
···痛めたんだ?

心配する歩さんの声音は、思った以上に優しかった。

(疲れた身体と心によく効く歩さん···)
(···特効薬?)

東雲
え、怖···
やめてほしいんだけど、急に拝み始めるの

サトコ
「歩さんの効能を噛みしめていました」

東雲
ああ、そう···
ところで

サトコ
「!」

ふいにうなじを撫でれられ、肩が大きく跳ねる。

東雲
この首の湿布は?

サトコ
「寝違えまして···」

東雲
うなじを?

サトコ
「ええっと···」

(これはもしかして、めちゃくちゃ怪しまれている···?)
(黒澤さんに噛まれたことを話したら、心配をかけるかと思って黙ってたけど)

探るような瞳から逃げるように、言葉を探すけれど。

(···うん、これ以上、歩さん相手に誤魔化すのは難しい···)

サトコ
「実はかくかくしかじかで、寝惚けた黒澤さんをおんぶすることになったんですけど···」

東雲
へー···

サトコ
「そしたら突然手羽先の話を始めて···」
「挙句の果てに手羽先と間違えられ···」

東雲
ふーん···

サトコ
「『いただきまーす!』って、うなじに噛みつかれたんです···」
「だから、赤くなってるので湿布を···」

東雲
······

サトコ
「······」
「あの···歩さん、聞いてます?」

東雲
聞いてるけど

(ぜ、絶対聞いてないよね···!?)
(相槌適当だったし···!)

東雲
で、それが首に湿布貼ってた理由?

サトコ
「え?そ、そうですけど···」

東雲
そう、おつかれ

(···そ、それだけ!?)
(いや、確かに私も隠そうとはしてたけど···歩さんから聞いてきたのにそれだけ···)
(はっ!もしかして、歩さん······!)

to be continued

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