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本編③カレ目線 津軽2話

出張から戻り、朝イチで銀さんの元に報告に行く。
モモも同行していて、今後の捜査について指示を仰ぐ予定だ。

津軽
監視対象である製薬会社の長崎研究所で、新薬の開発が進んでいるのは間違いありません
これが研究所の調査結果です
開発されている薬物はすでに使用され、データも収集されていました


「こちらの読み通りということか」

津軽
正式な鑑定結果待ちですが、殺人事件で検出されているものと、おそらく一致するでしょう


「例の移動遊園地が始まるのは明日だったな」

百瀬
「はい」


「殺人事件の容疑者から、大元を辿る」
「···囮になる家族が必要だ」
「ーー “あれ” を使うか」

(ノア、か)

前々回の事件で拾ったノアは、俺とサトコをパパとママと呼ぶことがある。
それは銀さんも知っていることだ。


「次の捜査会議で詳細を決定する。それまでは移動遊園地を徹底的に洗え」
「以上だ。下がっていい」

津軽
はい

百瀬
「はい」

モモが先に部屋を出て、続こうとした、その時。


「高臣」

津軽
はい?

呼び止められ、ドアノブに手をかけたまま振り返る。


「今朝帰って来たのか」

津軽
いえ、昨日の夜です


「予定では今日のはずだっただろう。何故だ」

津軽
最後の便に間に合いそうだったんで


「······」

(あー···嘘だってバレてんなー···)

銀さんにだけは昔から嘘をつくのが苦手だった。
そして強く見据えるような視線が、俺を心配してくれているーーということも。

津軽
大丈夫ですよ

この人の前で笑えるようになったのは、いつだっただろうか。


「···そうか」

津軽
はい

ドアを閉める時に、ふと頭を過る。

(あの天体望遠鏡の在処···銀さんなら知ってんのかな)

銀さんの部屋を出ると、めずらしくスマホにビデオ通話がかかってきた。

(知らない番号···誰だ?)

仕事用のスマホなので首を傾げながらも通話ボタンを押してみると。

ノア
『おじさーん♪』

津軽
···お兄さんな
で、何の用?
つーか、この番号、どこで知った?誰の携帯使ってんの

ノア
『わたしはひとりしかいないんだよ?質問は1回1個です』

津軽
元気そうだな。じゃーな

ノア
『いまね、ママに会って来たんだよ』

津軽
ウサちゃん?

ノア
『そ。こんどね、遊園地行くの!幼稚園で “家族の思い出” の絵を描くから!』
『じゃね、パパ!』

ブツッと切れる電話。

津軽
何もかもが唐突なヤツだな。人の話聞いてないし

(遊園地に “家族の思い出” ···ね)

子どもの頃、確かにそんな絵を描いた記憶がある。
あの絵···いや、あの家にあったものは、どうなったんだろうか。

(何考えてんだ、俺は)

遠ざけていた過去が···最近、ぶつ切りの映像のようにちらついて煩い。

課に戻ると、ウサはまだ戻っていなかった。

百瀬
「津軽さん、かなりの作業量になりそうですよ」

津軽
そのデスクに積んであるの、全部遊園地の?

百瀬
「移動遊園地なんで、資料も膨大です」

津軽
これ確認して、現地行ってさらに確認かー···
こりゃ、土日は死んでるな···

百瀬
「乗り切りましょう」

(はー、ここ最近、働きすぎ)

寝不足でピクピクするまぶたを押さえると、ウサが帰って来た。

(ウサの出番はもう少し先だよ)

ぺっぺと追い出し、モモとザックリとした予定を組む。

(あー、遊園地っていえば、1日は別に時間取らないとな)
(ノアがウサに頼んだなら、俺に···)

一緒に来て欲しいと、声が掛かるだろうと給湯室に行くとーー

サトコ
「あの、後藤さん。もし日曜日が空いてるなら、一緒に遊園地に···」

後藤
遊園地?

(はああぁぁ!?)

危うく誠二くんの背に飛び蹴りをくらわすところだった。

to be continued

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