告白ってものを散々受けてきた人生だったーー
女の子
「たかおみくん、すきです!」
女の子
「津軽くん、この手紙あとで読んでください!」
先輩
「津軽さぁ、今夜うち来なよ」
女子軍団
「たかみー!今日、どこ行くー?」
物心ついた時から、気が付けば女の子が近くにいた。
そして、告白というものを俺は一度もしたことがない。
いいなと思ったら、大抵向こうから来るからだ。
そういう空気も雰囲気も察知することに長けているつもりーーだったが。
サトコ
「私の気持ち、わかってるんですよ···ね?」
(······わっかんなかったけど!?)
(なんなら誠二くんにいつか取られるんじゃないかってくらい不安に思ってたけど!?)
そりゃ時々、ときめきを混ぜた瞳で見られることはあった。
でも、この顔の良さだ。
いくら『見慣れた』だの『津軽さんだから』だの言ったところで。
根が田舎娘のウサには刺激があるだろうと思っていた。
だから、ちょこちょこちょっかいを出すことで満足していたのだが。
まさか本当にウサの気持ちが育っていたなんて。
津軽
「············」
サトコ
「······なんですか、なんなんですか···」
「デリカシーって···」
助手席のウサは顔を真っ赤にしたまま下を向いてブツブツと文句を言い続けている。
(ああ、やべ···予防線が変な風に働いた)
(こんな鈍い男じゃねけだろ、期待したくなくて保険かけすぎた···)
(ドバカか···)
恋は人をバカにする、なんて言うけれど。
ドバカにされているのは、俺だ。
いつか、いつかーーこの子に気持ちを伝えるとしたら···なんて、妄想をしたことはあった。
そして、そこには多少なりの理想もあって。
花言葉を携えた花束を持ってとか。
初デート(デートだよ、あれはなにがなんでも)した展望レストランで、とか。
フツウの彼女が望む、フツウの最上級の告白をーーそれこそバカみたいに夢を見た。
(こんな···どさくさでぼろっとこぼれるなんて、だっせぇ···)
津軽
「はあああぁぁ···」
サトコ
「なっ、ため息っ!?」
びくっと助手席のウサが小さく肩を震わせたように見えた。
ぶるぶるとしている様はほんとにウサギみたいで、こんな状況でも頬が緩みそうになる。
(あ、また勘違いさせる?マズ···)
不本意な流れではあっても、やっと1歩···半歩、近づいたというのに。
津軽
「···コンビに寄っていい?」
サトコ
「え?は、はあ···どうぞ···」
きっとマヌケな顔をしてたと思う。
けれど返って来たウサの声も負けず劣らずマヌケなものであった。
サトコ
「何買うんですか?」
津軽
「んー、何買お」
サトコ
「欲しいものがあるから寄ったんですよね?」
津軽
「まあねー」
(気まずさを隠すための避難所にしたとは言えねぇ···)
(こんな時、喫煙者だったら楽なんだけどなー)
(ていうか、タバコって便利だな?どんな時でも逃げる小道具に使えるし)
(兵吾くんがタバコ吸ってんのは、そういう理由かー)
また吸ってみようかなんて考えが一瞬頭を過って。
ウサが絶対タバコ臭いって文句を言うと思うから、脳内会議で却下される。
津軽
「ウサ···?」
横にいたウサがいつの間にかいなくなっていた。
店内を見回せば、奥のリーチインショーケースの前にいる。
サトコ
「あの1番上のジュース?」
男の子
「うん!あのみかんジュース!」
小さな子ども相手に高いところにあるジュースを取ってあげている。
(俺が煩悩にまみれてる間に···よく気付いたな)
(いい子なんだよな。ベースが、ほんとに)
善良の塊みたいな生き物だ。
(なんで俺みたいなのに惚れたんだろ)
(······やっぱ顔か···?)
サトコ
「津軽さん、角煮ヨーグルトっていうのがありますよ」
「この地区の限定発売らしいです」
ちょっと離れたところから、ウサがちょいちょいと手招きしている。
横に行くと、屈んで視線を合わせた。
サトコ
「角煮ヨーグルトはこっちですよ」
津軽
「ウサ、俺の顔、どう?」
サトコ
「睫毛でも刺さりました?」
津軽
「いや、そいういう意味じゃなくてね」
かなり近い距離まで近づいても、怪訝そうに眉をひそめられた。
津軽
「か・ん・そ・う」
「俺の顔を見た感想は?」
サトコ
「ほんと、自分の顔が好きな人ですね。ショーケースのドアでも見ればいいのに」
津軽
「ウーサ」
サトコ
「はいはい···目が2つあって、睫毛が長くて···?」
「えー···高い鼻がひとつ真ん中にありますね?」
「唇が荒れてるとこ見たことないのはすごいです」
津軽
「···それだけ?」
サトコ
「ちゃんと褒めましたよ?」
(スゲーおざなりにな···惚れてる感じしないよねー···)
(マジで自惚れの可能性ない?これ)
(だって俺たち···)
あ。
まだどっちも『好き』だって言ってない。
サトコ
「で、買うんですか?角煮ヨーグルト」
津軽
「じゃ、2つ買ってこ」
サトコ
「私の分はいりませんから!」
津軽
「シリーズの角煮ミントも買ってこっか」
サトコ
「私のはいりませんからね!」
津軽
「会計するから、ウサちゃんもいるものさっさと入れな」
サトコ
「まともな飲み物!」
それだけが唯一の救いだというようにドリンクを取りに走る。
日常の風景と、とっ散らかった気持ちがかみ合わなさ過ぎて落ち着かない。
サトコ
「これとこれ、お願いします!」
津軽
「はいはい」
一緒くたに会計を済ませると、コンビニの外に出た。
(好き···なんだよな?)
確認したくて、手を繋いでみると。
サトコ
「!」
パッと離された。
津軽
「おいっ!」
サトコ
「だ、だって!」
ウサは繋いだ手をギュッと固めて胸に抱くと、俺から顔を背ける。
(なんだよ、やっぱ···)
自惚れだったのかと、立ち尽くせば。
サトコ
「···今はそいういうの、浮かれちゃうから···」
津軽
「······」
「·········」
(壁!!壁どこだよ!)
可愛い。
可愛いが過ぎて壁にでも頭を打ち付けなきゃやってられない。
サトコ
「津軽さんにも銀さんのこと、とか···いろいろあるのわかってるので、その···」
「一方通行じゃないかもって知れただけで、今は満足です···」
津軽
「うん···」
(···俺は今、知りたくなかったよ)
(全部を振り切って抱きしめたくなるから)
1歩と少しだけ先にあるウサの小さな背中。
手を伸ばせば届く。
抱き締められても抱き締めないのが、今の俺たちの距離。
(俺のものになんないかな···なんて思ったけど)
それが現実になって。
初めてできた大切な女の子が、俺を見てくれているのが夢のようで、嬉しくて。
ーーそれでいて、怖い、と思った。
津軽
「···ウサって男見る目ないよね」
サトコ
「え゛っ!?」
ぱっと振り返って眉を下げるサトコに、1歩とあと少しを縮めたくても縮められない。
このふにゃりとした柔らかい存在が。
こんなにも俺の人生に欲しくて、ひたすら愛おしいのに。
Happy End
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