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本編③(後編) 津軽9話



深夜の遊園地から病院に直行し、毒物を摂取したことで丸1日入院した。
翌日退院すると、朝イチで会議室に呼ばれる。

津軽
体調はどう?

サトコ
「問題ありません」

百瀬
「津軽さん、資料持ってきました」

私のすぐあとに百瀬さんが入ってくる。

サトコ
「百瀬さん!」

百瀬
「···あ?」

サトコ
「百瀬さんは大丈夫ですか?入院してなかったですよね?」

百瀬
「あの程度のガスで俺が倒れる訳ねぇだろ」

はんっといつもの調子で笑われる。

サトコ
「でもガスや毒物って気合でどうにかなるものじゃないですよね···?」

百瀬
「そう思ってる時点で負けなんだよ」

津軽
モモは俺より長く息が止められるからね

サトコ
「津軽さんは5分止められるって言ってましたよね···」

(それより長く!?)

百瀬
「津軽さんが本気出せば、俺よりいける」

津軽
もうそんなに若くないって

百瀬
「そんなふうに俺を油断させようとしてもダメですよ」
「津軽さんの力は俺が1番よく知ってます」

津軽
お前の実力も俺が1番知ってるよ

(え、なにこのラブラブ空間···私、お邪魔···?)

<選択してください>

羨望の目で百瀬を見る

(津軽さんに認められてて、羨ましいな···)

津軽さんの右腕感をかもし出されて、じっと見つめていると。

百瀬
「ふっ」

まんざらでもない顔が返って来た。

(いつか···いつか、私だって!)

悔しくて唇を噛む

(く、悔しい!私だって嫌われてでも津軽さんの背を押したいのに!)

百瀬
「はんっ、ハンカチも噛むか?」

サトコ
「噛みません···!」

唇を噛むと、追い打ちをかけるように笑われた。

私のことも知ってください!と叫ぶ

サトコ
「私のことも知ってください!」

百瀬
「必要ねぇ」

津軽
はいはい、ふたりとも可愛い、可愛い
ウサちゃんのこともちゃんと見てるよ

百瀬
「チッ」

話が逸れていると、一旦仕切り直す。

サトコ
「あの···もしよかったらなんですが」
「事件がどうなったのか知りたいのですが···」

津軽
わかってるよ

津軽さんは百瀬さんからファイルを受け取ると、それをテーブルに広げた。

津軽
ウサがとった新玉の自供を元に、企業側を追い詰めることができた
新玉が使った麻酔ガスの製造番号が
傘下の製薬会社が開発したものと合致して物証になりそうだ

サトコ
「よかった···新玉の動機は分かったんですか?」

百瀬
「捕まるなり、聞いてもねぇのにペラペラしゃべりやがった」

津軽
新玉は子どもの頃に両親から虐待を受けてた

資料のある項目を指差す。
そこには新玉次雄の児童相談所への保護歴が残っていた。

(自分の境遇から犯行に及んだっていう読みは間違いなかったんだ···)

津軽
遊園地でターゲットに目を付けて、迷子センターの記録から家を特定
子どもが飴を食べるタイミングに合わせて犯行を行うっていう···

百瀬
「放置子は夜に隠れて飴を食べる···新玉の経験則から勝手に出た説からの行動だ」

津軽
計画的だか杜撰なんだかわかんない犯行だけど、まあ普通の犯罪なんてこのレベルだからね

サトコ
「空振りの空き巣はタイミングが合わなかった結果なんですね」

資料にある報告書には、ほとんどのことがまとまっていた。

サトコ
「企業側はよく新玉を放っておきましたね」

津軽
通常では簡単に進められない新薬実験ができたのは好都合だったんだろう
とはいえ、最近持ち出しが多くなって、向こうも始末する方向で動いてみたいだけど

百瀬
「殺される前に逮捕されたんだから、あいつは命拾いしたな」

津軽
ま、これで目的の企業は引っ張れたし、事件解決
おつかれ、2人とも。休み取っていいよ

百瀬
「ありがとうございます」

サトコ
「ありがとうございます」

津軽
ウサちゃんは特に無理は禁物

サトコ
「はい。···あの、報告書の作成はいつまでに···」

津軽
今週中でいいよ。そっちも無理しなくていい

サトコ
「······」

津軽
なに、その顔

サトコ
「優しすぎると思って···」

津軽
ウサには時間が必要だから

(時間が必要···?)

意味深な言葉を残し、ポンと頭に手を置くと会議室を出て行った。



その日のお昼休み、ノアから携帯にビデを通話がかかってきた。

ノア
『おねえちゃん、会いたかったよ~』

サトコ
「ごめんね。仕事でバタバタしてて」
「でもノア、どこからかけてるの?電話は誰の?」

ノア
『今ね、幼稚園のお昼休み!電話はおじいちゃんに借りてるヤツ!』

(囮調査で念のために支給された携帯、まだ持ってたんだ)

津軽
誰と電話してんの?

入ってきた津軽さんに携帯の画面を見せる。

津軽
ノア

ノア
『あー!おじさん!急に家に帰って来なくなった悪い子!』

津軽
あれは···

ノア
『3人で暮らすのすっごく楽しみにしてたのに!』
『おじさん、ウサちゃんをひとりじめしたくなっちゃったの?』

津軽
お兄さんな

ノア
『ひとりじめしたくなっちゃったの?』

津軽
···そうだよ

ノア
『子どもー!』

サトコ
「ねー、子どもだよね」

津軽
うっさいなー

ノア
『あとね、おじいちゃんにも会いたいな』

津軽
銀室長な

(銀さんにすっかり懐いてる···ノア、強いな)

ノア
『そうだ。前にあげた飴舐めた?』

サトコ
「あ···ごめん、あれは···」

津軽
俺がパクった

ノア
『えー!』

サトコ
「そうなんですか!?」

津軽
あれがあったから、子どもたちの解毒剤が用意できたんだよ

サトコ
「なるほど···」

(ノアにも助けられたんだ···)

サトコ
「ノア、ありがとね」

ノア
『おじさん、落とし前はいつかつけてもらうからね!』

津軽
はいはい

サトコ
「そんな言い方、どこで···」

(きっと津軽さんフレンズから野菜もらった時だ···)

これからは気を付けねばと思っていると、
電話の向こうからノアを呼ぶ黄色い声がたくさん聞こえてきた。

ノア
『あ、お友だちに呼ばれたから、またね!』

サトコ
「うん、またね!」

最後に画面に映り込んだのは、ノアを待つ友だちの集団。

サトコ
「ノア、幼稚園でもモテモテなんですね···」
「きっともう少し大きくなったら、私たちとのお出かけも減って···」
「ノアにはノアの世界ができて···もう私たちのことなんて見向きもしなくなって···!」

津軽
いや、なに感傷に浸って親心発揮してんの。まだ結婚もしたことないくせに

サトコ
「すみません。隠してたんですが、実はバツイチでして···」

津軽
は?マジ!?

サトコ
「···なわけないじゃないですか」

津軽
······

サトコ
「···っ!?いっ、いった!!無言のデコピン反対!」

津軽
おかわり欲しいって?

サトコ
「じょ、冗談くらい言ってもいいじゃないですか!」

津軽
は~···案外、アリなとこがムカつく

サトコ
「どういう意味ですか」

津軽
結婚より前にデートでしょ
デートしよ

サトコ
「誰と誰が?」

津軽
俺と君がだよ。ドバカ

サトコ
「!?」

デコピンの痕をぐーっと人差し指で押してくる津軽さんの顔はーー微かに赤いように見えた。

to be continued

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