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本編③カレ目線 津軽8話

うまく取り繕えてる自信はあまりなかった。
いつもの顔で、いつもの言葉を自動的に返して。
だけど彼女でなければ気付かれなかったかもしれない。

サトコ
「···囮捜査を拒否するのは、事件を思い出すからですか?」

津軽

いつかは···という思いはあった。
だから怖かったし、踏み込ませちゃいけないと思っていた。
俺の “日常” が彼女の “日常” を侵すから。

(泣きそうな顔で)
(お前は···事件に呑み込まれるタイプだろ)

痛みを孕む声が耳を貫いてくる。
感情をぐちゃぐちゃに掻き回す声。
過呼吸になる自分と戦いながら、公安刑事として冷静に彼女を見ている自分もいた。
過ぎた日の俺と、現在の自分が剥離している証拠。

津軽
で、今度は俺に同情?
怖い?それとも気持ち悪い?

人殺しの血が俺にも流れている。
1番、知られたくなかった。
君には。
普通が似合う、普通の君は。

サトコ
「···?」

(ん?)

善良な彼女から返って来るのは、気遣うような、こちらの反応を窺うような態度だと思っていた。
けれど怪訝そうな顔で眉を軽くひそめている。

サトコ
「同情なんてしてません。怖くもないし気持ち悪くもありません」

(何だ?この反応は···)

人の心を読むことにはずば抜けて長けていたはずが、サトコの気持ちが見えない。
その間にも俺の心臓を素手で掴むように迫ってくる。

(意味、分かんねぇ···)

分からなくなると、凶暴性が増すのはガキの頃と変わらない。

ソファに突き飛ばした小さな身体。

津軽
なら···好きだって言ってみろよ
···捜査、したいんだろ。だったら
嘘でもいいから······言えよ

言ってくれーー
終わりにするなら、最後に夢の欠片を置いてってくれ。
偽りでも嘘でもいい。
俺が1番、欲しかった言葉を。

10年以上前から、外観も内装もママも全く変わらない場末のスナック。
津軽会の溜まり場として、高校生の頃から使われていた。

津軽
······

佐内ミカド
「おい、たかおみ!シケたツラしてんじゃねーぞ!」

阿佐ヶ谷タクヤ
「完全に死んでんね」

高野マツオ
「ぶおっほ!体育座りでソファに転がるのリアルで初めて見た!」

津軽
うるせー···

山本コースケ
「で、なにがあったんよ」

津軽
······

山本コースケ
「俺たちに話せないなら、ママにスペシャルコースで聞いてもらおっか」

佐内ミカド
「お、久々にいくか?全身ぶちゅっと口紅がつくやつ!」

津軽
俺のHPはもう0なんだけど···

阿佐ヶ谷タクヤ
「うっせーな!さっさと吐け!」

タクヤがみぞおちに拳を叩き込んでくる。

津軽
「ぐ···」
「ヤクザ刑事だって、もうちょっと優しいかんな···」

佐内ミカド
「ほら、言えよ」

津軽
······
ウサを······
······押し倒した

全員
「はあああぁぁぁっ!?」

佐内ミカド
「つーか、まだヤッてなかったのかよ!」

津軽
ヤれるか!

阿佐ヶ谷タクヤ
「ああおいうの、タイプだったか?」

高野マツオ
「いやいや、フラグ立ちまくりだったでしょ」

山本コースケ
「で?」

佐内ミカド
「どうなったんだよ!?」

津軽
······嫌われた

全員
「······」
「·········」
「だーーっはっはっは!」

佐内ミカド
「イケメンの敗北···!神は俺を見捨てなかった···アーメン···」

阿佐ヶ谷タクヤ
「あいつ、見る目あんじゃん」

高野マツオ
「いや~、あるあるだよね~。バッドエンド!」

佐内ミカド
「乾杯!乾杯すんぞ!今日は俺の勝利を祝う日だ~!」

(くっそ、こいつら···言うんじゃなかった)

山本コースケ
「まあまあ。そういうこともあるよ」

津軽
コースケ···

横に座ったコースケが優しい顔で背中をぽんぽんと叩いてくれる。

津軽
優しいのは、お前だけ···

山本コースケ
「好きでもない男から押し倒されて嫌われるだけで済むのは、高臣の顔がいいからだよ」
「普通だったら警察通報案件だからね?おまわりさん」

津軽
······

前言撤回。
この笑顔には慈悲もない。

to be continued

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