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本編③(前編) 津軽4話

迎えた、約束の日曜日。

ノア
「えーー!!乗れないって、どういうことー!?」

ジェットコースター乗り場の前で、ノアの悲痛な声が響いた。

スタッフ
「申し訳ございません。こちら、115cm以上からのご利用になっておりまして」

サトコ
「5cm足りないか···」

津軽
俺が代わりに乗ってきてあげよっか

ノア
「パパのバカ!」

津軽
足踏むなっての

サトコ
「乗り物は他にもあるよ。メリーゴーラウンドやティーカップも···」

ノア
「わたしが乗りたかったのは、ジェットコースターなの!ほかじゃイヤ!」

津軽
靴に何か詰めて上げ底してみる?

サトコ
「それでも5cmは無理ですって」

ノア
「ノアの腕引っ張って!今すぐ5cm伸ばして~」

サトコ
「何か食べに行こ?アイスとか」

ノア
「ぷー···」

ノアがプーッと頬を膨らませる。

津軽
あー、やだやだ。子どもってワガママで

ノア
「パパだってワガママじゃん」

津軽
お前、口が減らなさすぎない?

ノア
「···おトイレ行ってくる」

津軽
ついて行くよ

ノア
「パパもママも来ないで!」

ガルルっと吠えて、ノアはスタスタ歩き出した。

とはいっても可愛い子をひとり歩きさせるわけにはいかず、距離を取ってついて行く。

津軽
あの歳で反抗期?
かっわいくないな~

サトコ
「あはは、ワガママ言えるようになったんですよ」
「普通の子どもらしくなってるってことです、きっと」

トイレの近くで立ち止まると、津軽さんがこっちを見ている。

サトコ
「何ですか?」

津軽
···ウサちゃんって、大きいよね

サトコ
「え、平均的な大きさだと思いますが···」
「······あ!太ったって言いたいんですか!?」

津軽
「太ったの?」

サトコ
「最近体重計に乗ってないです···」

津軽
大きいのが胸だったらよかったのにね

<選択してください>

夫婦ゲンカしたいんですか?

サトコ
「···夫婦ゲンカしたいんですか?」

津軽
夫婦を強調するなんて、ウサちゃんってば
そんなに嬉しい?

サトコ
「そ、そんなこと言ってません!」

(ちょっとはそりゃ···そりゃ···!!)

ほんとの大きさ知らないで···

(く、悔しい!見られたことあるわけじゃないのに、ことあるごとに!)

サトコ
「ほんとの大きさを知らないで···」

津軽
やだな。真っ昼間から誘ってこないでよ

サトコ
「夜ならいいんですか」

津軽
ウサちゃん、それ攻める側の台詞だから

大きいのが好きなんですか?

サトコ
「前々から気になってたんですけど、大きいのが好きなんですか?」

津軽
え?

虚を突かれたように、津軽さんが瞬きをした。
そしてなぜか私の胸に注がれる緯線。

津軽
デリカシーのないことを聞かないでね

(いつもと立場が逆!?)

そんな話をしつつーー

サトコ
「···ノア、遅くないですか?」

津軽
お腹壊したとかじゃないだろうな~
見てくる

サトコ
「お願いします」

数分で津軽さんが戻ってくる。

津軽
中にはいない

サトコ
「ええ!?じゃあ、どこに···!」

津軽
あのバカ···俺たちを出し抜こうなんて

眉間にシワを寄せ、津軽さんはざっと周囲を見回した。

サトコ
「どうしましょう。ノアの足なら、そう遠くに言ってないと思いますけど···」

動揺しそうな気持を、刑事としての思考を引っ張ってきて抑える。

津軽
こういうときは、とりあえず迷子センターでしょ
ノアみたいなのがひとりで歩いてたら、周りが放っておかないだろうし

サトコ
「ですね」

冷静な津軽さんと共に迷子センターに向かった。

津軽
いた

サトコ
「ノア!」

ノア
「んー?」

迷子センターのイスに座り、ノアはパックのアップルジュースを飲んでいた。

サトコ
「んー?じゃないでしょ!どうして、こんなところにいるの!」

駆け寄ると、ノアは小首を傾げる。

キャスト
「こんにちは、センターのキャストの新玉といいます」
「ノアくんはジェットコースターのキャストに連れられてやってきたんですよ」

サトコ
「ジェットコースターって···」

ノア
「靴にトイレットペーパー詰めたの!なのに、まだ足りなって言うんだよ」

津軽
へぇ、なかなか小賢しいな

サトコ
「津軽さんが靴に詰め物すればとか言うからですよ!」

茶々を入れる津軽さんをキッと睨む。

サトコ
「どうやってジェットコースターまで行ったの?」

ノア
「トイレの窓から簡単に出られたよ」
「もっとトイレットペーパー詰めればよかった」

津軽
お前はバカだね~

真上からノアの金髪をわしわしとする。

津軽
見つかったことだし、行こっか

ノア
「いこっか」

サトコ
「···まだです!」

ひょいとイスから降りようとするノアを止めて、屈むと目線を合わせた。

ノア
「ママがトイレ?」

サトコ
「そうじゃなくて。勝手にどっかに行ったりしたら、危ないよ」
「誰かに連れて行かれるかもしれないし、ケガだってするかもしれない」
「ノアに何かあったらって······すごく、怖かったんだよ···」

ノア
「ママ···」

小さな手をギュッと握ると、ノアが軽く唇を尖らせた。
それから小さく口を開く。

ノア
「···ごめんなさい」

サトコ
「うん。···もうしない?」

ノア
「しない!」

飛びついてきたノアを抱きしめると。
どこで手に入れたのか、ノアと同じアップルジュースを飲んでいる津軽さんと目が合った。

サトコ
「津軽さんも何とか言ってください」

津軽
え?
あー···ウサちゃん、叱るの上手だね

サトコ
「私への感想ではなく!父親としてですね···」

新玉
「まあまあ···とりあえず、こちらで書類を」

引き渡しの書類を受け取った時。
別の家族が迷子を迎えに来た。

男の子
「うわああぁぁん!」

母親
「うるさい!泣くんじゃないの!勝手にどっか行ったあんたが悪いんでしょ!」

父親
「······」

母親
「あんたも何か言ってよ!」

父親
「あー」

(子育てって大変なんだな)

ノアはケロッとしているが、向こうは子どもが大泣きしているので大変そうだ。

新玉
「すみません。ちょっと、あちらのご家族のところに···」
「書類をかいたら、そこに置いて行ってください」

サトコ
「はい。ご迷惑をおかけしました」

ノア
「♪~」

サトコ
「ノアも、ちゃんとご挨拶して」

ノア
「ごめんなさいでした」

新玉
「気を付けてね」

私が頭を下げている間に、津軽さんが書類を書き終わっている。

津軽
さて、行こう···

母親
「ほら、行くよ!」

男の子
「うわああん」

私たちが出るより早く、隣の家族が書類を叩きつけてセンターを出て行こうとしている。

新玉
「ほら、飴あげるから、もう泣かないで」

男の子
「うん···」

母親
「意地汚い子だね!」

嵐のように家族は去っていく。

(な、なんか大変そうだったな···)

ノア
「いいなー。わたしも飴ちゃん欲しい!」

新玉
「え」

サトコ
「ノア、飴だったら買ってあげるから」

ノア
「あの飴がいいー」
「あの子にあげたんだから、わたしにもちょーだい?」

津軽
ノーア

新玉
「···本当は泣いてる子だけなんだけど、特別だよ」

ノア
「わーい!」

サトコ
「本当にすみません」

津軽
お世話になりました

最後にもう一度お礼を言って、迷子センターをあとにした。

津軽
飴、もらったのに食べないのかよ

ノア
「とっとくんだー」

津軽
ミルク味?普通の飴じゃん

ノア
「フツウが1番なんだよ?知らないの?」

津軽
なに生意気言ってんの

ノア
「フツウの時に、しあわせってかんじられるって」

サトコ
「そ、そんな深い話をどこで?」

ノア
「どこだったかなー。幼稚園?わすれた」
「でも、わかるんだー。だから、わたしはフツウが好き!」

サトコ
「ノア···」

ノア
「パパは舌がフツウじゃないから残念だったね?」

津軽
肩車ナシな

ノア
「えー、やだー!」

(はあ、一時はどうなることかと思ったけど、無事でよかった)

やっとジェットコースターを諦めたノアは、別の乗り物で遊園地を満喫したのだった。

to be continued

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