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本編③(前編) 津軽3話



ノアと出掛ける遊園地に後藤さんを誘った時だった。

津軽
楽しそうな話してんじゃん

サトコ
「つっっ······!」

私の肩にアゴを乗せてきた津軽さんが、身体を起こす。
それから私がこっそり背に隠していた遊園地のチケットを奪っていった。

サトコ
「あ」

津軽
これ、ノアとのでしょ

サトコ
「どうして知ってるんですか!?」

津軽
······

目を丸くする私を責めるような視線を送ってくる。

サトコ
「あ、あの···?」

津軽
浮気者

サトコ
「はい!?」

チケットを奪ったまま、津軽さんは給湯室を出て行ってしまう。

サトコ
「チケット···」

(一緒に行ってくれるってこと?)

後藤
よかったな

サトコ
「!?よ、よかったって···」

(今の謎行動がよかったですか!?)

サトコ
「あ、あの、今のは···」

後藤
遊園地、楽しんで来い

ぽんと背中を叩いて、後藤さんはコーヒーと共に去っていく。

(これはどういう···とりあえず、ノアを喜ばせてあげられるの···かな?)

よかったと思う一方で、津軽さんの “浮気者” というフレーズが頭の中でこだましていた。



午後、ノアの外出許可のハンコをもらうために、科捜研の莉子さんを訪ねた。
研究所を出てから、関係各所の調整を莉子さんが担ってくれている。

サトコ
「ーーというわけで」

ノアの作品展の話から給湯室での “浮気者” 発言までの説明を終える。

サトコ
「私、津軽さんに悪いことしてますか?」

木下莉子
「それ嫉妬でしょ。誠二くんへの」

サトコ
「し、嫉妬って···」

木下莉子
「あの高臣くんがね~。サトコちゃんみたいなのが好みだったんだ~」

莉子さんは手を口元に運び、しみじみと頷いている。

サトコ
「いやいやいやいや······!!」
「津軽さんって、意外と子どもっぽいところあるから」
「さっきのだって “俺をハブにするなんてつまんない” とかそういうのです、きっと」

木下莉子
「なるほどね~···こりゃ進展しないわけだ」

サトコ
「莉子さんはモテるから思考がポジティブなんですよ!」

木下莉子
「言っとくけどモテるのは否定しないわよ」

(あの津軽さんが、私と後藤さんに嫉妬···)
( “焼きウサギ” は私だけだって!)

木下莉子
「ねえ、知ってる?高臣くんの “京の女” 」

サトコ
「ひゃい!?」

飛び出した衝撃的な単語に返事が上擦って恥ずかしい。

木下莉子
「高臣くん、京都の大学言ってたでしょ?その時の···」
「 “京の女” 話、聞かせてあげよっか?」

サトコ
「け、けけけ、結構です!」

ぱっと耳を塞ぐと、莉子さんが肩を揺らして笑う。

木下莉子
「あー···高臣くんの気持ち分かって来たかも」
「でも···」

耳から手を外した私に、莉子さんは苦笑に似た笑みを浮かべた。

木下莉子
「高臣くんに踏み込んでくなら、知っておいた方がいいこともあるかもよ」
「近々大きな動きがあるって噂もあるし」

サトコ
「そうなんですか···?」

(そういえば、津軽さんが抱えてる案件って全然知らされてないな···)
(まあ、そりゃそうだよね······)

木下莉子
「時間がある時に聞いといたら?」

サトコ
「~っ」

(津軽さんの、“京の女” ···!)

気にならないと言ったら嘘になるけれど。
どう考えてもキャパオーバーだ。

サトコ
「い、今は遠慮しておきます···」

木下莉子
「聞きたくなったら、いつでもおいでね」

莉子さんは見守るような、それでいて事態を楽しむような顔で見送ってくれた。



警視庁から戻ってくると、廊下の先から黄色い声が響いてくる。

女性警官A
「グリーンカレーが絶品のお店見つけたんです!」

女性警官B
「映画のチケットあるんですけど、一緒に行きましょうよ~」

女性警官C
「コンビニで、こんなお菓子見つけちゃったんですよ」

津軽
そっか~

大名行列よろしく、津軽さんがぞろぞろと女性警官を連れて歩いている。

(にっ···ニコニコしちゃってーーーーー!!!)
(私には浮気者って言って、あんな顔してきたくせに!)
(京の女どころか、東京の女にもハラハラしちゃいますよ、莉子さん···)

近付く距離に、どっかに隠れようかとキョロキョロしていると。

津軽

サトコ
「!」

目が合ってしまう。
逃げるわけにもいかずに固まっていると。

津軽
ごめんね。ちょっと用事

女性警官たち
「津軽さーん」

彼女たちから離れ、カツカツとこちらに歩いてくる。

津軽
おかえり。ノアの外出許可もらえた?

サトコ
「は、はい。無事出かけられます。ノアに連絡しないと」
「それより···」

私が気になるのは、離れたところでまだ津軽さんを見てきゃっきゃしている女性警官たち。

サトコ
「いいんですか?話の途中だったんじゃ···」

津軽
世間話だし
優先順位はウサと同列じゃないだろ

サトコ
「······」

(だから、ずるいんだって···)

まるで特別扱いするような言葉。
さっきの莉子さんの “嫉妬” 発言も相まって頭が煮えてくる。

サトコ
「······っ」

津軽
え!?なんで何で怒ってんの

サトコ
「怒ってません······」

津軽
···ま、ウサには誠二くんの方が高いみたいだけどね

サトコ
「!」

<選択してください>

そんなことないです

サトコ
「そ、そんなことはないです」

津軽
ふーん?

サトコ
「遊園地に誘わなかったのは、津軽さんが土日死んでるって聞いたからで···!」

津軽
盗み聞ぎ?ウサちゃんって俺のストーカーだったんだ?

サトコ
「髪の毛コレクションしましょうか!?」

津軽
ウサちゃんの中のストーカー像コワッ···

なぜ後藤さんを目の敵に···

サトコ
「津軽さんはどうして後藤さんを目の敵にするんですか?」

津軽
モモがさ、言うんだよ

サトコ
「百瀬さんが?」

津軽
ウサが誠二くんの匂いをよくプンプンさせてるって

サトコ
「差し入れとかの話ですか?」

津軽
それにさ、誠二くんってムッツリだから

サトコ
「!?」

や、妬いてるんですか?

サトコ
「や、妬いてるんですか?」

津軽
······

私をじっと見つめながら、1歩距離を詰めてくる。

津軽
さっき隠れようとしてたでしょ。なんで?

サトコ
「な、なんでと言われても別に···」

津軽
妬いてるの?

サトコ
「~っ、先に聞いたのは、私です!」

津軽
で、俺と誠二くん、どっちが上なの?

サトコ
「そ、それは···」

津軽
······

サトコ
「······ホクロの人···」

津軽
あのな···

サトコ
「つ」
「津軽、さんです···」

(なんか、悔しい···)

津軽
よくできました
津軽くんポイント20点あげるね

ポンと頭の上に手が置かれた。

サトコ
「······」

津軽さんは、意外に負けず嫌いで、意外に執念深くて···
結構、ねちっこい。

to be continued

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