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メリー・オ世話シマス!? プロローグ2

師走というだけあって、あっという間に迎えたクリスマスイブ。

???
「······」

(さっきから誰かの視線を感じるような···)

視線の主を探すと、ぱっと気配が消える。

(気のせい?)

黒澤
ホッワイトクリスマス~♪

どこから持ってきたのか、黒澤さんが小さなクリスマスツリーを持って来て飾りつけをしている。

黒澤
サトコさんも一緒に飾りつけしません?

サトコ
「まだ仕事中なので···」

黒澤
仕事はあとでもできますけど、飾りつけできるのは今だけですよ?
警護課の皆さんは毎年欠かさずクリスマスツリー飾ってるのに
このキャンディケーンは、どこに飾ろっかな~

(石神さんの視線が突き刺さってるんですが···!)

サトコ
「そういえば、さっきホワイトクリスマスって言ってましたけど···」

石神
明日は雪になるらしい。黒澤は明日、外で張り込みだ

黒澤
さーて、おっ仕事~♪

(明日雪なら、早めに家出た方がいいかな)

津軽
クリスマスに一緒に過ごす恋人もいないと、寒さが身に染みるねぇ

サトコ
「···津軽さんだってぼっちじゃないですか」

(だよね?多分···)

津軽さんの様子をチラ見すると、津軽さんはパッと両手で顔を覆った。

(な、なに!?)

津軽
うちの子、反抗期だわ···

サトコ
「······」

百瀬
「潰しますか」

サトコ
「つぶし···っ!?」

津軽
まあまあ。イブだし、今日だけ大目に見てあげようよ
きっと上司へのクリスマスプレゼントは忘れてないだろうしね

サトコ
「······」

(何も用意してない···どうしよう···)

心の中で遠い目をしながら、とりあえず目の前の仕事に集中することにした。

迎えたクリスマス当日。
天気予報とは打って変わって晴天が広がっていた。

女性職員A
「晴れてよかったねー!」

女性職員B
「今日のデート楽しみ~」

(今日はみんな、キラキラしてるなぁ。クリスマスデートだもんね)

すれ違った女子たちのいい香りに足を止めると。

津軽
今日のデート、楽しみだね~

サトコ
「デート!?」

津軽
ウサちゃんもギリギリうちの紅一点なんだから、クリスマス盛り上げてね

サトコ
「ギリギリ···」

サトコ
「ミニスカサンタの衣装で女子力アップする?」

サトコ
「セクハラですってば」

(結局、彼ともほとんど話せてないし···)
(残業だけは避けたいから、早く仕事終わらせよう!)

時計を見れば、もうすぐ夕方。
津軽さんのミニスカ論を右から左に聞き流しながら、急いで課に戻った。

駆け込みで頑張った甲斐もあり、退庁時刻前には抱えた仕事を終えることができた。

(よしっ!あとは帰りにチキンとケーキを買って帰るだけ!)
(彼の仕事はまだ終わりそうにないから···)

心の中で声援を送り、静かに帰り支度を整えていると。

後藤
氷川、帰るのか?

サトコ
「はい。そのつもりですけど···」

後藤
そうか···

後藤さんの眉が少し困ったように下がった。

サトコ
「あの、何か手が必要でしたら···」

後藤
···いいのか?

サトコ
「このあと予定があるわけじゃありませんから」

(ここにいれば、彼とちょっとでも長くいられるし···)

邪な気持ちを抱きながら、石神班の仕事を手伝っていると、

難波
お、間に合ったか?

サトコ
「難波さん!?」

白いケーキの箱らしきものを持った難波さんが顔を見せた。

加賀
難波さん···

石神
···ここに顔を見せて大丈夫なんですか?

難波
銀は年末年始は海外だっていうし。今日の俺はサンタだ、サンタ
クリスマスパーティーの時間だぞ

黒澤
わーい、ケーキだ!チキンも出しますね!

後藤
俺は飲み物を

東雲
じゃ、オードブル持ってきます

サトコ
「え···」

元教官方が課内の冷蔵庫から、次々とクリスマスのご馳走を持ってくる。

サトコ
「これは···」

颯馬
クリスマスまで頑張ってくれた、ご褒美ですよ

加賀
年明けまで休みは一切ねぇからな

(つまり、これはぶら下げられたニンジン···)
(でも同じ働くなら、腹ごしらえは大事!)

サトコ
「このパーティーで、しっかり充電します!」

津軽
···俺、知らなかったんだけど

ユラッと横に来た津軽さんが地を這うような声を出す。
その顔を見れば、子どものようにむぅっと拗ねた顔をしていた。

サトコ
「それは···」

(やっぱり津軽さんが銀さん直属の部下だから···?)

百瀬
「···俺たちは出ましょう。津軽さん」

難波
おいおい、待てって。仲間外れとか、そういうじゃねぇんだから
ひよっこが世話になってるから、津軽班へのクリスマスプレゼントだ

津軽
···ふーん

百瀬
「どうします?」

津軽
まあ、どうしてもっていうなら、いてもいいけど
ご馳走を前にウサちゃんの口からヨダレ垂れてるしね

サトコ
「た、垂れてません!」

そう言いながらも慌てて確かめると、後藤さんが飲み物のボトルを持ってきた。

サトコ
「それ···シャンメリーですか?」

後藤
庁内で呑むわけにはいかないだろう

後藤さんがぐっと力を入れて開けると、ぽーんっとコルクが飛んでーー

サトコ
「···っ!」

後藤
!?

私のおでこに命中した。

東雲
ピロリロリーン♪

黒澤
100点!···とか言っちゃダメですよ!

後藤
すまない!大丈夫か!?

サトコ
「はは、これくらい平気です。赤くなってます?」

後藤
ああ、少し
本当に悪かった···

後藤さんが私のおでこをそっと撫でる。

後藤
冷やそう

サトコ
「大丈夫です。ほんとに」

津軽
はいはい。気安くうちの子に触らない

津軽さんが私の肩に手を置いて、ぐっと自分の方に引き寄せた。

黒澤
じゃ、乾杯しましょう!

黒澤さんがプラコップに注いで、シャンメリーを回してくれる。

黒澤
音頭は難波さんにお願いします!

難波
よーし、メリークリスマース!

黒澤
メリークリスマース!

サトコ
「メリークリスマス!」

主に私と黒澤さんの声が響く。

津軽
パーティーなら、“王様ゲーム” でもしよっか

黒澤
くじ、用意してあります!

(用意周到···さすが公安のパーティー奉行!)

“王様ゲーム” を始めるとーー

黒澤
5番と7番でチークダンス!

津軽
俺、7番。5番は?

加賀
···チッ、俺だ

(津軽さんと加賀さんのチークダンス!?)

東雲
1番と4番が2人羽織でケーキを食べる

難波
1番は俺だ

加賀
···4番

難波
よし、美味いケーキを食わせてやるからな~

(加賀さんの顔が生クリームまみれに!)

津軽
俺、王様~。2番と3番がポッチーを両端から食べる

黒澤
鉄板きましたね!
俺、後藤さんとやりたかったのにな~

後藤
···俺は5番だ

東雲
誰?2番と3番

石神・加賀
「···俺だ」

サトコ
「!」

東雲
うわ~

サトコ
「ある意味、クリスマスの奇跡···」

加賀
あ゛あ゛!?

石神
······

サトコ
「ひっ」

加賀さんの睨みと光る石神さんの眼鏡に口をつぐむ。

後藤
長生きしたければ、見ないことだ

サトコ
「あ···」

後ろに回った後藤さんが、そっとその手で目隠しをした。

黒澤
隠れて撮ってますから!

黒澤さんが耳打ちしてくる。
数分の失われた時間のあと、目隠しが外された。

石神
······

加賀
······

(こ、これは絶対に詳しいことは聞かない方がいい雰囲気!)

難波
続きやるぞ~

そして “王様ゲーム” は続き、どういうツキの巡りか、必ず加賀さんがヒットする。
その結果、加賀さんは乱れに乱されていきーー

(こ、これが加賀さんのクリスマスの奇跡···?)

思わずこぼれそうな笑いを必死に堪えていると···その鋭い視線に射抜かれた。

加賀
クリスマスに死にてぇか、クズ

サトコ
「いえ!まさか!」

ぱっと顔を伏せると同時に、ゲームが終わりを告げ九死に一生を得る。

津軽
なんか部屋、暑くない?

サトコ
「パーティーの熱気ですかね。少し窓開けますか?」

窓に行ってブラインドを開けるとーー

サトコ
「わ、雪···雪が降ってます!」

後藤
天気予報が1日ずれたんだな

颯馬
ブラインドで分かりませんでしたね

石神
もうこんな時間か。難波さん、そろそろ

加賀
雪が降りだしたんじゃ、電車もあてになんねぇ

難波
ひよっこ、お前はもう帰った方がいいな

サトコ
「いいんですか?」

津軽
······

(津軽さんがめっちゃこっち見てる···)
(難波さんに仕切られて、口を挟みたくても挟めないっていう?)

サトコ
「とりあえず、片づけ手伝います」

黒澤
そうしてる間に、電車止まっちゃうかもですよ

津軽
仕方ないな~。“班長権限” で帰ってもいいよ

( “班長権限” って、強調した···)

難波さんへの当てつけであることは言うまでもない。

(面倒を起こさないためにも、帰った方が賢明かな)

サトコ
「それじゃ、お先に失礼します。その分、明日早く来ます」

後藤
気を付けてな

東雲
滑って転ぶとか、お約束なことやめてよ

サトコ
「はは、大丈夫ですよ。そこまで漫画じゃありません」

片づけをしている皆さんに頭を下げて、ひと足先に帰らせてもらうことにした。

課を出てスマホで電車の運行情報を確認すると、もう遅れが出ている。

(ほんとに帰れなくなるかも?)
(こんな日じゃないとタクシーもつかまらないだろうし、早く帰らないと!)

通用口のドアを開けると、冷たい風が頬を撫でる。
小走りで急ごうとしたのが、きっと悪かった。

(あ···)

サトコ
「!」

(漫画みたいなことはしないって言ったのに!)

凍り始めていた床に綺麗に足が滑る。
衝撃に備えて、極力ダメージを減らそうと受け身を取りーー

サトコ
「···っ!」

(あ、れ···?)

ドスンという音がしたのに、なぜか身体が痛くない。

???
「······」

(こ、この下にある柔らかなものは···)

恐る恐る視線を落とすと、私の下敷きになっていたのはーー

難波仁
石神秀樹
加賀兵吾

to be continued

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