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本編③(前編) 津軽6話



津軽
だからさ、花贈るのにも何でもいいわけじゃないんだって

加賀
テメェと俺を同列で語るんじゃねぇ

会議が終わって課に戻ると、津軽さんと加賀さんが花がどうこう話をしていた。

(この2人が花の話をするって···仕事で使うのかな)

津軽
女の子は花言葉とか気にするんだからさー
ね、ウサちゃん

サトコ
「はい!?」

突然会話に巻き込まれ、ビクッとする。

加賀
そんな面倒くせー女ばっかじゃねぇだろ

津軽
そういうのを面倒って言っちゃうのが駄目なんだよね~?

<選択してください>

人それぞれかなと···

サトコ
「まあ、その···そういうのは人それぞれかなと···」

津軽
ウサちゃんは?

サトコ
「わ、私ですか?」

(花言葉とか意識してるって思われたら···)

津軽
え、意外と乙女チック(笑)だね

サトコ
「あんまり考えないですね···はは···」

加賀
言った通りだろ

津軽
えー

津軽さんにデリカシーが?

サトコ
「津軽さんにデリカシーが?」

津軽
花言葉くらい常識でしょ

サトコ
「ああ、そっか。これはデリカシーではなくハニトラスキルか···」

津軽
心の声ダダ洩れすぎ。お口返し縫いにしちゃうからね

気持ちが込められてれば、それで···

サトコ
「私は気持ちが込められてれば、それで嬉しいです」

加賀
テメェは気持ちが込められねぇから、花言葉使うんだな

津軽
は!?兵吾くんに言われたくないんだけど
それにこういう時は上司の味方するもんでしょ。このヘマウサギ

サトコ
「ヘマウサギって···」

不満そうに唇を尖らせた津軽さんが、ふと思い出す顔をした。

津軽
そういえば俺があげたあの花、まだある?

サトコ
「!」

脳裏を過る、ブリザードフラワー。

サトコ
「な、ないです!」

津軽

サトコ
「枯れたので捨てました!」

津軽
···
もー、ウサちゃんは情緒ないな~

サトコ
「咲いてる時に存分に楽しみましたので!ありがとうございました!」

加賀
花?

津軽
それは俺とウサちゃんだけのひ・み・つ
ね?

サトコ
「はは···」

加賀
知りたくねぇよ

適当に誤魔化せたことにホッとする。
まだ大事にしてるなんて知られたら、好きがバレちゃいそうで。

(それが正解だよね···?)

百瀬
「津軽さん、15時から具体的な捜査方針を決める会議が開かれます」

津軽
ん、わかった。ウサちゃんもわかったね?

サトコ
「はい。それまでにさっきの資料を読み込んでおきます」

津軽さんたちから離れ、デスクに戻ると仕事に集中した。



百瀬
「追加の資料を配ります」

配られた資料は2件の殺人事件の詳細な資料だった。

(被害者の家族構成は、どちらも両親に子どもはひとり···)
(共通点と呼ぶにはサンプルが少ないけど)

現場の状況も事細かに書かれていた。
子どもが眠っている間に両親は殺害され、どちらも子どもが第一発見者となっている。
両親は拘束された上ナイフで殺害されており、傷も複数···怨恨の線を疑いたくなる執拗さだった。

(こんな···殺された子どもはノアと同じくらいの子たちなのに)
(目が覚めた瞬間、こんな現場を···)

サトコ
「···」

想像が先行して、気分が悪くなってしまった。

津軽
···退室する?

横に座る津軽さんが小声で聞いてくれた。

サトコ
「···大丈夫です」

(こんなところで躓いてたら公安刑事は務まらない)

深呼吸して気を取り直すと、銀さんがホワイトボードにノアの写真を貼った。

(どうして、ノアが···)


「犯人が子どもがいる家庭を狙っているのは明白だ」
「 “これ” をエサに犯人を引きつける」

サトコ
「それって···」

(ノアを囮に使うってこと···?)

思い浮かぶのは、遊園地で子供らしくはしゃいでいたノアの顔。
幼稚園の作品展のために頑張るのだと張り切っていた、普通の子の姿。

サトコ
「···津軽班、氷川です。いいですか」

挙手して席を立てば、銀さんが顎で無関心に意見を促す。

サトコ
「ノアはもう保護プログラム下に置かれています」
「全く別件の事件に使うのは、一般人を巻き込むも同然です」
「······最悪の事態を想定すべきでは?」


「······」

勇気を出して発言すると、銀さんの鋭い視線に射抜かれた。
ーー『だから何だ』、と。そんな声が聞こえた。
横からも津軽さんの強い視線感じる。

公安員A
「一般人ってことはないだろ」

公安員B
「もともと作られたもんなんだから、それこそ···」

公安員C
「使い捨て経って胸が痛まない駒だ」

サトコ
「······」

コソコソと聞こえる声に、そちらを強く睨む。
重苦しい空気の中、銀さんが口を開いた。


「警察の管轄にある以上、一般人ではない」

サトコ
「ですが、子どもです」

そう、ノアは “子ども” なのだ。
あなたたちは知らないかもしれないけれど、遊園地ではしゃげる子どもなんだ。


「知能テストでは成人の平均を遥かに超えた結果を出している」
「成長の速度も未知数のサンプルだ」
「あれを “普通の子ども” だと思うな」

サトコ
「···サンプル···?」

悔しくて引き絞るような声しか出せなかった。

サトコ
「あの子は···」
「普通に···普通になりたくて、なった子じゃないんですよ」

ノア
「フツウの時に、しあわせってかんじられるって」

サトコ
「そ、そんな深い話をどこで?」

ノア
「どこだったかなー。幼稚園?わすれた」
「でも、わかるんだー。だから、わたしはフツウが好き!」

(ノアはフツウが幸せだって知ってる)
(それを、駒だとか道具だとか···)

サトコ
「私たちが、あの子の日常を奪う権利なんて···あるんでしょうか」

横から、座ったままの津軽さんに手を掴まれる。

津軽
氷川

押し殺したような声。
銀さんに歯向かうなと止める声だ。
頭ではわかっている。
津軽班の人間としては言ってはいけないことだと。

(だけど···)

ノア
『おねえちゃん!』

ノアの笑顔が、瞼の裏に焼き付いて離れなかった。

サトコ
「···こんな」
「こんな小さな子を犠牲にしなければ捜査が進まないなら」
「それでも私たちは胸を張って警察官だと言えるんでしょうか?」

津軽
氷川!!


「······」

津軽さんの低い声が会議室に響き、それ以上の失言は呑み込んだ。

サトコ
「······」


「捜査は計画通り進めろ」

津軽
···はい

下された決定に会議は終わる。
立ったままの私に、呆れや嘲笑、軽蔑···様々な視線を突き刺しながらみんなが出て行く。

百瀬
「ドバカ」

軽く私の頭を小突いていく百瀬さん。

(ドバカ···)
(ドバカだ······)

確かに公安刑事としては、津軽さんとしては、バカをやった。
けど。
あそこで声を上げられないままで、この仕事をしている意味があるのだろうか。

津軽
氷川、来い

サトコ
「···はい」

顔だけで付いてくるように促され、固まった身体を何とか動かした。

to be continued

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