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カンタンにイチャイチャできると思うなよ 東雲3話

サトコ
「後藤さん、今日はありがとうございました」

後藤
いや。氷川···の友人が恋人と話せるといいな

サトコ
「はい···!」

後藤
また明日。気を付けて帰れよ

軽く頭を下げた後、小さくなっていく後藤さんの後ろ姿を見送る。

(···やっぱり、私には浮気なんて絶対にムリだ)
(最初から分かってたことだけど···)

売り言葉に買い言葉で、つい『浮気宣言』なんてしてしまったけれど。
浮気なんて最初からするつもりがなくて、
私はただもっと気にして欲しかっただけだ。

(歩さん、今日は家に帰ってるかな)
(もう一度ちゃんと、自分の気持ちを試してみよう)

連絡をしようと、スマホを取り出したその時。

(···えっ、歩さんからLIDE···!?)
(結構前に来てたみたいだけど、全然気付かなかった···)

ーー『今どこ?』

(ええっと、『駅前のファミレス前にいます』···送信)

???
「遅い」

サトコ
「!」

(この声···)

振り返った先にいたのは、今返事を送ったばかりの歩さんだった。

サトコ
「どうしてここに···」

東雲
たまたま通っただけ
行くよ

(えっ)

いきなり現れたかと思ったら、歩さんは私を置いて歩き出した。

サトコ
「ま、待ってください、どこに···!」

東雲
キミの家

(え···)
(···ええ!?)

東雲
ここ、座って

歩さんは部屋に入るなり、私をソファに座らせる。
隣に腰を下ろすと、うなじに貼られた湿布に手を伸ばした。

東雲
こっちに背中向けて。手当てするから

サトコ
「は、はい」

(···歩さん、ちょっと怒ってる···?)
(ここまで来る間も、いつもより会話少なかった気がしたし···)
(でも、昼間は普通だったのになんで···)

東雲
···痛そう

戸惑っている間に湿布が剥がされて。
空気にさらされたうなじを優しく撫でられると、思わず身体が跳ねた。

東雲
だから、無防備すぎ
今は···オレだからいいけど

サトコ
「!」

(今、うなじにキッス···)
(しかも、後ろから抱きしめられてる···!?)

思いもよらない展開に、身体を強張らせていると。
小さく溜息をついた歩さんが、肩口に顔を埋めた。

(···あれ?)
(······今、黒澤さんの歯形のところにキッス···)

東雲
ほんっと、キミが無防備なのが悪い
···わかってる?

サトコ
「く······」
「黒澤さんと、間接キッス···」

東雲
······
···はぁぁ

さっきよりも大きなため息に振り返ると、呆れたような瞳に迎えられた。
正面からぎゅっと抱き締められると、歩さんの香りに包まれる。

東雲
キミってほんと···
バカ?

サトコ
「す、すみません、つい···」

東雲
いいけど、今に始まったことじゃないし
でも、これからの飲み会は竹刀持参ね

サトコ
「えっ、それは何事かと思われますよ」

東雲
ケガするよりマシだと思うけど

サトコ
「ふふ、そうですかね···?」
「痛っ!」

東雲
笑うな
これでも怒ってるんだけど

思い切り弾かれたおでこをさすっていると、軽く睨まれる。

東雲
···大体、いるわけないから
自分の彼女を傷つけられて腹が立たない男なんて

サトコ
「え···」

(それって、つまり···)

サトコ
「気にしてくれてたってことですか?」
「本心ではネイルじゃなくて、私が噛みつかれたことを気にして···」

東雲
···

歩さんは何も言わない。
でも、その沈黙こそが肯定を物語っているようだった。

(私hに興味がないんじゃなかったんだ)
(···そっか、そうだったんだ)

東雲
ニヤニヤするな

サトコ
「無理です···ふふっ」

東雲
···キモ、喜びすぎ

サトコ
「キモくてもいいです」
「歩さんが気にしていてくれたことが嬉しいですから」

東雲
······
···ま、でもキミは違うんだよね

サトコ
「え?」

東雲
頭。後藤さんに撫でられてニヤニヤしてたし

サトコ
「!??」

(な、なんでそれを···!)
(もしかして、見られてた···!?)

東雲
これってさー、浮気に入ると思うんだけど

サトコ
「え、ええっと···」

東雲
絶対ドキドキしてたよね

<選択してください>

浮気ではない

サトコ
「う···浮気ではありません!」

東雲
顔、赤くしてたくせに?

サトコ
「そ、それは不意打ちの少女漫画体験に照れただけで···」
「浮気ではありません!心はずっと歩さんにありますから!」

東雲
ちょ、近···
近いんだけど!

見てたんですか?

サトコ
「み、見てたんですか!?」

東雲
たまたまファミレスの近く通っただけ
そしたら、自分の彼女は後藤さんと浮気してるし
ビックリしたよねー

サトコ
「う、浮気じゃないです···!」

東雲
ドキドキしてたのに?

サトコ
「そ、それは不可抗力と言いますか···」

(まさか、少女漫画のサトコ体験ができると思わなかったし···)

サトコ
「私が大好きなのは歩さんだけです···!」

すみません!

(後藤さんに気持ちが傾いた訳ではないとはいえ)
(一瞬、少女漫画のような展開に照れてしまったのは事実···)
(ここは素直に謝るしかない···!)

サトコ
「すみません···」

東雲
へぇ···つまり浮気を認めるってこと?

サトコ
「···不意打ちとはいえ、一瞬ドキドキしてしまったのは事実です」
「でも、それは少女漫画の主人公の気持ちを味わっていただけというか···」
「私が好きなのは歩さんだけです!」

東雲
······

サトコ
「だからこそ、後藤さんに時間を作っていただいたんです」

サトコ
「心は歩さんだけを想っているので、浮気ではないです!」

東雲
心、ねぇ···
強引すぎじゃない?

サトコ
「そんなことありません!」

(···うん?)
(待って、これって、後藤さんにヤキモチを妬いてくれてるってことで···)

サトコ
「もしかして、それで怒ってたんですか···?」

東雲
······
···無防備なのが悪い

(答えになってない···!)
(でも、それってつまり、そういうことだよね)

東雲
···まぁ、いいか
オレが後藤さん以上に、キミをドキドキさせればいいだけだし

サトコ
「え?」
「···んっ」

聞き返す間もなく、唇が塞がれる。

サトコ
「ちょ、ちょっと待ってください···!?」
「んっ···」

(今日のキッス、優しい···)
(いや、いつも優しいけど、すごく歩さんの気持ちが伝わって···)

唇がほどかれると、目の前の歩さんがイタズラっぽく目を細めた。
その仕草に、大きく鼓動が跳ねる。

サトコ
「···も」
「もう十分すぎるほどドキドキしてますからー!」

歩さんに散々ドキドキさせられた、翌朝。

(···ダメだ、昨日のことを思い出すとニヤけてしまう)
(今から仕事なんだから切り替えないと···!)

黒澤
······

(あ、黒澤さん)
(そういえば、昨日午後からいなかったな)

サトコ
「黒澤さん、おはようございま······」

(······え?)

黒澤
おはようございます、サトコさん
···って、どうしたんですか?そんなに目を開くと乾いちゃいますよ

サトコ
「く、くく、首······」

(いや、これどうなってるの!??)
(テレビだったら、モザイクかかるレベルなんですけど···!)

黒澤
ああ、これですか?
言うならば、歩さんの愛のムチですね

サトコ
「愛の···ムチ···」

黒澤
はい、オレはもう少し優しいのが良かったんですけど
愛情の伝え方って人それぞれですよねー

(なんで笑顔···)
(でも、これってもしかして···)

東雲
······

歩さんのデスクを見るけれど、目を合わせてくれることはない。
それでも、隠されていた歩さんの想いを感じた気がした。

Happy End

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