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メリー・オ世話シマス!? Part2 プロローグ1 

ショッピングモールの中央広場にそびえるクリスマスツリー。
店内に響くのは軽快なクリスマスソング。
そしてーー

男性
「プレゼント、何がいい?」

女性
「何でもいいよ~。あ、さっき可愛いネックレス見つけたんだよね~」

(クリスマス前の最後の土曜日···)

佐々木鳴子
「右も左も···前も後ろも···!」

カップルばっかり!ーーという言葉は何とか鳴子の口の中に呑み込まれた。

サトコ
「今日クリスマスプレゼント買う人たちも多いんだろうね」

佐々木鳴子
「こっちは必要最低限の物を買うので精一杯の休みなのに!」

サトコ
「今日が今年最後の休みになるかもしれないから、年越しの準備もしないと···」
「鳴子は今年のおせちどうする?」

佐々木鳴子
「ナシナシ。実家に帰れたらそっちで食べるし」
「帰れないなら、おせちの余裕なんてないってことだしね」

サトコ
「確かに、そうだよねぇ」

佐々木鳴子
「サトコは?」

サトコ
「私も同じかな。おせち縁起物だから、できれば食べたいだけどね」

(今は幸い大きな事件は抱えてないけど、年末年始も仕事の可能性は高いかなぁ)

佐々木鳴子
「今年こそ、一柳さんとのワンチャンに賭けてたのに···!」

サトコ
「え、そうだったの?」

佐々木鳴子
「望みは高く!イケメンも追いかければ希望がある!」
「クリスマスなんだから、夢見るくらいいいでしょ?」

サトコ
「だね。でも、警護課も年末年始は忙しいらしいよ」
「アラブ圏の要人が極秘で日本の年越しを楽しみたいとかで···黒澤さんからの情報」

佐々木鳴子
「イケメンが働くなら、私たちも頑張らないといけないかぁ」

サトコ
「そういえば、千葉さんは?」

佐々木鳴子
「え、イケメンで千葉さんを思い出したの?」

サトコ
「え、そいういうわけじゃないけど。ふと···」

佐々木鳴子
「千葉さんは潜入捜査中って話だよ。年越しそうだって」

サトコ
「千葉さんも頑張ってるんだね」

(私も負けてられないな)

公安刑事と休みは、やはり縁遠いらしい。

休み明け、書類仕事を片付けているとデスクに置いていたスマホが光った。

(実家の番号···お母さんかな。休憩時間にかけ直そう)

そして迎えたお昼休み。
実家に電話して席に戻った私は小さく息をついた。

(とりあえず、帰るのは難しいかもって伝えておいたけど)
(実家でお正月迎えたのって、いつが最後だっけ?)
(まあ、彼もきっと仕事だろうし、同じように仕事ができるならいいかな)

次の休暇には帰りたいなぁと思いながら、コーヒーを淹れるために給湯室に向かった。

お湯を沸かしていると、コツとすぐ近くで靴音が響く。
振り向くと、そこに立っていたのはーー

<選択してください>

颯馬周介

颯馬
コーヒータイムですか?

サトコ
「はい。午後の業務の前に目を覚ましておこうと思いまして」

颯馬
それでしたら、紅茶はどうですか?良いものが手に入ったんですよ

周介さんが高そうな紅茶の缶を見せてくれる。

サトコ
「いいんですか?貴重そうな紅茶ですけど···」

颯馬
英国の特別外交官の友人からのお土産で。ひとりよりふたりの方が楽しめます

そう言いながら、周介さんはふたり分の紅茶の用意を始めてくれた。

(紅茶を淹れてくれるなんて···さすが警察庁きっての紳士!)

颯馬
何か考え事でも?

(話を聞くために、紅茶を淹れて···?)

そのスマートな優しさが胸に染みる。

サトコ
「年末年始も仕事になりそうだって実家に電話したんです」
「それで少し···寂しい、かなって···。甘えたことを言ってるのは、わかってるんですけど」

颯馬
寂しさなら、埋められます

茶葉を抽出している間、彼が1歩こちらに近づいてきた。

颯馬
私も同様に仕事です
貴女を独り占めするチャンスがあると思っても?

耳に吹き込まれる低音と芳しい紅茶の匂いにクラッとする。

(仕事中は···周介さんに、迂闊に近寄ってはいけない···)

サトコ
「そ、それは、その···」

颯馬
お茶請けに、これをどうぞ

ストロープワッフルまでくれる周介さんに、すっかり餌付けされる寸前だった。

黒澤透

黒澤
みーつけた

サトコ
「!」

後ろから透くんにガシッと両肩を掴まれた。

(あ、あぶなっ!びっくりして蒸気に手が触れるところだった!)

サトコ
「火があるところでは気を付けて!ヤケドするところだったよ!」

黒澤
あなたに触れて、俺のハートはもうヤケドしてますよ
こうしているだけで沸騰寸前···

まるで大喜利のように、透くんは “愛” と “お湯” を引っ掛けて愛を語り続けている。

(私、どうしてこの人と付き合ってるんだろう···)

遠い気持ちになったのも、僅かな間のこと。
透くんは私の顔を覗き込んできた。

黒澤
何かありましたか?

サトコ
「え···」

黒澤
俺の女神の表情が曇ってます。アナタの黒澤透に解決させてください

サトコ
「じゃあ、年末年始の仕事、全部変わってくれる?」

黒澤
え、それは···
そうしたいのは山々なんですが!オレの仕事量もパンパンで···!

サトコ
「だよね。言ってみただけ。年末年始、実家に帰れそうにないから」
「随分帰ってないなぁって思ってたの」

黒澤
でも、仕事ってことは···上手くすれば、元旦に一緒に初詣に行けるかも!
仕事の年末年始も捨てたものじゃないですね♪

(どこまでも前向き···)

そんな彼をちょっと見習おうかな、と思う午後だった。

津軽高臣

津軽
あ、いたいた

サトコ
「津軽さん。何か用事ですか?」

津軽
コーヒー淹れるなら、フツー上司に一声かけるもんでしょ

サトコ
「席にいなかったので···」

津軽
俺のはアンチョビオイルをアクセントに入れてね

サトコ
「え、何にですか?」

津軽
それに

(コーヒーにアンチョビ···ココアにスパイスよりはマシなのかな···)
(ていうか、いつの間に給湯室にアンチョビオイルが常備されるようになったんだろう)

淹れたてのコーヒーにアンチョビオイルを垂らして津軽さんに渡す。

津軽
ん、ありがと。···で、正月、帰らないの?

サトコ
「電話、聞いてたんですか!?」

津軽
休みが欲しいなら言えばいいのに

サトコ
「もらえるんですか!?」

津軽
あげない

サトコ
「···だと思いました」

(一瞬でも期待した私がバカだった!)

津軽
俺だって、あげられるものならあげたいよ?
でも、俺もお仕事だし
今年の年末年始は朝から晩まで一緒だね

完璧な笑顔。
一応、好きな人と仕事とはいえ、年末年始ずーっと一緒にいられそうなのに。

(嬉しい···よりも、微妙にイラっとするのは···)

津軽
···このコーヒー、マズいな。淹れ方ヘタクソだね
もっと練習しなきゃダメだよ?

サトコ
「······」

津軽さんが、こういう人だから、かもしれない。

to be continued

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