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子供と戯れる彼が見たかったので 後藤1話

後藤
何か手伝うことはあるか?

サトコ
「後藤さん!」

バスを降りて1番に声をかけてくれたのは誠二さんだった。

(久しぶりのジャージ姿···黒澤さんじゃないけど、1枚写真が欲しい!)

サトコ
「ええと、それじゃあ、荷物を運ぶの手伝ってもらっていいですか?」
「遠足の本部を設置しなきゃいけないので」

後藤
わかった。そっちは任せてくれ。アンタは他にもすることが山ほどあるだろう

サトコ
「すみません、ありがとうございます!」

(誠二さん、頼もしい!)

集合場所になる拠点を、大きなシートを持った誠二さんが作り始めてくれる。
その姿に心の中で手を合わせながら、集まっている親子の皆さんに向き直った。

サトコ
「ここから先は、最初にお渡しした『旅のしおり』のスケジュールを参考にしてください」
「各自でお昼のあと、自由時間、レクリエーションになります」

子供たち
「はーい!」

(さてと、私は···)

後藤
氷川先生

サトコ
「は、はい!」

(そうだ、保育士の設定だから皆さんの前では『先生』呼びなんだった!)

サトコ
「何ですか?後藤先生」

後藤
本部は、こんな感じでいいか?

サトコ
「はい、完璧です!助かりました」
「あの···」

皆がそれぞれ好きな場所に散って行ったことを確認してから、小声で話しかける。

サトコ
「約束通り、お弁当、お重で作ってきました。一緒に食べましょう」

後藤
大丈夫か?

周りを気にするように誠二さんは視線を巡らせた。

サトコ
「今回は保育士という設定ですから、同僚とお昼を食べるようなものですよ」
「でも、念のため···」

私は森に少し入ったところを指差す。

サトコ
「下見に来たとき、人目に付きづらい木陰を見つけておいたんです」

後藤
そうか。持ってきたカロリーブロックはオヤツ行きだな

ふっと微笑んでくれる誠二さんに、私の頬も緩む。

サトコ
「あっちです、後藤先生!」

後藤
先に森の様子を見ておこう、氷川先生

余計な茶々が入らないうちに···と、森の木陰に向かうとーー

黒澤
あれ、氷川先生と後藤先生

津軽
お昼も食べないでハイキング?

サトコ
「黒澤さん、津軽さん···」

津軽
そこは『先生』でしょ、ウサちゃん先生

後藤
···ここで何を?

黒澤
ここからだと、ハイキングコースが良く見えるんですよ

サトコ
「あ···」

(警察官の家族を観察するっていう任務を忠実に!)
(しかも、お昼返上で···これができる公安の真の姿!?)

津軽
いいよね、そういうシチュも

サトコ
「シチュ···?」

黒澤
『ハイキング~人妻との秘密のお散歩~』···

サトコ
「···できない方の真の姿だった」

後藤
···行こう

津軽
ウサちゃん先生と誠二くん先生も、こっちにおいでよ~

黒澤
お弁当もありますよ!

津軽
あ、モモには俺がここにいることナイショね

サトコ
「わかりました···」

(せっかく見つけた場所だったのに!)

後藤
大丈夫だ。すぐに同じような場所が見つかる

力強く頷く誠二さんに励まされ、森の奥の方で昼食の場所を見つける。

後藤
ここまで来れば、邪魔は入らないだろう

サトコ
「しっかり食べておかないと、午後から子供たちと遊べませんからね!」

三重の重箱を広げ、お味噌汁が入ったボトルを取り出す。

後藤
味噌汁まで作って来てくれたのか

サトコ
「外で飲むお味噌汁も、たまにはいいかなと思って」

後藤
川のせせらぎを聞きながら食べる弁当···
仕事なのに、こんなに癒されていいのかと思う程だ

サトコ
「誠二さんは癒されてください!だって、誠二さんがいなかったら···」

そう、あれは銀室長から指令を受けた直後ーー

(保育園の遠足を甘く見ていた···!)

園児の数は60数名。
付き添いの親を含めると100人越えの人をまとめ、計画を立てなければならない。

(バスのチャーターに名簿作り、下見に行って地図を作ってタイムスケジュールを組んで···)
(これを普段の業務と並行でこなすのは不可能なのでは!?)

サトコ
「あの、津軽さん···」

津軽
ん?なーに

サトコ
「実は銀室長直々の任務がありまして···」

(銀室長からの任務なら、津軽さんも協力してくれるはず!)

サトコ
「ーーというわけで、保育園の遠足と企画と引率を頼まれまして」

津軽
ふーん。よかったねー、頑張って」

(うわ、ものすっごい興味のなさそうな反応···)

サトコ
「あの、それで···通常の業務と銀室長からの任務を両方こなすのは···」

津軽
ああ、それができるかどうかが問われてるんだよね

サトコ
「う···」

津軽
頑張れ、ウサちゃん。きっと君ならできるよ

サトコ
「······」

(投げやりすぎる回答···お菓子食べてるし、こっち全然見てないし)

サトコ
「いいです、ひとりで何とか···」

後藤
何か困り事か?

サトコ
「後藤さん!」

後藤
今、こっちは手が空いてる。手伝えることがあるなら、手を貸すが?

津軽
ちょっと、誠二くん。うちのウサちゃん甘やかさないでよ

後藤
そういう訳ではないんですが。氷川は石神班によく応援にきてくれているので
手伝える時には手伝いたいと

津軽
まあ、進んで残業したいって言うなら止めないけどね

例え銀室長案件でも面倒なことには関わりたくない···と、その横顔には書かれていた。

(茶々を入れられて突っ込まれるよりは、やりやすいけども!)

サトコ
「でも後藤さん、いいんですか?結構大変な仕事なんですけど···」

後藤
なら尚更、アンタひとりに任せるわけにはいかないな

(誠二さん···!なんて優しいの!)

サトコ
「ありがとうございます!実は警察庁管轄の保育園の···」

後藤
それは大変そうだな

誠二さんは私の話を真面目に聞いて、1から準備に協力してくれたのだった。

サトコ
「誠二さんの力なくして、今日という日は迎えられませんでした!」

後藤
大げさだ

サトコ
「そんなことありません。感謝のお弁当です···」

後藤
だから、俺の好きなものばかりなのか。サトコが作るものは、全部好物だけどな

サトコ
「なので、お重がぎゅうぎゅうです」

後藤
足りないくらいだ

言葉通り、誠二さんは全部きれいに食べてくれた。

後藤
これで午後は全力で遊べる

サトコ
「誠二さん、子供は得意ですか?」

後藤
どうだろうな。弟とは、よく遊んだが···

(誠二さんの優しさは子供にも絶対に通じるはず!)

母親1
「ねえ、あの保育士さん···」

母親2
「今日はイケメンだらけだけど、あのちょっと寡黙な感じ!」

母親3
「さりげなく写真に撮っておきたい···!」

男の子1
「ごとうせんせーい!こっちきてー!」

女の子1
「ごとうせんせいは、わたしたちとティーパーティーするの!」

後藤
順番に行くから、待ってくれ

誠二さんの周りには男の子も女の子も集まっている。

(うんうん、子供受けも抜群!誠二さんは皆のアイドルだもの)

その人気ぶりに満足しているとーー

男の子2
「わー!ガミゴンだー!」

男の子3
「カガゴン、こわーいっ!」

(ん?ガミゴンに、カガゴンって···)

石神
ぎゃおおおっん!

加賀
ぐああぁぁっ!

(こ、この声、お2人の!?)

反射的に振り返った、その時だった。
私の鼻先がトンッと何かに当たる。

(ん?)

後藤
見ない方がいい

サトコ
「え、後藤···先生!?」

後藤
夢に出てきたら、うなされる

サトコ
「そ、そんなにですか!?」

石神・加賀
「があああぁぁっ!!」

サトコ
「石神先生と加賀先生の声が共鳴し始めているような···」

男の子2
「双子怪獣だー!」

後藤
双子怪獣は危険だ

サトコ
「は、はい···でも、怪獣を倒す正義の味方は?」

後藤
心配するな。ツガルマンがやってきそうな気配がする

サトコ
「ツガルマン···」

(班長同士のこの寸劇は記憶から消した方が、今後の為なのかもしれない···)

後藤
昼食後の自由時間のあとは、予定があったよな

サトコ
「はい。このあとはドングリ拾いのレクリエーションです」

後藤
よし、皆、集合ー!

津軽
ツガリウム光線!

石神
効かんな

加賀
こっちはバリアがあんだよ

津軽
怪獣が喋っちゃダメでしょ

(もうただの大人の···いや、男児の戦いになってる!)

謎の戦いは、さておき。
誠二さんがピーっと笛を吹くと、子供たちが集まってくる。

後藤
氷川先生から話がある

サトコ
「これから皆で、ドングリ拾いをするよー」

女の子1
「あっちにいっぱい落ちてたよ!」

女の子2
「ごとうせんせい、いこー!」

女の子1
「ごとうせんせいは、わたしと手をつなぐのー」

後藤
手は2つあるから大丈夫だ

(両手に小さな華の誠二さんの後ろ姿···最高過ぎる···)

我慢できずに、スマホで時間を核にする振りをして写真に収めた。

サトコ
「皆、待って、待って!川の方行っちゃダメ!」

男の子1
「おら、水鉄砲!」

男の子2
「やったなー!まけるか!」

女の子1
「キラキラした石があるー!」

サトコ
「水辺は危ないからダメだよ!滑りやすいから!」

後藤
待て、サトコ!

サトコ
「え」
「わっ」

濡れた石で足を滑らせたのは、私の方だった。

後藤
···っ、間に合った···

サトコ
「あ、ありがとうございます···」

転ぶ寸前で誠二さんの腕が届き、私の身体を支えてくれた。

女の子1
「ごとう先生、氷川先生のこと、名前で呼んだー!」

後藤
···そうだったか?

女の子2
「氷川先生、ずるーい!」

男の子1
「2人に水かけちゃえー!」

サトコ
「え、ちょっ!」

後藤
やめろっ

水遊びが始まると、皆それに夢中になってしまって。

(ドングリ拾いの計画だったのに!)

綿密に立てたはずのスケジュールは、それこそ水の泡になりつつあったーー

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