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本編③カレ目線 津軽3話



サトコ
「あの、後藤さん。もし日曜日空いてるなら、一緒に遊園地に···」

なんで、どうして、なんで。

津軽
楽しそうな話してんじゃん

喉元までせり上がった気持ちを隠し、チケットを取り上げた。

サトコ
「あ、あの···?」

津軽
浮気者

サトコ
「はい!?」

そんな言葉で誤魔化すので精一杯だった。
立ち去り、見えなくなったところで手元を見れば。
奪ったチケットには、くっきりとシワがついていた。



誰にも会わなくてよかった。
空いている部屋に滑り込み、ガンッと壁に拳を叩きつける。

(なんでだよ)
(なんで、後藤なんだよ)

ーー『家族の思い出』というテーマが過る。

津軽
···俺じゃ上手くできないと、思ったのか
······

後藤の家庭環境は知っている。
サトコに似て、『家族』を健やかに知っている男だ。
相棒を亡くすという辛い過去を経験しているが、それでもあの男は根っこが違う。
誠二くんは、後藤は···サトコの隣が良く似合う男だった。
だから俺も大好きだけどーー羨ましくて、憎たらしい。

(···嫌だ)

座り込み、両手で顔を覆う。
過去を言い訳になんてしないと決めていても。
隠していたコンプレックスがジクジクと刺激される。

(住む世界が違う)
(最初から分かってたことだろ)

だから俺の “日常” が彼女の “日常” を侵食することを怖れたのに。
こんなにも彼女の “日常” に居場所が欲しいなんて。

(ダメだ···頭を切り替えろ)

いつも通りじゃなきゃ、この取り繕った “日常” さえ、ぶっ壊してしまう。

その日の午後。
平静を取り戻しーー装い、察庁内の女の子たちと話しながら歩く。

女性警官C
「コンビニで、こんなお菓子見つけちゃったんですよ」

津軽
そっか~

楽だった。
思う通りの反応を返し、居心地の良さを提供してくれる女の子たちは。
俺の世界がどこにあっても関係のない存在は楽に息をさせてくれる。

(これで満足してろよ、ほんと···)

津軽

サトコ
「!」

見つけてしまうのは、必死に隠れようとしているウサ。
近付かなきゃいい、だけどそれも出来ない諦めの悪さ。

(君のその目はどういう意味?)
(女の子ならだれでもいい男だと思ってる?)
(そうだったら楽だよな。楽だったよ、前は···)

自分の存在の大きさを知らないウサに苛立ちに似たものを覚えたのかもしれない。
彼女にとっては理不尽な話だろうと分かっていても我慢が出来ずに、その前へと歩いていく。

サトコ
「いいんですか?話の途中だったんじゃ···」

津軽
世間話だし
優先順位はウサと同列じゃないだろ

サトコ
「······」

ウサが黙り込んだ。
眉を下げて困った顔をするかと思ったが。
なぜかジッと感情を押し込めたような目で見上げてきた。

(え、何この反応)

サトコ
「······っ」

津軽
え!?なんで怒ってんの

サトコ
「怒ってません······」

(···怒ってんじゃん)

女が『怒ってない』って言う時は、ほぼ100%怒ってる。
やっぱり女の子は活火山のように突然噴火する。

(怒れるなら怒りたいのは俺の方だっつの)

津軽
···ま、ウサは誠二くんの方が高いみたいだけどね

サトコ
「!」

チクリと刺すと、ウサは口をもごもごっと動かした。

津軽
で、俺と誠二くん、どっちが上なの?

サトコ
「そ、それは···」

(ほら、どう答える?)
(口だけでもいいから、俺が上って言えよ)

サトコ
「······ホクロの人···」

津軽
あのな···

サトコ
「つ」
「津軽、さんです···」

(いいよ、そう答えるしかなくて、口だけの言葉でも)

それで取り繕った “日常” を俺は維持できるんだから。
ポンとウサの頭に手を置くと、覚えたのは妙な罪悪感。

(この手が後藤の手だったら···)

彼女は柔らかな笑みを見せたのだろうかーー

to be continued



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