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メリー・オ世話シマス!? 黒澤1話

黒澤
危なかった~

サトコ
「黒澤さん!?」

私の下敷きになってくれているのは透くんだった。

黒澤
クリスマスにサトコさんの尻に敷かれるなんて···
ありがとう、サンタ。ありがとう、クリスマスプレゼント···!

サトコ
「もう、変なこと言って···それより、大丈夫?透くんは···」

周りに誰もいないことを確認して、『透くん』と呼ぶ。

黒澤
オレなら全然大丈夫ですよ
サトコさんのお尻の感触をもっとグリグリと···

サトコ
「···じゃ、私は帰るね。助けてくれて、ありがとう」

黒澤
ああ、そんなツレないこと言わないで!
いたたた···っ

通用口を出ようとすると透くんの声が聞こえてきて、振り返る。
すると右足を押さえてうずくまっていた。

サトコ
「大丈夫!?」

黒澤
スライディングした時に、ちょっと捻っちゃったみたいで···
でも、名誉の負傷ですからね!これでサトコさんのお尻を守れたと思えば···

サトコ
「お尻の話はいいから、医務室に行こう。立てる?」

黒澤
肩貸してもらっていいですか?

サトコ
「うん、どうぞ」

黒澤
あー、シャンプーのいい匂いがする···

サトコ
「ひとりで歩けそうだね?」

黒澤
いやいや、全然!
あー、いたたっ

サトコ
「······」

(どれくらい痛いのか分からないけど、私のせいなのは間違いないし)
(一応、手当てしておこう)

サトコ
「腫れてはいないみたいだから、ひどくないと思うけど···念のため、湿布貼っておくね」

黒澤
病院行っておこうかな~

サトコ
「そんなに痛むの?」

黒澤
痛みはそうでもないんですけど、捻挫ってクセになるって話もあるから
今ならサトコさんに付き添ってもらえるし~

『2人で抜け出したい』という意図の視線がチラチラっと送られているーー気がする。

(うーん···絶対に病院に行く必要はないって言いきれないところが···)

サトコ
「病院に行くなら、石神さんに連絡して許可もらってからにしないと」

黒澤
え、あ、いや、それはしなくてもいいいんじゃないかな~。石神さんも忙しいだろうし

サトコ
「電話で一言言うだけだよ」

黒澤
いや、でも~···

(これは怪しい···)

頑なに石神さんへの連絡を嫌がる透くんに半眼になりかけていると。

後藤
なかなか戻って来ないと思ったら、こんなところで何してる

サトコ
「後藤さん!」

黒澤
どうして、ここが!

後藤
携帯。歩が調べれば一発だ

黒澤
しまった···!GPS!
スマホの電源オフっておくべきだった···!

後藤
その足、どうした?

サトコ
「私が滑って転びかけたところを黒澤さんに助けてもらったんですが···」
「その時、足首を痛めてしまったそうで。今、病院に行くか話していたところなんです」

後藤
病院?

黒澤
あ、いや、それはー···

サトコ
「後藤さんも見てもらえますか?病院に行くべきか」

後藤
···嘘だろ、黒澤

黒澤
えっ

サトコ
「え!」

(まさかの一刀両断!?)

後藤
どうせ片付けが面倒で、氷川と消えるつもりだったんだろう
来い

黒澤
ちょ、ほんとなんですってば!黒澤透、ウソつかない!

後藤
気を付けて帰れ、氷川

サトコ
「は、はい。ありがとうございます···」

黒澤
あ、サトコさんに、これを!

透くんが投げて渡してきたのは折りたたみ傘。

黒澤
濡れないように!足元気を付けて帰ってくださいね!

サトコ
「うん、ありがとう···」

(これを届けるために追いかけて来てくれたの?)

ズルズルと後藤さんに引きずられていく透くんを、手を振って見送る。

(なんか申し訳ないな···足が大丈夫なのはよかったけど···)

皆さんの気遣いのおかげもあり、私は無事、電車で帰ることができた。

家に帰り熱いシャワーで温まると、すぐに眠気が襲って来た。

サトコ
「ふあ···今日はもう寝よう」

あくびをして、レンジ湯たんぽで温めたベッドに入ろうとすると。

ピンポーン♪

サトコ
「え···」

(こんな時間に人が?)

部屋にある竹刀に手を伸ばす。
警戒している間にも、インターフォンはしつこく鳴らされ続ける。

(このしつこさは···)

確認する前から、ピンとくるものはあった。
いざモニターを見てみるとーー

黒澤
アナタのサンタさん★黒澤登場~!

サトコ
「······」

(この寒い深夜に、どうしてこのテンション···)

サトコ
「悪いんだけど、もう寝るところで」

黒澤
ケーキとチキン買って来ましたよ!他にもクリスマス限定のブツを、いっぱい!
はぁ~、さむっ。今日は冷えますね~

モニター越しに両手に掲げたコンビニの袋を見せてくる。

(寒い中、わざわざ来てくれたんだよね···)

赤くなっているその耳を見れば、解除ボタンを押していた。

サトコ
「お疲れさま。パーティーの片づけ、透くんに任せちゃって、ごめんね」

黒澤
え、どうしてオレが片付けたって知ってるんですか?

サトコ
「あのメンバーなら、そうなるかなって。大変じゃなかった?」

黒澤
公安のパーティー奉公のオレにかかれば軽い、軽い
さ、2人だけの二次会始めましょ
グラス借りますね!

キッチンに向かう足が何だかひょこひょこしてるように見える。

(足首···大丈夫、なんだよね?)

サトコ
「雪、まだ降ってる?」

黒澤
朝には積もってるかもしれませんね~。オレも終電逃さないように帰ります

サトコ
「終電っていうと、あと1時間ちょっとしかないけど···」

黒澤
クリスマスですし、1時間だけでも2人きりで過ごしたかったんです

サトコ
「透くん···」

シャンパンを注いで透くんが戻ってくる。

黒澤
乾杯!

サトコ
「乾杯!」

少しのアルコールが回り、笑顔の彼を見ていると···胸にある温かな気持ちが素直に言葉になる。

サトコ
「私もあえて嬉しい···1時間でも」

黒澤
あー、雪ん中走った甲斐があった~!

サトコ
「ちょ、こぼれるよ、シャンパン!」

伸びてきた腕に抱き寄せられ、危うくシャンパンを零すところだった。
後ろから抱きしめられた状態で座ると、冷たい髪が頬に触れて、ここに来るまでの寒さを知る。

サトコ
「でも、ごめんね。まだプレゼント用意出来てなくて···」

鳴子と買い物に行ったときに探したのだけれど、良いモノが見つからなかった。

黒澤
それはオレも同じです!

サトコ
「···それって、そんなに威張って言うこと?」

黒澤
クリスマスにサトコさんと一緒にいられるんだから、テンションMAXに決まってます!

サトコ
「わっ···」

私のお腹に腕を回したまま、身体を左右に揺すってくる。

サトコ
「な、何やってるの?」

黒澤
喜びのダンス?

サトコ
「そうやって身体動かせるってことは、やっぱり···」

(足首を捻ったっていうのは、やっぱりウソだったのかな)

右足首に手を伸ばしてみるとーー

黒澤
···っ、あーっ!!

サトコ
「透くん!?」

回していた腕をぱっと解いて、背中を反らして再び丸まる。

黒澤
~っ!

サトコ
「え?え!?本当に痛むの?見せて!」

黒澤
あ、いや!脱がさないで!エッチ!

サトコ
「何言ってるの!」

逃げる前に右足の靴下を脱がせ包帯を取ると···そこには赤痣とポッコリと腫れた足首が。

サトコ
「これ···!本当に捻ってたの!?」

黒澤
だから、そう言ったじゃないですか···

サトコ
「だったら後藤さんに言われた時に、どうしてちゃんと言わなかったの!」

黒澤
言いましたよ~。だけど、信じてもらえなくて···

サトコ
「オオカミ少年···」

黒澤
そんな!
日頃の行いが悪いからなんて、ひどい!透、泣いちゃう!

サトコ
「そこまで言ってないでしょ···」

(まあ、ウソだと思われるのは自業自得なんだけども···)

黒澤
···そりゃ、『口から先に生まれたやつ』だって、石神さんには言われてますけど
サトコさんと一緒にクリスマスを過ごしたいと思ったのは、本当です
ここにウソはありません

私の目を真っ直ぐ見つめる透くんに、私も頷く。

サトコ
「わかってる。それはウソじゃないって」
「わざわざ1時間のために来てくれたんだもんね」

黒澤
サンタが来れば、寂しくなくなるかなって

サトコ
「寂しい···?」

黒澤
だって、お家に帰れなくて寂しそうでしたし

サトコ
「あ···」

(年末年始、帰れそうにないって話した時···あの時は聞き流してるかと思ったけど)
(ちゃんと考えてくれてたんだ···)

黒澤
サトコさんには、オレがいるから。それを忘れないで

サトコ
「!」

(急にイケメンなこと言って···!)

不覚にも頬が熱くなり、それを見逃す透くんではなかった。

黒澤
···今日、帰らないとダメですか?

サトコ
「今、それを聞く!?」

黒澤
今じゃなくて、いつ聞くの?

サトコ
「ほんとにもう、透くんは···」

(こういうの、上手いんだから···)

サトコ
「···いいけど、着替えはどうするの?同じ格好で行ったら、いろいろと···」

黒澤
あ、一式持ってるんで、ご安心を

サトコ
「初めから泊るつもりだったの!?」

(1時間で帰るって言ってたのに!)

黒澤
備えあれば憂いなし方式ですよ

サトコ
「そういうことするから、肝心な時に信じてもらえないんだよ···」
「でも、泊っていくなら、お風呂入ったら?外寒かったでしょ」

黒澤
そうですね。その方が心置きなくイチャイチャできますし

サトコ
「···服、洗濯するから洗濯機に入れておいてね」

黒澤
ありがとうございます
サトコさんのお家に婿入りした気持ちです!

(婿入り···?)

どうして、そういう方向になるのかと思ったけれど。
あえてツッコまずに、お風呂に送った。

サトコ
「···っ、ちょっと待って···っ」

黒澤
もう十分に待ったよ。違う?

サトコ
「そ、それはどうかな···」
「ん···っ」

お風呂から上がるなり、濡れ髪のまま運ばれたベッド。
透くんからのキスが止むことはない。

(足首、あんなに腫れてるのに···お風呂あがって湿布も貼ってないし!)

サトコ
「ストップ!」

黒澤
えー

流されそうになるのをグッと堪え、両手でその唇を押し返す。

サトコ
「足首、腫れてるんだから。大事にしないと、仕事に響いたら大変だよ」
「続きは治ってから···ね?」

黒澤
···あー、失敗した。ケガ治ったら、大変だなぁ···
あ、大変なのは、サトコさんの方か

サトコ
「······」

(い、今は先のことは考えないでおこう!)

黒澤
雪も深々と降ってますし···

透くんがカーテンをチラッと開けると、外は真っ白になっていた。

サトコ
「明日の朝は早めに出たほうが良さそう···」

黒澤
朝のことなんて考えたくない···今はこの温もりを抱きしめて眠るのみ···

サトコ
「あ、湿布!」

黒澤
ぐぅ···

サトコ
「え」

(もう寝てる!?)

私を抱きしめたまま、透くんは寝息を立てている。

(···疲れてるよね。仕事して、今日のパーティー仕切って、ここまで急いで来てくれて···)

サトコ
「湿布だけ、貼っておくね」

黒澤
ん。サトコさん···

寝ながら追いかけてくる腕にギョウザクッションを抱かせて、ベッドから降りる。
そっと湿布をしてテーピングすると、その腕の中に戻る。

(温かい···透くんとこうしてのって、幸せだな···)

睡魔は私にもすぐに降りてきて、あっという間に眠りの世界に落ちた。

翌朝ーー

黒澤
サトコさん、いってきます

サトコ
「ん···透くん?」

唇に触れた柔らかな感触で目を覚ますと、すでにスーツを着ている彼wが私を見下ろしている。

サトコ
「もうそんな時間!?」

(寝過ごした!?)

飛び起きて時計を見る私に、透くんは首を振る。

黒澤
朝イチで病院行ってから行くんで、早めに出ます
サトコさんは、いつも通りに

サトコ
「そっか···気を付けてね。ひとりで大丈夫?」

黒澤
タクシーで行くんで問題なしです。じゃ、あとで

もう一度キスをして出て行こうとし···また振り返った。

黒澤
約束、忘れないで

サトコ
「!」

(約束って、あの治ったら続きをっていう···)

大変な約束をしてしまった気がしたけれど。
今さら、どうすることも出来なかった。

黒澤
うっ···ううっ

登庁すると、透くんはデスクに突っ伏して泣いている。
そして当然、周りは見て見ぬふりーー後藤さん以外は。

後藤
いい加減泣き止んだらどうだ

黒澤
無理です!全治3週間なんて!

サトコ
「全治3週間!?」

後藤
氷川···おはよう

サトコ
「おはようございます。あの、黒澤さん、全治3週間って···」

後藤
足首の捻挫が思ったより、ひどかったらしくてな···

サトコ
「そ、そうですか···」

後藤
昨日、信じなかったのは悪いが、そこまで落ち込むことないだろう
俺もフォローしてやる

黒澤
後藤さんの気持ちは嬉しいですけど、別の事情があるんです!
このケガが治ったら、オレは···っ

サトコ
「こ、興奮すると、ケガに障りますよ!」

とんでもないことを口走りそうな透くんの口を塞ぐ。

(ほんとに油断も隙もない···!)

けれど、そのおかげで実家に帰れない寂しさは、すっかり消えていたのだった。

Happy End

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