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メリー・オ世話シマス!? 加賀1話

(こっ、この柔らかい感触···まさか!)

加賀
······

サトコ
「加賀さん···!す、すみません!」

下敷きになりながら、加賀さんが呆れたように私を睨む。

(加賀さんももう帰るところだったんだ。もしかして一緒に帰れる···?)
(いや、それよりも)

サトコ
「あの、ありがとうございました。おかげで怪我せずに済みました」

加賀
鈍くせぇ

サトコ
「急ぎ過ぎて、雪が積もってるってこと忘れてたんです···」
「でも今日、楽しかったですね!みんなでクリスマスパーティーができるなんて」

加賀
······

(ハッ···しまった!加賀さん、王様ゲームでことごとく不運な目にあったんだっけ)
(ああいう加賀さんも新鮮で、私は楽しかったけど)

私よりも先に立ち上がり、加賀さんが雪の中を歩き出す。
でも数歩行ったところで、なぜか立ち止まった。

サトコ
「···加賀さん?」

加賀
なんでもねぇ。さっさと帰れ

サトコ
「でも···」

(ひょっとして、私の下敷きになった時にどこか怪我したとか···!?)

サトコ
「大丈夫ですか···?もしかして、さっき···」

加賀
···触んな

伸ばした手を、加賀さんが冷たく振り払う。
私とは決して目を合わせないその姿から、静かな怒りが伝わって来た。

加賀
帰れって言ってんだろ

サトコ
「は、はい···」

その声の低さに手を引っ込め、慌てて頭を下げる。

サトコ
「お先に失礼します」

加賀
······

結局その後、加賀さんの声を聞くことはなかった。

翌日、いつものように出勤するも昨日のことがいつまでも頭から離れなかった。

(あんなところでうっかり滑って転んで、加賀さんを下敷きにして···)
(そりゃ怒るよね···ほんと、なんでこんなドジなんだろう)

あのあと家に帰り、平謝りのメッセージを送った。
本当は電話したかったけど、あの怒りを思い出すとどうしても勇気が出なかった。

(でも結局、返事はない···)
(気になりすぎて、昨日はほとんど眠れなかったな)

東雲
おはよー。ねぇ、兵吾さん、なんかあった?

オフィスに入って来るなり、東雲さんが私に尋ねてくる。

サトコ
「何かって···?」

東雲
今日、休みだって

サトコ
「えっ···」

東雲
あの人、盲腸でも出勤してくるんだけどね。めずらしいな
キミ、暇なら帰りに様子見に行ってよ

サトコ
「いやまぁ、確かに暇ですけど」

(でも、盲腸でも出勤してくる加賀さんが休み···!?)
(というか、盲腸の時くらいはおとなしく休んで欲しい···!)

つまり今の加賀さんは、盲腸以上の何かを抱えているということだ。

サトコ
「いくらLIDEしても返事がないんです。ずっと既読スルーで」

東雲
あ、そうなの?
じゃあキミが行っても無駄かな

サトコ
「え?」

東雲
そろそろ愛想尽かされたってこと

サトコ
「うっ···!気にしてることを···」

(とにかくもう一度ちゃんと謝りたいし、それに何があったのかも気になる)
(怒られてもいい、嫌われてもいい···仕事が終わったら家に行ってみよう)

というわけで、仕事が終わると真っ直ぐ加賀さんの部屋にやって来た。

(けど···予想はしてたものの)

加賀
帰れ

インターホン越しに、無情な声が響く。
でもその声がどこか普段と違う気がして、必死に食い下がった。

サトコ
「お願いします。ちょっと顔を見たら帰りますから」
「盲腸でも仕事する加賀さんが休むなんて···心配なんです」

加賀
······

少しの沈黙のあと、ようやく玄関のドアが開き···

サトコ
「加賀さん···!」

(って、あれ···?バスローブだ···)
(もしかして、寝てた···?そんなに具合悪いの···?)

加賀
勝手にしろ

背を向けて部屋に戻っていく加賀さんを、慌てて追いかけた。

リビングへ来たものの、加賀さんはなぜかソファに座ろうとしない。

(顔色は悪くない···風邪とかではないみたいだけど)

サトコ
「自分から押しかけておいてすみません···調子が悪いなら寝ててくださいね」
「ご飯食べましたか?何か作りますよ」

加賀
いらねぇ

サトコ
「でも···せめて座ってください」
「私が近くにいるのが嫌なら、離れますから」

加賀
······

サトコ
「加賀さん···何があったんですか?」

加賀
テメェにゃ関係ねぇ

サトコ
「っ······」

せっきから続く同じようなやりとりに、思わずぎゅっとクッションをつかんだ。

サトコ
「私、そんなに頼りないですか」

加賀
あ?

サトコ
「確かに昨日、私がヘマをしたせいで迷惑をかけたのかもしれません」
「でも、もうちょっと頼って欲しいです!」

加賀
······

サトコ
「だ、だって、私は加賀さんの恋人なのに···!」

持っていたクッションを、加賀さんに軽く投げつける。
あとずさる加賀さんに、悔しさに任せてどんどんクッションを投げた。

加賀
おい、待···っ

サトコ
「加賀さんだけには、拒まれたくないんです!」
「私のせいなら、なんでもいいからやらせてください!どんなことでもしますから!」

加賀
っ······
ぐっ···~~~~!

サトコ
「え?」

クッションを避けようと後退った加賀さんが、壁にぶつかる。
その瞬間、今まで見たことがないほど悶絶した。

サトコ
「かっ、加賀さん!?」

加賀
だからほっとけって言っただろうが

サトコ
「え···」

崩れ落ちながら、加賀さんが押さえているのはーー

(腰···じゃなくて、お尻!?)

サトコ
「あ···!?まさか、昨日私を庇った時に!?」

加賀
黙れ

サトコ
「だって···そうなんですよね!?ちょっと見せてください!」

加賀
テメェ···潰すぞ

サトコ
「潰されても埋められても粉々にされてもいいです!とにかく見せてください!」

加賀
ぐっ···やめ···

痛みで身動きが取れないらしい加賀さんのバスローブを引っぺがして、後ろに回り込む。
鍛え抜かれた加賀さんの綺麗なお尻が、真っ赤になっていた。

サトコ
「···火傷!?」

加賀
たいしたことじゃねぇ

サトコ
「たいしたことですよ!だ、だから座れなかったんですね···」
「この状態じゃ、寝ることもできないんじゃ」

加賀
横向きになればどうにかなる
チッ···

サトコ
「加賀さん、もしかして···昨日からずっと怒ってたのって」
「私にじゃなくて、自分自身に···?」

加賀
テメェが鈍くせぇのなんざ、今に始まったことじゃねぇ

サトコ
「本当にすみません···!私がちゃんと足元を見てたら」
「あっ···それより、病院には行ったんですか?薬は?」

加賀
行くわけねぇだろ。寝てりゃ治る

サトコ
「治りませんよ!私、ちょっと薬局行ってきます!」

加賀
おい···

加賀さんのバスローブを綺麗に戻すと、お財布を持って部屋を飛び出した。

火傷の薬を買ってくると、やっぱり立ったままの加賀さんにじりじりと迫る。

サトコ
「お尻出してください」

加賀
自分で塗れる。寄越せ

サトコ
「いえ。私の責任ですから、私が最後までやります」
「早くお尻出してください」

加賀
出せるか。テメェが出せ

サトコ
「私のお尻は今関係ないですよ!」
「今の加賀さんはお尻の痛みで俊敏に動けない···つまり私の方が有利です」

加賀
上等だ。試してみるか

サトコ
「いいでしょう!必ずやそのお尻にこの薬を塗りこんでみせます!」

こうして、私と加賀さんのお尻を巡る攻防が始まったーー

加賀
······

サトコ
「ふう。これでよし、っと」

結局、痛みで再び悶絶した加賀さんを捕まえ、薬を塗ることに成功した。

サトコ
「市販の薬ですから、そこまでの即効性はないと思うので」
「明日は病院に行きましょうね。私、付き添いますから」

加賀
痴女が···

サトコ
「痴女!?」

(きっと加賀さん的には、すごい不本意なんだろうな···苛立ちがめちゃくちゃ伝わってくる)

サトコ
「でも、綺麗なお尻でしたよ!」

加賀
···治ったら覚えとけ

サトコ
「褒めたのに···」

翌日、嫌がる加賀さんを引きずるようにして皮膚科へ連れて行き···

あっという間に時間は過ぎ、今年も大晦日がやってきた。
加賀さんはようやく座れるようになり、今は静かに報告書の確認をしている。

(結局二日間休んじゃったから、書類も溜まってるんだよね)
(その上、昨日までは長時間座れなかったし)

加賀
おい、これ適当に書いとけ

サトコ
「またそうやって、報告書をでっちあげようとする···」

津軽
ちょっとちょっと兵吾くーん。うちのウサちゃん勝手に使わないでほしいな

加賀
あ゛?

『うちの』という言葉に、加賀さんが一気に不機嫌になる。
慌てて止めようとした時、突然オフィスが騒がしくなった。

黒澤
加賀さん、加賀さーん!

加賀
それ以上、一言でも発したら撃つ

黒澤
なんでオレにはそんな容赦ないんですか!

東雲
「うるさいから」

黒澤
それは否定しませんけど!

サトコ
「しないんですね···」

黒澤
ふふふ···それより加賀さん、オレにそんなこと言っちゃっていいんですか?

加賀
何?

黒澤
クリスマスのあとの、突然の有休消化···それも二日間
その日加賀さんは、病院に行っていた···そうですね?

加賀
······

(黒澤さん、どうしてそれを···)
(ま、まさか···!)

黒澤
独自に入手しました!クリスマスのあの夜···
滑って転んだサトコさんの下敷きになり、加賀さんのお尻が燃えたことを!

黒澤さんの言葉に、オフィスに衝撃が走った。
全員の視線が集中した瞬間、加賀さんの怒りオーラがMAXになったことがわかる。

サトコ
「黒澤さん···逃げて!」

黒澤
えっ···

加賀
そこまで地獄が見てぇなら見せてやる

黒澤
ぎゃっ!待っ···死っ···

素早い動きで背後を取ると、加賀さんは黒澤さんの首に腕を巻きつけた。

黒澤
待って!本当に死んじゃう!
後藤さん、助けて!

後藤
自業自得だろう
······

颯馬
後藤、笑うのは加賀さんに失礼ですよ
······

後藤
···周さんこそ、肩が震えてますよ

颯馬
これは···武者震いです

(苦しい言い訳だ···)
(絶対、加賀さんのお尻が燃えたのを想像して笑いを堪えてる···)

津軽
ふーん、兵吾くんのお尻がねぇ

加賀
うるせぇ

津軽
いやいやだって、自慢のお尻が燃えたんでしょ?大丈夫だった?

百瀬
「自慢の尻···」

石神
お前たち、そのくらいにして仕事をしろ
今日中に片付けないと、新年が迎えられないぞ

みんなを諫めたあと、石神さんがサッと加賀さんから目を逸らす。

石神
······

後藤
石神さんも肩が震えてます

石神
これは···武者震いだ

サトコ
「石神さんまで···」

加賀
テメェら···

東雲
でもまあ、よくなったんだよね

サトコ
「はい。病院に行って、なんとか···」

東雲
ならよかったじゃないですか
あとは新年早々キミが転んで、また兵吾さんを下敷きにしないといいね

サトコ
「やめてください···そういうこと言われると本当に起こりそうで」

加賀
······

(うっ、これ以上話すと怒りの矛先がこっちに向く)
(ご機嫌を取るためにも、今夜は加賀さんの好きなものを作ろう···!)

今年最後の仕事を速めに終わらせて、ふたりですき焼きパーティーを行い···
除夜の鐘が聞こえ始めた頃、年越しそばを作った。

サトコ
「さっきすき焼き食べたばっかりなので、少なめにしたんですけど」

加賀
ああ

(よかった···すき焼きでお肉いっぱい食べたから、加賀さんの機嫌が直った)
(お尻もよくなってきたし、無事に年が越せそうで何よりだな)

サトコ
「今年もあっという間でしたね」
「そういえば今年は割と、死にそうな目には遭わなかった気がする···」

加賀
物足りねぇのか。どこまでもマゾだな

サトコ
「違いますよ!平和でよかったなって思っただけです!」
「来年もどうか···いや、せめてお正月くらいは平和に過ごせますように」

加賀
無理だろ

さっさとおそばを食べ終えた加賀さんが、私の腕を引っ張る。

サトコ
「あっ、私まだ、おそば···」

加賀
あとで食え

サトコ
「伸びちゃいますよ!」
「うう···加賀さんにいじめられて今年が終わり、加賀さんにいじめられながら新年が始まる···」

加賀
本望じゃねぇか

ソファに押し倒され、口元に笑みを浮かべた加賀さんに顔を覗き込まれた。

加賀
安心しろ。来年は物足りなさなんざ感じられねぇくらいにしてやる

サトコ
「え···」

声音は優しいのに、私の服を脱がそうとする手は荒々しい。

(思えば、加賀さんのお尻が燃えてからは大事を取ってこういうことはしてなかった···)

加賀
頼られねぇのが不満だって言ってたな
なら、久しぶりに愉しませてみろ

サトコ
「···ぁっ···」

加賀
俺を満足させられんのは、テメェだけだろ
まずは···そうだな

何か思いついたように、加賀さんが服を全て脱がせる前に下着に手をかけた。

サトコ
「な···っ!?」

加賀
テメェも見ただろうが

サトコ
「まさか、私にもお尻を出せと!?」
「私のお尻は燃えてませんから!手当てもいりません!」

加賀
喚くな、痴女が

サトコ
「ち、痴女じゃな···」
「ごっ···ごめんなさいーーーー!」

当然の数十倍···数百倍返しを、どうしてあの時の私は危惧していなかったのか。
満足げに笑う加賀さんに組み敷かれながら、今年最後の夜は過ぎていくのだった。

Happy End

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