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本編③(前編) 津軽9話



週明け、私は科捜研の莉子さんを訪れていた。

木下莉子
「犯行中、子どもは寝ていたわけじゃなくて、寝かされていた···みたいな」

サトコ
「というのは···」

木下莉子
「保護された子ども両方から同一の睡眠薬が検出された」

サトコ
「眠らせて犯行を見せないようにした···?」

木下莉子
「それは保証がないから何とも言えないけど」
「両親からも微量の薬物が出てる。こっちは麻痺を起こすものね」

莉子さんが検出結果をまとめた書類を手渡してくれる。

サトコ
「どれも一般人では手に入らない薬物ですね」

木下莉子
「手に入れられるのは医療関係者か···違法なルートでの入手になるわね」

サトコ
「入手経路を追ってみます。ありがとうございました」

木下莉子
「はい。ここまでが仕事の話」

サトコ
「?」

木下莉子
「付き合ったんでしょ?」

サトコ
「······はいっ?」

突然のフリにわけがわからず、マヌケな答えを返してしまう。

木下莉子
「高臣くんと」

サトコ
「なっ···ど、どうして、そういう話に!?」

木下莉子
「察庁の女性警官の間で噂になってるわよ」
「仲良く夕食の相談してたんだって?高臣くんにしては頑張ったわねぇ」

サトコ
「つ、付き合ってません!」

木下莉子
「そうなの?」

サトコ
「一緒には暮らしてますが、その···」

木下莉子
「ああ、捜査ね」

なんだつまらない···と莉子さんは軽く眉を動かした。

サトコ
「察しが良くて助かります···」

木下莉子
「仕事とはいえ、あの高臣くんと同居か。どう?上手くやってる?」

サトコ
「はい。順調です」

(あの花の一件以外は···)

サトコ
「···お、女の噂を暴きたい男の心理って、何だと思いますか?」

聞きたいのに聞けなかった言葉の先。
どうして花の件を追求したのか、どうして『嬉しい』と言ったのか。
考えてもわからなかったーーただひとつの仮定を除いては。

(でも、その仮定はあり得ない。津軽さんが私を···なんて···)

木下莉子
「野暮な男ねぇ。高臣くん···」

サトコ
「だ、誰も津軽さんの話だとは···!」

津軽
俺がなに?

サトコ
「!!??」
「なっ、なんでここに!?」

津軽
お仕事に決まってんでしょ
莉子ちゃん、これよろしく

木下莉子
「はいはい」

津軽さんは津軽さんで新しいファイルを莉子さんに渡している。

津軽
ウサちゃんも油売ってないで、ちゃんと仕事しなよ

サトコ
「調査書、ちゃんと受け取ってます」

津軽
ならいいけど。ところで、今日のご飯なに?

サトコ
「!」

(う、ときめいた···)

<選択してください>

うどんです

サトコ
「うどんの予定です」

津軽
またうどん?うどん3回目じゃない?

サトコ
「ノアがそれがいいって言うので···」

津軽
ウサちゃんってノアにあまあまだよね

サトコ
「そりゃ可愛いから···でも、今日はカレーうどんにしますよ」

津軽
じゃスパイスてんこ盛りね

サトコ
「津軽さんの分だけ、ですね···」

ハンバーグです

サトコ
「今夜はハンバーグです」

津軽
ハンバーグかー。いいね~

木下莉子
「高臣くんって、意外と子供舌よね」

サトコ
「子供舌っていうか、そもそもが···」

津軽
青唐辛子とチョコレートソースのトッピング忘れないでね

サトコ
「甘辛の幅が広すぎますよ!」

何がいいですか?

サトコ
「何がいいですか?」

津軽
んー、じゃ、麻婆豆腐

サトコ
「激辛にはしませんよ?」

津軽
えー。それじゃただの豆腐じゃん

サトコ
「別に辛味ペースト用意しますから」

(津軽さんとノアの好みを両方叶えるメニューって、結構難しいんだよね)
(あれ?でも言うほど、妙なスパイス追加してないような···)

意外と出されたものは、そのまま食べている気がいした。
津軽さんなりの気遣いなのかもしれない。

木下莉子
「すっかり新婚さんね」

津軽
ごめんね、莉子ちゃん

木下莉子
「冗談でもムカつくからやめて」

津軽
さ、帰るよ

サトコ
「はい」

(さっきの話、聞かれてないよね···)

津軽さんの様子を窺い見ながら、警察庁へと戻った。



週末。

ノア
「またここー?今日はジェットコースター乗れるかな」

サトコ
「こんな短い期間で何Cmも伸びないよ」

ノア
「じゃあ、来る意味ないじゃん」

津軽
お前、実は何も分かってないだろ

ノア
「パパ、抱っこ」

津軽
やだ

ノア
「どーしてー!」

津軽
どうせ帰りに抱っこすることになんだろ
体力温存

ノア
「もー、やっぱりおじいちゃんと来ればよかった~」

サトコ
「いや、その話はどうかな···」

(銀さんと遊園地···)

真顔でジェットコースターに乗る姿が思い浮かんでしまい、ぱっと口元を押さえた。

津軽
なに肩震わせてるの

ノア
「楽しそうだね?ママ」

サトコ
「な、何でもないよ。本当に」

誤魔化すようにノアを抱っこすると、着ぐるみのウサギが手を振って来た。

着ぐるみ
「また来てくれたんだね~」

(この声、迷子センターの···そう、確か新玉さん)

ノア
「うん!」

新玉
「今日もパパとママと仲良しだね」

ノア
「パパとママ大好きだもん」

新玉
「今日は迷子にならないようにね」

ノア
「うん!」

サトコ
「先日は本当にありがとうございました」

新玉
「いえいえ。ゲストが笑顔で楽しんでくださることが、何よりの喜びですから」
「家族が幸せそうにしているのを見るのが大好きなんです」

(こういう仕事にピッタリの人だな)

新玉
「では、楽しんできてください!」

ノア
「バイバーイ!」

ノアが手を振って別れようとすると。

新玉
「あ、西園寺さん」

サトコ
「え···」

津軽
はい

すぐに反応できなかった私の代わりに、津軽さんが一歩前に出てくれた。

新玉
「お昼の12時からパレードがあるので、よかったら見てください!」
「前回はやっていなかったので」

ノア
「わーい!パレード見たい!」

津軽
ありがとうございます

キャストが離れていって、ほっと息を吐く。

サトコ
「迷子センターの引き取りの時、偽名を書いてたんですね」

津軽
何でか分かる?

サトコ
「それは···津軽さんはあの時はもう仕事だったから···」
「あ、でも私、あの時『津軽さん』って呼んでましたよね!?」

津軽
西園寺津軽にしたから、大丈夫

(西園寺津軽···もはや何者だかわからない···)

津軽
ま、詳しいことは明日教えてあげるよ

理由はまだあるというように、薄く微笑まれた。

ノア
「ねー、早く乗り物乗ろうよー!」

津軽
来たときは、もう飽きたみたいなこと言ってたの誰だよ

ノア
「パパ?」

津軽
抱っこされてないで、歩け。ママと手、つなげないだろ

ノア
「だーめ。ママはわたしのー」

(な、なに、この幸せ爆発空間は···!)

遊園地は夢を見せると言うけれど、
この家族ごっこは私にとんでもない夢を見せてくれる。

to be continued

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